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47話 業。
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「よく言った!」
私の叫びと同時、頭上から笑う声が聞こえた。
聞き覚えのある男性の笑い声。
伏した巫女も目線を上にあげる。
「炎の守護守さま…」
「器の巫女よ」
「!」
「力添えに参りました」
「沈静の守護守さま…!」
沈静の守護守さまと炎の守護守さまだ。
沈静の守護守さまに至ってはいきなり私の間近にいた。
距離感がおかしいし、気配を感じないのは本当に困る。
そして相変わらず楽しそうに笑う炎の守護守さまは豪快に私と膝をつき倒れながらも私を囲う巫女たちとの間に炎柱をあげた。
「どういうことですか?」
「なに、ちょっとしたサービスだ」
「サービス?」
宙から降りてきた炎の守護守さまは転移の術式を私たち三人に施した。
「こういうときは、なんだ……ああそうだ!"ずらかるぞ!"だったか!」
「それはちょっと…」
どちらにしろ巫女たちはもう動けない。
転移の術式はありがたいけど、相変わらずこの守護守さまの調子はやくのように勝手だなと思う。
「ここは…」
「あぁ、君は最近来たばかりだったか!」
転移先は恐山だった。
イタコがおさめる特殊な場所…周囲に気配がないから本部の巫女たちもここを感知していないようだ。
イタコが現れないのを見ると、私の粛清云々については関わらないということ。
巫女として特殊な立ち位置にあるのはこういうところにも出てくるのか。
「ふむ、ここも変わらないな!」
「あの、炎の守護守さま」
「どうした?」
「私、早く臺與さまのところへ行きたいのですが…」
「では力添えを」
「沈静の守護守さま」
さっきも言っていた言葉。
となると契約の話になるのだろうか?
それを考え急に違和感を覚えた。
私が契約したのはさくらさんとやくだけだった。
それがとても大事なことのように思えた。
今ここで二人の守護守さまと契約しても、それが臺與さまとの再会で敵うものになるかと思えば、感覚が違うと告げる。
今回は契約じゃない、器として力が必要な気がした。
「契約ではなく、器として力を頂けますか?」
「おお、なかなか面白い!災厄みたいなことを言うようになったな!」
それもそうだろう。
貴方の力を奪わせてくださいと言ってるようなものだ。
沈静の守護守さまも炎の守護守さまに同意見のようだった。
「やはり器としてよりこちら側に近づいてきましたか…」
「え?どういうことですか?」
「なんだ、自覚ないのか?」
どういうことだろう。
祖父母が器として位があがると言っていたが…そのことだろうか。
「君の戦い方は巫女として離れ、守護守としての戦い方に変貌しつつある」
「それが器が段階的に迎える変化です」
「覚えはないか?」
「戦い方、ですか…」
「そもそも君の放つ破魔矢は最初光り輝くだけだったが、今はそれが金と黒だ。俺から奪った炎を纏わせてもいたな」
「…あぁ」
「それに君が例え強くてもあの数の巫女を相手に君自身に傷1つなく、相手全てを動けなく出来るなんてそうないだろ!俺たちよりの強さだな!」
「そう、ですね…」
炎の守護守さまが私の戦いぶりを知ってることにも驚いたけど、この戦い方の変化、てっきりやくとの契約で彼の力をよりよくいかせてるからだと思っていた。
それが器としての変化なのか。
そうなると、土を使ったり縄や網で拘束したり雷を轟かせたり地下の水ですら操れたのは、巫女としての術式じゃなくて守護守の器として私が変わったから?
そういえば、祝詞を献上して組み込む術式から離れていた気もする。
言霊だと思っていたのも叔母のそれと比べると随分違うもののように感じた。
「そうだなーそろそろ君は前世の業を思い出さないとな!」
「え?」
「今貴方が背負うこの状況は業が関わっているからです」
「え?」
「というかとっくに君は知っているんだがな!見て見ぬ振りしてるだけで」
「やめて」
咄嗟に出た言葉は私の言葉じゃなかった。
思わぬことに口に手を当てる。
「んー、災厄はなんて言ってたか」
「器の巫女は自分で決めると言っていました」
「そうなんだよな!彼女の元へ連れていくのはよしとしていたが…どうしたものか!」
困っているのに笑うのは何故。
「俺たちは俺たちで君と災厄の助けになりたかったんだがな!」
「お二人が?」
「ああ!俺は二代目だからあくまで前の炎の守護守の引き継ぎだが」
「私は臺與様をお救いしたかった気持ちの方が強かったように思えます」
「そうだな、君は敢えて臺與様の呪を受け入れたしな!今日の今日までずっと彼女の元にいたのだろう?」
「えぇ」
そうだ、沈静の守護守さまは元々祖父母と共に呪を内に孕んで現れた。
私とやくを助けると言うよりは彼女側の立場だろう。
「まあ俺らのことはいいだろう!君は早く臺與様の元へ行きたいんだろ?」
「はい」
「すぐ行くか?」
炎の守護守さまの転移の術式があればすぐだろう。
けど彼らが言う業が気になる。
ここで解消した方がいいとどこかで鐘が鳴っている。
「………いえ、業を見定めます」
「そうか!」
カンカンと鐘が鳴る音が聞こえる。
近くなっていくその音と共に足元が急にぬかるみ、水になった。
「!」
「貴方の持つ想いが業によるものなのか、貴方自身のものなのか見極めてください」
私が考えていたことが知れている。
やくとさくらさんとの契約に重きを置くのも、やくへの親しみも、私だけのものではないかもしれないという疑念。
それは不安という産物だ。
それを解消するために見て見ぬ振りをやめよう。
「はい、いってきます」
水に飲まれ視界は白く遮られた。
私の叫びと同時、頭上から笑う声が聞こえた。
聞き覚えのある男性の笑い声。
伏した巫女も目線を上にあげる。
「炎の守護守さま…」
「器の巫女よ」
「!」
「力添えに参りました」
「沈静の守護守さま…!」
沈静の守護守さまと炎の守護守さまだ。
沈静の守護守さまに至ってはいきなり私の間近にいた。
距離感がおかしいし、気配を感じないのは本当に困る。
そして相変わらず楽しそうに笑う炎の守護守さまは豪快に私と膝をつき倒れながらも私を囲う巫女たちとの間に炎柱をあげた。
「どういうことですか?」
「なに、ちょっとしたサービスだ」
「サービス?」
宙から降りてきた炎の守護守さまは転移の術式を私たち三人に施した。
「こういうときは、なんだ……ああそうだ!"ずらかるぞ!"だったか!」
「それはちょっと…」
どちらにしろ巫女たちはもう動けない。
転移の術式はありがたいけど、相変わらずこの守護守さまの調子はやくのように勝手だなと思う。
「ここは…」
「あぁ、君は最近来たばかりだったか!」
転移先は恐山だった。
イタコがおさめる特殊な場所…周囲に気配がないから本部の巫女たちもここを感知していないようだ。
イタコが現れないのを見ると、私の粛清云々については関わらないということ。
巫女として特殊な立ち位置にあるのはこういうところにも出てくるのか。
「ふむ、ここも変わらないな!」
「あの、炎の守護守さま」
「どうした?」
「私、早く臺與さまのところへ行きたいのですが…」
「では力添えを」
「沈静の守護守さま」
さっきも言っていた言葉。
となると契約の話になるのだろうか?
それを考え急に違和感を覚えた。
私が契約したのはさくらさんとやくだけだった。
それがとても大事なことのように思えた。
今ここで二人の守護守さまと契約しても、それが臺與さまとの再会で敵うものになるかと思えば、感覚が違うと告げる。
今回は契約じゃない、器として力が必要な気がした。
「契約ではなく、器として力を頂けますか?」
「おお、なかなか面白い!災厄みたいなことを言うようになったな!」
それもそうだろう。
貴方の力を奪わせてくださいと言ってるようなものだ。
沈静の守護守さまも炎の守護守さまに同意見のようだった。
「やはり器としてよりこちら側に近づいてきましたか…」
「え?どういうことですか?」
「なんだ、自覚ないのか?」
どういうことだろう。
祖父母が器として位があがると言っていたが…そのことだろうか。
「君の戦い方は巫女として離れ、守護守としての戦い方に変貌しつつある」
「それが器が段階的に迎える変化です」
「覚えはないか?」
「戦い方、ですか…」
「そもそも君の放つ破魔矢は最初光り輝くだけだったが、今はそれが金と黒だ。俺から奪った炎を纏わせてもいたな」
「…あぁ」
「それに君が例え強くてもあの数の巫女を相手に君自身に傷1つなく、相手全てを動けなく出来るなんてそうないだろ!俺たちよりの強さだな!」
「そう、ですね…」
炎の守護守さまが私の戦いぶりを知ってることにも驚いたけど、この戦い方の変化、てっきりやくとの契約で彼の力をよりよくいかせてるからだと思っていた。
それが器としての変化なのか。
そうなると、土を使ったり縄や網で拘束したり雷を轟かせたり地下の水ですら操れたのは、巫女としての術式じゃなくて守護守の器として私が変わったから?
そういえば、祝詞を献上して組み込む術式から離れていた気もする。
言霊だと思っていたのも叔母のそれと比べると随分違うもののように感じた。
「そうだなーそろそろ君は前世の業を思い出さないとな!」
「え?」
「今貴方が背負うこの状況は業が関わっているからです」
「え?」
「というかとっくに君は知っているんだがな!見て見ぬ振りしてるだけで」
「やめて」
咄嗟に出た言葉は私の言葉じゃなかった。
思わぬことに口に手を当てる。
「んー、災厄はなんて言ってたか」
「器の巫女は自分で決めると言っていました」
「そうなんだよな!彼女の元へ連れていくのはよしとしていたが…どうしたものか!」
困っているのに笑うのは何故。
「俺たちは俺たちで君と災厄の助けになりたかったんだがな!」
「お二人が?」
「ああ!俺は二代目だからあくまで前の炎の守護守の引き継ぎだが」
「私は臺與様をお救いしたかった気持ちの方が強かったように思えます」
「そうだな、君は敢えて臺與様の呪を受け入れたしな!今日の今日までずっと彼女の元にいたのだろう?」
「えぇ」
そうだ、沈静の守護守さまは元々祖父母と共に呪を内に孕んで現れた。
私とやくを助けると言うよりは彼女側の立場だろう。
「まあ俺らのことはいいだろう!君は早く臺與様の元へ行きたいんだろ?」
「はい」
「すぐ行くか?」
炎の守護守さまの転移の術式があればすぐだろう。
けど彼らが言う業が気になる。
ここで解消した方がいいとどこかで鐘が鳴っている。
「………いえ、業を見定めます」
「そうか!」
カンカンと鐘が鳴る音が聞こえる。
近くなっていくその音と共に足元が急にぬかるみ、水になった。
「!」
「貴方の持つ想いが業によるものなのか、貴方自身のものなのか見極めてください」
私が考えていたことが知れている。
やくとさくらさんとの契約に重きを置くのも、やくへの親しみも、私だけのものではないかもしれないという疑念。
それは不安という産物だ。
それを解消するために見て見ぬ振りをやめよう。
「はい、いってきます」
水に飲まれ視界は白く遮られた。
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