器巫女と最強の守護守

文字の大きさ
上 下
12 / 62

12話 器を頂きに。

しおりを挟む
「結稀、結界を解くな」
「え?」

姉兄の最期を受け止めきれずにぼんやりしてる最中に、些かひりついた声を出す。
結界内に変化はない。
立ち上がり彼を見ると社を背にして仁王立ち、腕を組んでなにかを見据えている。

「今のお前では到底敵うまい」
「え?」
「来るぞ」

身体に走る違和感。
私の作った結界に外部からなにかされている。
壊されるわけではない。
けど、そう…穴をあけられるている。
外から無理矢理入ってくる。
結界なんてそう壊せるものでもない。
穴をあけるなんて以ての外、いくら私が巫女としてまだ半人前でも外部からの圧力に耐えられる結界を形成してることは断言できる。
そもそも結界とは、本来術者以外はそう介入できるものではない。
守護守さまなら話は別だけど、巫女同士ならまずない…結界内から無理矢理出ていくことぐらいは出来るかもしれないけれど…それでもそれが可能なのは熟練の巫女の中でもほんの一部だけのはずだ。

「やく…どういうこと?」
「見ていれば分かる」

空間に穴があいて入ってきた。
黒い呪を背負っているけど、さっきの姉兄の比じゃない。
圧縮されその者の内側に澱たまっている。
それでも人の形を保っている。

「冬籠さん…流夏さん…」
「やはりお前達か」

さくらさんとやくが各々小さく呟く。
さくらさんの表情は困惑…あと少し悲しそう。
やくは変わらず見据えたまま無表情だ。
二人の口ぶりからすると知っている人…巫女であることは確実だろう。
相手は二人、老夫婦なのだろうか…他人同士ではなさそうな雰囲気。
呪を纏うどころか取り込んで内側からじわじわと滲み出ている。
こんな呪を背負っても人の形を保ってるなんて。

「…やく」
「おかしいとは思わなかったか?」
「え?」
「お前の姉と兄のことだ」

おかしい…?
やくが言うから、姉さんと兄さんのことを思い出してみる。
呪に浸食されすぎて姉兄は自我を失っていた。
微かにあったかもしれないけど、背負う呪をおさえられるほどじゃなかった。
姉兄は私を狙っていると言われたのをさらに思い出す…確かに狙いは私だった。
それを阻んだから守護守さまと戦っていたにすぎない。

本来、自我のない膨れ上がった呪なら無差別に人を襲うはずだ。
それなのに目的があった。
姉兄は自身の巫女の力を使い結界の中に引きずり込み、あわよくば守護守さままで淘汰しようとしていた。
そこまで判断がつくのだろうか。
自我も判断もない人が1つの目的に絞って行動するとは思えない。
誰かの傀儡になっていると考えるのが妥当か。
となると、姉兄が浄化され消えてしまって間もなく、このタイミングで現れた呪により澱み溜めた2人が何をしたか。
姉と兄を救うことだけ考え、ひたすら目の前のことに集中していたから、そんなこと考えもしていなかった、けど。

「あの人たちが姉さんと兄さんを…?」
「遅い、やっと察したか」

あれ。
確か姉兄の記憶を見たとき、私を守ろうと何かに立ち向かっていく二人を見た。
あの時、姉兄の敵は私を器と言って何かに利用しようとしてた?
父も母も先に死んでた。
もしかしてという仮説が私の頭をよぎる。
今うまい具合につながってしまった。

「結稀さん」

さくらさんが私の手を取る。
わかってる、ここで精神の面で打ち負けるわけにはいかない。
姉と兄が呪にまみれ、それを完全に浄化し救うために、私はやくにお願いをしないと駄目だった。
姉と兄は去った。
呪から解放され、その最中に私に逃げてといいながら…あの時聞こえた逃げろとは、たぶんこの人たちからということだろう。

「私、逃げません」
「結稀さん…」
「いい心掛けだ」

二人とも笑ってくれる。
そうだ、私には二人の守護守さまがいる。
遥かに優秀で力に長けていた姉兄を浄化できたんだ。
私はやれるはずなんだ。

「…あの二人を使ったのは正解だったねぇ」
「器として一つ格が上がった」

吐く息すら黒く呪に染まっている。
けど、その声はしっかりとしていて、どこか聞いたことがあるような気がした。

「災厄の守護守に桜の守護守」
「死に損ない、何をしに来た」

話ぐらいは聞いてやるぞとやくが嘲笑う。
さくらさんも緊張した面持ちでいる。

「器を頂きに」

その黒く呪に染まり切った瞳を私に向けて…目的は私だと嫌でもわかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

セレナの居場所 ~下賜された側妃~

緑谷めい
恋愛
 後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。

愛する貴方の心から消えた私は…

矢野りと
恋愛
愛する夫が事故に巻き込まれ隣国で行方不明となったのは一年以上前のこと。 周りが諦めの言葉を口にしても、私は決して諦めなかった。  …彼は絶対に生きている。 そう信じて待ち続けていると、願いが天に通じたのか奇跡的に彼は戻って来た。 だが彼は妻である私のことを忘れてしまっていた。 「すまない、君を愛せない」 そう言った彼の目からは私に対する愛情はなくなっていて…。 *設定はゆるいです。

私が妻です!

ミカン♬
恋愛
幼い頃のトラウマで男性が怖いエルシーは夫のヴァルと結婚して2年、まだ本当の夫婦には成っていない。 王都で一人暮らす夫から連絡が途絶えて2か月、エルシーは弟のような護衛レノを連れて夫の家に向かうと、愛人と赤子と暮らしていた。失意のエルシーを狙う従兄妹のオリバーに王都でも襲われる。その時に助けてくれた侯爵夫人にお世話になってエルシーは生まれ変わろうと決心する。 侯爵家に離婚届けにサインを求めて夫がやってきた。 そこに王宮騎士団の副団長エイダンが追いかけてきて、夫の様子がおかしくなるのだった。 世界観など全てフワっと設定です。サクっと終わります。 5/23 完結に状況の説明を書き足しました。申し訳ありません。 ★★★なろう様では最後に閑話をいれています。 脱字報告、応援して下さった皆様本当に有難うございました。 他のサイトにも投稿しています。

タイムリープ〜悪女の烙印を押された私はもう二度と失敗しない

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
<もうあなた方の事は信じません>―私が二度目の人生を生きている事は誰にも内緒― 私の名前はアイリス・イリヤ。王太子の婚約者だった。2年越しにようやく迎えた婚約式の発表の日、何故か<私>は大観衆の中にいた。そして婚約者である王太子の側に立っていたのは彼に付きまとっていたクラスメイト。この国の国王陛下は告げた。 「アイリス・イリヤとの婚約を解消し、ここにいるタバサ・オルフェンを王太子の婚約者とする!」 その場で身に覚えの無い罪で悪女として捕らえられた私は島流しに遭い、寂しい晩年を迎えた・・・はずが、守護神の力で何故か婚約式発表の2年前に逆戻り。タイムリープの力ともう一つの力を手に入れた二度目の人生。目の前には私を騙した人達がいる。もう騙されない。同じ失敗は繰り返さないと私は心に誓った。 ※カクヨム・小説家になろうにも掲載しています

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】 ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。

前代未聞のダンジョンメーカー

黛 ちまた
ファンタジー
七歳になったアシュリーが神から授けられたスキルは"テイマー"、"魔法"、"料理"、"ダンジョンメーカー"。 けれどどれも魔力が少ない為、イマイチ。 というか、"ダンジョンメーカー"って何ですか?え?亜空間を作り出せる能力?でも弱くて使えない? そんなアシュリーがかろうじて使える料理で自立しようとする、のんびりお料理話です。 小説家になろうでも掲載しております。

アルバートの屈辱

プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。 『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。

処理中です...