魔王と呼ばれる元聖女の祝福はラッキースケベ(旧題:婚約破棄と処刑コンボを越えた先は魔王でした)

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35話 ラッキースケベ再び

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「今は何をしてる?」
「生クリーム泡立ててる」

 自動泡立て機ほしいから、今度シコフォーナクセーの技術屋さんに頼もう。
 さすがにこの人数分を考えるとモードがあってもなかなか大変だし。

「昨日のことで話を」

 うわ、直球すぎるよ。
 もうやめようよ。

「話さなきゃだめ?」
「イリニが勘違いしてるなら」

 何を勘違いしてるというの。
 私からどうにかなろうと踏み込んで拒否されました。エフィの魔力枯渇は快復。以上終わりじゃん。

「いいの、気にしないで。私が先走っただけだし」

 エフィに何度も頑なに拒否されたのが結構響いてる。
 違う、とエフィが詰め寄った。
 泡立て用のボールが大きくてよかった。
 私とエフィの間に入ってくれて、程よい距離が保たれる。
 作業に没頭して誤魔化そう。泡立てに一層力を入れた。

「昨日のはイリニを傷つけるつもりなんてなくて」
「傷ついてないよ? 安心して」
「嘘だ」

 なんとなく和解したいのに、踏み込みすぎだよ。
 エフィなら……エフィだからって恥ずかしさやらなんやらかなぐり捨てて部屋に行ったのに。

「いいってば。あ、でもエフィ好きな人いるって聞いたから、これからは気をつけるね」
「え?」

 どういうことかきかれる。あれ急に羽詰まった感?

「アステリが言ってたの。エフィには本命がいるって」
「は?」

 動揺の仕方が、本命がいると断言してるようなものね。

「本命がいるなら、早く王都に戻ったらいいんじゃない? 私の保護があるからって言うなら、別できちんと手続きしに行くから」
「待て!」

 エフィに眉間に皺がよる。違うと首を振って否定した。

「いない」
「え? アステリの言ってたのは、」

 違う、と再度否定される。何が違うの。
 エフィの好きな人の話なんて聞きたくないのに。
 恋バナしたい気分じゃないんだって。
 エフィが好きな人の話を嬉々として話してる姿なんて、今は見たくない。
 惨めな気分になりそうだし。

「俺は……俺は君のことが、すぶっ」
「あ、ごめん」

 生クリームが吹っ飛んでエフィにぶっかかった。
 白い何かをぶっかけ。
 あー、へー、やらかしたなあ。

「……甘っ」

 顔にぶっかけられたものを手で拭いながら、あろうことか舐めたぞ。
 絵面的にだめでしょ。自覚ないの?

「ラッキースケベか」

 じっと私を見つめてくるから、片手で彼を制した。

「生クリーム拭いてからにして」

 それになぜかエフィは目を開いた。
 いや、べたべたになるでしょ。エフィは現在進行形でべたべただけど。
 あ、だめだ、文面が卑猥。でも見た目いかがわしいから表現としては正しい。

「そうか、拭けばいいのか」
「もう、ぶっかけたの悪かったって」
「ぶっかけ……」

 間。
 お互い見つめ合って、なんだかもうここまでくると面白くなってきて吹き出した。
 エフィは一度ぽかんとして目を丸くしていたけど、次に困ったように笑う。

「あー、なんだかモジモジしてた自分が馬鹿らしくなってきたわ」
「イリニ?」
「ごめんね、どんな顔してエフィに会えばいいか分からなかったから」
「いや、あれは俺が悪かった」

 アステリに怒られた、とエフィが困った顔をする。
 なんだか今は肩の力が抜けてるんじゃ? もしかして、なんとなくな和解が成立した?

「そういうの、もうナシにしよ? 今まで通りでいいから」
「……今まで通り」
「あ、エフィ本命いるから、ハグ係だけ考えないとね?」
「なんで」
「嫌でしょ?」

 嫌じゃない! とエフィが大きな声をあげた。

「でも、本命に悪いし」

 私は肩の力が抜けた自然なエフィと話ができれば、それでいいかなと思えてたのに。
 エフィが不機嫌になってしまった。目元を赤くさせて、大きな声のまま、そして生クリームぶっかかったまま叫んだ。

「だからっ! 違う! 本命はっ、その、いない!」
「ふうん?」
「王都へ戻ってもいない!」

 えらい必死に訴えてくるし。
 意中の人は本命じゃないってこと?

「じゃあ遊び相手なの?」
「はあ?」
「女性に困ることなかったって」
「そんな話どこで……アネシスか!」

 聞いていたのかと言われても、あの時のはもうアステリが準備万端だったし。
 盗み聞きになっちゃうとは思ったけど不可抗力だ。苦情はアステリにお願いしたい。

「違う! そういうことはしていないし、王都へ戻ってもそういう女性はいない!」
「来るもの拒まずって」
「お、俺はっ! 今お付き合いするなら、その、ゆっくり順番を重ねて、付き合いたい、から」
「だから遊びもやめたし、本命もいないって?」

 そうだ、としっかり頷いた。
 エフィの考えることってよく分からないけど、嘘はつかない感じはあるんだよね。
 聖女の直感的な。
 ついでに言うならエフィは有言実行タイプだから、遊んでもいないし本命もいないのかな。
 そっか。
 ……そっか、いないのか。

「ふふふ」

 いないのかあ。
 そう思うと笑ってしまう。なんだろう妙にこそばゆいな。
 するとエフィがあ、とか、う、とか言いながら、急にまた叫んだ。

「な、んで、そういう顔を!」
「え、顔?」

 見上げるとエフィの顔が真っ赤だった。
 なぜかしどろもどろになってるし。なにがあった。

「いや、その、そういう顔を他でもほいほいするもんじゃないって意味で」
「はい?」
「その今まではモードがないと中々イリニの気持ちが分からなかったから、こういう風に笑って喜んでいるように見えると嬉しい反面、急すぎて困るというか、ああ誤解が解ければよかったんだが、そんな時でもいない誰かに気を遣って、菓子は全員に作っていて納得がいかなかったが、いや分かってる、優しさで皆に作っているんだろうし、あの時だって助けようとしてくれたのは分かってた、イリニは優しいからな、俺はそういう優しいイリニが好きだけど、かといってそこまで無防備に感情を晒されるともたないというか、期待しすぎるというか、いやでも隠してほしいんじゃない。きちんと伝えてほしいし知りたいから、それでいい、ああでもやっぱりちょっと待ってほしい、もう少ししてからそういうのが欲しかったんだ」

 ん?
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