魔王と呼ばれる元聖女の祝福はラッキースケベ(旧題:婚約破棄と処刑コンボを越えた先は魔王でした)

文字の大きさ
上 下
11 / 82

11話 ハグ係は譲れない

しおりを挟む
「ほら、イリニ」

 フェンリルに促され渋々離れた。
 見上げたエフィは不機嫌で、身体をよりかたくして私を見下ろしている。

「君はイリニの前だとかたいな?」

 フェンリルが不思議そうに首を傾げる。
 エフィの手に力が入って拳が握られた。

「フェンリル」
「ああ、わかった。もう言うまい」

 二人の会話が終わる。フェンリルが少し楽しそうだ。
 立ち上がり軽く身を振るわせ整えると、フェンリルはラッキースケベは終わったぞとエフィに伝えて去った。

「はあ……」
「なんで溜息」

 なんでエフィに溜息つかれなきゃいけないの。

「イリニ」

 自然な動作で私の前に膝をつくエフィはまさに騎士だった。
 こういうこと平気でできるなら、さぞやモテるだろうに。
 というか着替え済んでる。早すぎでしょ。

「イリニ、聞いてくれるか」
「なに?」
「俺は誰にも君のハグ係を譲りたくない」
「専属はさすがに申し訳なくてさー……」

 男性に対してするのがはしたないとか言うなら、男性とディアボロスみたいなタイプを避ければいいじゃない。でもそういう小言はないんだよな、エフィ。
 ただ自分が専属やりたいって言うだけ。
 だからたまに疑ってしまう。国として、王太子殿下として、聖女の私を求めて近づいてきたんじゃないかって。

「……独占したいんだ」
「え?」

 目元を赤くしている。
 緊張が変わらないのに、少し彼らしさが見え隠れしてる気がした。
 今まで一番エフィの気持ちとしての言葉な気がする。

「俺は、君が、イリニのことが」
「うん」

 もしかしたら、初めてエフィの本音が聞けるかもと、少し前のめりになった。
 国の命令じゃないと言ってくれるような気がして、少しだけ、ほんの少しだけ心が浮く。

「イリニのことが、すもごっ」

 べしゃっとエフィの顔が羽毛に包まれた。

「あ、プロバテラか」
「え?」
「よっと」

 エフィの顔に突っ込んできたのを剥がせば、私たちの周囲にもふもふの羽毛の固まりがたくさんおりてきている。
 さっきまでフェンリルでもふもふしてたから、その流れか。私のもふもふ癒しな気持ちが、モードになるほどじゃないけど僅かに力に反応して現れたの。
 エフィから離した子がきゅーきゅー言ってるので自由にしてあげる。
 見た目はもふもふ丸っこい塊だけど、一応ジャンルは鳥なんだろうな。飛ぶし。木々の合間に巣作るし。

「なんだ……プロバテラだったか」
「うん。布団とか服作るにはもってこいだね」

 ちなみに、材質は羊毛と羽毛の間。

「そう、だな……」
「で、話の続きは?」
「!」

 くそ、とエフィが髪を掻き乱した。耳が赤い。
 少し肩の力が抜けて、苦々しく眉を寄せる姿は緊張していない彼らしく自然だと思えた。

「また今度にする」
「いいの?」
「ああ…………イリニはどうして魔王になった?」

 言うのをやめて、話を変えてきた。
 まあその気になった時に聞ければいいか。
 大したことじゃないんだろうし。

「なったというか、周りがそう言い始めて?」
「イリニ自身がそう思われていいように振る舞ってないか?」
「まあそうなんだけど」

 痛いとこつくな。
 確かに私は魔王と呼ばれ、そう見られて構わないと思って振舞っているところはある。
 まあ人格統合によってできた今の私が清らかな聖人様様じゃないのも理由の一つなんだけど。
 そんな私の考えなんて露知らず、エフィは真面目な様子でお願いしてくる。

「全部知りたいから、話してほしい」
「なにを」
「イリニのこと」
「聞いたってつまらないわよ? テンプレっちゃテンプレだし」

 ここまでの流れはテンプレおつじゃなかったけど。

「アステリは全部知ってるだろ?」
「見たからね」
「なら、俺が知ってもいいじゃないか」
「えー? 張り合う必要ある?」

 男同士の友達ってこういうものなの?
 ことある毎に張り合う的な?
 俺の背中は任せたぜとか、そういうのならあるあるっぽいけど。
 あ、でもしょっちゅう喧嘩してるような男同士の友情ものはあったな。それか。

「その俺の知らない言葉を使うのも理由があるんだろ」
「まあねえ」
「駄目か?」

 この人、ずっと私の前ではいつも緊張していて、それでも私と関わりたいって思ってる。
 私が怖いのか憧れの聖女様だからかは分からないけど不思議な人。
 怖いなら深く関わる必要がない。
 憧れなら深く関わって幻滅するかもしれない。
 でも彼が望んで覚悟の上で知りたいならいいのかな、と思う私もいる。
 アステリは話さなくても見てくれた。けど自分から話して、それに耳を傾けて頷きながら聞いてくれる誰かがいるというのは羨ましいとどこかで小さく思ってる。
 その欲求を満たせばモードも発動しないだろうし、という打算もあった。

「……いいよ、話す」

 大方テンプレよろしくな語りだけど。まあラッキースケベが起きない程度の感傷の度合いにおさめて、淡々と語ることにしよう。
 それでエフィが納得、というか満足して、ハグ係について考え直してくれたらラッキーだし。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】「私は善意に殺された」

まほりろ
恋愛
筆頭公爵家の娘である私が、母親は身分が低い王太子殿下の後ろ盾になるため、彼の婚約者になるのは自然な流れだった。 誰もが私が王太子妃になると信じて疑わなかった。 私も殿下と婚約してから一度も、彼との結婚を疑ったことはない。 だが殿下が病に倒れ、その治療のため異世界から聖女が召喚され二人が愛し合ったことで……全ての運命が狂い出す。 どなたにも悪意はなかった……私が不運な星の下に生まれた……ただそれだけ。 ※無断転載を禁止します。 ※朗読動画の無断配信も禁止します。 ※他サイトにも投稿中。 ※表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。 「Copyright(C)2022-九頭竜坂まほろん」 ※小説家になろうにて2022年11月19日昼、日間異世界恋愛ランキング38位、総合59位まで上がった作品です!

傲慢令嬢は、猫かぶりをやめてみた。お好きなように呼んでくださいませ。愛しいひとが私のことをわかってくださるなら、それで十分ですもの。

石河 翠
恋愛
高飛車で傲慢な令嬢として有名だった侯爵令嬢のダイアナは、婚約者から婚約を破棄される直前、階段から落ちて頭を打ち、記憶喪失になった上、体が不自由になってしまう。 そのまま修道院に身を寄せることになったダイアナだが、彼女はその暮らしを嬉々として受け入れる。妾の子であり、貴族暮らしに馴染めなかったダイアナには、修道院での暮らしこそ理想だったのだ。 新しい婚約者とうまくいかない元婚約者がダイアナに接触してくるが、彼女は突き放す。身勝手な言い分の元婚約者に対し、彼女は怒りを露にし……。 初恋のひとのために貴族教育を頑張っていたヒロインと、健気なヒロインを見守ってきたヒーローの恋物語。 ハッピーエンドです。 この作品は、別サイトにも投稿しております。 表紙絵は写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

そろそろ前世は忘れませんか。旦那様?

氷雨そら
恋愛
 結婚式で私のベールをめくった瞬間、旦那様は固まった。たぶん、旦那様は記憶を取り戻してしまったのだ。前世の私の名前を呼んでしまったのがその証拠。  そしておそらく旦那様は理解した。  私が前世にこっぴどく裏切った旦那様の幼馴染だってこと。  ――――でも、それだって理由はある。  前世、旦那様は15歳のあの日、魔力の才能を開花した。そして私が開花したのは、相手の魔力を奪う魔眼だった。  しかも、その魔眼を今世まで持ち越しで受け継いでしまっている。 「どれだけ俺を弄んだら気が済むの」とか「悪い女」という癖に、旦那様は私を離してくれない。  そして二人で眠った次の朝から、なぜかかつての幼馴染のように、冷酷だった旦那様は豹変した。私を溺愛する人間へと。  お願い旦那様。もう前世のことは忘れてください!  かつての幼馴染は、今度こそ絶対幸せになる。そんな幼馴染推しによる幼馴染推しのための物語。  小説家になろうにも掲載しています。

将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです

きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」 5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。 その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?

【完結】ずっと、ずっとあなたを愛していました 〜後悔も、懺悔も今更いりません〜

高瀬船
恋愛
リスティアナ・メイブルムには二歳年上の婚約者が居る。 婚約者は、国の王太子で穏やかで優しく、婚約は王命ではあったが仲睦まじく関係を築けていた。 それなのに、突然ある日婚約者である王太子からは土下座をされ、婚約を解消して欲しいと願われる。 何故、そんな事に。 優しく微笑むその笑顔を向ける先は確かに自分に向けられていたのに。 婚約者として確かに大切にされていたのに何故こうなってしまったのか。 リスティアナの思いとは裏腹に、ある時期からリスティアナに悪い噂が立ち始める。 悪い噂が立つ事など何もしていないのにも関わらず、リスティアナは次第に学園で、夜会で、孤立していく。

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!

gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ? 王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。 国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから! 12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

処理中です...