魔王と呼ばれる元聖女の祝福はラッキースケベ(旧題:婚約破棄と処刑コンボを越えた先は魔王でした)

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16話 テンプレ過去回想、ボスに対して言うテンプレ台詞

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 生き物の声が二つ。

「ドラゴンとフェンリル?」
「まさか」

 騎士団長が青い顔をした。
 それだけで、何が起きたか分かるわ。

「アステリ」
「ああ、見えてる。待てない兵が魔物に手を出したな~ドラゴンとフェンリルが出てきた」
「二人は」
「まだ何もしてないな? 威嚇で吠えただけだ」

 ということは、これ以上あったら自ら出てくる気ね。

「フェンリル? ドラゴン?」

 噂には聞いていたがと青褪めた顔を今度は白くする騎士団長。
 伝説級の魔物だものね。強すぎて太刀打ちできる人間がいないから、この山はずっと魔物の住処なわけだし。
 ま、さておき。逆鱗に触れる前にさっさと終わらせてしまおう。

「出ましょ」
「あいよ」
「せ、聖女様、しかし!」
「私の仲間に手を出したんだから、私が出ておかしくはないわね?」

 ぐっと声を詰まらせ、彼は私とアステリが向かうのを見送った。

「!」
「聖女だ! な、なんだあの姿は」
「裏切り者の魔法使いもいるぞ!」
「あら~アステリ裏切り者扱い」

 笑えると指差すと、うっせえと短く返された。
 私のパンツスタイルにも物申しが入ったし。
 いいじゃん。リーサもひじりもパンツ好きだったから、こっち来てからスタイル変えたけど、それが周囲には驚きになると。
 聖女様様な衣装はもう着る気ないし。

「それよりもだ」
「ん」

 傷ついた魔物が足元で泣いている。
 膝をついて癒してあげれば傷はなくなった。聖女の治癒魔法は精度が高いんだから。

「せ、聖女だ……」
「待て、魔物を癒すなんておかしいだろ!」
「やはり国を滅ぼす気か」
「団長はどうした? まさかすでに聖女が?」
「恐ろしい……早く俺達でやるんだ、団長の弔い合戦だ」

 アステリがへえと笑う。
 目は全然笑ってなくて冷ややかに騎士たちを見据えている。

「わざとやったな」
「どういうこと?」

 アステリの言うことはこう。
 魔物が襲ってきたと嘘をついて反撃する。
 当然、傷ついた仲間の為に他の魔物は怒って集まり、互いに臨戦態勢となる。
 そこをさらに誰かが煽る。
 嘘を重ね、魔物を悪だと思い込ませる。
 そして仕上げにその魔物を従えているのは聖女とする。
 その聖女こそ諸悪の根源、今ここで倒すべきだという共通意識に持ってこさせ、その末に私を殺す。

「清々しいぐらい目的がはっきりしてるわね」
「魔物といざこざを起こせば、お前が出てくると踏んでだな」

 分かってんじゃん。
 私がここにいることを許してくれた皆。淋しくないよう城にいてくれる皆。
 国の城の中とは大違いだもの。
 奪われたくない場所。そしてテンプレな目標である長生きを掲げている私には当然飲めないあちらの希望。

「騎士団の中にそういう方向に持ってこうとする輩がいるわけ」
「ああ。さすが今回の為に編成された遣いだな? 優秀だぜ」

 ゆらりと立ち上がる。
 私を不安そうに見上げる魔物に城に戻るよう伝えた。
 集まってきた他の子にも。

「イリニ」
「下がってて。私が目的なら、私がお相手すべきでしょ?」
「聖女様!」

 遅れてやってきた騎士団長が私の背に声をかける。
 同時、煽り役であろう騎士が声を上げた。

「団長が生きているぞ! さあみんなで聖女を倒すんだ!」
「なにそのボスに対して言うテンプレ台詞」

 一瞬で怯ませて、絶望して頂いてお帰り頂きたい。
 その思いが力になるのが分かった。

「お、何かきたか?」
「……俺つえええモードだ」

 何もないところから剣が現れる。
 周囲の騎士が息を飲んで一気に緊張感が増した。
 アステリも初めて見る私のモード。その力が純粋に気になるのだろう。
 興味をのぞかせる瞳で、軽く私に譲った。

「じゃお前に任せるわ」
「オッケー」
「聖女様、なにを」

 エウプロの心配を無視して、大きな剣を両手で握り掲げる。
 さあて、振りかぶっていこう。

「貴方たちが私を悪と見なすなら、それでもいいわ」

 わ、すっごい。少年漫画のテンプレのごとく、身体に力が溢れてくるのが分かる。
 これが祝福の重ね掛け。

「っ! 総員退避だ!」
「団長? なんで」

 魔力が少しでもある人間なら分かるのね。さすが騎士団長。
 なら、誰でもわかる形で出せばいいかな?

「お帰り下さい」

 風が舞う。剣の属性だろうか、すべての風が剣に集約し、立てないぐらいの風を起こしている。
 規模の違いに、さすがに目の前の一個師団もやばいものを目の前にしていると理解したよう。
 まあ、皆さんには笑顔でさよならだ。
 俺つえええだから念の為、手加減はするよ? ちょっとだけど。

「よっと」

 剣を振り下ろす。
 途端起きる暴風。
 すぱんと綺麗に大地が割れ、眼下の湖まで到達し、水すらも割って見せた。
 幸いなことは、付近の町や村まで届かなかったことだろうか。

「すごすぎ……」
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