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42話 殿下は私のです!
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イルミナルクス王国は特別居心地がよかった。王への謁見もスムーズで社交は殿下に近づく令嬢も親族を紹介したい貴族もいない。アチェンディーテ公爵が側にいてくれたのも大きかった。特段気を付けなければならないシーンもなく終わる。
にしても公爵はこんな幼いのに社交をこなしているなんて驚きだった。
「結構時間かかったね」
「はい」
「ソミア疲れてない?」
「大丈夫です」
この外遊でいつの間にか隣に座るようになった殿下が頬に触れてくる。特段無理はしていないし、殿下が配慮してくれていたから問題ない。きちんと眠れているから顔色悪くないもの。
「国への挨拶まわりは終わって次は社交界だけど、いけそう?」
「はい」
国への訪問ではなく、最後は大規模な社交だ。
アチェンディーテ公爵の通う貴族院とその南に位置する騎士学院、この二つの機関をウニバーシタス帝国含めた国家連合が支援管轄するということで、貴族院のホールを使って各国が集まる社交界が催される。
「アチェンディーテ公爵はいらっしゃらないのですね」
「顔は出すよ~。また帝国に来てもらうし」
国家連合設立後の安定化の為に再び帝国に来る。当然貴族院を卒業してからだからデビュタントを超えるだろう。
「随分時間が経ってからいらっしゃるのですね」
「ん? あ、サク飛び級だよ。卒業も早いから」
アチェンディーテ公爵はとても優秀だと忘れていた。
復習だとも言っていた貴族院の内容を通常の時間通りかけるはずもなく残り一年程で卒業するらしい。恐ろしい才だ。
「というわけで、サクのことを発表して、帝国は改めて国家連合設立の宥和政策(ゆうわせいさく)支持を掲げて終わりだね」
終わりという言葉に少し息が詰まる。私と殿下の関係も終わるということだ。出ていくと言う決意がゆらぎそうだけど耐えないといけない。ぐっと奥歯を噛んだ。
* * *
「殿下」
「マーロン侯爵」
「先日ぶりですね」
「アチェンディーテ公爵」
「おう」
外遊で知り得た人々に加え有力な貴族が集まる大規模な社交界に目の前が霞む。恐れ多くて逆に怖いわ。
「ソミア、大丈夫?」
「はい」
「気分悪くなったら言ってね」
「はい」
言う前に殿下がどうにかしそうだけど。そうならないようお腹に力をいれる。少し肩を開いて胸を張った。少しでも殿下の側にいられるように。
「え? 父上が?」
帝国の議会員から声をかけられると急遽皇帝が来ることが告げられる。その予定は聞いてなかったから殿下は驚いていたけど、殿下のことやアチェンディーテ公爵のことを発表するには皇帝がいた方が都合がいい。皇帝自身が宥和政策(ゆうわせいさく)を進めることを見せる為にも。
「俺が行くわ」
「分かった」
アチェンディーテ公爵が先だって陛下の元へ迎えに行った。
殿下は陛下がいらっしゃったら側に立つらしい。その間は通常通りの社交界での挨拶回りとなった。
「皇太子殿下、私、西に在ります……」
「殿下、私は……」
ここにきて再び御令嬢の挨拶が増えた。アチェンディーテ公爵がいた時はそうでもなかったのに。
「申し訳ありませんが、私達は」
「まあまだ始まったばかりでしてよ」
「御加減が悪いようでしたら、私医学の知識がございますの。別のお部屋へ」
「いいえ、私が」
どうにか殿下の気を引きたいらしい御令嬢たちが増えていく。外遊は今日で最後、他国の御令嬢たちはそう簡単に帝国の社交には来られないから今日この日にどうにかしたいのだろう。なんとか交友関係を持って互いに国へ戻ってからも付き合いを進め、いずれはという気持ちが見え隠れしている。
「殿下、あたくしは」
「っ」
私の目の前に出て来て殿下の隣に立とうとする者まで現れた。さすがにここまでくると苛立ちが募る。
「ちょっと邪魔よ」
「!」
さすがに我慢できなかった。私にしか聞こえないように言った令嬢は私を押しのけ殿下に触れようと近づく。
「……」
殿下の隣にいるのは私なのに。
外遊の正式な相手は私なのに。
「殿下、この後あたくしと」
触れようとする手と殿下の間に入った。殿下の腕に自分の腕を絡めて。
「え?」
殿下が驚いて瞠目しているのを横目に押しのけてきた令嬢と瞳を合わせる。
ぐっと詰まる様子にさらに視線を返した。この程度でたじろぐなら初めから割り込みなんてしないでほしい。
「殿下のお相手は私です」
「え?!」
隣、頭上から上ずった声が降りてきた。
けどそれを気にしている余裕はない。ここまで蔑ろにされた挙げ句文句まで言われる筋合いはないもの。
こう見えて向こう見ずになってるぐらい私は怒っていた。
「な、なによ」
他の令嬢にも視線を寄越すとやはり多少なりともたじろいでいる。なんだ、私の存在はなかったことになんてできてなかったのね。
「殿下のお相手は私です」
「だからそれが、なん」
「殿下は!」
視界の端に殿下が見える。表情までは見れない。そう、今は目の前の女性陣に一泡吹かせたい思いだったから。
「殿下は私のです!」
思いの外、声が大きかったらしい。
会場によく響いてしまった。
「……え?」
殿下の戸惑う声が降りてくる。
同時、遠く会場に入ったアチェンディーテ公爵と帝国皇帝陛下が見えた。
「……」
瞬間、さっと自身の体温が下がる。
私は今なんて言った?
「お前今それ言うのかよ」
アチェンディーテ公爵が笑いを必死にこらえていた。
にしても公爵はこんな幼いのに社交をこなしているなんて驚きだった。
「結構時間かかったね」
「はい」
「ソミア疲れてない?」
「大丈夫です」
この外遊でいつの間にか隣に座るようになった殿下が頬に触れてくる。特段無理はしていないし、殿下が配慮してくれていたから問題ない。きちんと眠れているから顔色悪くないもの。
「国への挨拶まわりは終わって次は社交界だけど、いけそう?」
「はい」
国への訪問ではなく、最後は大規模な社交だ。
アチェンディーテ公爵の通う貴族院とその南に位置する騎士学院、この二つの機関をウニバーシタス帝国含めた国家連合が支援管轄するということで、貴族院のホールを使って各国が集まる社交界が催される。
「アチェンディーテ公爵はいらっしゃらないのですね」
「顔は出すよ~。また帝国に来てもらうし」
国家連合設立後の安定化の為に再び帝国に来る。当然貴族院を卒業してからだからデビュタントを超えるだろう。
「随分時間が経ってからいらっしゃるのですね」
「ん? あ、サク飛び級だよ。卒業も早いから」
アチェンディーテ公爵はとても優秀だと忘れていた。
復習だとも言っていた貴族院の内容を通常の時間通りかけるはずもなく残り一年程で卒業するらしい。恐ろしい才だ。
「というわけで、サクのことを発表して、帝国は改めて国家連合設立の宥和政策(ゆうわせいさく)支持を掲げて終わりだね」
終わりという言葉に少し息が詰まる。私と殿下の関係も終わるということだ。出ていくと言う決意がゆらぎそうだけど耐えないといけない。ぐっと奥歯を噛んだ。
* * *
「殿下」
「マーロン侯爵」
「先日ぶりですね」
「アチェンディーテ公爵」
「おう」
外遊で知り得た人々に加え有力な貴族が集まる大規模な社交界に目の前が霞む。恐れ多くて逆に怖いわ。
「ソミア、大丈夫?」
「はい」
「気分悪くなったら言ってね」
「はい」
言う前に殿下がどうにかしそうだけど。そうならないようお腹に力をいれる。少し肩を開いて胸を張った。少しでも殿下の側にいられるように。
「え? 父上が?」
帝国の議会員から声をかけられると急遽皇帝が来ることが告げられる。その予定は聞いてなかったから殿下は驚いていたけど、殿下のことやアチェンディーテ公爵のことを発表するには皇帝がいた方が都合がいい。皇帝自身が宥和政策(ゆうわせいさく)を進めることを見せる為にも。
「俺が行くわ」
「分かった」
アチェンディーテ公爵が先だって陛下の元へ迎えに行った。
殿下は陛下がいらっしゃったら側に立つらしい。その間は通常通りの社交界での挨拶回りとなった。
「皇太子殿下、私、西に在ります……」
「殿下、私は……」
ここにきて再び御令嬢の挨拶が増えた。アチェンディーテ公爵がいた時はそうでもなかったのに。
「申し訳ありませんが、私達は」
「まあまだ始まったばかりでしてよ」
「御加減が悪いようでしたら、私医学の知識がございますの。別のお部屋へ」
「いいえ、私が」
どうにか殿下の気を引きたいらしい御令嬢たちが増えていく。外遊は今日で最後、他国の御令嬢たちはそう簡単に帝国の社交には来られないから今日この日にどうにかしたいのだろう。なんとか交友関係を持って互いに国へ戻ってからも付き合いを進め、いずれはという気持ちが見え隠れしている。
「殿下、あたくしは」
「っ」
私の目の前に出て来て殿下の隣に立とうとする者まで現れた。さすがにここまでくると苛立ちが募る。
「ちょっと邪魔よ」
「!」
さすがに我慢できなかった。私にしか聞こえないように言った令嬢は私を押しのけ殿下に触れようと近づく。
「……」
殿下の隣にいるのは私なのに。
外遊の正式な相手は私なのに。
「殿下、この後あたくしと」
触れようとする手と殿下の間に入った。殿下の腕に自分の腕を絡めて。
「え?」
殿下が驚いて瞠目しているのを横目に押しのけてきた令嬢と瞳を合わせる。
ぐっと詰まる様子にさらに視線を返した。この程度でたじろぐなら初めから割り込みなんてしないでほしい。
「殿下のお相手は私です」
「え?!」
隣、頭上から上ずった声が降りてきた。
けどそれを気にしている余裕はない。ここまで蔑ろにされた挙げ句文句まで言われる筋合いはないもの。
こう見えて向こう見ずになってるぐらい私は怒っていた。
「な、なによ」
他の令嬢にも視線を寄越すとやはり多少なりともたじろいでいる。なんだ、私の存在はなかったことになんてできてなかったのね。
「殿下のお相手は私です」
「だからそれが、なん」
「殿下は!」
視界の端に殿下が見える。表情までは見れない。そう、今は目の前の女性陣に一泡吹かせたい思いだったから。
「殿下は私のです!」
思いの外、声が大きかったらしい。
会場によく響いてしまった。
「……え?」
殿下の戸惑う声が降りてくる。
同時、遠く会場に入ったアチェンディーテ公爵と帝国皇帝陛下が見えた。
「……」
瞬間、さっと自身の体温が下がる。
私は今なんて言った?
「お前今それ言うのかよ」
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