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25話 弟殿下、来訪
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「イリニ、人が来たぞ」
「最近来てなかったのに珍しい」
ディアボロスが大きな翼をはためかせて城に戻ってきた。
アステリに視線を移せば、きちんと見えていたらしい。
ただ珍しく神妙な顔をしていた。いつもは淡々としているのに。
「知ってる人?」
「あー、まーな……てかお前も知ってるはずだぞ」
となると、外交、社交、貴族院かな。
「誰?」
アステリがちらりとエフィを見た。
「……アネシス・アスファレス・パネモルフィ」
エフィがぴくりと分かるか分からないかぐらい小さく反応した。
「それ、誰?」
名前だけじゃ分からないんだけど。あ、待った。姓はパネモルフィってことは。
アステリのかわりにエフィが応えた。
「俺の弟だ」
「王太子殿下?」
「ああ」
シコフォーナクセー第四王太子殿下、アネシス・アスファレス・パネモルフィ。
まさかまた王太子殿下が来るなんて思ってもみなかった。社交界で彼がいた記憶がない。年齢的なものもあるだろうし、シコフォーナクセーは第一王太子殿下からエフィまで代わる代わる来ていたから、第四王太子殿下まで順番回ってこなかったのかも。
「魔王討伐?」
「討伐はねえだろ」
最近は私に関する新聞の記事も小さくなってきてたし、訪問者もほぼいなかったのに。よりによって国代表。
ああ、でもエフィがここにいるから、連れ戻しに来た系かな?
どこのヒロインなの、エフィったら。
「お前の弟って、宮廷のお抱え魔法使いだったよな?」
「ああ」
エフィの表情が暗い。
弟が来て嬉しくないの?
「魔法使いで編成された一個師団と、お前の直轄一個師団つきだぞ」
「……俺が行こう」
長い溜息をついてエフィが言葉を落とす。
「え? 迎え入れなくていいの?」
「いい。イリニはここにいろ」
「え、でも用があってここに来たんでしょ?」
二個師団で来てるなら、やっぱり私の討伐が目的なんじゃない? 魔王モードと俺つえええモードで勝てるから問題ないけど。
けどエフィは語らず、首を横に振るだけ。
「エフィ、でも」
「これは俺の国の問題だ」
頼むから来てくれるなよと言って外へ向かう。
カロがついてくのは許されてて、私はだめと。
「んー……」
「納得いかなそうだな」
「せめて来た理由ぐらい聞きたかったわ」
「なら、行くか?」
「え、でもだめって」
「遠くから眺める程度なら問題ねえだろ」
アステリがパチンと指を鳴らせば、あっという間に外だ。
「イリニも見学か?」
「……ん、まあね」
ドラゴンがよく見張りに立つ場所だった。背後にドラゴン。眼下、エフィとカロが弟殿下に近づくのが見える。
「ここからじゃ話聞こえなくない?」
「聞こえるようにしてる」
「ん、ありがと」
アステリの準備が早い。
おかけでテレビを見てるぐらい、よく聞こえた。
「兄様、久しぶりです」
「アネシス」
「僕の来た理由分かってますよね?」
「……ああ」
弟殿下、可愛い系だな。
なんだか自分の弟カーリーのことを思い出してしまう。今の時と場所にはあまりあってないけど、人懐っこい笑顔が懐かしい。
「カーリーどうしてるかなあ」
「ん? お前の弟?」
「そ。両親と一緒に島に避難中のね」
念のためってことで、手紙のやり取りは一切していない。やり取りしてて、それを逆手にパノキカトが家族を追い詰めてきても困るから。
「元気かなあ」
妙に会いたい気持ちがわく。
十歳で聖女になってから、聖女の仕事と国としての仕事ばかりで、両親と弟にまともに会ってた時間なんてなかったのに、余裕がでて自由な今、ふつふつと会いたい気持ちが出てきてしまう。ご都合的で不思議なものね。
「兄様にしては手こずってますよね? 随分時間かかるなーと思って」
「……まだかかる。今日は帰れ」
「んー、それもちょっと。父様が気にされてるんですよ」
「……」
「僕が命じられたのを、自分がと言って行かれたぐらいだから、僕も気になっていたんです」
国王陛下が気にかけてる案件かあ。まあそうなるよね。時間も結構経っちゃったし。国として放置してていいんですかってところでもあるし。
弟殿下の仕事をかわってエフィがこの城に来て、最初に言っていた目的は、私の身柄の保護、それだけ。
そういえばエフィはこの城に住むって言ってから、私の保護の話を一切してこなかった。
今みたく多少なりとも親しみがあるようになったなら、改めて保護の話を出してきてもおかしくないのに。
「父上には報告をあげてるだろ」
「それでもです」
「なんだ、お前とかわれって?」
エフィの機嫌が悪い。やっぱり私の前だとまだかたいかなあ。
キャンプ以来、少し肩の力は抜けたと思ってたけど、私の前での不機嫌と弟さんの前での不機嫌はやっぱり違う。
「ええまあ、それもありますし、今日この場で聖女を確保するよう命じられてます」
なにそれ。
私、犯罪者みたい。犯人確保的な。
「力付くで?」
「ええ。兄様が聖女の雷に打たれたという話もあったので、騎士と魔法使いで二個師団用意しました」
エフィに俺つえええしたのが広まってた。まあ山の上でやらかせば、麓の王都からもよく見えるよねえ。
「加えて、兄様の帰城も命じられています」
弟さんの言葉がじわりと腹の内を撫でた。
エフィが王都に帰る? この城を出るってこと?
「最近来てなかったのに珍しい」
ディアボロスが大きな翼をはためかせて城に戻ってきた。
アステリに視線を移せば、きちんと見えていたらしい。
ただ珍しく神妙な顔をしていた。いつもは淡々としているのに。
「知ってる人?」
「あー、まーな……てかお前も知ってるはずだぞ」
となると、外交、社交、貴族院かな。
「誰?」
アステリがちらりとエフィを見た。
「……アネシス・アスファレス・パネモルフィ」
エフィがぴくりと分かるか分からないかぐらい小さく反応した。
「それ、誰?」
名前だけじゃ分からないんだけど。あ、待った。姓はパネモルフィってことは。
アステリのかわりにエフィが応えた。
「俺の弟だ」
「王太子殿下?」
「ああ」
シコフォーナクセー第四王太子殿下、アネシス・アスファレス・パネモルフィ。
まさかまた王太子殿下が来るなんて思ってもみなかった。社交界で彼がいた記憶がない。年齢的なものもあるだろうし、シコフォーナクセーは第一王太子殿下からエフィまで代わる代わる来ていたから、第四王太子殿下まで順番回ってこなかったのかも。
「魔王討伐?」
「討伐はねえだろ」
最近は私に関する新聞の記事も小さくなってきてたし、訪問者もほぼいなかったのに。よりによって国代表。
ああ、でもエフィがここにいるから、連れ戻しに来た系かな?
どこのヒロインなの、エフィったら。
「お前の弟って、宮廷のお抱え魔法使いだったよな?」
「ああ」
エフィの表情が暗い。
弟が来て嬉しくないの?
「魔法使いで編成された一個師団と、お前の直轄一個師団つきだぞ」
「……俺が行こう」
長い溜息をついてエフィが言葉を落とす。
「え? 迎え入れなくていいの?」
「いい。イリニはここにいろ」
「え、でも用があってここに来たんでしょ?」
二個師団で来てるなら、やっぱり私の討伐が目的なんじゃない? 魔王モードと俺つえええモードで勝てるから問題ないけど。
けどエフィは語らず、首を横に振るだけ。
「エフィ、でも」
「これは俺の国の問題だ」
頼むから来てくれるなよと言って外へ向かう。
カロがついてくのは許されてて、私はだめと。
「んー……」
「納得いかなそうだな」
「せめて来た理由ぐらい聞きたかったわ」
「なら、行くか?」
「え、でもだめって」
「遠くから眺める程度なら問題ねえだろ」
アステリがパチンと指を鳴らせば、あっという間に外だ。
「イリニも見学か?」
「……ん、まあね」
ドラゴンがよく見張りに立つ場所だった。背後にドラゴン。眼下、エフィとカロが弟殿下に近づくのが見える。
「ここからじゃ話聞こえなくない?」
「聞こえるようにしてる」
「ん、ありがと」
アステリの準備が早い。
おかけでテレビを見てるぐらい、よく聞こえた。
「兄様、久しぶりです」
「アネシス」
「僕の来た理由分かってますよね?」
「……ああ」
弟殿下、可愛い系だな。
なんだか自分の弟カーリーのことを思い出してしまう。今の時と場所にはあまりあってないけど、人懐っこい笑顔が懐かしい。
「カーリーどうしてるかなあ」
「ん? お前の弟?」
「そ。両親と一緒に島に避難中のね」
念のためってことで、手紙のやり取りは一切していない。やり取りしてて、それを逆手にパノキカトが家族を追い詰めてきても困るから。
「元気かなあ」
妙に会いたい気持ちがわく。
十歳で聖女になってから、聖女の仕事と国としての仕事ばかりで、両親と弟にまともに会ってた時間なんてなかったのに、余裕がでて自由な今、ふつふつと会いたい気持ちが出てきてしまう。ご都合的で不思議なものね。
「兄様にしては手こずってますよね? 随分時間かかるなーと思って」
「……まだかかる。今日は帰れ」
「んー、それもちょっと。父様が気にされてるんですよ」
「……」
「僕が命じられたのを、自分がと言って行かれたぐらいだから、僕も気になっていたんです」
国王陛下が気にかけてる案件かあ。まあそうなるよね。時間も結構経っちゃったし。国として放置してていいんですかってところでもあるし。
弟殿下の仕事をかわってエフィがこの城に来て、最初に言っていた目的は、私の身柄の保護、それだけ。
そういえばエフィはこの城に住むって言ってから、私の保護の話を一切してこなかった。
今みたく多少なりとも親しみがあるようになったなら、改めて保護の話を出してきてもおかしくないのに。
「父上には報告をあげてるだろ」
「それでもです」
「なんだ、お前とかわれって?」
エフィの機嫌が悪い。やっぱり私の前だとまだかたいかなあ。
キャンプ以来、少し肩の力は抜けたと思ってたけど、私の前での不機嫌と弟さんの前での不機嫌はやっぱり違う。
「ええまあ、それもありますし、今日この場で聖女を確保するよう命じられてます」
なにそれ。
私、犯罪者みたい。犯人確保的な。
「力付くで?」
「ええ。兄様が聖女の雷に打たれたという話もあったので、騎士と魔法使いで二個師団用意しました」
エフィに俺つえええしたのが広まってた。まあ山の上でやらかせば、麓の王都からもよく見えるよねえ。
「加えて、兄様の帰城も命じられています」
弟さんの言葉がじわりと腹の内を撫でた。
エフィが王都に帰る? この城を出るってこと?
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