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4話 戻って来る。
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その名を呼ぶと、手首の金と黒が光り音を奏でた。
高鳴る金属音。
神楽鈴と同じ音。
私がよく取り扱ってた馴染みの音。
その音と一緒に地を踏み鳴らす音が聞こえる。
彼だ。
彼が来る。
どこにも入口も出口もないこの場所に踏み込んで来る。
「!」
私に大きな拳を振りかざす黒い人型は突如巻き起こった突風に吹き飛ばされる。
宙に舞うと同時に黒い光の筋が人型を貫き黒い霧になり散っていく。
こんな軽々しく簡単に。
あの最上階では力を出せてなかったのは事実だったんだ。
それでも彼の力はこんなものではないとわかる。
彼の名を思い出した私にはよくわかる。
「上出来だ。褒めてやろう」
さっきまで聞いていた彼の声がひどく懐かしい。
目の前に表れた彼は陽炎だった。
同じ真っ黒でも炎のように熱く揺らめいている。
近くにいてわかる熱…すべてを焼き尽くす炎を彼は纏い背負っている。
怒っている。
こうなると私達にはどうすることもできない。
「どうしてくれような?」
滲む不機嫌さ。
彼がここで力を使えることが感覚でわかる。
本来の世界とつながっているから。
残っていた黒い人型は一所に集まって様子を伺ってたのが、数体飛び出してきた。
陽炎の彼に向かって真っ直ぐに突っ込んで来る。
彼はそれと対峙しながら、向かって来る人型を鼻で笑った。
「俺を謀る事どういう事かとくと味わうがいい」
地面から黒い筋が人型を貫いた。
動けなくなった人型に追い撃ちをかけるように黒い炎が包み込む。
程なくして人型は黒い炎にのまれたまま見えなくなった。
「!」
次に私の後ろに現れる人型。
危ないと思って声を出す前に、人型を燃やしていた炎が黒い波に変わって私の頭上を抜けて人型を飲み込んだ。
飲み込んだ波は地面に消えていく。
人型が出てくることはなかった。
この一連の動きを皮切りに次から次へと黒い人型が襲ってくる。
それを彼はさまざまな方法で散らしていく。
空から夥しい黒い筋を降らして串刺しにしたり、黒い霧で覆って動けなくしたり、なにか大きな箱を突っ込んでみせたり、それはさまざまだ。
「う…」
黒い稲光が大地ごとえぐってきた。
近すぎて体に響く。
稲光はそのまま大地に刺さり炎に変わった。
雷なんて実際こんな近くで見たことなんてない。
目がチカチカするし体が震える。
稲光の後は黒い風の渦が吹き飛ばして来る。
人型が吸い込まれては高く飛ばされて次に大地に叩きつけられる。
黒色と黒色のぶつかり合い。
というよりは一方的な駆逐だった。
依然として彼が優位なままひたすら消えていくだけの黒い人型。
それは掌で転がすような様だった。
表情が見えなくても、彼が薄く微笑んでるような気さえした。
それ程の余裕を彼の背中から感じる。
守護守を敵にするとはこういうこと。
やっぱり私達人のあり方は彼ら見えない存在に感謝し、その恩恵を受けることから逸脱してはならない。
人型は減ることがなかった。
彼が圧倒的に強くてもこれではきりがない。
「…そろそろ飽きたな」
変わらず黒い人型を霧にして消して行きながら彼は退屈とばかりに溜息をついた。
同時に足元から出てくる形あるもの。
剣だ。真っ黒な剣が現れる。
それはかつて妖という怪物の体から出てきたもの。
「全ての災厄は俺のものなのでな」
振り上げると同時に雷鳴が轟く。
剣の所有者は今は彼ではないけど、怪物という厄災は彼のもの。
だから使える。
「ここを出るぞ、結稀!」
「うん!」
振り下ろした剣は何かを切り付けた。
ガラガラ音を立てて崩れていく世界。
噴煙が巻き起こり、思わず目をつむる。
* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *
次に目を開けたとき、私は別の場所にいた。
小さな社の前。
さっきの森の中の社とは全然違う。
そうだ、ここは先祖代代仕えている守護守さまの社。
戻ってこれたんだ。
周りには黒い人型もいない。
いるのは目の前にいる袴姿の彼だけだ。
「…災厄の守護守」
「目が覚めたか」
「うん…ありがとうございます」
月映結稀。
私の名だ。
大丈夫、ちゃんと覚えてる。
「良い余興だった」
「…はは」
もう剣は持っていなかった。
あまり執着を見せず今の所有者がいるとなると彼はそういったものをすぐに手放す主義のようだ。
今の持ち主さんにも感謝のためにここから拝礼しよう。
「ありがとうございます」
「奴に感謝するのか?元は俺の所有だぞ」
「それでもおかげで助かってるわけだし」
「そもそも、お前がへましなければ済んだ話だ」
「あー…仰る通りで…」
そこに関しては何も言い返せない。
私が彼に力を貸して頂けるということにほっとしてしまったところを狙われたのは事実だから。
「やく」
「略すな」
この守護守は変わらないな。
人のように距離が近しい。
私が小さい頃からそのまま。
最も彼からしたら私達の10年20年なんてたいした時間ではないでしょうけど。
「もう、あの場所は消えたの?」
「あの程度、俺の力で消え失せたな」
あの固有結界…相当な力の持ち主だと思う。戻ってきた私…取り戻した私にはわかる。
彼の力を借りないとどうにもならないということも今ならわかる。
彼からしたら私の脅威なんてたいしたことではないのはわかってるけど。
綺麗に消せるなんて。
「来たか」
高鳴る金属音。
神楽鈴と同じ音。
私がよく取り扱ってた馴染みの音。
その音と一緒に地を踏み鳴らす音が聞こえる。
彼だ。
彼が来る。
どこにも入口も出口もないこの場所に踏み込んで来る。
「!」
私に大きな拳を振りかざす黒い人型は突如巻き起こった突風に吹き飛ばされる。
宙に舞うと同時に黒い光の筋が人型を貫き黒い霧になり散っていく。
こんな軽々しく簡単に。
あの最上階では力を出せてなかったのは事実だったんだ。
それでも彼の力はこんなものではないとわかる。
彼の名を思い出した私にはよくわかる。
「上出来だ。褒めてやろう」
さっきまで聞いていた彼の声がひどく懐かしい。
目の前に表れた彼は陽炎だった。
同じ真っ黒でも炎のように熱く揺らめいている。
近くにいてわかる熱…すべてを焼き尽くす炎を彼は纏い背負っている。
怒っている。
こうなると私達にはどうすることもできない。
「どうしてくれような?」
滲む不機嫌さ。
彼がここで力を使えることが感覚でわかる。
本来の世界とつながっているから。
残っていた黒い人型は一所に集まって様子を伺ってたのが、数体飛び出してきた。
陽炎の彼に向かって真っ直ぐに突っ込んで来る。
彼はそれと対峙しながら、向かって来る人型を鼻で笑った。
「俺を謀る事どういう事かとくと味わうがいい」
地面から黒い筋が人型を貫いた。
動けなくなった人型に追い撃ちをかけるように黒い炎が包み込む。
程なくして人型は黒い炎にのまれたまま見えなくなった。
「!」
次に私の後ろに現れる人型。
危ないと思って声を出す前に、人型を燃やしていた炎が黒い波に変わって私の頭上を抜けて人型を飲み込んだ。
飲み込んだ波は地面に消えていく。
人型が出てくることはなかった。
この一連の動きを皮切りに次から次へと黒い人型が襲ってくる。
それを彼はさまざまな方法で散らしていく。
空から夥しい黒い筋を降らして串刺しにしたり、黒い霧で覆って動けなくしたり、なにか大きな箱を突っ込んでみせたり、それはさまざまだ。
「う…」
黒い稲光が大地ごとえぐってきた。
近すぎて体に響く。
稲光はそのまま大地に刺さり炎に変わった。
雷なんて実際こんな近くで見たことなんてない。
目がチカチカするし体が震える。
稲光の後は黒い風の渦が吹き飛ばして来る。
人型が吸い込まれては高く飛ばされて次に大地に叩きつけられる。
黒色と黒色のぶつかり合い。
というよりは一方的な駆逐だった。
依然として彼が優位なままひたすら消えていくだけの黒い人型。
それは掌で転がすような様だった。
表情が見えなくても、彼が薄く微笑んでるような気さえした。
それ程の余裕を彼の背中から感じる。
守護守を敵にするとはこういうこと。
やっぱり私達人のあり方は彼ら見えない存在に感謝し、その恩恵を受けることから逸脱してはならない。
人型は減ることがなかった。
彼が圧倒的に強くてもこれではきりがない。
「…そろそろ飽きたな」
変わらず黒い人型を霧にして消して行きながら彼は退屈とばかりに溜息をついた。
同時に足元から出てくる形あるもの。
剣だ。真っ黒な剣が現れる。
それはかつて妖という怪物の体から出てきたもの。
「全ての災厄は俺のものなのでな」
振り上げると同時に雷鳴が轟く。
剣の所有者は今は彼ではないけど、怪物という厄災は彼のもの。
だから使える。
「ここを出るぞ、結稀!」
「うん!」
振り下ろした剣は何かを切り付けた。
ガラガラ音を立てて崩れていく世界。
噴煙が巻き起こり、思わず目をつむる。
* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *
次に目を開けたとき、私は別の場所にいた。
小さな社の前。
さっきの森の中の社とは全然違う。
そうだ、ここは先祖代代仕えている守護守さまの社。
戻ってこれたんだ。
周りには黒い人型もいない。
いるのは目の前にいる袴姿の彼だけだ。
「…災厄の守護守」
「目が覚めたか」
「うん…ありがとうございます」
月映結稀。
私の名だ。
大丈夫、ちゃんと覚えてる。
「良い余興だった」
「…はは」
もう剣は持っていなかった。
あまり執着を見せず今の所有者がいるとなると彼はそういったものをすぐに手放す主義のようだ。
今の持ち主さんにも感謝のためにここから拝礼しよう。
「ありがとうございます」
「奴に感謝するのか?元は俺の所有だぞ」
「それでもおかげで助かってるわけだし」
「そもそも、お前がへましなければ済んだ話だ」
「あー…仰る通りで…」
そこに関しては何も言い返せない。
私が彼に力を貸して頂けるということにほっとしてしまったところを狙われたのは事実だから。
「やく」
「略すな」
この守護守は変わらないな。
人のように距離が近しい。
私が小さい頃からそのまま。
最も彼からしたら私達の10年20年なんてたいした時間ではないでしょうけど。
「もう、あの場所は消えたの?」
「あの程度、俺の力で消え失せたな」
あの固有結界…相当な力の持ち主だと思う。戻ってきた私…取り戻した私にはわかる。
彼の力を借りないとどうにもならないということも今ならわかる。
彼からしたら私の脅威なんてたいしたことではないのはわかってるけど。
綺麗に消せるなんて。
「来たか」
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