25 / 62
25話 器は守護守の力を取り込むことが出来る。
しおりを挟む
今回はやくもさくらさんもいない。
炎によって遮断されている。
ここの守護守さまの力なのか炎の力なのか、契約を断ち切るほどではないにしろ、二人の守護守さまの力を授かる感覚がない。
純粋な私の力が求められてる。
時間をかけてあちらはあちらで戦うためなのか。
幣を使おう。
炎はさっき少し退けて距離は多少あるものの、いつ私を飲み込もうかと躍起になっている。
隙あらば最初のように私ごと丸呑みにして燃やす気だろう。
両手で構えて振れば炎も同じように揺らめく。
足を捌いて舞えばついて来る。
楽しんでいるようだ…主の性質に似るのか。
「!」
突然炎の塊が襲ってくる…油断できない。
戦うことが嗜好なら、幣でおさめられるか否かの瀬戸際を味わいつつ、私を燃やす為に出し抜くことを駆け引きするというひりついた線を行き来するのが目的だろうか。
炎が龍の形をとり、うねりを帯びて私の周りを取り囲む。
舞は止めないまま、龍の口から放たれる炎を諌め鎮静化する。
「……」
巫女として強くならないと祖父母がまた来たときに何も出来ない。
やくは沈静の守護守さまの相手をして、さくらさんに直接一緒に対峙してもらっても、私が足手まといになる。
叔母と戦っても自分の未熟さはよくわかった。
あそこまで叔母と戦えたのは、やくの守護守としての規格外の力と運、叔母の優しさがあったからだ。
最後、叔母は戦うことを止めたけど、そこからいくらでも私を退けることが出来た。
刀の守護守さまの時も同じだ。
あの二人の巫女は殺気こそ本物だったけど、本気ではなかった。
あんなあっさり捕われてくれたのは…なにか他に事情があったからだろう。
今までは運よくうまくいった。
今自分に出来ることを考えるなら、巫女として出来るだけ早く力を得ることだ。
『器は守護守の力を取り込むことが出来ます』
叔母の言葉を思い出す。
私は器で、その器というものは契約なしに守護守の力を取り込み使えると。
相手の許しを得て授かるものじゃなく、端的に言えば奪うことができるようなものだろうか。
もしそうなら…やってみるのもありかもしれない。
「炎」
声をかけると炎の龍が身体を起こして向き直る。
舞をやめ立ち止まる。
幣はそのまま両手で構えて、龍と目を合わせる。
「……きて」
龍が大きな口を開けて私を飲み込んだ。
逆だ、私が炎龍を飲み込む。
そしてそれを私の力にしてみせる。
「…っ!」
熱い。
皮膚が焼ける、息をすれば炎が喉を通って身体の奥から燃えて熱さが私を蝕む。
留めろ、この熱さをなくしてはダメだ。
熱さを持ったまま内側に残す。
「…!」
まだやれる。
守護守さまの力は強大だ。
秋葉山の守護守さまは炎を守護している。
四大元素、炎…やくほどでないにしろ、強さは格別。
「…炎よ」
包む炎が、囲む炎が揺らめく。
炎は私の表面を焼いて苦しいけど、内側の炎の熱さは痛くない。
内側の炎は取り込めたのか。
そしたら。
表面を焼く炎を内側に持っていく意識を持つ。
ジワリジワリと染み入っていく。
姉兄の記憶と出会った場所の光と同じだ。
外側から張り付いて少しずつ内側に浸透していく。
「これだ!」
幣を片手に両腕を広げる。
全身から私の内側へ…炎龍がもう一度生まれ、遠く空へ登り私の元へ戻って来る。
今度は受け入れられるという自信があった。
勢いまま口を開けた炎龍にのまれ、そのまま私は炎を内側に飲み込んだ。
* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *
「結稀さん!」
「……」
あつい。
身体のどこも燃えていないし火傷もない。
かわりに腹の底から熱い気持ちを感じる。
取り込んだ炎が私の力になって燻っている。
これが器…私が持つ特別な力というものなのだろうか。
「飲んだか」
「…やく」
微笑んでいたやくの表情に少し違和感を感じる。
なんだろうと思う前に、はっとして彼の周りを見るけど、当たり一面焼け野原…あぁ結界なしでやるから…。
そして相手の守護守さまがいない…遅かった。
「炎の守護守さまは?」
「俺を差し置いて他の心配をするのか」
「やくは傷一つないでしょ」
「そうではない。お」
「おー、俺はここだぜー!」
「え?」
あたりを見回してもそんな姿はない。
どこだろうとさらに見回せば、また呼ばれ、地面から片手だけ出てひらひら手を振っていた。
手首だけしかないけど、そこから出てる声から察するに。
「炎の…守護守さま?」
「ああそうだ!」
「だ、大丈夫です?」
「危うく消されかけたがな!問題ないぞ!」
笑っている。
するすると炎が縦にたち、丸くなったと思ったら火の玉になった…綺麗なまん丸、なんかちょっと想像と違うけどよしとしよう。
やくに相当やられたようだし。
消されかけたというのは嘘ではなかったようだけど…なんでこんなに明るく笑ってられるのだろう。
「意外に早かったな~。どうだ?レベルアップした感じは?」
「レベルアップ…?」
「んー、思ったよりうまくいったな!さすがだ!」
「あ、ありがとうございます?」
「いや本当いい女になった。どうだ、俺と契約するか?」
「その必要はない」
ぐいぐいくる炎の守護守さまに対し、やくは無表情に返している。
しかも私が断る前に先に断ってきた。
炎の守護守さまが楽しそうに笑っている。
この人、素で笑い上戸だな…。
「いいね、災厄。面白いぞ!」
「本当の意味で消されるか?」
「ああ、まだ戦いたいところだが、お嬢さんが炎から出てきてしまったからな。タイムオーバーだ」
パチンと指を鳴らす音がした。
地響きを伴って炎の守護守さまの背後に大きな扉が地面から沸いて現れた。
ひとりでに扉が開く。
「山の深部へ案内しよう」
炎によって遮断されている。
ここの守護守さまの力なのか炎の力なのか、契約を断ち切るほどではないにしろ、二人の守護守さまの力を授かる感覚がない。
純粋な私の力が求められてる。
時間をかけてあちらはあちらで戦うためなのか。
幣を使おう。
炎はさっき少し退けて距離は多少あるものの、いつ私を飲み込もうかと躍起になっている。
隙あらば最初のように私ごと丸呑みにして燃やす気だろう。
両手で構えて振れば炎も同じように揺らめく。
足を捌いて舞えばついて来る。
楽しんでいるようだ…主の性質に似るのか。
「!」
突然炎の塊が襲ってくる…油断できない。
戦うことが嗜好なら、幣でおさめられるか否かの瀬戸際を味わいつつ、私を燃やす為に出し抜くことを駆け引きするというひりついた線を行き来するのが目的だろうか。
炎が龍の形をとり、うねりを帯びて私の周りを取り囲む。
舞は止めないまま、龍の口から放たれる炎を諌め鎮静化する。
「……」
巫女として強くならないと祖父母がまた来たときに何も出来ない。
やくは沈静の守護守さまの相手をして、さくらさんに直接一緒に対峙してもらっても、私が足手まといになる。
叔母と戦っても自分の未熟さはよくわかった。
あそこまで叔母と戦えたのは、やくの守護守としての規格外の力と運、叔母の優しさがあったからだ。
最後、叔母は戦うことを止めたけど、そこからいくらでも私を退けることが出来た。
刀の守護守さまの時も同じだ。
あの二人の巫女は殺気こそ本物だったけど、本気ではなかった。
あんなあっさり捕われてくれたのは…なにか他に事情があったからだろう。
今までは運よくうまくいった。
今自分に出来ることを考えるなら、巫女として出来るだけ早く力を得ることだ。
『器は守護守の力を取り込むことが出来ます』
叔母の言葉を思い出す。
私は器で、その器というものは契約なしに守護守の力を取り込み使えると。
相手の許しを得て授かるものじゃなく、端的に言えば奪うことができるようなものだろうか。
もしそうなら…やってみるのもありかもしれない。
「炎」
声をかけると炎の龍が身体を起こして向き直る。
舞をやめ立ち止まる。
幣はそのまま両手で構えて、龍と目を合わせる。
「……きて」
龍が大きな口を開けて私を飲み込んだ。
逆だ、私が炎龍を飲み込む。
そしてそれを私の力にしてみせる。
「…っ!」
熱い。
皮膚が焼ける、息をすれば炎が喉を通って身体の奥から燃えて熱さが私を蝕む。
留めろ、この熱さをなくしてはダメだ。
熱さを持ったまま内側に残す。
「…!」
まだやれる。
守護守さまの力は強大だ。
秋葉山の守護守さまは炎を守護している。
四大元素、炎…やくほどでないにしろ、強さは格別。
「…炎よ」
包む炎が、囲む炎が揺らめく。
炎は私の表面を焼いて苦しいけど、内側の炎の熱さは痛くない。
内側の炎は取り込めたのか。
そしたら。
表面を焼く炎を内側に持っていく意識を持つ。
ジワリジワリと染み入っていく。
姉兄の記憶と出会った場所の光と同じだ。
外側から張り付いて少しずつ内側に浸透していく。
「これだ!」
幣を片手に両腕を広げる。
全身から私の内側へ…炎龍がもう一度生まれ、遠く空へ登り私の元へ戻って来る。
今度は受け入れられるという自信があった。
勢いまま口を開けた炎龍にのまれ、そのまま私は炎を内側に飲み込んだ。
* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *
「結稀さん!」
「……」
あつい。
身体のどこも燃えていないし火傷もない。
かわりに腹の底から熱い気持ちを感じる。
取り込んだ炎が私の力になって燻っている。
これが器…私が持つ特別な力というものなのだろうか。
「飲んだか」
「…やく」
微笑んでいたやくの表情に少し違和感を感じる。
なんだろうと思う前に、はっとして彼の周りを見るけど、当たり一面焼け野原…あぁ結界なしでやるから…。
そして相手の守護守さまがいない…遅かった。
「炎の守護守さまは?」
「俺を差し置いて他の心配をするのか」
「やくは傷一つないでしょ」
「そうではない。お」
「おー、俺はここだぜー!」
「え?」
あたりを見回してもそんな姿はない。
どこだろうとさらに見回せば、また呼ばれ、地面から片手だけ出てひらひら手を振っていた。
手首だけしかないけど、そこから出てる声から察するに。
「炎の…守護守さま?」
「ああそうだ!」
「だ、大丈夫です?」
「危うく消されかけたがな!問題ないぞ!」
笑っている。
するすると炎が縦にたち、丸くなったと思ったら火の玉になった…綺麗なまん丸、なんかちょっと想像と違うけどよしとしよう。
やくに相当やられたようだし。
消されかけたというのは嘘ではなかったようだけど…なんでこんなに明るく笑ってられるのだろう。
「意外に早かったな~。どうだ?レベルアップした感じは?」
「レベルアップ…?」
「んー、思ったよりうまくいったな!さすがだ!」
「あ、ありがとうございます?」
「いや本当いい女になった。どうだ、俺と契約するか?」
「その必要はない」
ぐいぐいくる炎の守護守さまに対し、やくは無表情に返している。
しかも私が断る前に先に断ってきた。
炎の守護守さまが楽しそうに笑っている。
この人、素で笑い上戸だな…。
「いいね、災厄。面白いぞ!」
「本当の意味で消されるか?」
「ああ、まだ戦いたいところだが、お嬢さんが炎から出てきてしまったからな。タイムオーバーだ」
パチンと指を鳴らす音がした。
地響きを伴って炎の守護守さまの背後に大きな扉が地面から沸いて現れた。
ひとりでに扉が開く。
「山の深部へ案内しよう」
0
お気に入りに追加
10
あなたにおすすめの小説

ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

悪夢はイブに溺れる
熾音
恋愛
【恋愛要素0から中々進まない天然不器用なふたりの異世界恋愛ファンタジー】
仕事帰りの終電でうたた寝してしまい、起きたらまさかの別世界に転移していた社会人1年生の水原唯舞。
戦争真っ只中の世界に投げ出された彼女を拾い上げたのは、アルプトラオムという帝国一の軍人達だった。
一癖も二癖も三癖もあるメンバーに囲まれ、何故この世界に来たのか、世界にとっての自分とはなんなのか。
それを探りながら世界の真実を知った時の唯舞の運命は―――

セレナの居場所 ~下賜された側妃~
緑谷めい
恋愛
後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。

地獄の業火に焚べるのは……
緑谷めい
恋愛
伯爵家令嬢アネットは、17歳の時に2つ年上のボルテール侯爵家の長男ジェルマンに嫁いだ。親の決めた政略結婚ではあったが、小さい頃から婚約者だった二人は仲の良い幼馴染だった。表面上は何の問題もなく穏やかな結婚生活が始まる――けれど、ジェルマンには秘密の愛人がいた。学生時代からの平民の恋人サラとの関係が続いていたのである。
やがてアネットは男女の双子を出産した。「ディオン」と名付けられた男児はジェルマンそっくりで、「マドレーヌ」と名付けられた女児はアネットによく似ていた。
※ 全5話完結予定
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる