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2章 本編
46話 女装も男装もない夫婦、賑わう街を散策
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「今日はここで一泊する」
「はい」
ウツィアの実家を越えて着いた先は孤児院のある街ウシュメフだった。
王都への中継地点としても栄えていて泊まる場所にも困らない。その中でも一番いい部屋を用意したとウェズの側近カツペルが胸を張っていた。
「なるほど? ですね?」
「……」
(カツペルめ)
ベッドは広くて大きいけれど一つしかなかった。
確かにいい部屋ではあるけれど、事情を知ってるはずなのに敢えてベッド一つの部屋を用意したのはわざとだろう。
「私は別で部屋をとるから、ここはウツィアが使いなさい」
「え」
いくら建国祭で宿屋の埋まりがよくても選ばなければ空き部屋の一つはあると思い、ウェズは階下に戻ろうとした。けれど柔い力で止められる。ウツィアが裾の端を掴んでいた。
「わ、私は一緒がいいです!」
「……しかし」
「散々言ってて信用ないかもしれないですけど、そんな無理に襲ったりしませんから! ね!」
(ひ、必死すぎたかしら)
「……」
(照れてる……可愛い)
はしたないこと言ってすみませんと消え入りそうな声で言うウツィアに、相変わらずぎゅんと心臓掴まれているウェズはしばし引き留められた状態で無言を貫いた。
無言のウェズに断ろうとしていると思ったウツィアはなんとか回避できないかと言葉を選ぶ。仲が深まり隣り合って寝るだけができるようになればいずれはと考えてしまったことは言わずにだ。
「誰かが隣で寝てるだけで眠れない派ですか」
「いや、大丈夫だが……」
(ウツィアへの気持ちがおさえられるか心配)
「じゃあもうこの際ですから一緒に並んで寝ましょう! ね!」
「……ああ」
(セモツとの戦いを思い出せば律せるか?)
強引に同じベッドを使うことが決まった。
気まずさを残してしまい、どう切り抜けようか悩んでいると窓の外から華やかな景色が見える。
「よければ外に出ませんか?」
「外?」
「建国祭にあわせて賑わってますし、少し一緒に歩けたらなって」
「分かった」
(嬉しい)
日が沈みかけた薄暗い僅かな時間、夫婦揃って建国を祝う街中に出た。
「活気づいてますね」
「ああ」
所々貴族の面々が散策している。ウツィアたちと同じように王都へ向かう前にこの街に泊まる者たちだ。
「ここは王都へ行きやすい中継地点の一つだから、貴族たちも多い」
「そうなんですね」
外に屋台を出しているからというのもあり、目移りするぐらい多くのものを売っていた。夜なのによく賑わっている。
(あ、あれ美味しそう)
(何か見ているな……)
ウツィアの視線を追えば冬場によく見る国特有のお茶だった。隣には同じく酒が置かれている。
「飲むか?」
夫が自分と同じ方向を見ているのに気づいてバレたことを悟る。もう少しスマートに話を持っていけばよかった。
「ええと、その、いいんですか?」
「ああ。こちらについてから何も飲んでなかっただろう。茶にするか? それとも酒?」
「あ、お茶で」
「分かった」
ウェズは何の躊躇いもなくウツィアにお茶を買った。貴族ではこういった庶民の営む屋台のものを食べたり飲んだりする行動を嫌がる人間もいるけれど、ウェズがそれをよしとする人だと知れてウツィアは嬉しくなる。
「ありがとうございます……あの、私もウェズに飲み物買います!」
「別に私は」
「待っててください!」
茶の隣にあった酒・ホットビールを買って戻って来る。笑顔で手に持つウツィアの姿が可愛いくて顔がゆるくなりそうなのをひたらすら我慢した。今からこんな状態では隣り合って寝られるとは到底思えない。
互いに飲み物を買い、それを交換し飲んだ。
「わ、美味しい」
「よかった」
(可愛い)
ウェズはどうですかときくウツィアに「美味しい」と伝えると彼女は嬉しそうに笑った。これだけ幸せを感じられるなら、もう王都に行かなくてもいいのではとウェズの頭に余計な考えがよぎる。
すると、その考えが霧散するような大きな声が街中にあがった。
夜は割と酒に酔った人間同士で喧嘩は起きやすい。見ると少し先で中年の男性が子供に手を上げようとしていた。それを庇う女性の姿も。ウツィアにはそのほんの少ししか見えず、前に出たウェズによって遮られた。
「はい」
ウツィアの実家を越えて着いた先は孤児院のある街ウシュメフだった。
王都への中継地点としても栄えていて泊まる場所にも困らない。その中でも一番いい部屋を用意したとウェズの側近カツペルが胸を張っていた。
「なるほど? ですね?」
「……」
(カツペルめ)
ベッドは広くて大きいけれど一つしかなかった。
確かにいい部屋ではあるけれど、事情を知ってるはずなのに敢えてベッド一つの部屋を用意したのはわざとだろう。
「私は別で部屋をとるから、ここはウツィアが使いなさい」
「え」
いくら建国祭で宿屋の埋まりがよくても選ばなければ空き部屋の一つはあると思い、ウェズは階下に戻ろうとした。けれど柔い力で止められる。ウツィアが裾の端を掴んでいた。
「わ、私は一緒がいいです!」
「……しかし」
「散々言ってて信用ないかもしれないですけど、そんな無理に襲ったりしませんから! ね!」
(ひ、必死すぎたかしら)
「……」
(照れてる……可愛い)
はしたないこと言ってすみませんと消え入りそうな声で言うウツィアに、相変わらずぎゅんと心臓掴まれているウェズはしばし引き留められた状態で無言を貫いた。
無言のウェズに断ろうとしていると思ったウツィアはなんとか回避できないかと言葉を選ぶ。仲が深まり隣り合って寝るだけができるようになればいずれはと考えてしまったことは言わずにだ。
「誰かが隣で寝てるだけで眠れない派ですか」
「いや、大丈夫だが……」
(ウツィアへの気持ちがおさえられるか心配)
「じゃあもうこの際ですから一緒に並んで寝ましょう! ね!」
「……ああ」
(セモツとの戦いを思い出せば律せるか?)
強引に同じベッドを使うことが決まった。
気まずさを残してしまい、どう切り抜けようか悩んでいると窓の外から華やかな景色が見える。
「よければ外に出ませんか?」
「外?」
「建国祭にあわせて賑わってますし、少し一緒に歩けたらなって」
「分かった」
(嬉しい)
日が沈みかけた薄暗い僅かな時間、夫婦揃って建国を祝う街中に出た。
「活気づいてますね」
「ああ」
所々貴族の面々が散策している。ウツィアたちと同じように王都へ向かう前にこの街に泊まる者たちだ。
「ここは王都へ行きやすい中継地点の一つだから、貴族たちも多い」
「そうなんですね」
外に屋台を出しているからというのもあり、目移りするぐらい多くのものを売っていた。夜なのによく賑わっている。
(あ、あれ美味しそう)
(何か見ているな……)
ウツィアの視線を追えば冬場によく見る国特有のお茶だった。隣には同じく酒が置かれている。
「飲むか?」
夫が自分と同じ方向を見ているのに気づいてバレたことを悟る。もう少しスマートに話を持っていけばよかった。
「ええと、その、いいんですか?」
「ああ。こちらについてから何も飲んでなかっただろう。茶にするか? それとも酒?」
「あ、お茶で」
「分かった」
ウェズは何の躊躇いもなくウツィアにお茶を買った。貴族ではこういった庶民の営む屋台のものを食べたり飲んだりする行動を嫌がる人間もいるけれど、ウェズがそれをよしとする人だと知れてウツィアは嬉しくなる。
「ありがとうございます……あの、私もウェズに飲み物買います!」
「別に私は」
「待っててください!」
茶の隣にあった酒・ホットビールを買って戻って来る。笑顔で手に持つウツィアの姿が可愛いくて顔がゆるくなりそうなのをひたらすら我慢した。今からこんな状態では隣り合って寝られるとは到底思えない。
互いに飲み物を買い、それを交換し飲んだ。
「わ、美味しい」
「よかった」
(可愛い)
ウェズはどうですかときくウツィアに「美味しい」と伝えると彼女は嬉しそうに笑った。これだけ幸せを感じられるなら、もう王都に行かなくてもいいのではとウェズの頭に余計な考えがよぎる。
すると、その考えが霧散するような大きな声が街中にあがった。
夜は割と酒に酔った人間同士で喧嘩は起きやすい。見ると少し先で中年の男性が子供に手を上げようとしていた。それを庇う女性の姿も。ウツィアにはそのほんの少ししか見えず、前に出たウェズによって遮られた。
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