器巫女と最強の守護守

文字の大きさ
上 下
19 / 62

19話 対 鏑木美智子 前編

しおりを挟む
刀を持つ叔母に対し、私は薙刀。
近接戦にも対応できるけど、理由もわからないまま鋭い刃で切られるのも切るのも嫌だった。

おそらく叔母の持つあの刀は富士山の加護の元、結界管理者にしか扱えないその昔この地をおさめていた武将が所持していたとされる破魔の刀だ。
破魔の力を持つこの刀を使い、武将は巫女でないものの多くの呪を浄化しつづけてきた…意識的にではないとはいえ、巫女でない者が浄化を行った例として学んだ記憶がある。
彼の死後、富士を管轄としている桜の守護守が回収し、都度必要な場合に富士の管理者のみ、桜の守護守から許しを得て使用してきた。

対して私は薙刀の舞に使う誰しもが持ち得る薙刀だ。
これが叔母の持つような破魔の力を宿す薙刀なら話は別だろうが、それを持っていようと扱いこなせないのが関の山だろう。

そもそも私が今持つ神器はすべて学びの期間、段階を得て授かるもので、それを持って全国の守護守さまの元へ伺う。
その地その地での契約の折、御贔屓を頂けたり、管理者になったりしない限り破魔の力を持つ強力な神器は手にすることがない。
巫女としての練度の違いも明らか、手に持つ神器も格が違う…この状況、圧倒的に不利だし、なにより私は叔母に切りかかりたくない。
この条件を全部超えて叔母に止まってもらうにはどうしたらいいのか…戦いながら考えていくしかない。

「鏑木美智子」
「……いかがしました、災厄」
「暇だ、俺の相手を出せ」

この状況でよく言う。
叔母は当然のことだが、不快だとばかりに眉根を寄せる。

「致しかねます」
「……俺が誰か理解してる上での答えか」
「はい、重々承知しております」
「はっ」

さすがお前の叔母だなと笑う。
笑いながらもとても怒っているのが見て取れた。
私に流れてくる力の本流にもその気持ちが窺える。
怒りの力は瞬発的な作用はいいけど持久力ないし気分もよくないからあまり頂けないけど仕方ない。
そして怒りは仕方ないとしても、ここは諦めてもらうしかない。

「やく、私にやらせて」
「お前で敵うとでも?」
「敵うための力を貸して」
「言うようになったな」

この場所は大きな結界の中にあるけど、個人が作る結界でないとやくは自由に戦えないだろう。
相手がだせないというのはそこにも理由があるかもしれないが、単純に考えれば人同士の殺し合いに守護守は関わらないということ。
そもそも今の状況は練度錬成の為の模擬戦闘ではない。
直に巫女が殺し合うこの状況を本部管理者が知ったらまた査問に呼びだされる案件だ。

「…こんな所で終わるわけにはいかない」
「そうか」
「契約は続いてるんだよね」
「あぁ」
「手伝って…生きて叔母を止めたい」
「……」

やくには私の生死は重要なところではないだろう。
守護守は巫女と契約をしたとしても、その巫女の生存の有無に左右されない。
今契約している巫女が倒れれば動けないといった一時的なダメージはあるだろうけど、結果存在の消滅には繋がらない。
その特性から行動範囲が限定されている守護守さまの場合は、契約すれば巫女の行くところまで行動範囲が広がるが、災厄という概念としてどこにでも存在し得、どこにでも移動できるやくには関係ない話だ。

だからまあこうして戦いたいだの相手を出せだの自由を謳歌してる節があるのだけど、そこは今は言及しなくていいだろう。
今は目の前の叔母とのことのが大事だ。

「よろしくお願いします」
「…ふん、精々足掻いて俺を楽しませろ」

駆ける。
陰陽道・禹歩うほを使って重力関係なく移動しつつ相手の死角から狙って峰打ちをしたいとこだけど、当然のことながら叔母も同じ速度…それ以上で移動してくる。
一気に距離を詰められ、切られるとこを薙刀の柄で受ける。
受けると同時に言霊。

「うそ…」

目の前で爆ぜる。
待って、自分を巻き込むような戦い方する?
ギリギリでかわしたけど、爆発の煙の中から出たのは傷一つない叔母の姿だった。

「う、わ」

彼女の一歩ですぐ距離を詰められる。
やくの力を使う。
術式に守護守の力を交ぜ、土の壁を作りかつその土は叔母を追う。
襲い掛かる土塊を相手にしてる隙に距離をとった。
最初の場所から動かずにいたやくが私を見下ろして鼻で笑う。

「無様だな」
「もう少し応援してくれても…」

姉兄や祖父母のときはさくらさんの力もあった。
今はやくだけ。
しかも私はやくから授かった力を使いこなせてない…さくらさんの力の供給がなくて初めてわかる。
強すぎる力は扱いにくい…本来なら威力も速さももう1段階上乗せできるはずなのに、それが出来ないのは私の巫女としての練度がそこまでということだ。
単純に力としてはより弱くなっているところに管理者レベルの熟練巫女の相手なんてハードルあがりすぎだと思う。

「速さや力では敵わんぞ」
「わかってる…」

正攻法では勝てない。
浄化対象でないなら神楽鈴も榊の枝も意味をなさないし、かといって破魔矢をひいても刀を出しても変わらないだろう。
やくの力をいかす。
そのうえで叔母に止まってもらう。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?

新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。 ※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!

私はお母様の奴隷じゃありません。「出てけ」とおっしゃるなら、望み通り出ていきます【完結】

小平ニコ
ファンタジー
主人公レベッカは、幼いころから母親に冷たく当たられ、家庭内の雑務を全て押し付けられてきた。 他の姉妹たちとは明らかに違う、奴隷のような扱いを受けても、いつか母親が自分を愛してくれると信じ、出来得る限りの努力を続けてきたレベッカだったが、16歳の誕生日に突然、公爵の館に奉公に行けと命じられる。 それは『家を出て行け』と言われているのと同じであり、レベッカはショックを受ける。しかし、奉公先の人々は皆優しく、主であるハーヴィン公爵はとても美しい人で、レベッカは彼にとても気に入られる。 友達もでき、忙しいながらも幸せな毎日を送るレベッカ。そんなある日のこと、妹のキャリーがいきなり公爵の館を訪れた。……キャリーは、レベッカに支払われた給料を回収しに来たのだ。 レベッカは、金銭に対する執着などなかったが、あまりにも身勝手で悪辣なキャリーに怒り、彼女を追い返す。それをきっかけに、公爵家の人々も巻き込む形で、レベッカと実家の姉妹たちは争うことになる。 そして、姉妹たちがそれぞれ悪行の報いを受けた後。 レベッカはとうとう、母親と直接対峙するのだった……

本当の貴方

松石 愛弓
恋愛
伯爵令嬢アリシアは、10年来の婚約者エリオットに突然、婚約破棄を言い渡される。 貴方に愛されていると信じていたのに――。 エリオットの豹変ぶりにアリシアは…。 シリアス寄りです。

RUBBER LADY 屈辱の性奴隷調教

RUBBER LADY
ファンタジー
RUBBER LADYが活躍するストーリーの続編です

転生幼女具現化スキルでハードな異世界生活

高梨
ファンタジー
ストレス社会、労働社会、希薄な社会、それに揉まれ石化した心で唯一の親友を守って私は死んだ……のだけれども、死後に閻魔に下されたのは願ってもない異世界転生の判決だった。 黒髪ロングのアメジストの眼をもつ美少女転生して、 接客業後遺症の無表情と接客業の武器営業スマイルと、勝手に進んで行く周りにゲンナリしながら彼女は異世界でくらします。考えてるのに最終的にめんどくさくなって突拍子もないことをしでかして周りに振り回されると同じくらい周りを振り回します。  中性パッツン氷帝と黒の『ナンでも?』できる少女の恋愛ファンタジー。平穏は遙か彼方の代物……この物語をどうぞ見届けてくださいませ。  無表情中性おかっぱ王子?、純粋培養王女、オカマ、下働き大好き系国王、考え過ぎて首を落としたまま過ごす医者、女装メイド男の娘。 猫耳獣人なんでもござれ……。  ほの暗い恋愛ありファンタジーの始まります。 R15タグのように15に収まる範囲の描写がありますご注意ください。 そして『ほの暗いです』

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

五歳の時から、側にいた

田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。 それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。 グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。 前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。

あなたの子ですが、内緒で育てます

椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」  突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。  夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。  私は強くなることを決意する。 「この子は私が育てます!」  お腹にいる子供は王の子。  王の子だけが不思議な力を持つ。  私は育った子供を連れて王宮へ戻る。  ――そして、私を追い出したことを後悔してください。 ※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ ※他サイト様でも掲載しております。 ※hotランキング1位&エールありがとうございます!

処理中です...