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11話 ハグ係は譲れない
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「ほら、イリニ」
フェンリルに促され渋々離れた。
見上げたエフィは不機嫌で、身体をよりかたくして私を見下ろしている。
「君はイリニの前だとかたいな?」
フェンリルが不思議そうに首を傾げる。
エフィの手に力が入って拳が握られた。
「フェンリル」
「ああ、わかった。もう言うまい」
二人の会話が終わる。フェンリルが少し楽しそうだ。
立ち上がり軽く身を振るわせ整えると、フェンリルはラッキースケベは終わったぞとエフィに伝えて去った。
「はあ……」
「なんで溜息」
なんでエフィに溜息つかれなきゃいけないの。
「イリニ」
自然な動作で私の前に膝をつくエフィはまさに騎士だった。
こういうこと平気でできるなら、さぞやモテるだろうに。
というか着替え済んでる。早すぎでしょ。
「イリニ、聞いてくれるか」
「なに?」
「俺は誰にも君のハグ係を譲りたくない」
「専属はさすがに申し訳なくてさー……」
男性に対してするのがはしたないとか言うなら、男性とディアボロスみたいなタイプを避ければいいじゃない。でもそういう小言はないんだよな、エフィ。
ただ自分が専属やりたいって言うだけ。
だからたまに疑ってしまう。国として、王太子殿下として、聖女の私を求めて近づいてきたんじゃないかって。
「……独占したいんだ」
「え?」
目元を赤くしている。
緊張が変わらないのに、少し彼らしさが見え隠れしてる気がした。
今まで一番エフィの気持ちとしての言葉な気がする。
「俺は、君が、イリニのことが」
「うん」
もしかしたら、初めてエフィの本音が聞けるかもと、少し前のめりになった。
国の命令じゃないと言ってくれるような気がして、少しだけ、ほんの少しだけ心が浮く。
「イリニのことが、すもごっ」
べしゃっとエフィの顔が羽毛に包まれた。
「あ、プロバテラか」
「え?」
「よっと」
エフィの顔に突っ込んできたのを剥がせば、私たちの周囲にもふもふの羽毛の固まりがたくさんおりてきている。
さっきまでフェンリルでもふもふしてたから、その流れか。私のもふもふ癒しな気持ちが、モードになるほどじゃないけど僅かに力に反応して現れたの。
エフィから離した子がきゅーきゅー言ってるので自由にしてあげる。
見た目はもふもふ丸っこい塊だけど、一応ジャンルは鳥なんだろうな。飛ぶし。木々の合間に巣作るし。
「なんだ……プロバテラだったか」
「うん。布団とか服作るにはもってこいだね」
ちなみに、材質は羊毛と羽毛の間。
「そう、だな……」
「で、話の続きは?」
「!」
くそ、とエフィが髪を掻き乱した。耳が赤い。
少し肩の力が抜けて、苦々しく眉を寄せる姿は緊張していない彼らしく自然だと思えた。
「また今度にする」
「いいの?」
「ああ…………イリニはどうして魔王になった?」
言うのをやめて、話を変えてきた。
まあその気になった時に聞ければいいか。
大したことじゃないんだろうし。
「なったというか、周りがそう言い始めて?」
「イリニ自身がそう思われていいように振る舞ってないか?」
「まあそうなんだけど」
痛いとこつくな。
確かに私は魔王と呼ばれ、そう見られて構わないと思って振舞っているところはある。
まあ人格統合によってできた今の私が清らかな聖人様様じゃないのも理由の一つなんだけど。
そんな私の考えなんて露知らず、エフィは真面目な様子でお願いしてくる。
「全部知りたいから、話してほしい」
「なにを」
「イリニのこと」
「聞いたってつまらないわよ? テンプレっちゃテンプレだし」
ここまでの流れはテンプレおつじゃなかったけど。
「アステリは全部知ってるだろ?」
「見たからね」
「なら、俺が知ってもいいじゃないか」
「えー? 張り合う必要ある?」
男同士の友達ってこういうものなの?
ことある毎に張り合う的な?
俺の背中は任せたぜとか、そういうのならあるあるっぽいけど。
あ、でもしょっちゅう喧嘩してるような男同士の友情ものはあったな。それか。
「その俺の知らない言葉を使うのも理由があるんだろ」
「まあねえ」
「駄目か?」
この人、ずっと私の前ではいつも緊張していて、それでも私と関わりたいって思ってる。
私が怖いのか憧れの聖女様だからかは分からないけど不思議な人。
怖いなら深く関わる必要がない。
憧れなら深く関わって幻滅するかもしれない。
でも彼が望んで覚悟の上で知りたいならいいのかな、と思う私もいる。
アステリは話さなくても見てくれた。けど自分から話して、それに耳を傾けて頷きながら聞いてくれる誰かがいるというのは羨ましいとどこかで小さく思ってる。
その欲求を満たせばモードも発動しないだろうし、という打算もあった。
「……いいよ、話す」
大方テンプレよろしくな語りだけど。まあラッキースケベが起きない程度の感傷の度合いにおさめて、淡々と語ることにしよう。
それでエフィが納得、というか満足して、ハグ係について考え直してくれたらラッキーだし。
フェンリルに促され渋々離れた。
見上げたエフィは不機嫌で、身体をよりかたくして私を見下ろしている。
「君はイリニの前だとかたいな?」
フェンリルが不思議そうに首を傾げる。
エフィの手に力が入って拳が握られた。
「フェンリル」
「ああ、わかった。もう言うまい」
二人の会話が終わる。フェンリルが少し楽しそうだ。
立ち上がり軽く身を振るわせ整えると、フェンリルはラッキースケベは終わったぞとエフィに伝えて去った。
「はあ……」
「なんで溜息」
なんでエフィに溜息つかれなきゃいけないの。
「イリニ」
自然な動作で私の前に膝をつくエフィはまさに騎士だった。
こういうこと平気でできるなら、さぞやモテるだろうに。
というか着替え済んでる。早すぎでしょ。
「イリニ、聞いてくれるか」
「なに?」
「俺は誰にも君のハグ係を譲りたくない」
「専属はさすがに申し訳なくてさー……」
男性に対してするのがはしたないとか言うなら、男性とディアボロスみたいなタイプを避ければいいじゃない。でもそういう小言はないんだよな、エフィ。
ただ自分が専属やりたいって言うだけ。
だからたまに疑ってしまう。国として、王太子殿下として、聖女の私を求めて近づいてきたんじゃないかって。
「……独占したいんだ」
「え?」
目元を赤くしている。
緊張が変わらないのに、少し彼らしさが見え隠れしてる気がした。
今まで一番エフィの気持ちとしての言葉な気がする。
「俺は、君が、イリニのことが」
「うん」
もしかしたら、初めてエフィの本音が聞けるかもと、少し前のめりになった。
国の命令じゃないと言ってくれるような気がして、少しだけ、ほんの少しだけ心が浮く。
「イリニのことが、すもごっ」
べしゃっとエフィの顔が羽毛に包まれた。
「あ、プロバテラか」
「え?」
「よっと」
エフィの顔に突っ込んできたのを剥がせば、私たちの周囲にもふもふの羽毛の固まりがたくさんおりてきている。
さっきまでフェンリルでもふもふしてたから、その流れか。私のもふもふ癒しな気持ちが、モードになるほどじゃないけど僅かに力に反応して現れたの。
エフィから離した子がきゅーきゅー言ってるので自由にしてあげる。
見た目はもふもふ丸っこい塊だけど、一応ジャンルは鳥なんだろうな。飛ぶし。木々の合間に巣作るし。
「なんだ……プロバテラだったか」
「うん。布団とか服作るにはもってこいだね」
ちなみに、材質は羊毛と羽毛の間。
「そう、だな……」
「で、話の続きは?」
「!」
くそ、とエフィが髪を掻き乱した。耳が赤い。
少し肩の力が抜けて、苦々しく眉を寄せる姿は緊張していない彼らしく自然だと思えた。
「また今度にする」
「いいの?」
「ああ…………イリニはどうして魔王になった?」
言うのをやめて、話を変えてきた。
まあその気になった時に聞ければいいか。
大したことじゃないんだろうし。
「なったというか、周りがそう言い始めて?」
「イリニ自身がそう思われていいように振る舞ってないか?」
「まあそうなんだけど」
痛いとこつくな。
確かに私は魔王と呼ばれ、そう見られて構わないと思って振舞っているところはある。
まあ人格統合によってできた今の私が清らかな聖人様様じゃないのも理由の一つなんだけど。
そんな私の考えなんて露知らず、エフィは真面目な様子でお願いしてくる。
「全部知りたいから、話してほしい」
「なにを」
「イリニのこと」
「聞いたってつまらないわよ? テンプレっちゃテンプレだし」
ここまでの流れはテンプレおつじゃなかったけど。
「アステリは全部知ってるだろ?」
「見たからね」
「なら、俺が知ってもいいじゃないか」
「えー? 張り合う必要ある?」
男同士の友達ってこういうものなの?
ことある毎に張り合う的な?
俺の背中は任せたぜとか、そういうのならあるあるっぽいけど。
あ、でもしょっちゅう喧嘩してるような男同士の友情ものはあったな。それか。
「その俺の知らない言葉を使うのも理由があるんだろ」
「まあねえ」
「駄目か?」
この人、ずっと私の前ではいつも緊張していて、それでも私と関わりたいって思ってる。
私が怖いのか憧れの聖女様だからかは分からないけど不思議な人。
怖いなら深く関わる必要がない。
憧れなら深く関わって幻滅するかもしれない。
でも彼が望んで覚悟の上で知りたいならいいのかな、と思う私もいる。
アステリは話さなくても見てくれた。けど自分から話して、それに耳を傾けて頷きながら聞いてくれる誰かがいるというのは羨ましいとどこかで小さく思ってる。
その欲求を満たせばモードも発動しないだろうし、という打算もあった。
「……いいよ、話す」
大方テンプレよろしくな語りだけど。まあラッキースケベが起きない程度の感傷の度合いにおさめて、淡々と語ることにしよう。
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