魔王と呼ばれる元聖女の祝福はラッキースケベ(旧題:婚約破棄と処刑コンボを越えた先は魔王でした)

文字の大きさ
上 下
12 / 82

12話 テンプレ過去回想、精霊王との邂逅

しおりを挟む
 神官長から聖女認定されたと言われたのは、十歳。
 父も母も魔法の力に長けていて、父は魔法使長もしていたこともある程。私が聖女認定されるのと同じ頃には王城勤めを辞していたけど。
 私は自国パノキカト、隣国シコフォーナクセーとエクセロスレヴォの三国共通の学び舎である貴族院に通いつつ、聖女としての生活が始まった。
 小さい頃から侯爵令嬢としてマナーやら言葉やら厳しく教えられ淑女として出来上がっていた私は、王城勤めもそこそここなせていたからか、この生活に何も疑問に感じていなかった。

 聖女として認められると同時、この国の王太子殿下との婚約も決まる。
 しかも婚約が決まってからの顔合わせだった。
 この国では聖女が排出された場合、自国の王と婚姻を結ぶのが慣例だったからだ。まあ聖女を手放さないための手段の一つなのだろうけど。
 最初こそ、私と王太子殿下は決められたとはいえ互いに思いやっていたのではと思っている。婚約者である王太子殿下も優しかったし、頻繁に顔合わせはしてくれていた。稀に笑いかけてくれることもあったぐらい。

 王太子殿下がその立場を不本意なものとし始めたのは、互いに通う貴族院に途中編入してきたパンセリノス・ピラズモス男爵令嬢が現れてからだ。
 王太子殿下は公務もそっちのけで、ピラズモス男爵令嬢に夢中になった。
 故に、私の次期王妃としての公務という仕事は増えるし、少しでも不出来があれば王太子殿下から怠慢だのなんだのお小言を言われるようになった。
 それでも、私は一度目と二度目までは確かに王太子殿下が好きだった。
 互いを思いやっていた僅かな時間の王太子殿下が戻って来るのではと信じていた。
 我ながら笑えるぐらいテンプレな話だと思う。

 学生である期間がすぎても王太子殿下はピラズモス男爵令嬢を城に置くことで関係を続けた。
 彼の父である現王は黙認した。
 私は城内で、二人が睦み合う姿を見せつけられ、周囲から同情と蔑みの視線や言葉を受けながら、ただ苦しさに耐えて公務を続けるだけ。
 結果、話しもせず顔も合わせなくなった王太子殿下から婚約破棄を言い渡される羽目になる。

 私は二回死んだ。
 一度目も二度目も公の場で婚約破棄を言い渡される。
 一度目はわけもわからずに立ち尽くし、騎士に取り押さえられ抵抗したら、その場で王太子殿下が私の首を切った。
 二度目は前回のことがあったから、王太子殿下を説得しようと訴えかけたけど、逆に激昂した殿下に胸を貫かれた。
 どちらも王太子殿下の剣にかけられ死んで過去に戻ってきた。
 しかも戻る日が婚約破棄を言い渡される一日前。もう少しゆとりをもって戻してくれてもいいと思う。
 そんな死に戻り三回目の人生、王太子殿下への気持ちは綺麗に失われた。私の訴えに聞く耳持たず、浮気を正当化し私を偽物と罵る男の何が好きなのかさっぱりわからない。
 そしてこの三回目の婚約破棄前日に戻ろうとした時だ。

「可哀相なイリニ」
「どちら様です?」

 胸を貫かれ暗転し、目を開けた世界は暗闇のようなのに、どこか煌めいた空間だった。
 どこなのかわからないのに、頭にふと浮かんだのは宇宙という単語。
 私はそのよく分からない空間に浮いていた。ふわりふわりと揺れながら。

「おや、祝福を与えていたのに、私の存在に気づいてなかったのかな?」
「……まさか精霊王?」
「そうだね」

 ふわふわ浮いた中、私と同じ人間の姿で向かい合う恐らく男性。
 私に聖女として祝福を与え、魔法の力や先見の力を与えたのは、この世界で信じられている精霊の存在だ。その最たる存在が王、精霊王。
 たまに予感とか感じるものがあったけど、そういうのはたぶん全部この王がなにかしてきた時。
 姿を見ることなんてないと思っていた。

「精霊王がどのような御用件でこちらに?」
「あまりに見てられなくて来てしまったよ。君があの王子に斬られて死んだからチャンスを与えたのに、二度目も同じように死ぬから」
「それは……申し訳ありません」

 謝るものじゃない気もするけど。死に戻りを頼んでいないし、聖女だからと特別扱いするのもおかしい。

「大丈夫、君は変わらず聖女だよ。けどそうだね、ちょっと孤独がすぎたか」
「はい?」
「君に仲間を与えよう」
「いえ、結構です」

 仲間って与えられるものじゃない。自分から動いたりして得るものじゃないの?
 というか、私割と今疲れているから、そういうのいいんだけど。

「まあそう言わないで」

 背後に二人の気配。
 振り向けば同じぐらいの年齢の女性が二人。一人は知っている。一人は全く知らない。
 精霊王が視線を二人に寄越せば、その内一人が片手をあげた。

「ああ、知ってておかしくないですもんね」
「うん、彼女には世話になったから」

 精霊王の瞳が細められる。
 懐かしんでいるようにも思えた。先程までとは違う、色が鮮やかになるような瞳の変化。

「うん、役者は揃ったね」
「役者?」
「君の前世だから」
「はあ」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

好きでした、さようなら

豆狸
恋愛
「……すまない」 初夜の床で、彼は言いました。 「君ではない。私が欲しかった辺境伯令嬢のアンリエット殿は君ではなかったんだ」 悲しげに俯く姿を見て、私の心は二度目の死を迎えたのです。 なろう様でも公開中です。

絶対に間違えないから

mahiro
恋愛
あれは事故だった。 けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。 だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。 何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。 どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。 私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

【完結】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです

白崎りか
恋愛
もうすぐ赤ちゃんが生まれる。 ドレスの上から、ふくらんだお腹をなでる。 「はやく出ておいで。私の赤ちゃん」 ある日、アリシアは見てしまう。 夫が、ベッドの上で、メイドと口づけをしているのを! 「どうして、メイドのお腹にも、赤ちゃんがいるの?!」 「赤ちゃんが生まれたら、私は殺されるの?」 夫とメイドは、アリシアの殺害を計画していた。 自分たちの子供を跡継ぎにして、辺境伯家を乗っ取ろうとしているのだ。 ドラゴンの力で、前世の記憶を取り戻したアリシアは、自由を手に入れるために裁判で戦う。 ※1話と2話は短編版と内容は同じですが、設定を少し変えています。

今日も旦那は愛人に尽くしている~なら私もいいわよね?~

コトミ
恋愛
 結婚した夫には愛人がいた。辺境伯の令嬢であったビオラには男兄弟がおらず、子爵家のカールを婿として屋敷に向かい入れた。半年の間は良かったが、それから事態は急速に悪化していく。伯爵であり、領地も統治している夫に平民の愛人がいて、屋敷の隣にその愛人のための別棟まで作って愛人に尽くす。こんなことを我慢できる夫人は私以外に何人いるのかしら。そんな考えを巡らせながら、ビオラは毎日夫の代わりに領地の仕事をこなしていた。毎晩夫のカールは愛人の元へ通っている。その間ビオラは休む暇なく仕事をこなした。ビオラがカールに反論してもカールは「君も愛人を作ればいいじゃないか」の一点張り。我慢の限界になったビオラはずっと大切にしてきた屋敷を飛び出した。  そしてその飛び出した先で出会った人とは? (できる限り毎日投稿を頑張ります。誤字脱字、世界観、ストーリー構成、などなどはゆるゆるです) hotランキング1位入りしました。ありがとうございます

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

婚約破棄してくださって結構です

二位関りをん
恋愛
伯爵家の令嬢イヴには同じく伯爵家令息のバトラーという婚約者がいる。しかしバトラーにはユミアという子爵令嬢がいつもべったりくっついており、イヴよりもユミアを優先している。そんなイヴを公爵家次期当主のコーディが優しく包み込む……。 ※表紙にはAIピクターズで生成した画像を使用しています

踏み台令嬢はへこたれない

IchikoMiyagi
恋愛
「婚約破棄してくれ!」  公爵令嬢のメルティアーラは婚約者からの何度目かの申し出を受けていたーー。  春、学院に入学しいつしかついたあだ名は踏み台令嬢。……幸せを運んでいますのに、その名付けはあんまりでは……。  そう思いつつも学院生活を満喫していたら、噂を聞きつけた第三王子がチラチラこっちを見ている。しかもうっかり婚約者になってしまったわ……?!?  これは無自覚に他人の踏み台になって引っ張り上げる主人公が、たまにしょげては踏ん張りながらやっぱり周りを幸せにしたりやっと自分も幸せになったりするかもしれない物語。 「わたくし、甘い砂を吐くのには慣れておりますの」  ーー踏み台令嬢は今日も誰かを幸せにする。  なろうでも投稿しています。

やり直すなら、貴方とは結婚しません

わらびもち
恋愛
「君となんて結婚しなければよかったよ」 「は…………?」  夫からの辛辣な言葉に、私は一瞬息をするのも忘れてしまった。

処理中です...