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31話 起源を辿る。
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同時に、私の視界が黒くなり揺れる。
「?!」
「結稀さん!」
次に耳が塞がれる感覚とともに音が消えた。
呪の感覚は全くないから、そこは大丈夫だろうけど。
「…なに…?」
黒い視界の中から見えた祖父母。
あぁ秋葉山と同じか…祖父母の黒い粒子に近すぎたのか過去を見ている。
「私達はこの世を平にするために器を必要としていた」
「え?」
「私達は器になれない。だから作ることにした…その集大成がお前だよ」
「え、あの、」
両隣に祖父母が立つ。
話し掛けられている…過去というよりは思念か。
「起源の入口を教えよう」
指を刺された先に風景が見える。
それは学びで教えてもらうことさえなかった意外な場所だ。
それでも土地柄、どこへ続くか用意に知れてしまう。
「私達も行った」
「え…」
「何も得られなかったねえ」
「やることは明確になったが」
そこへ行くべきか。
罠というわけでもないだろう…祖父母亡き後に誰かに自分たちがしようとしていたことを頼むとは思えない。
どちらにしたって私には知っていることが圧倒的に足りない…少しでも可能性を広げるために期限を辿りに行こう。
「あの…私が背負う業は何ですか?」
秋葉山での過去で言っていたのは私だろうと踏んできいてみる。
ずっと気になっていた…器であることが何をそう背負うことになるのかと。
姉兄が守ってくれたのも、器であることも、両親が亡くなったのも、その決断の中に私がいるなら…何が真実か知っておきたい。
「この世から呪が消えないのは人が存在しているからだという事は知っているね」
「はい」
「争いがなくならないのも人がいるからと考えられているがその実それは違う」
「?」
呪が…不の産物が膨れ上がり、争いや戦いを生むのではないのか。
そう教わってきたはずだ。
それを否定されてしまうと、巫女が学びで知り得たことは嘘になる。
「本来人は自身の癒しが出来るはずなんだ。それが叶わない世になった根源は別にある」
「根源…」
「それが災厄の守護守さ」
「やくが…?」
「あれを支配下に置ければこの世を平に出来る。だから器の力が必要だ」
祖父母の言っていることに違和感を感じたところに、割って入ってきた声。
「そろそろ返してもらおうか」
「やく」
振り向くとやくが後ろに立っていた。
少しだけ不機嫌さを滲ませて。
「結稀は自分で選ぶ。お前達の主観を刷り込ませるな」
「……ふん、仕様がない」
「潔く消えるとしよう」
「え、あのもう少し」
「自分で決めるのだろう?」
「自身で見て聞いて…決めればいい」
がちんと何がぶつかる音とともに視界がひらけた。
光ある地、恐山。
そうか、恐山の力は死者と繋ぐこと。
死んだ祖父母とつながっていたのか。
「やく…」
「……どうした」
不機嫌だし、こちらに目線を寄越さない。
これは誰にでもあることだけど、祖父母の話す事は確かに偏りがあるように感じられた。
それが呪による感情の振れ幅の具合によるものなのか、長い間延命していた中での知識からくる結果なのかは分からない。
でもやくが止めに入ったというのはそういうことだろう。
主観の中でも割と客観視できていれば、やくはそこを許してくれるはずだから。
「どう言われても私は私の目を信じてるよ」
「……」
「だから私はやくを信じてる」
「……ふん」
お、少し機嫌良くした。
よし、このままお願いしてみるか。
「やく、私行きたいところがあるんだけど」
「……」
「結稀さん…」
「私が案内しましょうか?」
「え?」
「器の巫女よ」
「え、いや、いやいや、ちょっと」
自然と混じってきたけどおかしい。
消えるはずだった沈静の守護守さまがやくの隣に当たり前のように立っている。
さくらさんが困った顔してるのを見ると止めようがないタイプのやつだ…名前を呼んでくれたのはこれか。
「あの、沈静の守護守さま…」
「どうしました?」
「死に損ない、もう一度消されたいか?」
やくの不機嫌度があがった。
見れば沈静の守護守さまに呪の澱みが見えない…けれど新しい守護守として生まれ変わったいうわけでもなさそうだ。
「消滅しなかったんですか?」
「そうですね。貴方の祖父母が最後に呪の浄化と共にこの地につなぎ止めてくれました」
祖父母が。
この余裕…姉兄の時もそうだけど、祖父母もわざと私に浄化されてくれたんじゃないかと思える。
そのぐらい力の差があるはずだ。
それとも器としての力が私の力を急激に高めているのか。
「沈静の守護守はこちらで預かる」
「あ、イタコさん」
結界がとかれる。
恐山に被害はなかったから、何事も変わらない状態で戻ってきた。
「自ら行くつもりなのだろう?」
「…はい」
イタコに頷き、やくを見る。
剣呑な視線を向け、小さくため息をついた。
「………勝手にしろ」
「一緒に来てくれる?」
「…仕方あるまい」
「さくらさん…」
「はい、私も参りましょう」
なので、と沈静の守護守さまの申し出を断る。
少し残念そうだったけど、たぶんこの人とやくが一緒だと私が心労で先に倒れる。
敵同士のままが平和な二人だ…まあ一方的にやくが嫌ってるだけみたいだけど。
沈静の守護守さまは心配そうに私を見た。
「場所は分かりますか?」
「大丈夫です」
正直他人事だった、学びの期間に何度か話を聞いた、始まりの話。
私達巫女の中でも最高峰の力の持ち主とされ、祖である人物がいた場所。
「邪馬台国に行きます」
最初の巫女、卑弥呼がおさめていたとされる大国に、起源を求めて。
「?!」
「結稀さん!」
次に耳が塞がれる感覚とともに音が消えた。
呪の感覚は全くないから、そこは大丈夫だろうけど。
「…なに…?」
黒い視界の中から見えた祖父母。
あぁ秋葉山と同じか…祖父母の黒い粒子に近すぎたのか過去を見ている。
「私達はこの世を平にするために器を必要としていた」
「え?」
「私達は器になれない。だから作ることにした…その集大成がお前だよ」
「え、あの、」
両隣に祖父母が立つ。
話し掛けられている…過去というよりは思念か。
「起源の入口を教えよう」
指を刺された先に風景が見える。
それは学びで教えてもらうことさえなかった意外な場所だ。
それでも土地柄、どこへ続くか用意に知れてしまう。
「私達も行った」
「え…」
「何も得られなかったねえ」
「やることは明確になったが」
そこへ行くべきか。
罠というわけでもないだろう…祖父母亡き後に誰かに自分たちがしようとしていたことを頼むとは思えない。
どちらにしたって私には知っていることが圧倒的に足りない…少しでも可能性を広げるために期限を辿りに行こう。
「あの…私が背負う業は何ですか?」
秋葉山での過去で言っていたのは私だろうと踏んできいてみる。
ずっと気になっていた…器であることが何をそう背負うことになるのかと。
姉兄が守ってくれたのも、器であることも、両親が亡くなったのも、その決断の中に私がいるなら…何が真実か知っておきたい。
「この世から呪が消えないのは人が存在しているからだという事は知っているね」
「はい」
「争いがなくならないのも人がいるからと考えられているがその実それは違う」
「?」
呪が…不の産物が膨れ上がり、争いや戦いを生むのではないのか。
そう教わってきたはずだ。
それを否定されてしまうと、巫女が学びで知り得たことは嘘になる。
「本来人は自身の癒しが出来るはずなんだ。それが叶わない世になった根源は別にある」
「根源…」
「それが災厄の守護守さ」
「やくが…?」
「あれを支配下に置ければこの世を平に出来る。だから器の力が必要だ」
祖父母の言っていることに違和感を感じたところに、割って入ってきた声。
「そろそろ返してもらおうか」
「やく」
振り向くとやくが後ろに立っていた。
少しだけ不機嫌さを滲ませて。
「結稀は自分で選ぶ。お前達の主観を刷り込ませるな」
「……ふん、仕様がない」
「潔く消えるとしよう」
「え、あのもう少し」
「自分で決めるのだろう?」
「自身で見て聞いて…決めればいい」
がちんと何がぶつかる音とともに視界がひらけた。
光ある地、恐山。
そうか、恐山の力は死者と繋ぐこと。
死んだ祖父母とつながっていたのか。
「やく…」
「……どうした」
不機嫌だし、こちらに目線を寄越さない。
これは誰にでもあることだけど、祖父母の話す事は確かに偏りがあるように感じられた。
それが呪による感情の振れ幅の具合によるものなのか、長い間延命していた中での知識からくる結果なのかは分からない。
でもやくが止めに入ったというのはそういうことだろう。
主観の中でも割と客観視できていれば、やくはそこを許してくれるはずだから。
「どう言われても私は私の目を信じてるよ」
「……」
「だから私はやくを信じてる」
「……ふん」
お、少し機嫌良くした。
よし、このままお願いしてみるか。
「やく、私行きたいところがあるんだけど」
「……」
「結稀さん…」
「私が案内しましょうか?」
「え?」
「器の巫女よ」
「え、いや、いやいや、ちょっと」
自然と混じってきたけどおかしい。
消えるはずだった沈静の守護守さまがやくの隣に当たり前のように立っている。
さくらさんが困った顔してるのを見ると止めようがないタイプのやつだ…名前を呼んでくれたのはこれか。
「あの、沈静の守護守さま…」
「どうしました?」
「死に損ない、もう一度消されたいか?」
やくの不機嫌度があがった。
見れば沈静の守護守さまに呪の澱みが見えない…けれど新しい守護守として生まれ変わったいうわけでもなさそうだ。
「消滅しなかったんですか?」
「そうですね。貴方の祖父母が最後に呪の浄化と共にこの地につなぎ止めてくれました」
祖父母が。
この余裕…姉兄の時もそうだけど、祖父母もわざと私に浄化されてくれたんじゃないかと思える。
そのぐらい力の差があるはずだ。
それとも器としての力が私の力を急激に高めているのか。
「沈静の守護守はこちらで預かる」
「あ、イタコさん」
結界がとかれる。
恐山に被害はなかったから、何事も変わらない状態で戻ってきた。
「自ら行くつもりなのだろう?」
「…はい」
イタコに頷き、やくを見る。
剣呑な視線を向け、小さくため息をついた。
「………勝手にしろ」
「一緒に来てくれる?」
「…仕方あるまい」
「さくらさん…」
「はい、私も参りましょう」
なので、と沈静の守護守さまの申し出を断る。
少し残念そうだったけど、たぶんこの人とやくが一緒だと私が心労で先に倒れる。
敵同士のままが平和な二人だ…まあ一方的にやくが嫌ってるだけみたいだけど。
沈静の守護守さまは心配そうに私を見た。
「場所は分かりますか?」
「大丈夫です」
正直他人事だった、学びの期間に何度か話を聞いた、始まりの話。
私達巫女の中でも最高峰の力の持ち主とされ、祖である人物がいた場所。
「邪馬台国に行きます」
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