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61話 変わる世界に立つ。
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卑弥呼さまが消えた後、やくがゆっくり降りてくる。
彼に卑弥呼さまの事は伝えなかった。
言わなくても知っているはずだ。
卑弥呼さまは彼が新しい神託を成し得ることを見届けるという理由で邪馬台国の地に留まっていた。
今の状況が卑弥呼さまの存在にどう影響するか分かっているのは明白だ。
「やく」
「ああ」
そして周囲に残っていた呪が静かに広がっった。
風に乗って遠くへいくものもあれば、地に沈み溶けていくものも。
これがやくの言っていた、根源を消し去っても呪が残るということか。
この国を覆っていた呪は時には人の中にも染み渡り、こうして周囲の自然の中にも取り込まれ、そのまま私達の傍で存在し続けると。
以前のように根源があり、最大の脅威として巫女が陰ながら浄化をする使命を果たしていくのではなく、この国に住む者が呪と向き合う国になった。
「やはり俺の勝利以外で終わる事はないな」
「えー…根源形に出したの私だよね?」
よくやったとか言ってたくせに。
相変わらず自分が基準だ…久しぶりに目の前の人物が傍若無人だったことを思い出す。
この上から目線で笑う様ときたら。
確かにやりきったことがことなのだけど。
「及第点だな。結稀にしては良い足掻きだった」
「勝ちは譲らないの…」
「当然だろう」
勝ち負けはさておき、これで彼は天鈿女命さまから受けた新たな神託を成し得たことになる。
けど今ここに存在しているように彼が消えることはなかった。
根源に向かう時に感じた違和感について話しそびれたことを思い出して彼に問う。
「やく、もう守護守じゃないよね?」
「気づいていたか」
「うん」
壹與によって一度消され、自力で戻ってきた時すでに彼は存在を変えていたのだろう。
「自分でやったの?」
「ああ」
さすが特異で強大な力を持つ彼ならではというところ。
自分で存在変えてみましたなんて軽々しくできるものじゃないと思う。
それでも彼が強大な力を持っていることに変わりはないのは、先の呪を消し去る過程でよくよく知ることができた。
あの時、力を授けないと言っていたけれど、守護守でないからできないというわけでもなく、望めば守護守の時とは違う形で力を授けてもらえたのだろう。
最もできるできない以前に授ける気持ちはなかった、これが1番の理由だけど。
先の戦いは私は巫女として、彼は神託を受けた者としての根源の浄化という使命を互いに果たしただけに過ぎない。
そこに守護守と巫女の関係はなかったと言える。
「どちらにしても守護守という存在も器という存在もなくなったからな」
「そうだね」
呪の根源の消失によって、守護守と器巫女の存在の意義がなくなる。
「他の守護守さまと器の巫女たちはどうなるの?」
「存続か消滅かを選べばいいだけだ」
守護守は守護守として消えるという選択と、存在を変えた上での存続が選べるとやくは言った。
「地域に根付く信仰といったものになっていくだろうな」
彼には未来が見えているのだろう。
元々千里眼を持つ者として最初に生まれた節はあるし、根源との戦いで先の世のもののことも言っていたから遠い未来が見えている。
そして守護守さまはくしくも難升米が言っていたような、より身近で私達を見守って下さる存在に変わる。
巫女は存在自体はそのまま役割を変え、人々を祈りへ導く存在へ変化するという。
そしたら巫女の本部は解体になるのか。
現状維持を望む本部は荒れそうだけど、私達巫女が特別である必要もないだろうし、人々と共に歩めるのならそれはそれで良いかなと思える。
「やくも信仰になるの?」
「違うな。俺は俺という唯一無二になった」
「ん?」
「多くの民の信仰にはならないという事だ」
彼は彼というたった一人の存在でしかない。
人でもなければ霊体でもない、見えるのは限られた巫女の力を持ったものだけ。
守護守に限りなく近いけど、契約もなければ制約もない。
自由の身だ。
「…永遠に生きるの?」
「それはないな。俺は俺の死を自ら選ぶと決め、その通りにした」
「じゃあ、」
「死の時は再構成の時に決め終えた」
彼が存在の消滅という死について考え、すでに決めてしまっているなんて思ってもみなかった。
邪馬台国で散々私が永遠を生きることについて卑弥呼さまに言っていたから、彼なりに答えを模索していたのかもしれない。
「それはいつ?」
「ふん、そのない頭で考えてみるといい」
「うわ…」
鼻で笑ってあしらわれた。
でも永劫を生きる選択をしなかった、それだけで私はよかったと思っている。
彼がどう思うかが要ではあるけれど、永遠を生きる必要はないだろう。
私も彼も人なのだから。
「あ」
「どうした」
「皆が信仰しないなら、私が信仰すればいい?」
「何を言うかと思えば」
「私だけを守る守護になってよ」
私だけが信仰すれば、やくは私だけの認識になる。
それは私だけの守護守みたいなものだ。
私の言葉に少しだけ目を丸くして、次に彼は面白そうに笑った。
「はっ、傲慢だな」
「うん、私勝手だから」
勝手ついでにもう1つお願いしてみようか。
今の彼は機嫌も良さそうだし。
「やく」
「どうした」
「私と婚姻を結んで」
彼に卑弥呼さまの事は伝えなかった。
言わなくても知っているはずだ。
卑弥呼さまは彼が新しい神託を成し得ることを見届けるという理由で邪馬台国の地に留まっていた。
今の状況が卑弥呼さまの存在にどう影響するか分かっているのは明白だ。
「やく」
「ああ」
そして周囲に残っていた呪が静かに広がっった。
風に乗って遠くへいくものもあれば、地に沈み溶けていくものも。
これがやくの言っていた、根源を消し去っても呪が残るということか。
この国を覆っていた呪は時には人の中にも染み渡り、こうして周囲の自然の中にも取り込まれ、そのまま私達の傍で存在し続けると。
以前のように根源があり、最大の脅威として巫女が陰ながら浄化をする使命を果たしていくのではなく、この国に住む者が呪と向き合う国になった。
「やはり俺の勝利以外で終わる事はないな」
「えー…根源形に出したの私だよね?」
よくやったとか言ってたくせに。
相変わらず自分が基準だ…久しぶりに目の前の人物が傍若無人だったことを思い出す。
この上から目線で笑う様ときたら。
確かにやりきったことがことなのだけど。
「及第点だな。結稀にしては良い足掻きだった」
「勝ちは譲らないの…」
「当然だろう」
勝ち負けはさておき、これで彼は天鈿女命さまから受けた新たな神託を成し得たことになる。
けど今ここに存在しているように彼が消えることはなかった。
根源に向かう時に感じた違和感について話しそびれたことを思い出して彼に問う。
「やく、もう守護守じゃないよね?」
「気づいていたか」
「うん」
壹與によって一度消され、自力で戻ってきた時すでに彼は存在を変えていたのだろう。
「自分でやったの?」
「ああ」
さすが特異で強大な力を持つ彼ならではというところ。
自分で存在変えてみましたなんて軽々しくできるものじゃないと思う。
それでも彼が強大な力を持っていることに変わりはないのは、先の呪を消し去る過程でよくよく知ることができた。
あの時、力を授けないと言っていたけれど、守護守でないからできないというわけでもなく、望めば守護守の時とは違う形で力を授けてもらえたのだろう。
最もできるできない以前に授ける気持ちはなかった、これが1番の理由だけど。
先の戦いは私は巫女として、彼は神託を受けた者としての根源の浄化という使命を互いに果たしただけに過ぎない。
そこに守護守と巫女の関係はなかったと言える。
「どちらにしても守護守という存在も器という存在もなくなったからな」
「そうだね」
呪の根源の消失によって、守護守と器巫女の存在の意義がなくなる。
「他の守護守さまと器の巫女たちはどうなるの?」
「存続か消滅かを選べばいいだけだ」
守護守は守護守として消えるという選択と、存在を変えた上での存続が選べるとやくは言った。
「地域に根付く信仰といったものになっていくだろうな」
彼には未来が見えているのだろう。
元々千里眼を持つ者として最初に生まれた節はあるし、根源との戦いで先の世のもののことも言っていたから遠い未来が見えている。
そして守護守さまはくしくも難升米が言っていたような、より身近で私達を見守って下さる存在に変わる。
巫女は存在自体はそのまま役割を変え、人々を祈りへ導く存在へ変化するという。
そしたら巫女の本部は解体になるのか。
現状維持を望む本部は荒れそうだけど、私達巫女が特別である必要もないだろうし、人々と共に歩めるのならそれはそれで良いかなと思える。
「やくも信仰になるの?」
「違うな。俺は俺という唯一無二になった」
「ん?」
「多くの民の信仰にはならないという事だ」
彼は彼というたった一人の存在でしかない。
人でもなければ霊体でもない、見えるのは限られた巫女の力を持ったものだけ。
守護守に限りなく近いけど、契約もなければ制約もない。
自由の身だ。
「…永遠に生きるの?」
「それはないな。俺は俺の死を自ら選ぶと決め、その通りにした」
「じゃあ、」
「死の時は再構成の時に決め終えた」
彼が存在の消滅という死について考え、すでに決めてしまっているなんて思ってもみなかった。
邪馬台国で散々私が永遠を生きることについて卑弥呼さまに言っていたから、彼なりに答えを模索していたのかもしれない。
「それはいつ?」
「ふん、そのない頭で考えてみるといい」
「うわ…」
鼻で笑ってあしらわれた。
でも永劫を生きる選択をしなかった、それだけで私はよかったと思っている。
彼がどう思うかが要ではあるけれど、永遠を生きる必要はないだろう。
私も彼も人なのだから。
「あ」
「どうした」
「皆が信仰しないなら、私が信仰すればいい?」
「何を言うかと思えば」
「私だけを守る守護になってよ」
私だけが信仰すれば、やくは私だけの認識になる。
それは私だけの守護守みたいなものだ。
私の言葉に少しだけ目を丸くして、次に彼は面白そうに笑った。
「はっ、傲慢だな」
「うん、私勝手だから」
勝手ついでにもう1つお願いしてみようか。
今の彼は機嫌も良さそうだし。
「やく」
「どうした」
「私と婚姻を結んで」
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