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76話 お尻に齧りついちゃえばいいのよ

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 アパゴギを含め、今回のフードの集団はエクセロスレヴォ北部の人間がほとんどだ。

「捕らえたアパゴギの仲間が証言した。今回関わった分隊や外の仲間は捕まる確率が高いにも関わらずアパゴギに追従していたと」
「なんで?」
「アパゴギの出身が北部であることは覚えているか?」

 しっかりと頷く。
 よくある話だ。悪徳領主によって家族、アパゴギにとっては妹を人質に多額の納金を求められるという話。それが村や町の規模で行われればフードの集団ぐらいの人数になる。
 アパゴギは率先して国外に領民を逃がしたり、自身の妹は結婚することで解放するよう働きかけ続けていた。
 それが領主に知れ、報復で妹と姪が殺される。さらにその報復で領主を殺害するも、その後北の隣国アガピトスの国境線の人間が攻めてきて同じような圧政が続く。
 現在王太子殿下の働きかけで武力行使なしで撤退がかないそうだけど、アパゴギたちには期待のできない話だった。聖女候補を高額で売買して全員で国外逃亡しようとしたらしい。
 それが今回の大きな事件。
 捕まる確率は高いし、集団の中には家族の安全が確保されているから参加する必要もない人物は多数いた。けど多くがアパゴギに追従した。アパゴギは自身の家族以外に、集団の人質となっている家族を逃がす為に尽力し成功している。慕われていたのだろう。
 挙句、アパゴギに近しい人物は、全員を逃がした上で自分が残り捕まろうとしている言葉を聞いたという。

「それこそ性善説ど真ん中な考えになっちゃう」

 もしかしたら彼が源流へ落ちる時に離れなきゃ良かったと言っていたのは、私とレイオンに向けたものではなく、自分自身に向けた言葉なのかもしれない。妹と姪の側にいれば防げていたかもしれないという後悔を抱いてもおかしくなかった。
 それに彼は自分の妹と姪だけを助けて同じ境遇の人間を捨ておくこともできたのにそれをしていない。それだけで性根の腐ったどうしようもない人間には思えなかった。

「アパゴギは慕われていたから」

 一部は国外へ避難等ができたのだから、フードの集団からすれば恩人だろう。実際面倒見のいいアパゴギは当時のレイオンの剣の稽古や、遠征での山の歩き方を教えたり、息抜きに川遊びまでと色んなことに付き合ってくれていたらしい。たとえそこに聖女候補誘拐を邪魔した敵に対する様子見が含まれていたとしても、レイオンにとっては得難い時間だった。二十年も一緒なら情が湧いてもおかしくない。

「家族が亡くなって自棄を起こしたの? わざと捕まってもいいって?」
「分からない。アパゴギは自分の事は話さない人間だった」

 その末に断罪を望む? それはなんだか違う。解決にならない。
 ここまでくると、話の流れで言ったのではなく、レイオンが化け物であることを見せしめのようにしたり、私にかつて助けてくれた恩人がレイオンだと教えてくれたのも、私がレイオンを肯定すると分かって言ったのではと思ってしまう。確証はないし、あの時は私が恐怖しないだけで不服そうだった。でもそれも確実な反応とは言えない。
 私が言葉に悩んでいるとレイオンが苦しそうに囁いた。

「本当は投降して欲しかった」
「うん」
「もう少し、話を聞きたかった」

 一連の事件に至った理由も私の性善説な仮説も結局有耶無耶にされてはっきりしたことを聞けなかった。アパゴギの仲間たちからの証言と彼の言動と行動から推測しただけではレイオンも納得できないだろう。
 そしたらもっと明るく終わらせた方がいい。

「また攫いに来たら聞けばいいじゃない」
「え?」
「あの人しぶとそうだし、案外またひょっこり私を攫いに来るかもよ?」
「君が危険な目に遭うのは困る」
「だからレイオンが守って」

 きゅっと握る手に力をこめた。

「レイオンが守ってくれれば安心だし、その時捕まえれば話聞けるでしょ」
「そう、だな」
「そうそう。なんならフォーになってお尻に齧りついちゃえばいいのよ」

 わんこの顎の力を見せてやればいい。するとレイオンてば苦い顔をしていた。

「……それはさすがに」
「え、だめ?」

 こくりと頷く。
 どうやらフォーになっても、お尻を齧るありきたりな咬みつきはだめらしい。ちょっと見たかった、なんてね。

「メーラ……私は大丈夫だから」
「そっか」

 手を握り返される。
 私のつたない言葉でも励まされてくれたみたいで瞳に力が入った。
 フォーと同じ色の瞳。よく目を合わせていたのに本当気づかないものね。
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