器巫女と最強の守護守

文字の大きさ
上 下
13 / 62

13話 新手

しおりを挟む
私に目線をよこした老婆の瞳は黒かった。
正確に言うなら人の瞳の白黒が逆転している。
それでも冷えた目で見てることだけはわかった。

「我が一族の中でやっと生まれた器だ」
「一族…」

その言葉はつまり、目の前の2人と私に関係があることを証明している。
眉根を寄せたやくが静かに口にした。

「お前達は自分の孫を物呼ばわりするのか」
「孫だからこそ、どう扱おうと私らの勝手ではございましょう」

目の前にいる、姉兄を貶めたのは私の祖父母ということ…?
写真でしか見たことない…今目の前にいる時よりも若い祖父母の写真しか知らないし、誰からも祖父母の話は聞かなかったから、早い内に亡くなっているものだとばかり思っていた。
姉と兄の話ですら巫女として学ぶ立場になってからよく聞くようになったぐらいで、姉兄についてはそんな深くまで知ることはなかったし、両親なんてもっと知らない…うすらぼんやりした記憶と早くに亡くなっていることぐらい。
実感がわかないし、現実味もない。
知らない人が急に、今日から貴方の家族ですって言ってきてるような、そのレベルの話だ。

「本当に私の…?」
「血筋から見たらその通りだねえ」
「…姉と兄に何をしたんですか?」

考えていたほぼ確定的な仮説。
姉と兄が私を守るために向かった相手はおそらく祖父母。
案の定、祖父母は僅かに口角を上げて、それを認めた。

「年長者を敬わず手に掛けようとする不届者に制裁を加えただけさ」
「…まさか…父と母も」
「あぁあぁ、最低の子だったねぇ」

唯一器を産んで仕事したのにと急に声を荒げた。
私を産んだことだけがよいことをしたと。
それを富士の結界の中に閉じ込めて手だししないようにしてきた挙げ句、姉兄と同様刃向かってきたり、と文句を延々と続ける。
自分の子供をその手で亡き者にして、挙句孫にあたる家族も同じ目に遭わせても不平不満を言うなんて…この2人にとって家族とは何なのか。

物心ついたとき、父も母もいなかった。
亡くなったとだけ聞かされていた。
姉と兄は優秀だから先駆けてさまざまな場所で最善を尽くしてると聞いた。
だから呪にまみれてるなんて信じられなかった。
全部目の前の祖父母と名乗る二人が関係しているなんて。

「結稀」
「やく」
「お前はどうしたい?」
「……」

私がここで祖父母をどうにかしたいと言うのはただの復讐だ。
それにはなにも意味がないし、不の感情でしかない。
私は呪を自ら生み出すことはしない。
それがせめてもの巫女としての矜持だ。

「…器がどうとか気になるけど…私は私よ。祖父母の物じゃない」
「ほう」
「祖父母は呪に侵されている。なら私は巫女としての仕事をする……浄化します」
「成程」

やくは笑う。
ならば次は俺も動くぞと前に出る。
姉兄の件は、やくにとっては物足りないものだったと思うけど、それでも最期まで見届けてくれたのは私の意思を尊重してくれたからだろう。
終わりまで見届けて彼が自身の力を授けるに値するか見ていたのかもしれない。

「私もお力になりましょう」
「さくらさん…」

守護守さま2人と私、2人並んで祖父母と対峙する。
器が何かは浄化した後考えよう。
結界内、私は私のやることを決めるだけ。
変わらない…巫女として行うことは1つ、浄化だ。

「交渉決裂というやつだな」
「災厄の守護守…何故そこまでこの器に肩入れするのかね」
「お引き取り頂けませんか」
「桜の守護守、一際多くの巫女を育てたなら分かるだろうに」
「冬籠、もうよい。あれをお呼び」

祖母が祖父に言うと、短い祝詞を祖父が献上する。
身体に悪寒が走る。
外部からの侵入に見せて、その実最初から内側に入ってきていた何かを感じる。
祖父母の足元に黒い穴ができてゆっくりと登り出てきた人型。
黒い呪を纏いながらも形はそのまま。

「沈静の守護守」
「はい」
「災厄と桜を退け、器を手に入れる」
「お前は災厄を1度消しなさい」
「はい」

沈静の守護守さま。
初めて見る守護守さまだ。
やくと同じ、幅が広く、形で見えたりもするけど、力が強いとされる状態や事象に対する守護守さま。
その姿を見て隣の傍若無人は笑った。

「はっ、落ちたものだな」
「…貴方のような狂人にはわからないでしょう」

私がやくに声をかける前に、2人の戦いは始まった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

あなたの子ですが、内緒で育てます

椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」  突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。  夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。  私は強くなることを決意する。 「この子は私が育てます!」  お腹にいる子供は王の子。  王の子だけが不思議な力を持つ。  私は育った子供を連れて王宮へ戻る。  ――そして、私を追い出したことを後悔してください。 ※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ ※他サイト様でも掲載しております。 ※hotランキング1位&エールありがとうございます!

初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話

ラララキヲ
恋愛
 長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。  初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。  しかし寝室に居た妻は……  希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──  一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……── <【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました> ◇テンプレ浮気クソ男女。 ◇軽い触れ合い表現があるのでR15に ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾は察して下さい… ◇なろうにも上げてます。 ※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

RUBBER LADY 屈辱の性奴隷調教

RUBBER LADY
ファンタジー
RUBBER LADYが活躍するストーリーの続編です

本当の貴方

松石 愛弓
恋愛
伯爵令嬢アリシアは、10年来の婚約者エリオットに突然、婚約破棄を言い渡される。 貴方に愛されていると信じていたのに――。 エリオットの豹変ぶりにアリシアは…。 シリアス寄りです。

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

現在進行形で流されている少女

サバ焼き師
ファンタジー
海面上昇によって人間の文化が衰えてはや数百年。 いかだと共に、師を探すため少女は海を進む。 マイクラとどう森と異能バトルを混ぜたようなものを目指しています。 ギャグ要素強めかもしれません。 バトルシーンはほとんどない...です。 ゲーム、アニメとパロディーネタ少し

処理中です...