魔王と呼ばれる元聖女の祝福はラッキースケベ(旧題:婚約破棄と処刑コンボを越えた先は魔王でした)

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32話 アステリのお説教(エフィ視点)

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「お前、これ以上誤解ないようにやれよ」
「ん?」

 アステリの声で現実に戻ってきた。
 あの時はもう前後不覚というぐらい落ち込んだが、今では望んだ形になっている。
 イリニはパノキカト国王太子の婚約者でない。
 しかも今一番近くにいるのが自分、隣に立っているのも自分。
 正直な話、期待している。いや、側にいられる温く居心地のいい今の関係に甘えているが正しいか。

「こいつが落ち込んだ時に嵐がきた」
「え?」
「お前を助けらんねえって」
「それは、イリニのせいじゃ」
「あいつが勝手にそう思っただけだがな? ま、災害にならなかったのが幸いだった」

 十中八九、昨日の事だと分かる。あの時、俺は自分自身に必死だった。
 断り方も雑だったし、イリニの言葉も汲んでなかった。
 普段感情を隠す癖のついている彼女が表側に出る程、落ち込むという事は相当だ。

「しかもこいつ一晩で持ち直したけどな?」

 言いたい事分かるな、とアステリが念を押す。

「聖女の力か」
「おーよ」

 感情がダイレクトに形になって出てきている。
 今まではモードという形で解消出来て、かつこの城だけの範囲で成り立っていた話だった。
 それが今回は三国に跨って現れてしまったと。
 聖女の祈りや心は直接的に形となって現れる。
 雨乞いをすれば雨が降るといったように、彼女の心内が乱れたからこうして嵐が起きた。

「そんなに?」
「お前、自分のした事分かってんのかよ」

 理解している。もう少しイリニを慮った上で言葉を選んでおけばよかったと。
 いやその前に正直、目の前の男にはイリニを止めてくれなかった不満がある。

「お前がイリニを止めてくれれば」
「俺のせいにすんな、阿呆」
「す、するわけにはいかないだろ」
「お前の小せえプライドの話はどうでもいいんだよ」
「ふざけんなよ」

 イリニは聖女である前に侯爵令嬢だ。
 婚前交渉が罪にならないとはいえ、貴族にある価値観としては歓迎されるものではない。

「それでもお前んとこ行ったイリニの気持ち考えろよ」
「あのままだったら、手ひどい事するに決まってるだろが」
「それも分かった上でだろ?」
「駄目だ。そんなのイリニが辛いだけだ。そういうのは、」

 駄目だと、あの時と同じ言葉しか出てこない。

「もー、お前なんなの? よっぽどお前の方が乙女だよ」
「黙れ」

 もうお前駄目だな、重症だぞと言われる。
 魔力枯渇に関する心身の健康でないことは嫌でも分かった。
 イリニとの関係に理想を追求して何が悪い。ゆっくり関係を育んで、自惚れる事が出来るぐらい好意が見えたら改めて告白する、というのはいけないことなのか。

「次はきちんと伝えるさ」
「まーうまくいくといいんだがなー」
「なんだよ、その言い方」

 含みのある言い方にねめつけると、なんてことないという風に肩だけあげて笑う。

「お前拒否ったせいで、こいつ自分に女の魅力がないって言ってたぞ」
「だから順番が」
「いい子ちゃんぶってんなよ」
「黙れ」

 何故そんな自己評価が低いのか。
 我慢できないから意識飛ばさないと駄目だったのに。

「それ、きちんと言葉でイリニに伝えろ」
「見るなよ」
「うっせえ。お前ら揃いも揃って面倒なんだよ」
「……茶持ってくる」

 これ以上、小言をもらいたくなくて話題を強制的に変えた。
 部屋に彼女を置いて部屋を出る。アステリも溜息をつきながらついてきた。

「好きなんだろ?」
「うざい、黙れ」
「俺に対してツンデレしても意味ねえし」
「ツンデレ……」

 態度がツンツンしているけど、たまにデレという甘えがでるとかいうやつか。

「あんなに盛大に失恋して落ち込んでたくせに」
「その話はやめろ」
「へーへー」

 茶は温かいものがいいだろう。
 何度もイリニと飲んでいるから、彼女の特別好きな茶葉は把握している。
 ああタオルと湯も用意しといた方がいいか。
 いつ目覚めるか分からないが、魔法でどうにでもなるしな。
 起きた彼女が顔を洗って、一緒に茶を飲んで、ゆっくりした時間を過ごしながらきちんと話せばイリニは笑ってくれるだろうか。
 目覚めた彼女に何が出来るか考えるのが楽しい。一緒にいる時間があるだけで幸せだなんて、だいぶ焼きが回っている。
 失恋した痛みをずっと抱えたままだと覚悟していたが、こんなすぐに回復するんだから現金なものだ。

「いいか、今日イリニはかなり抵抗するぞ?」

 湯やら食器やら準備しながら、横でアステリが苦言を呈した。

「けど絶対今日を逃すな。これ以上こじれんのは御免だからな」
「分かってる」

 言われなくたって、こちらとしても彼女との距離は縮めたい。
 自惚れるぐらいイリニが俺のことを好きだと思わせてくれる程度には。

「うまくやるさ」
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