器巫女と最強の守護守

文字の大きさ
上 下
14 / 62

14話 守護守 対 守護守

しおりを挟む
「久しぶりだ、楽しませてみろ」
「貴方という人は…」

勝手に始まってしまった。
守護守さま同士は大方面識があるが、この二人、何かあるのだろうか。
さくらさんとやくとの関係よりも何かありそうな感じはする。
最も、相性がよくなさそうな印象だけど。

この結界の中、大きな水の渦を巻き沈静の守護守さまに攻撃するが、見たことないことが起きた。
飲み込もうとした渦が、沈静の守護守さまに触れる前に、真っ二つに割れてただの水面と変化した。
緩やかなどころじゃなく制止した水。
荒々しい水が完全に鎮静化した。
これが沈静の守護守さまの力。

「結稀さん」

さくらさんに呼ばれ我に返る。
一瞬頭に過ぎったよくない思い。
やくと相性が悪い、分が悪いという考えを頭から急いで消す。
私が恩恵を受けると同時に、少しであれ私の心のあり方が守護守さまに影響する。
守護守さまの期待を裏切れば、結果が裏目に出てしまうことも有り得るから。

「さくらさん」
「私は貴方を守ります。災厄は沈静の相手をするでしょう。貴方のやるべきこと違えないで下さい」
「はい…!」

必ず浄化を。
姉兄は人として浄化したかったからなるたけ傷を負ってほしくなかった…だから浄化だけに特化した神楽鈴を使ったけど、祖父母については姉兄より手遅れだ。
挙句、姉兄より熟練の巫女である祖父母をさくらさん1人に任せて神楽鈴や榊の枝を使うには余裕がない。
私も前線に出て攻撃という手段で祖父母を浄化していくしかない。

「破魔矢を使います」
「わかりました、お手伝いします」

破魔矢は相手の動きを止めることと浄化することを同時に出来る。
巫女術も抑えることが出来るので私のような駆け出しの巫女には助かる神器だ。
まずは祖父母の動きを止め、呪術や祝詞を使えないところまで持って行って、そこから最適な浄化方法に変更する。
私では到底敵わないと言っていたやくの言葉が気にかかる…今回はよく考えて選択していかないと。

矢を番える。
さくらさんは私の背後に。
狙いを定めて放てば、光の矢となって祖父母へ向かって行く。
当然のことながら、祖父母はそれを避けようとその場を駆けて離れる。
あれは陰陽術の足捌き…にしても異常に速い。
私がかろうじて目で追えているのは2人の守護守さまの力だろう。

矢は2つに分かれ祖父母それぞれを追跡する。
その途中いくつにも矢が枝分かれし、四方からそれぞれを貫きにかかる。
それを冷静に軌道を把握し、素手で落としていって掠り傷すらつけさせてくれない。
呪によって染まった黒い手はそれだけで力があるのだろうけど、このスピードで矢を落とされていかれるとまずい。
距離は縮められ、祖父母に攻撃の余地をより与えてしまう。

さらに矢を放つ。
光の矢から雷が放たれるが、それすらも素手で掴んで逆に吸収された。
一瞬で呪に変換して取り込むなんて…なんとか速さでは追いつけているものの2人の守護守さまの力を借りていても、浄化のスタートラインに立てないなんて。

「!」

祖母が光の矢に追いかけられながらも、私に真っ直ぐ向かってきた。

「――」

高度な術式、そしてその中身から確実に私の息の根を止めようとしているのがわかる。
器を回収すると言っているのことに、私の生死は関係ないのか。

祖母の攻撃に対し、さくらさんがすぐさま間に入って私の安全を守ってくれる。
桜の花びらが舞う。

私は頭上に矢を放った。
全方位の形で分かれ地に降り注ぐ光の矢。
それすらも祖父母は簡単に避ける。
これが呪に澱み塗れた故の強さの差なのか…単純に祖父母の方が姉兄より巫女として強い力の持ち主だったからか…どちらにしろ守護守さまなしでは先に進めない。

やくの方の様子を見る。
今の段階では沈静の守護守さまは攻撃してきてなく、ただやくの力を沈めてるだけだ。
この守護守さまの攻撃がどんなものかわからない。
学んだ中での記憶がないということは抹消された守護守さまということだろうか。
単純に私が忘れてしまっているのか、これから学ぶ守護守さまだったのかもしれない。

「……」

未だ矢は祖父母を捉えられない。
立て続けに矢を放ち続けるけど、いずれも祖父母には軽く虫を叩く様に矢を消されていくだけ。
破魔矢で祖父母の動きを止め、そこから神楽鈴や榊の枝で浄化だけに特化した方法で鎮めるつもりだったけど、やり方を変えるべきだ。
なるたけ最短でいきたいし、このままだと祖父母の攻撃から私を守るさくらさんの負担も増してくる。

「…!」

けど浄化させてくれない。
結界の中、圧倒的に私が有利なのに。

このままだと守護守さまに直接お願いするしかないけど…それは禁じられていることだ。
巫女同士の戦いだって禁止されているのに…いや、そもそもあの呪の状態で巫女と判断していいのだろうか。
姉兄同様、浄化対象なのであれば、あれはもう呪と同義…となれば、守護守さまにお願いして祖父母を弱らせる形をとることも可能…けど、さくらさんも私の守りを行いながらさらにもうひと手間かけるのは難しいし、互いに知り合ってるようだったからその手前、手の内が知られてて平行線だ。

やくはやくで時に空中戦を繰り広げながら大舞台を繰り出している。
その全てがなぎ払われているけど、彼自身はとても楽しそうだ。
自分が不利だとは思っていない。
彼にとってみればまだ前座なんだろう。

「いい加減わかりませんか」

貴方の力は私には敵わない、と沈静の守護守さま。

「うむ、そろそろ飽きたな」

やくの攻撃がぴたりと止んだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

終焉の謳い手~破壊の騎士と旋律の戦姫~

柚月 ひなた
ファンタジー
理想郷≪アルカディア≫と名付けられた世界。 世界は紛争や魔獣の出現など、多くの問題を抱え混沌としていた。 そんな世界で、破壊の力を宿す騎士ルーカスは、旋律の戦姫イリアと出会う。 彼女は歌で魔術の奇跡を体現する詠唱士≪コラール≫。過去にルーカスを絶望から救った恩人だ。 だが、再会したイリアは記憶喪失でルーカスを覚えていなかった。 原因は呪詛。記憶がない不安と呪詛に苦しむ彼女にルーカスは「この名に懸けて誓おう。君を助け、君の力になると——」と、騎士の誓いを贈り奮い立つ。 かくして、ルーカスとイリアは仲間達と共に様々な問題と陰謀に立ち向かって行くが、やがて逃れ得ぬ宿命を知り、選択を迫られる。 何を救う為、何を犠牲にするのか——。 これは剣と魔法、歌と愛で紡ぐ、終焉と救済の物語。 ダークでスイートなバトルロマンスファンタジー、開幕。

月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~

真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。

とある高校の淫らで背徳的な日常

神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。 クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。 後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。 ノクターンとかにもある お気に入りをしてくれると喜ぶ。 感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。 してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

異世界着ぐるみ転生

こまちゃも
ファンタジー
旧題:着ぐるみ転生 どこにでもいる、普通のOLだった。 会社と部屋を往復する毎日。趣味と言えば、十年以上続けているRPGオンラインゲーム。 ある日気が付くと、森の中だった。 誘拐?ちょっと待て、何この全身モフモフ! 自分の姿が、ゲームで使っていたアバター・・・二足歩行の巨大猫になっていた。 幸い、ゲームで培ったスキルや能力はそのまま。使っていたアイテムバッグも中身入り! 冒険者?そんな怖い事はしません! 目指せ、自給自足! *小説家になろう様でも掲載中です

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

異世界に追放されました。二度目の人生は辺境貴族の長男です。

ファンタスティック小説家
ファンタジー
 科学者・伊介天成(いかい てんせい)はある日、自分の勤める巨大企業『イセカイテック』が、転移装置開発プロジェクトの遅延を世間にたいして隠蔽していたことを知る。モルモットですら実験をしてないのに「有人転移成功!」とうそぶいていたのだ。急進的にすすむ異世界開発事業において、優位性を保つために、『イセカイテック』は計画を無理に進めようとしていた。たとえ、試験段階の転移装置にいきなり人間を乗せようとも──。  実験の無謀さを指摘した伊介天成は『イセカイテック』に邪魔者とみなされ、転移装置の実験という名目でこの世界から追放されてしまう。  無茶すぎる転移をさせられ死を覚悟する伊介天成。だが、次に目が覚めた時──彼は剣と魔法の異世界に転生していた。  辺境貴族アルドレア家の長男アーカムとして生まれかわった伊介天成は、異世界での二度目の人生をゼロからスタートさせる。

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

処理中です...