器巫女と最強の守護守

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46話 貴方の意志、私の意志。

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「月映結稀」
「…はい」

思った以上に早かった。
振り向けば顔に面をした巫女が十数人、私を囲う形で立っている。
それぞれに薙刀、刀、矢、棍等の神器を持ち、不穏な空気を纏っていた。
本部の手練れの巫女たち。
私の始末を本格的に考えて対応してきたということ…早く臺與さまを追いかけなきゃいけないのに。
三条で粛清対象になったのが、さらに対象の位があがったのだろう。
臺與さまがどう動こうと、どうして邪馬台国にきたのかはさておき、この結果をはたから見れば私が関与してることは明らかだ。

「私、臺與さまの元へ行きます」
「なりません」
「本部からの命です」
「富士へ戻りなさい」
「ここで殺さないんですか?」
「…貴方が抵抗しなければ」

今殺さないのは私が器だから。 
現状が見えてないのか…呪が散らばり広がりながら国を蝕んでいる。
巫女同士が争う時ではないのに。

「決めてるんです」
「何を」
「私は臺與さまを止めると決めました。今は富士に戻りません」

その言葉に目の前の巫女たちの神器を握る手に力が入る。
やくもさくらさんいない。
残った力で相手を傷つけず退かせるか、逃げ切るかをするには骨が折れそうだ。

「本部の命を反古するのですか」
「゛今は゛の話なんですけど…この際です、どう捉えてもかまいませんよ」

それが粛清対象になろうともだ。
私に話しかけていた巫女が両隣に小声で指示をだした。
さくらさんとの契約はまだきれていない。
ほんの僅かな時間、存分に使わせてもらおう。

「!」

3手にわかれて動きはじめた。
4人1組ぐらいで動いてくる、両側にそれぞれ1組、正面から3人、最初の場所から動かないのが5人か。
この人数を呪の浄化に尽くせば少しは人々に尽力できるのに。

「呪を浄化するのが巫女の使命ではないんですか?」
「その通りです」
「ならなぜ、ここにいるんですか?」
「本部からの命です」
「貴方自身はどう思ってるんですか?」

応えはなかった。
破魔矢を正面に向けて射れば、向かう3人は苦もなくそれを避ける。
薙刀を構えると同時に術式を行使する。
桜の木を留まる5人を囲う形で出現させ、簡易結界と同時に桜の枝と根で手足を拘束する。

「?!」
「…意外と無防備ですね」

5人の内2人は難を逃れていたけど、手練れのはずの巫女があっさり囲えるなんて。
同時正面からの刀を受け流し、両側から連続でやってくる神器の嵐を受けては流しを繰り返す。
両側からの2人分の力を受け止め、瞬間私の薙刀から炎を発出させた。
とぐろを巻いてそれぞれの神器を介して巫女の身体を炎が包む。
炎に巻かれたまま後退し、鎮火を試みてる間に、破魔矢をさらに射る。
それを別の巫女が神器ではじき返し、矢は空へ登っていった。

「やめませんか?」

返事はない。

「ここで争えば争うだけ呪はこの国を覆います。早く人々を救うために動いた方がいいと思うんです」
「本部からの命です」

堂々巡り…同じ回答に苛立ちが混じる。
いや、これは哀しみだろうか。
どちらにしろ、それに囚われるわけにはいかない。

「…貴方はどう思っているのかききたいんですけど…」

破魔矢をさらに射る。
かわされるのは織り込みずみだ。
私の狙いはその先、かわして身体が少し傾くその瞬間だ。

「?!」
「ここで負けるわけにはいかないんです」

網にかかった巫女はそれを切り取ろうと試みるがうまくいかない。
やはりこれを破れるのは叔母ぐらいの練度がないと難しいか。

「!」

と、網が光に飲まれて消えうせた。
同時私の足元が光り動けなくなる。
簡易結界から逃れ残っていた2人が術式を行使していた。

「…なら」

私の周囲の土を爆ぜた。
動けないところに迫っていた巫女が土と一緒に吹っ飛んだ。
薙刀を足元に刺した。
術式を無理矢理解除する…卑弥呼さまの薙刀だからか、やはりこういうときの力比べでは圧倒的だ。

「……やく」

にしても…契約が切れているのに、やくの力が使える。
無意識のうちに器として彼の力を腹の底に貯めていたのか。
けど考えるのは後にしよう。
私は早くこの場を去りたいのだから。

大地から縄を出す。
逃げようとする後ろの二人に縄を向け、避けて動くところに破魔矢を放つが避けられる。
そこに縦に半分に割れた桜の木、避けられず桜の木に挟まれた2人の巫女は身動きがとれなくなった。

「よし」

厄介な術式はとりあえずおさえた。
あとは残る複数の神器をもってやってくる巫女たちだ。
一番近くに迫っていた巫女に桜吹雪で神器を覆わせ動けなくさせた。
続いて迫る巫女は再び薙刀で受けかわす。

「……」

大地を爆ぜ縄を使い、私から少し距離を離す。
そしてそれぞれの背中にぶつかるのは桜の木。

「…っ!」
「そろそろ行きたいんですよ」

中心人物が指示を出す前に簡易結界を行使したが、言葉を交わしていた巫女がいち早く術式返しをしていた。
拘束していた桜の木が消えていく。
でもそれでいい。

「私の意志は臺與さまの元へ行くことです。ここで争うことじゃない」

桜の木は大きく繁り、空を隠していた。
だからその木がなくなって見えた時にはもう遅い。

「!」

矢が降り注ぐ。
何度もかわされ続けていた矢は空で生きていた。
それが稲光を帯びてそれぞれの神器に刺さり、雷がそれぞれを粉々に砕いた。
そして足元の土が巫女たちの足元を拘束し、動けないところに神器を砕いた矢が足元に刺さる。
そこから炎があがりそれぞれを飲み込んだ。

「……」

往々にして膝をついたり倒れる巫女たち。
動けなくするには荒っぽかったけど、実際火傷に至るほど燃やしてないから、すぐに回復するだろう。
この隙に早く行かないと。

「ま、待ちなさい…」
「え…」

ざりざり音を立てて這いつくばりながら私に近づこうとする巫女は、動けないはずなのに懸命に手を伸ばしていた。

「…本部からの命が…」

この期に及んでまだ言うのか。
動けないはずだし、戦い続けたとしてボロボロになるまで動いて…そんな姿になるために私たちは存在してるわけじゃない。
けどこの人にとって、本部の命こそがこの人の意志なのだろう。
そこまで遂行しようという気持ちがある限り、それがこの人の本気であり踏みにじることはできない。

「貴方の意志はわかりました。けど、何度貴方方が阻もうとも、私は臺與の元へいきます!」

私の叫びと同時、頭上から笑う声が聞こえた。

「よく言った!」
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