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1話 私が自宅裸族になった訳

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「メーラ、貴方は今日から王城で教育を受けます」
「はい、おばあさま」
「……国を上げての重大なものです。心して臨むように」

 この国が隣国を羨んで聖女候補育成制度を導入したのは私が三歳の時だった。
 私は家族に連れられ王城に入る。兄は王太子殿下と懇意にしていたから、最初はその付き添いなだけかと思っていた。
 私のような子供は沢山いた。そこから七年間、御祖母様よりもさらに厳しい教育を受けた。

「大人しくしろ。騒ぐな」

 王城に出入りし始めて一ヶ月しか経ってない時に人攫い未遂が起きる。
 運悪く遭遇したのは私、狙いは教育を受ける聖女候補だった。
 男は最初こそ王城関係者を装い猫撫で声で近づき、どこかへ連れて行こうとした。小さいながら察した私は逃げようと駆けるが転び、簡単に男に追いつかれる。
 不機嫌になった男は私の腕を掴んで、腰に吊るした大剣ではなく、小振りのナイフを私に突きつけた。
 足がすくんで、声も出せず、血の気がひいていく。抵抗する私を抱えようと私の腕を掴む力が一瞬緩んだ時だった。
 人の気配がした。男の味方でないことを祈り声を振り絞る。

「たすけて」

 その言葉が届いた。

「やめろ」

 私を助けてくれたのは兄ぐらいの年の男の子だった。
 白昼堂々と行われた人攫いを未然に防いでくれた人は逆光で見えづらく、私は未だ彼が誰なのか分からない。パニックになっていて、見えづらい以前によく覚えていないのも致命的だった。
 ただ単純にお礼が言いたい。泣き喚くだけで何も言えなかったから、あの人が誰なのかを知りたかった。
 大人相手に剣の腕で負けず、私が落ち着くまで待ってくれた人。家族はその人について何も教えてくれなかった。

* * *

「やだ! いかない!」

 子供にはとても耐えられない聖女教育の圧迫から三ヶ月後、早くも私は王城への訪問を拒否した。
 あの手この手で着替えさせようとする侍女の手を潜り抜け、裸のまま逃げ続けてる時に、風を切っている全身の感覚が最高だと思ってしまった。
 ふっと降りてきてしまった気持ちに頬に熱が灯る。恥ずかしさからじゃない。
 言いようのない解放感に気づいて立ち止まり呆然とする。
 その間にあっという間に服を着させられ、その日も聖女教育に赴く羽目になった。

「ひとりにして!」

 帰宅後、朝の感覚を確認しようと服を脱いですごした。
 朝のことがあったから私の言った通り人は来なくて、たっぷり裸であることを堪能して気づいてしまう。
 全身で感じる解放感。
 とても心が軽くすごせる。
 そこで私は一つの答えに辿り着いた。

「……」

 その日から私は自宅裸族になった。
 裸族でいることで厳しい教育にも耐えることができ、七年間聖女候補であり続ける。

「パノキカトに新しい聖女が現れた」
「やはり人工的に聖女を作り出そうなど土台無理な話だったのだ」

 貴族院に入る年に厳しく辛い教育は終わりを告げた。
 我が国エクセロスレヴォが欲しがっていた聖女が決まったから。
 南の隣国パノキカトの正統な血筋の令嬢だった。

「御祖母様、聖女制度は廃止になりました」
「ええ、御勤め御苦労様でした」

 そんな簡単な言葉で終わるものじゃない。聖女らしくあるために教養、魔法、感覚、立ち振舞いに話し方をどんなに厳しく教育されたと思っているの? 少しでも習った通りに出来ないと叩かれる場所、子供の頃の私には窮屈で辛く地獄のようだった。

「メーラはもう城には来なくなるのか~」

 淋しくなるなと当時兄は残念がっていた。

「貴族院で会えるのに」
「まあそうなんだけどな?」

 そもそも聖女をこの国から輩出しようなんて馬鹿馬鹿しい話だ。
 聖女は精霊王によって決められる。いくら隣国の聖女を模した令嬢を作ろうとも、精霊王が騙されるわけがない。
 沢山の本を読んだ中に聖女の話はいくらでもあった。最初の聖女と精霊王の話から、聖女が出る血筋は決まっている。いくらかの例外はあったけれど、隣国パノキカト以外の国から輩出されるとは思えなかった。

「お嬢様、御止めにならないのですか?」
「今更無理」

 聖女教育から逃れても、私の裸でいる習慣は消えなかった。今では私付きの侍女ゾーイが心配そうにしている。
 だからというのもあって自宅に籠り気味になり、社交はおろかデビュタントですら行かずじまいだ。
 貴族院を卒業した後は、家のことをある程度手伝いはしたけど、その内結婚適齢期をすぎ、このまま年を重ねるのかなと思っていた時、転機が訪れた。
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