上 下
13 / 83

13話 朝ちゅん(裸族デビューおめでとうございます)

しおりを挟む
 あたたかくて心地いいのに、頭だけやたらかたい。寝心地に枕は重要なのに。
 けど用意された枕は私の頭に合っていたし、眠りの質も良かったから、かたいなんておかしい。

「……あれ?」

 ゆるゆる意識が戻った目の前に見知った顔、この家の主かつ私の夫だ。瞼を閉じて緊張することなく寝る姿は少し幼く見える。

「いやいやいや」

 そっと後ろに引いて距離をとった。
 自分がいた場所が彼の腕の上だと分かる。
 まさかの腕枕。だからかたいと感じてたわけ。

「ええ?」

 いつも通りすぎて気づかなかったけど、私は一糸纏わぬ姿だ。寝室で寝る時だって裸だから通常運行なんだけど、今の状況だとよろしくない。
 いや、夫婦だからおかしくないのかな?
 条件が嘘だと知って初夜を済ませにくるとはさすがに思えない。そういう人間じゃなさそうだもの。

「!」

 目の前で寝ている彼が起きようとしている。体をみじろがせて、瞼が細かく震えゆっくり開かれていく。
 心臓の音がうるさい。妙な緊張感と恥ずかしさに目を逸らせなかった。

「……メーラ」
「は、はい!」
「具合は?」
「え?」

 彼のあいてる片手が私に伸び、途中で止まって引っ込んだ。おでこあたりに届きそうだった、ということは熱でもみようとしたのかな?

「熱はないですよ?」
「他は?」
「えーと……」

 吐き気とか眩暈とか寒気もないし、すこぶる健康ですと伝えたら納得したらしく頷くような仕草を見せた。

「あの、これってどういう状況ですか?」

 彼が納得したのを見て、遠慮がちにきいてみる。

「これ?」
「腕枕とか……」
「隣で寝ている時に、おいでと言ったら来た」
「んんん」

 なんでそんなこと言うの。
 その前に寝ている私素直すぎでしょ。なんなの私。言われて近づいて腕枕されに行く自分を想像して恥ずかしさに顔が熱くなった。
 そんな私の様子など気にもとめず、腕枕の張本人は平坦なままだ。

「そのまま私も寝た」
「ということは、何もなかった?」
「?」

 小首を傾げたかったのか、頭を枕に押し付けるような仕草をする。シーツが擦れる音がした。
 どうやら私の言わんとすることは理解してもらってないらしい。初夜ですか、なんて直接的にきけないしな。まあ身体痛くないから、本当になにもなかったんだろうけど。

「医者に許可をとった」
「なんの?」
「裸で寝ても問題ないか」
「ぐふっ」

 なにを確認しているの。医者が不審がるでしょうが。
 確かに寝室で過ごす時間はもれなく全部裸だけど。寝る時も当然裸なんだけど。それを人にきくなんてどうかしてる。

「寝る時は裸かと思って」
「そうなんですけどね? あー、すみません、ここまでの経緯をきいても?」

 やっとこ思い出した私の記憶はフォーに寄りかかったまま寝落ちしたことだった。
 そこから彼が見つけてくれて屋敷に戻り、身体をあたためてもらって、医者に診せて一晩すぎた今ここ。
 夜はつきっきりで彼が面倒を見てくれた。どうやら私の裸族習慣を尊重しつつ身体が冷えないようにするために添い寝を選択したらしい。配慮の仕方がずれてる。 

「だから私も君を習った」
「え?」
「脱いだ」
「ひえ」

 よく見たら彼が服を着てないことを今知った。見える胸元はきちんと鍛えられていてしっかりしている。そういえば腕も筋肉ついててかたかった。いや、そうじゃない。

「初めてだったので下は履いているが」
「そうですか……」

 裸族デビューおめでとうございます。
 違う違うそうじゃないぞ。そもそも下まで脱ぐかどうかって気にするところ? ああもう、なにからつっこめばいいの。
 真面目に裸族な私に合わせるってなに?

「嘘だったとはいえ、約束を破った事は謝る」
「いえ、お気になさらず?」

 当初の結婚に係る条件には寝室を別にすることを盛り込んでるから、そのことなんだと思うけど、朝同じベッドで裸同士で話すことじゃないよね。嘘でも守ろうとするあたり、この人本当真面目だ。

「大丈夫なのか?」
「あー、条件が偽りだったということで、今は男性がそこまで苦手というわけではないですよ」

 この人は以前嘘だと伝えていても、まだ気にしているのか。

「本当に?」
「少なくともレイオンは大丈夫です」

 と言えば、本当に一瞬少しだけ、彼が笑ったような気がした。

「良かった」

 心配してくれてたのかなと思ってしまう。困った顔でもしてくれればすぐに分かるけど、終始どこにも感情の片鱗は見られず無表情だった。

「ありがとうございます」
「?」
「助けてくれましたよね? ここまで連れて来てくれましたし」
「……もっと早くに気づけていれば良かったと思っている」

 なぜか反省会になってしまった。こっちはただ感謝しただけなのに。

「いえ、私が勝手にしたことで、旦那様は悪くないし、むしろご迷惑かけてすみませんといいますか」
「…………名前」
「はい?」
「名前で、呼んでほしい」

 ここにきて、その話題? なんで?
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

黄金の魔族姫

風和ふわ
恋愛
「エレナ・フィンスターニス! お前との婚約を今ここで破棄する! そして今から僕の婚約者はこの現聖女のレイナ・リュミエミルだ!」 「エレナ様、婚約者と神の寵愛をもらっちゃってごめんね? 譲ってくれて本当にありがとう!」  とある出来事をきっかけに聖女の恩恵を受けれなくなったエレナは「罪人の元聖女」として婚約者の王太子にも婚約破棄され、処刑された──はずだった!  ──え!? どうして魔王が私を助けてくれるの!? しかも娘になれだって!?  これは、婚約破棄された元聖女が人外魔王(※実はとっても優しい)の娘になって、チートな治癒魔法を極めたり、地味で落ちこぼれと馬鹿にされていたはずの王太子(※実は超絶美形)と恋に落ちたりして、周りに愛されながら幸せになっていくお話です。  ──え? 婚約破棄を取り消したい? もう一度やり直そう? もう想い人がいるので無理です!   ※拙作「皆さん、紹介します。こちら私を溺愛するパパの“魔王”です!」のリメイク版。 ※表紙は自作ではありません。

溺れかけた筆頭魔術師様をお助けしましたが、堅実な人魚姫なんです、私は。

氷雨そら
恋愛
転生したら人魚姫だったので、海の泡になるのを全力で避けます。 それなのに、成人の日、海面に浮かんだ私は、明らかに高貴な王子様っぽい人を助けてしまいました。 「恋になんて落ちてない。関わらなければ大丈夫!」 それなのに、筆頭魔術師と名乗るその人が、海の中まで追いかけてきて溺愛してくるのですが? 人魚姫と筆頭魔術師の必然の出会いから始まるファンタジーラブストーリー。 小説家になろうにも投稿しています。

「お前を愛するつもりはない」な仮面の騎士様と結婚しました~でも白い結婚のはずなのに溺愛してきます!~

卯月ミント
恋愛
「お前を愛するつもりはない」 絵を描くのが趣味の侯爵令嬢ソールーナは、仮面の英雄騎士リュクレスと結婚した。 だが初夜で「お前を愛するつもりはない」なんて言われてしまい……。 ソールーナだって好きでもないのにした結婚である。二人はお互いカタチだけの夫婦となろう、とその夜は取り決めたのだが。 なのに「キスしないと出られない部屋」に閉じ込められて!? 「目を閉じてくれるか?」「えっ?」「仮面とるから……」 書き溜めがある内は、1日1~話更新します それ以降の更新は、ある程度書き溜めてからの投稿となります *仮面の俺様ナルシスト騎士×絵描き熱中令嬢の溺愛ラブコメです。 *ゆるふわ異世界ファンタジー設定です。 *コメディ強めです。 *hotランキング14位行きました!お読みいただき&お気に入り登録していただきまして、本当にありがとうございます!

死んでるはずの私が溺愛され、いつの間にか救国して、聖女をざまぁしてました。

みゅー
恋愛
異世界へ転生していると気づいたアザレアは、このままだと自分が死んでしまう運命だと知った。 同時にチート能力に目覚めたアザレアは、自身の死を回避するために奮闘していた。するとなぜか自分に興味なさそうだった王太子殿下に溺愛され、聖女をざまぁし、チート能力で世界を救うことになり、国民に愛される存在となっていた。 そんなお話です。 以前書いたものを大幅改稿したものです。 フランツファンだった方、フランツフラグはへし折られています。申し訳ありません。 六十話程度あるので改稿しつつできれば一日二話ずつ投稿しようと思います。 また、他シリーズのサイデューム王国とは別次元のお話です。 丹家栞奈は『モブなのに、転生した乙女ゲームの攻略対象に追いかけられてしまったので全力で拒否します』に出てくる人物と同一人物です。 写真の花はリアトリスです。

愛されたくて悪役令嬢になりました ~前世も今もあなただけです~

miyoko
恋愛
前世で大地震に巻き込まれて、本当はおじいちゃんと一緒に天国へ行くはずだった真理。そこに天国でお仕事中?という色々と規格外の真理のおばあちゃんが現れて、真理は、おばあちゃんから素敵な恋をしてねとチャンスをもらうことに。その場所がなんと、両親が作った乙女ゲームの世界!そこには真理の大好きなアーサー様がいるのだけど、モブキャラのアーサー様の情報は少なくて、いつも悪役令嬢のそばにいるってことしか分からない。そこであえて悪役令嬢に転生することにした真理ことマリーは、十五年間そのことをすっかり忘れて悪役令嬢まっしぐら?前世では体が不自由だったせいか……健康な体を手に入れたマリー(真理)はカエルを捕まえたり、令嬢らしからぬ一面もあって……。明日はデビュタントなのに……。いい加減、思い出しなさい!しびれを切らしたおばあちゃんが・思い出させてくれたけど、間に合うのかしら……。 ※初めての作品です。設定ゆるく、誤字脱字もあると思います。気にいっていただけたらポチッと投票頂けると嬉しいですm(_ _)m

【本編完結】五人のイケメン薔薇騎士団団長に溺愛されて200年の眠りから覚めた聖女王女は困惑するばかりです!

七海美桜
恋愛
フーゲンベルク大陸で、長く大陸の大半を治めていたバッハシュタイン王国で、最後の古龍への生贄となった第三王女のヴェンデルガルト。しかしそれ以降古龍が亡くなり王国は滅びバルシュミーデ皇国の治世になり二百年後。封印されていたヴェンデルガルトが目覚めると、魔法は滅びた世で「治癒魔法」を使えるのは彼女だけ。亡き王国の王女という事で城に客人として滞在する事になるのだが、治癒魔法を使える上「金髪」である事から「黄金の魔女」と恐れられてしまう。しかしそんな中。五人の美青年騎士団長たちに溺愛されて、愛され過ぎて困惑する毎日。彼女を生涯の伴侶として愛する古龍・コンスタンティンは生まれ変わり彼女と出逢う事が出来るのか。龍と薔薇に愛されたヴェンデルガルトは、誰と結ばれるのか。 この作品は、小説家になろうにも掲載しています。

世界のピンチが救われるまで本能に従ってはいけません!!〜少年聖女と獣人騎士の攻防戦〜

アマンダ
恋愛
「世界を救ってほしい!でも女ってバレないで!!」 え?どういうこと!?オカマな女神からの無茶ぶりに応え、男の子のフリをして―――異世界転移をしたミコト。頼れる愉快な仲間たちと共に世界を救う7つの至宝探しの旅へ…ってなんかお仲間の獣人騎士様がどんどん過保護になっていくのですが!? “運命の番い”を求めてるんでしょ?ひと目見たらすぐにわかるんでしょ?じゃあ番いじゃない私に構わないで!そんなに優しくしないでください!! 全力で逃げようとする聖女vs本能に従い追いかける騎士の攻防!運命のいたずらに負けることなく世界を救えるのか…!? 運命の番いを探し求めてる獣人騎士様を好きになっちゃった女の子と、番いじゃない&恋愛対象でもないはずの少年に手を出したくて仕方がない!!獣人騎士の、理性と本能の間で揺れ動くハイテンションラブコメディ!! 7/24より、第4章 海の都編 開始です! 他サイト様でも連載しています。

【完結】甘やかな聖獣たちは、聖女様がとろけるようにキスをする

楠結衣
恋愛
女子大生の花恋は、いつものように大学に向かう途中、季節外れの鯉のぼりと共に異世界に聖女として召喚される。 ところが花恋を召喚した王様や黒ローブの集団に偽聖女と言われて知らない森に放り出されてしまう。 涙がこぼれてしまうと鯉のぼりがなぜか執事の格好をした三人組みの聖獣に変わり、元の世界に戻るために、一日三回のキスが必要だと言いだして……。 女子大生の花恋と甘やかな聖獣たちが、いちゃいちゃほのぼの逆ハーレムをしながら元の世界に戻るためにちょこっと冒険するおはなし。 ◇表紙イラスト/知さま ◇鯉のぼりについては諸説あります。 ◇小説家になろうさまでも連載しています。

処理中です...