魔王と呼ばれる元聖女の祝福はラッキースケベ(旧題:婚約破棄と処刑コンボを越えた先は魔王でした)

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26話 ラッキースケベスライム

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「アギオス侯爵令嬢はシコフォーナクセーに害を与えない。俺も帰る気はない」
「ええ、兄様はそう父上に報告されているんですよね? けれど身柄はパノキカトにあり、シコフォーナクセーからすれば他国の人間。その人物がシコフォーナクセーの土地に築城し、い続けることが問題なんです」

 やっぱり住民票移動とか、固定資産税納付とかしないとだめなやつかな?
 いや今はそこじゃないかな?

「父様も兄様の事を心配されているんですよ?」」
「俺がどうにかする。お前達は帰れ」
「あの女性関係に困ることのなかった兄様ですら落ちない女性なんでしょう? 来るもの拒まずで寛大な兄様に靡かない女性なんてそういないのに、聖女様は駄目だったんでしょう? 父様は僕とかわってでも兄様の帰城を望まれています」
「駄目だ」

 エフィの機嫌がさらに悪くなった。
 ていうか私の前では心内がよく分からないエフィの素性が明らかになっちゃった。
 女性関係に困ることがなくて? 来るもの拒まず? なびかない女性がいない?

「エフィ遊んでたんだ」
「おい」
「学生の時?」
「……一応あいつの名誉の為に言っとくが、あいつには本命がいる」
「なのに遊んでたの?」
「ちげえよ。まあ女と付き合ったことがないってんじゃねえけど、お前が考えてるような不誠実なやつじゃねえ」
「そう」
「お前、俺の言ったこと信じてねえな?」
「参考にはしてるよ」

 あ、だからハグ係とか言い出したの?

「というか、歓待されない私は女性として落第?」
「はあ?」
「だってエフィ、私に対応かたかったから」
「あー、それなー」

 アステリが言葉を濁す。

「兄様、もしかして」
「なんだ? 話はもういいだろ? 早く帰れ」
「聖女様のこと、本気だったりします?」
「なっ!」

 エフィが明らかに動揺した。後ろ姿だから、表情見えないけど驚いてそう。

「そ、そんなわけないだろ! なんでそうなる?!」
「兄様?」

 必死すぎ。
 そこまで否定しないでよ。女性落第の印、押される私の身にもなって。

「お前、エフィの言うこと鵜呑みにすんなよ」
「はいはい」
「鵜呑みにしてんな?」

 弟のカーリーだって私のこと女性扱いしてくれたのに。あーもーまた思い出しちゃうじゃん。
 エフィだって家族と一緒にいたいだろうし。城に戻れって王陛下も仰ってるなら戻らないと。
 あ、でもその障害が私なんだよね? 私がパノキカト国民なのに、シコフォーナクセーにい続けてるから。保護もできていないから。
 エフィは本来あるべき場所へ帰るのか。今まで帰りたくても帰れなかったのかな。
 エフィがいなくなっちゃうと、城が静かになりそう。エフィのいない城かあ。ちょっと前の話なのに、どうしてもエフィがいない城を考えられない。

「お?」
「どうしたの?」
「あれ」

 アステリが指差す。
 二個師団がざわつき始めた。

「た、隊長! スライムが!」
「落ち着いて、負傷者は?」
「い、いないですが、服が!」
「え?」
「服が溶けます!!」

 ブフォと隣のアステリが吹いた。
 まずい。

「やらかした」
「いやあなかなか面白え」
「なるほど、服だけ溶かされ裸になってしまうと」

 だんまりだった後ろのドラゴンが納得~みたいな雰囲気になってる。そんな場合じゃない。
 大地の隙間からにゅるにゅるわいて出てくるスライムは的確に人間だけ狙って引っ付いてくる。
 騎士と魔法使いの皆さん、色々すみません。

「てか、エフィだけじゃないじゃん」

 アステリに訴える。エフィだけラッキースケベがと指摘されてたけど、今日はエフィ以外の皆さんが被害者。個人特定のラッキースケベは起きないが立証された。

「お前、自覚ねえの?」
「え?」
「エフィに帰ってほしくないんだろ?」
「え?」
「だから邪魔な二個師団をラッキースケベが襲ったんだろ」

 その方が、私にとってラッキーだから。
 エフィが帰城しなけば、今まで通りで、私の淋しさが緩和される。
 その淋しさを回避するために、私のラッキースケベは私にとってラッキーと思える叶え方をしてきたと。

「……うそ」
「やっぱ自覚ねえのかよ」

 モヤモヤするなとは思っていたけど、アステリの言う通りなの?

「……ラッキースケベ」

 エフィが周囲を探る。
 キョロキョロあたりを見回して、結構距離がある中、ばっちり目が合ってしまった。
 まずい。

「アネシス、少し待ってろ」
「兄様?」
「すぐ戻る」

 と、エフィが消える。

「イリニ」

 一瞬で私の目の前に現れた。
 アステリと同じ、転移。
 うそ、騎士のエフィが使えるの?
 魔法使いの中でも転移はなかなか扱えない高度な魔法なのに。

「待っ」

 驚いて一瞬怯んだ隙に抱きしめられる。
 来るなって言ったのに、と小さな囁きがおりてきた。

「弟さん、私に用があるんでしょ。だったら私が」
「これは俺の問題だ」
「でもエフィ帰らなきゃで」
「俺は、この城に……イリニのいる城にいたい」
「え?」

 ぎゅっと抱きしめる腕に力が入った。

「イリニが許してくれるなら、この城に帰りたい」

 駄目だろうかとエフィが問う。
 さっきのアステリが言ってた言葉はどうやら間違いじゃないらしい。
 エフィがここに戻りたいと言うだけで、じわりと胸の内側があたたかくなった。
 エフィがそう言ってくれるなら。
 抱きしめられたまま首を振って、小さな声で返した。

「エフィに、帰ってきてほしい」

 抱きしめる腕が僅かに震えた。

「エフィがいない城は、嫌」

 そうか、と掠れた声がおりてくる。

「必ず戻る」
「うん」

 城で待っててくれと言われて頷いた。
 しばらくして、眼下のざわつきがおさまっていく。
 エフィの腕の隙間から見ると、スライムは自ら地面の隙間やら森の方へやら帰っていった。

「後で」
「うん」

 そうしてエフィは転移で弟さんの元へ戻っていった。
 私はアステリにお願いして城の中に戻る。
 城内、玉座の間でアステリと一緒にエフィの動向を見ることにした。
 ラッキースケベで服が失われた人達は後退してるみたいだけど、エフィに立ち向かう数は少なくとも一個師団と少しぐらいは残っている。
 弟殿下の前、エフィはどこか身軽そうに立っていた。

「兄様?」
「お前帰れ。無理だというなら力付くで帰ってもらう」
「え……この数相手に力付くで?」
「ああ」

 誰がどう見ても無茶だろう。
 騎士のトップに立つエフィでもだ。
 特に魔法使い相手なら、同じように魔法を使わないと対抗できない。
 騎士のエフィに大量の魔法使いを相手にできる魔力があるの?

「少し骨が折れるな」
「いくら兄様でも二個師団再起不能にするには魔力足りませんよ」
「全部使い切ればいいだろ」
「無茶苦茶ですって」

 もういいだろ、とエフィが肩慣らしをして弟殿下の制止を振り切った。

「やる気が出た。久しぶりに本気出す」
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