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12話 テンプレ過去回想、精霊王との邂逅
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神官長から聖女認定されたと言われたのは、十歳。
父も母も魔法の力に長けていて、父は魔法使長もしていたこともある程。私が聖女認定されるのと同じ頃には王城勤めを辞していたけど。
私は自国パノキカト、隣国シコフォーナクセーとエクセロスレヴォの三国共通の学び舎である貴族院に通いつつ、聖女としての生活が始まった。
小さい頃から侯爵令嬢としてマナーやら言葉やら厳しく教えられ淑女として出来上がっていた私は、王城勤めもそこそここなせていたからか、この生活に何も疑問に感じていなかった。
聖女として認められると同時、この国の王太子殿下との婚約も決まる。
しかも婚約が決まってからの顔合わせだった。
この国では聖女が排出された場合、自国の王と婚姻を結ぶのが慣例だったからだ。まあ聖女を手放さないための手段の一つなのだろうけど。
最初こそ、私と王太子殿下は決められたとはいえ互いに思いやっていたのではと思っている。婚約者である王太子殿下も優しかったし、頻繁に顔合わせはしてくれていた。稀に笑いかけてくれることもあったぐらい。
王太子殿下がその立場を不本意なものとし始めたのは、互いに通う貴族院に途中編入してきたパンセリノス・ピラズモス男爵令嬢が現れてからだ。
王太子殿下は公務もそっちのけで、ピラズモス男爵令嬢に夢中になった。
故に、私の次期王妃としての公務という仕事は増えるし、少しでも不出来があれば王太子殿下から怠慢だのなんだのお小言を言われるようになった。
それでも、私は一度目と二度目までは確かに王太子殿下が好きだった。
互いを思いやっていた僅かな時間の王太子殿下が戻って来るのではと信じていた。
我ながら笑えるぐらいテンプレな話だと思う。
学生である期間がすぎても王太子殿下はピラズモス男爵令嬢を城に置くことで関係を続けた。
彼の父である現王は黙認した。
私は城内で、二人が睦み合う姿を見せつけられ、周囲から同情と蔑みの視線や言葉を受けながら、ただ苦しさに耐えて公務を続けるだけ。
結果、話しもせず顔も合わせなくなった王太子殿下から婚約破棄を言い渡される羽目になる。
私は二回死んだ。
一度目も二度目も公の場で婚約破棄を言い渡される。
一度目はわけもわからずに立ち尽くし、騎士に取り押さえられ抵抗したら、その場で王太子殿下が私の首を切った。
二度目は前回のことがあったから、王太子殿下を説得しようと訴えかけたけど、逆に激昂した殿下に胸を貫かれた。
どちらも王太子殿下の剣にかけられ死んで過去に戻ってきた。
しかも戻る日が婚約破棄を言い渡される一日前。もう少しゆとりをもって戻してくれてもいいと思う。
そんな死に戻り三回目の人生、王太子殿下への気持ちは綺麗に失われた。私の訴えに聞く耳持たず、浮気を正当化し私を偽物と罵る男の何が好きなのかさっぱりわからない。
そしてこの三回目の婚約破棄前日に戻ろうとした時だ。
「可哀相なイリニ」
「どちら様です?」
胸を貫かれ暗転し、目を開けた世界は暗闇のようなのに、どこか煌めいた空間だった。
どこなのかわからないのに、頭にふと浮かんだのは宇宙という単語。
私はそのよく分からない空間に浮いていた。ふわりふわりと揺れながら。
「おや、祝福を与えていたのに、私の存在に気づいてなかったのかな?」
「……まさか精霊王?」
「そうだね」
ふわふわ浮いた中、私と同じ人間の姿で向かい合う恐らく男性。
私に聖女として祝福を与え、魔法の力や先見の力を与えたのは、この世界で信じられている精霊の存在だ。その最たる存在が王、精霊王。
たまに予感とか感じるものがあったけど、そういうのはたぶん全部この王がなにかしてきた時。
姿を見ることなんてないと思っていた。
「精霊王がどのような御用件でこちらに?」
「あまりに見てられなくて来てしまったよ。君があの王子に斬られて死んだからチャンスを与えたのに、二度目も同じように死ぬから」
「それは……申し訳ありません」
謝るものじゃない気もするけど。死に戻りを頼んでいないし、聖女だからと特別扱いするのもおかしい。
「大丈夫、君は変わらず聖女だよ。けどそうだね、ちょっと孤独がすぎたか」
「はい?」
「君に仲間を与えよう」
「いえ、結構です」
仲間って与えられるものじゃない。自分から動いたりして得るものじゃないの?
というか、私割と今疲れているから、そういうのいいんだけど。
「まあそう言わないで」
背後に二人の気配。
振り向けば同じぐらいの年齢の女性が二人。一人は知っている。一人は全く知らない。
精霊王が視線を二人に寄越せば、その内一人が片手をあげた。
「ああ、知ってておかしくないですもんね」
「うん、彼女には世話になったから」
精霊王の瞳が細められる。
懐かしんでいるようにも思えた。先程までとは違う、色が鮮やかになるような瞳の変化。
「うん、役者は揃ったね」
「役者?」
「君の前世だから」
「はあ」
父も母も魔法の力に長けていて、父は魔法使長もしていたこともある程。私が聖女認定されるのと同じ頃には王城勤めを辞していたけど。
私は自国パノキカト、隣国シコフォーナクセーとエクセロスレヴォの三国共通の学び舎である貴族院に通いつつ、聖女としての生活が始まった。
小さい頃から侯爵令嬢としてマナーやら言葉やら厳しく教えられ淑女として出来上がっていた私は、王城勤めもそこそここなせていたからか、この生活に何も疑問に感じていなかった。
聖女として認められると同時、この国の王太子殿下との婚約も決まる。
しかも婚約が決まってからの顔合わせだった。
この国では聖女が排出された場合、自国の王と婚姻を結ぶのが慣例だったからだ。まあ聖女を手放さないための手段の一つなのだろうけど。
最初こそ、私と王太子殿下は決められたとはいえ互いに思いやっていたのではと思っている。婚約者である王太子殿下も優しかったし、頻繁に顔合わせはしてくれていた。稀に笑いかけてくれることもあったぐらい。
王太子殿下がその立場を不本意なものとし始めたのは、互いに通う貴族院に途中編入してきたパンセリノス・ピラズモス男爵令嬢が現れてからだ。
王太子殿下は公務もそっちのけで、ピラズモス男爵令嬢に夢中になった。
故に、私の次期王妃としての公務という仕事は増えるし、少しでも不出来があれば王太子殿下から怠慢だのなんだのお小言を言われるようになった。
それでも、私は一度目と二度目までは確かに王太子殿下が好きだった。
互いを思いやっていた僅かな時間の王太子殿下が戻って来るのではと信じていた。
我ながら笑えるぐらいテンプレな話だと思う。
学生である期間がすぎても王太子殿下はピラズモス男爵令嬢を城に置くことで関係を続けた。
彼の父である現王は黙認した。
私は城内で、二人が睦み合う姿を見せつけられ、周囲から同情と蔑みの視線や言葉を受けながら、ただ苦しさに耐えて公務を続けるだけ。
結果、話しもせず顔も合わせなくなった王太子殿下から婚約破棄を言い渡される羽目になる。
私は二回死んだ。
一度目も二度目も公の場で婚約破棄を言い渡される。
一度目はわけもわからずに立ち尽くし、騎士に取り押さえられ抵抗したら、その場で王太子殿下が私の首を切った。
二度目は前回のことがあったから、王太子殿下を説得しようと訴えかけたけど、逆に激昂した殿下に胸を貫かれた。
どちらも王太子殿下の剣にかけられ死んで過去に戻ってきた。
しかも戻る日が婚約破棄を言い渡される一日前。もう少しゆとりをもって戻してくれてもいいと思う。
そんな死に戻り三回目の人生、王太子殿下への気持ちは綺麗に失われた。私の訴えに聞く耳持たず、浮気を正当化し私を偽物と罵る男の何が好きなのかさっぱりわからない。
そしてこの三回目の婚約破棄前日に戻ろうとした時だ。
「可哀相なイリニ」
「どちら様です?」
胸を貫かれ暗転し、目を開けた世界は暗闇のようなのに、どこか煌めいた空間だった。
どこなのかわからないのに、頭にふと浮かんだのは宇宙という単語。
私はそのよく分からない空間に浮いていた。ふわりふわりと揺れながら。
「おや、祝福を与えていたのに、私の存在に気づいてなかったのかな?」
「……まさか精霊王?」
「そうだね」
ふわふわ浮いた中、私と同じ人間の姿で向かい合う恐らく男性。
私に聖女として祝福を与え、魔法の力や先見の力を与えたのは、この世界で信じられている精霊の存在だ。その最たる存在が王、精霊王。
たまに予感とか感じるものがあったけど、そういうのはたぶん全部この王がなにかしてきた時。
姿を見ることなんてないと思っていた。
「精霊王がどのような御用件でこちらに?」
「あまりに見てられなくて来てしまったよ。君があの王子に斬られて死んだからチャンスを与えたのに、二度目も同じように死ぬから」
「それは……申し訳ありません」
謝るものじゃない気もするけど。死に戻りを頼んでいないし、聖女だからと特別扱いするのもおかしい。
「大丈夫、君は変わらず聖女だよ。けどそうだね、ちょっと孤独がすぎたか」
「はい?」
「君に仲間を与えよう」
「いえ、結構です」
仲間って与えられるものじゃない。自分から動いたりして得るものじゃないの?
というか、私割と今疲れているから、そういうのいいんだけど。
「まあそう言わないで」
背後に二人の気配。
振り向けば同じぐらいの年齢の女性が二人。一人は知っている。一人は全く知らない。
精霊王が視線を二人に寄越せば、その内一人が片手をあげた。
「ああ、知ってておかしくないですもんね」
「うん、彼女には世話になったから」
精霊王の瞳が細められる。
懐かしんでいるようにも思えた。先程までとは違う、色が鮮やかになるような瞳の変化。
「うん、役者は揃ったね」
「役者?」
「君の前世だから」
「はあ」
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