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28話 八岐大蛇。
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「やく」
「ちょうどいい、炎の力を使ってみろ」
「え、どうやって?!」
「自分で考えろ」
と、いきなり大きく跳躍されて息が詰まる。
落とされたのは、現れた大きなものの身体の上。
「頭一つくれてやる」
他は俺のものだと叫び笑う。
八つの頭がうねり、やくに狙いを定めている。
内一つの背中に私は下ろされた。
「や、八岐大蛇…!」
「下位互換だが仕方あるまい」
黄泉國は結界内にいるのと同等、つまりやくは自由に力を行使できる。
最初に彼がしたのは私が乗る首を分離することだった。
当然それで消滅するような存在ではない。
首から身体が生え、被りを振って私をふるい落とした。
術式で着地の衝撃を和らげ見上げれば、その頭は私に狙いを定めていた。
赤く光る眼がきっちり私を捉えて狙いを定めている…これはもう逃げられない。
そもそもどうして父母は代わりにこれを寄越したのか。
死者でも話すことはかなわないのか…会わなくていいといえばそれは嘘だ。
会えるものなら一目会いたい。
けれどその意思はないと言っていた。
「!」
赤く眼を光らせて巨大な牙が私を襲ってくる。
禹歩は必須だ。
守護守さまから授かった刀を手にし、背後から回って背中に走り乗り脳天を割ろうと試みるが、異様な硬さに刃が通らない。
大蛇は尾を使って私を振り落とす。
間に合わなくて腕に術式を施して和らげようとしたけど、思っていた以上に強い力で骨が軋んだ。
「っ!」
着地に失敗して跳ねる。
これは何度ももらうことができない。
術式で守っても乗り越えてくる…となると、やくの言う通り炎の守護守さまの力を使うことをしないと、この先に進めないということ。
私の内に取り込んで、未だ燻っている熱いものを行使するしか。
取り込んだ時の感覚を呼び起こそう。
熱く燃える中で自分の内に徐々に染み入った炎…逆も出来るだろうか。
「…炎」
体が熱い。
腹の底に沈んで燻っていたものが広がっていく。
手元の刀を見れば、熱で赤く染まり始めていた。
解けないでいるのは刀の守護守さまから授かった破魔の力を宿した刀だからだろうか。
私の炎を受けて変化する刀。
もしかしたら、という考えに至る。
想像しただけだ、今はやってみるしかない。
「よし」
大きく口を開け飛び込んでくる大蛇をかわして背後に飛ぶ。
尾が私を追うが、それをぎりぎりで避けてそのまま刀を刺した。
跳ね返ることなく刺さる。
破魔の力に炎の力が加えれば大蛇に傷をつけることが出来るんだ。
私はそのまま刀ごと地面に大蛇を突き刺した。
牙の届かないところまで距離をとって取り出したのは破魔矢…祖母の使っていたものだ。
同じように炎を内から外にだせば矢に炎が灯った。
大きく口を開けるその中に矢を放てば、内側から炎の矢が発出して次々と炎が大蛇を包む。
叫びともとれる鳴き声を上げて大蛇がのた打ち回っているところに、そのまま薙刀を手にして駆けた。
炎の力はまだ私の内側に残っている。まだ使える。
炎が消えかけたところに蛇の背に飛び乗った。
独特の焼ける匂いが鼻をつく。
「終わりだよ」
薙刀で切り刻む。
ばらばらになって蛇は動きを止めた。
よかった…なんとかなった。
「あ」
同時に薙刀の刃が折れた。
破魔の力を宿していないものではこれが限界か。
炎の力を受け付けなかったのか、大蛇の硬さに耐えられなかったのかはわからないけど、神器を介して使うなら破魔の力が宿っているものじゃないとだめそうだ。
「そうだ、やく」
思い至ったと同時に大きく足元が揺れた。
見上げれば宙からたくさんの破片が落ちてくる。
八岐大蛇の残り7つの首が細切れにされてしまっている。
私もそうした…傍から見る分にはもう少しやりようがあったんじゃと思わなくもないけど…再生を防ぐにはそうするのが手っ取り早い。
「早かったな」
「うん…やくは?」
「つまらん。首が倍あっても足りんわ」
「そう……えと、イタコさん呼ぼうか」
「呼んだかい」
「!」
相変わらず音もなく距離を詰めてくるな。
気配を感じないまま背後に現れるのもわざとではないかと思えてくる。
「父と母には会えないんでしょうか」
「…そうだね。双方の意思が合致しないと無理な話だ」
あと遅かった、時間切れだとそう言われた。
どういうことかと聞く前に、それが何を意味しているのか分かってしまった。
「やはりここだったかねえ」
「この地は久しぶりだな」
ぞくりとする悪寒と共に静かに歩いてきたのは、いつしか来るとわかってきた人物。
そんなに時間は経っていないのに、さらに呪を内に孕んでやってきた。
「うそ…」
まさか黄泉國までやってくるなんて考えに及ばない。
隣のイタコが見たことがない術式を行使して、急に日の光が照らす場所に出た。
社の前、黄泉國の入り口。
「え」
「結稀さん!」
さくらさんが駆け寄って来る。
どうやら祖父母が来たことがわかっていたようだったけど、足止めもしようがなかったらしい。
ということは、祖父母は色々なものを省略して、直接黄泉國へ来たということ。
黄泉國へ行く道は他にある、坂の方から来れば、さくらさんと対面することなく、私達の目の前に現れることも出来るだろう。
「…結界をしこう」
イタコが行使する結界は恐山をそのまま囲うだけだった。
それだけでもありがたい…やくが自由に動ける。
「次は逃げるなよ」
「…貴方は本当に残念な人ですね」
沈静の守護守さまも同じように呪が増していた。
「少しは器として位があがったかねえ」
「…あの、お話できませんか?」
私の言葉は反故にされた。
高々と笑われて。
祖父母のことを知り得るには直接聞かないとか、それか見せてもらうしかないのだろうか。
「お前は我々の言うことをきく物になればよいだけのことよ」
「私は人間です…物は嫌です」
けど。
「もしかしたらお手伝いはできないかな、と」
だから話してほしい。
なにを成し得るために自身を犠牲にしてるのかを。
「話すことはない」
「力付くで手に入れるまでさ」
「だめですか…なら」
納得するまで戦って、その末に動きを止めてもらう。話し合いの場を無理にでも作る。
たぶんやくは反対するだろうけど、沈静の守護守さまと戦うことでこちらは見ていないから干渉はないだろう。
「お願いします」
「ちょうどいい、炎の力を使ってみろ」
「え、どうやって?!」
「自分で考えろ」
と、いきなり大きく跳躍されて息が詰まる。
落とされたのは、現れた大きなものの身体の上。
「頭一つくれてやる」
他は俺のものだと叫び笑う。
八つの頭がうねり、やくに狙いを定めている。
内一つの背中に私は下ろされた。
「や、八岐大蛇…!」
「下位互換だが仕方あるまい」
黄泉國は結界内にいるのと同等、つまりやくは自由に力を行使できる。
最初に彼がしたのは私が乗る首を分離することだった。
当然それで消滅するような存在ではない。
首から身体が生え、被りを振って私をふるい落とした。
術式で着地の衝撃を和らげ見上げれば、その頭は私に狙いを定めていた。
赤く光る眼がきっちり私を捉えて狙いを定めている…これはもう逃げられない。
そもそもどうして父母は代わりにこれを寄越したのか。
死者でも話すことはかなわないのか…会わなくていいといえばそれは嘘だ。
会えるものなら一目会いたい。
けれどその意思はないと言っていた。
「!」
赤く眼を光らせて巨大な牙が私を襲ってくる。
禹歩は必須だ。
守護守さまから授かった刀を手にし、背後から回って背中に走り乗り脳天を割ろうと試みるが、異様な硬さに刃が通らない。
大蛇は尾を使って私を振り落とす。
間に合わなくて腕に術式を施して和らげようとしたけど、思っていた以上に強い力で骨が軋んだ。
「っ!」
着地に失敗して跳ねる。
これは何度ももらうことができない。
術式で守っても乗り越えてくる…となると、やくの言う通り炎の守護守さまの力を使うことをしないと、この先に進めないということ。
私の内に取り込んで、未だ燻っている熱いものを行使するしか。
取り込んだ時の感覚を呼び起こそう。
熱く燃える中で自分の内に徐々に染み入った炎…逆も出来るだろうか。
「…炎」
体が熱い。
腹の底に沈んで燻っていたものが広がっていく。
手元の刀を見れば、熱で赤く染まり始めていた。
解けないでいるのは刀の守護守さまから授かった破魔の力を宿した刀だからだろうか。
私の炎を受けて変化する刀。
もしかしたら、という考えに至る。
想像しただけだ、今はやってみるしかない。
「よし」
大きく口を開け飛び込んでくる大蛇をかわして背後に飛ぶ。
尾が私を追うが、それをぎりぎりで避けてそのまま刀を刺した。
跳ね返ることなく刺さる。
破魔の力に炎の力が加えれば大蛇に傷をつけることが出来るんだ。
私はそのまま刀ごと地面に大蛇を突き刺した。
牙の届かないところまで距離をとって取り出したのは破魔矢…祖母の使っていたものだ。
同じように炎を内から外にだせば矢に炎が灯った。
大きく口を開けるその中に矢を放てば、内側から炎の矢が発出して次々と炎が大蛇を包む。
叫びともとれる鳴き声を上げて大蛇がのた打ち回っているところに、そのまま薙刀を手にして駆けた。
炎の力はまだ私の内側に残っている。まだ使える。
炎が消えかけたところに蛇の背に飛び乗った。
独特の焼ける匂いが鼻をつく。
「終わりだよ」
薙刀で切り刻む。
ばらばらになって蛇は動きを止めた。
よかった…なんとかなった。
「あ」
同時に薙刀の刃が折れた。
破魔の力を宿していないものではこれが限界か。
炎の力を受け付けなかったのか、大蛇の硬さに耐えられなかったのかはわからないけど、神器を介して使うなら破魔の力が宿っているものじゃないとだめそうだ。
「そうだ、やく」
思い至ったと同時に大きく足元が揺れた。
見上げれば宙からたくさんの破片が落ちてくる。
八岐大蛇の残り7つの首が細切れにされてしまっている。
私もそうした…傍から見る分にはもう少しやりようがあったんじゃと思わなくもないけど…再生を防ぐにはそうするのが手っ取り早い。
「早かったな」
「うん…やくは?」
「つまらん。首が倍あっても足りんわ」
「そう……えと、イタコさん呼ぼうか」
「呼んだかい」
「!」
相変わらず音もなく距離を詰めてくるな。
気配を感じないまま背後に現れるのもわざとではないかと思えてくる。
「父と母には会えないんでしょうか」
「…そうだね。双方の意思が合致しないと無理な話だ」
あと遅かった、時間切れだとそう言われた。
どういうことかと聞く前に、それが何を意味しているのか分かってしまった。
「やはりここだったかねえ」
「この地は久しぶりだな」
ぞくりとする悪寒と共に静かに歩いてきたのは、いつしか来るとわかってきた人物。
そんなに時間は経っていないのに、さらに呪を内に孕んでやってきた。
「うそ…」
まさか黄泉國までやってくるなんて考えに及ばない。
隣のイタコが見たことがない術式を行使して、急に日の光が照らす場所に出た。
社の前、黄泉國の入り口。
「え」
「結稀さん!」
さくらさんが駆け寄って来る。
どうやら祖父母が来たことがわかっていたようだったけど、足止めもしようがなかったらしい。
ということは、祖父母は色々なものを省略して、直接黄泉國へ来たということ。
黄泉國へ行く道は他にある、坂の方から来れば、さくらさんと対面することなく、私達の目の前に現れることも出来るだろう。
「…結界をしこう」
イタコが行使する結界は恐山をそのまま囲うだけだった。
それだけでもありがたい…やくが自由に動ける。
「次は逃げるなよ」
「…貴方は本当に残念な人ですね」
沈静の守護守さまも同じように呪が増していた。
「少しは器として位があがったかねえ」
「…あの、お話できませんか?」
私の言葉は反故にされた。
高々と笑われて。
祖父母のことを知り得るには直接聞かないとか、それか見せてもらうしかないのだろうか。
「お前は我々の言うことをきく物になればよいだけのことよ」
「私は人間です…物は嫌です」
けど。
「もしかしたらお手伝いはできないかな、と」
だから話してほしい。
なにを成し得るために自身を犠牲にしてるのかを。
「話すことはない」
「力付くで手に入れるまでさ」
「だめですか…なら」
納得するまで戦って、その末に動きを止めてもらう。話し合いの場を無理にでも作る。
たぶんやくは反対するだろうけど、沈静の守護守さまと戦うことでこちらは見ていないから干渉はないだろう。
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