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5話 結婚決定後、即対面、即出発
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「あ、ありえない! なんでそんな勝手」
「ではゾーイに準備を」
「御祖母様!」
会話は以上ですと言わんばかりだ。
私は兄に宥められながら部屋を出た。自分の部屋に向かう道すがら兄に不満をぶちまける。
「もう! なんなの、御兄様!」
「多少強引かなとは思ったんだけどな~」
多少どころか大いに強引かと!
「御祖母様が母様の代わりをって気ぃ張ってんの、分かってるだろ」
「それは、そうなんだけど」
母は私を生んで亡くなった。
その日から今日まで祖母は私と兄の母親代わりだ。私が人攫い未遂にあった時も、その後も気を遣ってくれているのは充分理解している。
「お前に会わないとまで言った御祖母様の覚悟を無駄にするな」
「そう言うのは卑怯よ」
御祖母様が好き。御祖母様も私を好いてくれているのは分かってる。この分厳しい時もあったけど、それは私が公爵令嬢として立派に生きていくためだ。だからさっきの話も腹立たしかったけど、心砕いて言ったのだと分かる。
「ディアフォティーゾ辺境伯も変わり者ね」
いくら兄や祖母と懇意にしてて、友人の妹であっても、結婚の条件を掲げる令嬢なんて選ばない。
この国では男性が生涯独身でも問題ない。自身に敬遠される噂があって結婚に苦労していたとしても、無理にどんな令嬢でもいいからと結ばれる必要はないはずだ。
「ま、あいつはいい奴だよ」
「兄様はずっと交流あったから」
「不器用で真面目な奴だから、察してやってくれ」
「ほぼ初対面なんだから察するなんて無理」
あいつ表情筋ないからなあと兄が笑う。
笑う要素ないじゃん。
「お嬢様、おめでとうございます!」
「ええ……」
部屋に戻った途端、侍女のゾーイが満面の笑みで待っていた。
兄はディアフォティーゾ辺境伯に挨拶をと階下へ下る。
溜め息一つ、ゾーイが用意した荷物について確認した。
「完璧じゃん」
根回し完璧すぎでしょ。
私が呼び出されて話してる間に荷造り済ませるとか、どれだけ仕事できるのよ。
「大丈夫です! 嫁いでも私がお嬢様にお仕えしますので、淋しくないですよ!」
「ありがと、ゾーイ」
下に待たせてるし、逃れられない。
ここまできたら、さすがに受け入れないとか。
まあ私の掲げる条件を目の当たりにすれば、離縁を申し込まれるかもしれない。それなら願ったりかなったりでもある。
あまりに短い期間だと離縁しても祖母は家に入れてくれない可能性もあるから、一年ぐらい夫から離縁を言われないように頑張って誤魔化し続けてみようかな?
一年我慢、これだ。少しはポジティブにいこう。
条件を飲むと言っている以上、一日裸で過ごせないなんて苦行はないはずだ。よし。
「いこ」
「はい!」
階下におりて客間の扉を叩けば、扉前にでもいたのか兄が開けてくれた。その先に立つ落ち着いた雰囲気を持つ男性が件のディアフォティーゾ辺境伯だ。
銀色に近い灰色の髪にミストグリーンの瞳、体つきは思っていたよりも細身の方かな。国境武力を束ねるいかつい恐怖のイメージとは違う。
噂通りそこそこ麗しい顔立ちなんだろうけど、感情も愛想も抜け落ちた無表情が冷淡な印象を与える。
第一印象は良いとも悪いともつかない。というか、彼の感情の機微が読めない。
「お、来たな~」
「……」
部屋の中に促され渋々進む。
扉のすぐ側で佇み、じっとディアフォティーゾ辺境伯を見つめた。
特段無表情に変化はない。挙句無言。本当に愛想ないな。
「ほら、挨拶」
兄に促され、貴族の礼をとる。
「カフェメーラ・ヒンノマステ・シニフィエスと申します」
「初めましてじゃないんだから名乗らなくてもいいだろ」
「タロメ、構わない」
「お前だってよく知ってんだろ?」
親しい仲だから兄はそう言えるけど、私はほぼ初対面。これでいいと思う。
手続きが済んでる以上、シニフィエス姓は名乗れないけど、そこはいいでしょ。
「レイオン・ゼストス・ディアフォティーゾ辺境伯閣下、どうぞよろしくお願いします」
「私の名を知って?」
「はい」
見た目通り冷たく平坦な口調だった。
嘘ばかりかと思ってたけど、新聞の紙面も巷の噂も中々真実だったのね。すごいわ。
「じゃ行くか」
「御兄様がしきらなくても」
「まーまー」
兄に促される形で玄関まで行くことになった。
玄関に父はいたけど祖母の姿は見えない。
もう少し、相談とかあってもよかった。こんな喧嘩腰に言い合って、見送りもない別れ方。しかも帰ってこれない。
母親代わりに私の面倒を見てくれた祖母のことは好きだから、尚更こんな嫁ぎ方したくなかった。
「手を」
「……」
用意された立派な馬車に乗せてくれる。せめて分かりやすいぐらい表情のある人物だったらやりやすかったのに。
「ではゾーイに準備を」
「御祖母様!」
会話は以上ですと言わんばかりだ。
私は兄に宥められながら部屋を出た。自分の部屋に向かう道すがら兄に不満をぶちまける。
「もう! なんなの、御兄様!」
「多少強引かなとは思ったんだけどな~」
多少どころか大いに強引かと!
「御祖母様が母様の代わりをって気ぃ張ってんの、分かってるだろ」
「それは、そうなんだけど」
母は私を生んで亡くなった。
その日から今日まで祖母は私と兄の母親代わりだ。私が人攫い未遂にあった時も、その後も気を遣ってくれているのは充分理解している。
「お前に会わないとまで言った御祖母様の覚悟を無駄にするな」
「そう言うのは卑怯よ」
御祖母様が好き。御祖母様も私を好いてくれているのは分かってる。この分厳しい時もあったけど、それは私が公爵令嬢として立派に生きていくためだ。だからさっきの話も腹立たしかったけど、心砕いて言ったのだと分かる。
「ディアフォティーゾ辺境伯も変わり者ね」
いくら兄や祖母と懇意にしてて、友人の妹であっても、結婚の条件を掲げる令嬢なんて選ばない。
この国では男性が生涯独身でも問題ない。自身に敬遠される噂があって結婚に苦労していたとしても、無理にどんな令嬢でもいいからと結ばれる必要はないはずだ。
「ま、あいつはいい奴だよ」
「兄様はずっと交流あったから」
「不器用で真面目な奴だから、察してやってくれ」
「ほぼ初対面なんだから察するなんて無理」
あいつ表情筋ないからなあと兄が笑う。
笑う要素ないじゃん。
「お嬢様、おめでとうございます!」
「ええ……」
部屋に戻った途端、侍女のゾーイが満面の笑みで待っていた。
兄はディアフォティーゾ辺境伯に挨拶をと階下へ下る。
溜め息一つ、ゾーイが用意した荷物について確認した。
「完璧じゃん」
根回し完璧すぎでしょ。
私が呼び出されて話してる間に荷造り済ませるとか、どれだけ仕事できるのよ。
「大丈夫です! 嫁いでも私がお嬢様にお仕えしますので、淋しくないですよ!」
「ありがと、ゾーイ」
下に待たせてるし、逃れられない。
ここまできたら、さすがに受け入れないとか。
まあ私の掲げる条件を目の当たりにすれば、離縁を申し込まれるかもしれない。それなら願ったりかなったりでもある。
あまりに短い期間だと離縁しても祖母は家に入れてくれない可能性もあるから、一年ぐらい夫から離縁を言われないように頑張って誤魔化し続けてみようかな?
一年我慢、これだ。少しはポジティブにいこう。
条件を飲むと言っている以上、一日裸で過ごせないなんて苦行はないはずだ。よし。
「いこ」
「はい!」
階下におりて客間の扉を叩けば、扉前にでもいたのか兄が開けてくれた。その先に立つ落ち着いた雰囲気を持つ男性が件のディアフォティーゾ辺境伯だ。
銀色に近い灰色の髪にミストグリーンの瞳、体つきは思っていたよりも細身の方かな。国境武力を束ねるいかつい恐怖のイメージとは違う。
噂通りそこそこ麗しい顔立ちなんだろうけど、感情も愛想も抜け落ちた無表情が冷淡な印象を与える。
第一印象は良いとも悪いともつかない。というか、彼の感情の機微が読めない。
「お、来たな~」
「……」
部屋の中に促され渋々進む。
扉のすぐ側で佇み、じっとディアフォティーゾ辺境伯を見つめた。
特段無表情に変化はない。挙句無言。本当に愛想ないな。
「ほら、挨拶」
兄に促され、貴族の礼をとる。
「カフェメーラ・ヒンノマステ・シニフィエスと申します」
「初めましてじゃないんだから名乗らなくてもいいだろ」
「タロメ、構わない」
「お前だってよく知ってんだろ?」
親しい仲だから兄はそう言えるけど、私はほぼ初対面。これでいいと思う。
手続きが済んでる以上、シニフィエス姓は名乗れないけど、そこはいいでしょ。
「レイオン・ゼストス・ディアフォティーゾ辺境伯閣下、どうぞよろしくお願いします」
「私の名を知って?」
「はい」
見た目通り冷たく平坦な口調だった。
嘘ばかりかと思ってたけど、新聞の紙面も巷の噂も中々真実だったのね。すごいわ。
「じゃ行くか」
「御兄様がしきらなくても」
「まーまー」
兄に促される形で玄関まで行くことになった。
玄関に父はいたけど祖母の姿は見えない。
もう少し、相談とかあってもよかった。こんな喧嘩腰に言い合って、見送りもない別れ方。しかも帰ってこれない。
母親代わりに私の面倒を見てくれた祖母のことは好きだから、尚更こんな嫁ぎ方したくなかった。
「手を」
「……」
用意された立派な馬車に乗せてくれる。せめて分かりやすいぐらい表情のある人物だったらやりやすかったのに。
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