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2話 テンプレな回想
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精霊王の計らいで私は死に戻っている。三度目の戻る直前、ついでとばかりに私の前世二人分まで思い出させてくれた。というか出会わせてくれた。
二つの前世と解け合い、二つの死を抱えて戻った今世。
婚約破棄前日に戻ってきた。
しかも精霊王は聖女としての力をパワーアップしてくれた。いらないのにだ。
何度も訴えても聞いてもらえず、そのまま逃げられた。
だから私は婚約破棄をこなし処刑を回避した後も、精霊王に会って聖女の力を返す為に留まらなければならない理由ができてしまったのだけど。
パワーアップなんていいから、戻る日を前日にしなければよかったのに。
三ヶ月前とか日にちくれれば国外逃亡できる時間稼げたし。
「仕方ない、か」
最低限やることは二つ。
まずは王都にある侯爵邸へ。ここで両親と弟を呼び出した。幸い三人は屋敷にいて手っ取り早い。こういう運のいいタイミングのよさが聖女よね、なんて。
「お父様、お母様、カーリー、お願いがあります」
「どうした」
「今すぐ、王都を離れて下さい」
私の言うことに驚きつつも、真剣な様子に話を聞いてくれた。明日起きる婚約破棄、それを回避しようがしまいが侯爵家に被害が及ぶ。だから王都から逃げてほしいと。
「成程。ならサンリノス島に行くか」
「そうですね、あそこは私たちで結界をしいてますから、部外者は入れませんし」
「なら僕は休暇届を出してきます」
私の二度の死に戻りも理解を示して、おかしなことを笑わない家族。
聖女とまでいかなくても力は強い家系だ、予知や先見の明には長けている。
「申し訳ありません」
「貴方が謝ることではないわ、イリニ」
「そうですよ姉様、好きなようにやってください」
「そうだ。イリニなら大丈夫」
それに、と母が笑う。
「貴方の周りに沢山の人が見えて、とても賑やかだから成功するのだわ」
「お母様」
元々予知に長けていた母が何か見えたらしい。それならと父も大きく頷いた。
「私たちは準備出来次第、使用人を全て連れてここを立つ。全てに片が付いたら連絡を」
「はい、お父様」
これで大事な屋敷の人と家族は守れる。なんなら一族保有のサンリノス島に私が聖女として結界をはってもいい。
「ひとまず次ね」
さて次は理解を示してくれるか。
次は王城へ向かう。会いたい人物の管轄へはスムーズに通ることができた。何回か通ったのもあるけど、なにより聖女という立場はこういう時便利だ。王族しか使えない場所以外、自由に行き来ができる。
「いた」
まだ年若い……とはいっても確か私と同い年。若干二十歳にして長に上り詰めた実力者。平民にもかかわらず能力の高さから特例で貴族院に入って、成績も常に首席か次席かという人物。
「ネフェロマ魔法使長」
「アギオス侯爵令嬢」
急いで駆け寄ると驚いた様子でこちらを見てきた。
それもそうだろう。私は王城内で息を切らしたことなんてないし、駆け寄るなんてしたこともない。
「ネフェロマ魔法使長……折り入ってお願いが」
「自分に?」
人通りの多さを確認する。
数えるほどで、私が居住まいを正せば周囲は何も気にせず日常を歩む。
少しくらい走ってもおかしく見られないのは日々の品行方正の賜物ね。
「歩きながらお話しても?」
「構いません」
なんてことない風に話し始めた。
内容は、明日婚約破棄され王太子殿下に殺されるから、死ぬのを回避するために魔法で転送してほしい。これだけ。
「婚約破棄? まさか予知でも?」
「いいえ、二度経験しました。死に戻って三度目なので、さすがに回避したく」
「は?」
「ええと最初から説明しましょうか?」
「いや、いい」
みる、と端的な言葉が返ってきた。なので、どうぞと私も返した。
じっと私を見た魔法使長はみるみる顔を歪めた。片手で顔を覆って、天井を仰ぐ。
「マジかよ……なんだそれ」
「全部見えました?」
「情報量多すぎて吐く」
「でしょうね」
私含め三人の人生、死に戻り二回の現在三度目のチャレンジ。
私は自分自身と向き合うだけだったから簡単だったけど、さすがの魔法使長でも三人分見るのはきついかな。
けど、集中すれば他人の過去や知識といった中身を見られる人間は、おそらく世界で彼だけだろう。そんな力を魔法使長が持っていることも知る人は少ないはず。
「……分かった。お前の話乗るわ」
「え? いいんですか? 反逆者になりますよ?」
「お前、じゃあなんで俺を誘ったんだよ」
「転移の魔法使えるのネフェロマ魔法使長だけじゃないですか」
「まーな」
ま、そういうのもありだろ、と魔法使長は頭をかいた。年相応の仕草だった。
「お前といる方が楽しそうだからよしだ。それに聖女を失えば、この国がどうなるかなんて分かりきってる」
「はあ、ありがとうございます……あ、私のことはイリニでいいですよ」
「ん? じゃ、俺はアステリで。敬語もいらねえよ。同い年だろ」
「オッケー。じゃ明日よろしく」
「急に軽くなったな……」
「見えたなら分かるでしょ? 三人の人格が混じり合った感じなんで」
「ああ。まあ元々はお前自身がベースなんだろうけどよ……前みたいな悲壮感漂ういい子ちゃんよりはマシだな、うん」
「どうも」
そうしてあっさり軽々私はネフェロマ魔法使長を誘うことに成功した。
そして当日裏切りもなく、私がお願いした通り転移の魔法を施してくれた。
二つの前世と解け合い、二つの死を抱えて戻った今世。
婚約破棄前日に戻ってきた。
しかも精霊王は聖女としての力をパワーアップしてくれた。いらないのにだ。
何度も訴えても聞いてもらえず、そのまま逃げられた。
だから私は婚約破棄をこなし処刑を回避した後も、精霊王に会って聖女の力を返す為に留まらなければならない理由ができてしまったのだけど。
パワーアップなんていいから、戻る日を前日にしなければよかったのに。
三ヶ月前とか日にちくれれば国外逃亡できる時間稼げたし。
「仕方ない、か」
最低限やることは二つ。
まずは王都にある侯爵邸へ。ここで両親と弟を呼び出した。幸い三人は屋敷にいて手っ取り早い。こういう運のいいタイミングのよさが聖女よね、なんて。
「お父様、お母様、カーリー、お願いがあります」
「どうした」
「今すぐ、王都を離れて下さい」
私の言うことに驚きつつも、真剣な様子に話を聞いてくれた。明日起きる婚約破棄、それを回避しようがしまいが侯爵家に被害が及ぶ。だから王都から逃げてほしいと。
「成程。ならサンリノス島に行くか」
「そうですね、あそこは私たちで結界をしいてますから、部外者は入れませんし」
「なら僕は休暇届を出してきます」
私の二度の死に戻りも理解を示して、おかしなことを笑わない家族。
聖女とまでいかなくても力は強い家系だ、予知や先見の明には長けている。
「申し訳ありません」
「貴方が謝ることではないわ、イリニ」
「そうですよ姉様、好きなようにやってください」
「そうだ。イリニなら大丈夫」
それに、と母が笑う。
「貴方の周りに沢山の人が見えて、とても賑やかだから成功するのだわ」
「お母様」
元々予知に長けていた母が何か見えたらしい。それならと父も大きく頷いた。
「私たちは準備出来次第、使用人を全て連れてここを立つ。全てに片が付いたら連絡を」
「はい、お父様」
これで大事な屋敷の人と家族は守れる。なんなら一族保有のサンリノス島に私が聖女として結界をはってもいい。
「ひとまず次ね」
さて次は理解を示してくれるか。
次は王城へ向かう。会いたい人物の管轄へはスムーズに通ることができた。何回か通ったのもあるけど、なにより聖女という立場はこういう時便利だ。王族しか使えない場所以外、自由に行き来ができる。
「いた」
まだ年若い……とはいっても確か私と同い年。若干二十歳にして長に上り詰めた実力者。平民にもかかわらず能力の高さから特例で貴族院に入って、成績も常に首席か次席かという人物。
「ネフェロマ魔法使長」
「アギオス侯爵令嬢」
急いで駆け寄ると驚いた様子でこちらを見てきた。
それもそうだろう。私は王城内で息を切らしたことなんてないし、駆け寄るなんてしたこともない。
「ネフェロマ魔法使長……折り入ってお願いが」
「自分に?」
人通りの多さを確認する。
数えるほどで、私が居住まいを正せば周囲は何も気にせず日常を歩む。
少しくらい走ってもおかしく見られないのは日々の品行方正の賜物ね。
「歩きながらお話しても?」
「構いません」
なんてことない風に話し始めた。
内容は、明日婚約破棄され王太子殿下に殺されるから、死ぬのを回避するために魔法で転送してほしい。これだけ。
「婚約破棄? まさか予知でも?」
「いいえ、二度経験しました。死に戻って三度目なので、さすがに回避したく」
「は?」
「ええと最初から説明しましょうか?」
「いや、いい」
みる、と端的な言葉が返ってきた。なので、どうぞと私も返した。
じっと私を見た魔法使長はみるみる顔を歪めた。片手で顔を覆って、天井を仰ぐ。
「マジかよ……なんだそれ」
「全部見えました?」
「情報量多すぎて吐く」
「でしょうね」
私含め三人の人生、死に戻り二回の現在三度目のチャレンジ。
私は自分自身と向き合うだけだったから簡単だったけど、さすがの魔法使長でも三人分見るのはきついかな。
けど、集中すれば他人の過去や知識といった中身を見られる人間は、おそらく世界で彼だけだろう。そんな力を魔法使長が持っていることも知る人は少ないはず。
「……分かった。お前の話乗るわ」
「え? いいんですか? 反逆者になりますよ?」
「お前、じゃあなんで俺を誘ったんだよ」
「転移の魔法使えるのネフェロマ魔法使長だけじゃないですか」
「まーな」
ま、そういうのもありだろ、と魔法使長は頭をかいた。年相応の仕草だった。
「お前といる方が楽しそうだからよしだ。それに聖女を失えば、この国がどうなるかなんて分かりきってる」
「はあ、ありがとうございます……あ、私のことはイリニでいいですよ」
「ん? じゃ、俺はアステリで。敬語もいらねえよ。同い年だろ」
「オッケー。じゃ明日よろしく」
「急に軽くなったな……」
「見えたなら分かるでしょ? 三人の人格が混じり合った感じなんで」
「ああ。まあ元々はお前自身がベースなんだろうけどよ……前みたいな悲壮感漂ういい子ちゃんよりはマシだな、うん」
「どうも」
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そして当日裏切りもなく、私がお願いした通り転移の魔法を施してくれた。
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