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39話 甘やかす
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「これは我が国のものですね」
「はい。ソミアが見つけて気に入ったようだったので今回つけさせて頂きました」
「まあ嬉しいわ」
夜の社交界、日中に買った宝石が好評だった。一気に親密な空気になり話しやすくなる。こういう手法もあるのね。日中購入した時の含んだ言い方はこれがあったからで間違いないだろう。
「ダンスもお上手で我が国の言語も堪能、歴史にも精通してらっしゃるなんて素晴らしい」
「あ、ありがとうございます」
しまりなく笑う殿下を横目にぼろがでないか不安になる。
ダンスなんて基本の型だけ殿下に習って本番は殿下に動かされて終わる始末だった。ほぼぶつけ本番、殿下の力があったからこそだけど、よくできたものだと思う。言語はマーロン侯爵の時と同じで日常会話程度で、歴史は殿下の勉強時に小耳に挟んでいたもので浅い。
今は適当な相槌を打ちつつ、当たり障りなく過ごすことを徹底している。ぼろが出そうで本当怖い。
「では楽しんでください」
「はい」
「ありがとうございます」
程なくして自由の身となる。殿下がすぐに飲み物を用意してくれた。
「ウニバーシタス帝国皇太子殿下」
「はい」
社交の場である以上、声をかけられることはあるだろう。挨拶が軽いのは帝国領土外であることと国家連合設立に伴い仰々しいものを撤廃したからだ。殿下がいつかなくすと言った皇族制度のさきがけといったところだろう。
「殿下には私の娘を紹介したく」
私達と年が同じくらいの令嬢が頭を下げる。すると他の所からも自分の娘が孫が従姉妹がと集まってきた。令嬢たちだけで殿下の元に来ることもあって殿下はあっという間に壁を背にして囲まれる。隣の私はいていないようなものだ。
先日はマーロン侯爵が助けてくれたから囲まれることはなかった。今回はもう逃げられそうにない。
「殿下、わたくしは……」
「あら、今は私が……」
煌びやかな女性たちが頬を上気させて殿下に詰め寄る。幸い人としての距離は保ってくれる方々ばかりだから助かったものの、見ていて楽しいものではない。外遊の隣は、今殿下の隣は私なのに。
「おや、皆さんすみません」
「殿下?」
「連れの調子が悪いみたいなので失礼します」
「え?」
「殿下、お待ちになって」
令嬢の伸びる手をうまく避けて私の腰に手を回したまま人が開けた道を通って会場を後にする。
「殿下、私は大丈夫です」
体調は悪くない。ただないがしろにされるのが不快だった。隠しきれてると思ってたのに知られてたらしい。公の場だから顔にでないようにしないと。こういう時こそ御祖母様の教え通りの顔をするべき時だ。
「大丈夫じゃないでしょ」
殿下の部屋に戻り護衛も下がる。お茶を淹れたいのにソファに隣り合わせで座ったまま逃げさせてくれない。その中で殿下が眉間に皺を寄せて囁いた。
「今、僕の隣はソミアだから、ソミアが不快なら離れて正解だよ」
「しかし社交の場で、」
「ソミアはどうだった?」
そう聞かれると弱い。本音を言うことが憚れるのに、隣に立てて勘違いしている。
今だけ。
この外遊だけだと思えば言えそうな気がした。
「ソミア」
「……い、嫌でした」
「うん」
続けてとばかりに頷いて促された。
「ないがしろにされて、さ……淋しかったです」
「うん」
「ですが、周囲の挨拶を受けることもやめてほしくもありません」
「うーん、そっかあ」
言ってしまった。淋しいなんて子供のようで恥ずかしい。けどこれからの殿下のことを考えれば各国での人脈作りは譲れない大事な仕事だ。けど今は私が殿下の隣にいるのにという気持ちが強くなってる。
「淋しい、かあ」
「反芻しないでください!」
恥ずかしい。やっぱり言うんじゃなかった。
「ソミア顔真っ赤」
「っ!」
殿下の機嫌が直った。にこにこになっている。私は今すぐここから逃げ出したい。逃げられないなら顔を隠したい。
「可愛い」
「殿下!」
「分かってるよ~次から隣にソミアいるって大々的にみせてこうか」
「いえ、それは……」
なんで? と殿下が首を傾げる。私を表に出す外遊ではないのだから、そこに熱をいれる必要はない。この外遊は皇太子になる殿下のお披露目だから殿下が主役だ。
「うーん、じゃあ甘やかそう」
「え?」
「こっち」
肩に腕が周りくいっと引き寄せられた。上半身が殿下の胸に飛び込む形になってしまう。恥ずかしいの上塗りになるのに、なんてことをしてくるの。
「殿下!」
「本当慣れないねえ」
喉の奥を鳴らして笑う。
「今日も沢山仕事した僕にご褒美ちょうだい」
「私を甘やかすって言ったのに」
「逆にすればソミア許してくれるかなって」
足元見られてる。
「……し、仕方ないので殿下にご褒美差し上げます」
「やった」
素直になれない私に気を遣ってそう言っているのであれば、できる限りで応えるしかない。抱き締めるぐらいは、別にいける、はず。
「ソミア可愛いなあ」
「殿下……」
こうした私だけ特別を独占したいと思ってる。欲深くなった。
「はい。ソミアが見つけて気に入ったようだったので今回つけさせて頂きました」
「まあ嬉しいわ」
夜の社交界、日中に買った宝石が好評だった。一気に親密な空気になり話しやすくなる。こういう手法もあるのね。日中購入した時の含んだ言い方はこれがあったからで間違いないだろう。
「ダンスもお上手で我が国の言語も堪能、歴史にも精通してらっしゃるなんて素晴らしい」
「あ、ありがとうございます」
しまりなく笑う殿下を横目にぼろがでないか不安になる。
ダンスなんて基本の型だけ殿下に習って本番は殿下に動かされて終わる始末だった。ほぼぶつけ本番、殿下の力があったからこそだけど、よくできたものだと思う。言語はマーロン侯爵の時と同じで日常会話程度で、歴史は殿下の勉強時に小耳に挟んでいたもので浅い。
今は適当な相槌を打ちつつ、当たり障りなく過ごすことを徹底している。ぼろが出そうで本当怖い。
「では楽しんでください」
「はい」
「ありがとうございます」
程なくして自由の身となる。殿下がすぐに飲み物を用意してくれた。
「ウニバーシタス帝国皇太子殿下」
「はい」
社交の場である以上、声をかけられることはあるだろう。挨拶が軽いのは帝国領土外であることと国家連合設立に伴い仰々しいものを撤廃したからだ。殿下がいつかなくすと言った皇族制度のさきがけといったところだろう。
「殿下には私の娘を紹介したく」
私達と年が同じくらいの令嬢が頭を下げる。すると他の所からも自分の娘が孫が従姉妹がと集まってきた。令嬢たちだけで殿下の元に来ることもあって殿下はあっという間に壁を背にして囲まれる。隣の私はいていないようなものだ。
先日はマーロン侯爵が助けてくれたから囲まれることはなかった。今回はもう逃げられそうにない。
「殿下、わたくしは……」
「あら、今は私が……」
煌びやかな女性たちが頬を上気させて殿下に詰め寄る。幸い人としての距離は保ってくれる方々ばかりだから助かったものの、見ていて楽しいものではない。外遊の隣は、今殿下の隣は私なのに。
「おや、皆さんすみません」
「殿下?」
「連れの調子が悪いみたいなので失礼します」
「え?」
「殿下、お待ちになって」
令嬢の伸びる手をうまく避けて私の腰に手を回したまま人が開けた道を通って会場を後にする。
「殿下、私は大丈夫です」
体調は悪くない。ただないがしろにされるのが不快だった。隠しきれてると思ってたのに知られてたらしい。公の場だから顔にでないようにしないと。こういう時こそ御祖母様の教え通りの顔をするべき時だ。
「大丈夫じゃないでしょ」
殿下の部屋に戻り護衛も下がる。お茶を淹れたいのにソファに隣り合わせで座ったまま逃げさせてくれない。その中で殿下が眉間に皺を寄せて囁いた。
「今、僕の隣はソミアだから、ソミアが不快なら離れて正解だよ」
「しかし社交の場で、」
「ソミアはどうだった?」
そう聞かれると弱い。本音を言うことが憚れるのに、隣に立てて勘違いしている。
今だけ。
この外遊だけだと思えば言えそうな気がした。
「ソミア」
「……い、嫌でした」
「うん」
続けてとばかりに頷いて促された。
「ないがしろにされて、さ……淋しかったです」
「うん」
「ですが、周囲の挨拶を受けることもやめてほしくもありません」
「うーん、そっかあ」
言ってしまった。淋しいなんて子供のようで恥ずかしい。けどこれからの殿下のことを考えれば各国での人脈作りは譲れない大事な仕事だ。けど今は私が殿下の隣にいるのにという気持ちが強くなってる。
「淋しい、かあ」
「反芻しないでください!」
恥ずかしい。やっぱり言うんじゃなかった。
「ソミア顔真っ赤」
「っ!」
殿下の機嫌が直った。にこにこになっている。私は今すぐここから逃げ出したい。逃げられないなら顔を隠したい。
「可愛い」
「殿下!」
「分かってるよ~次から隣にソミアいるって大々的にみせてこうか」
「いえ、それは……」
なんで? と殿下が首を傾げる。私を表に出す外遊ではないのだから、そこに熱をいれる必要はない。この外遊は皇太子になる殿下のお披露目だから殿下が主役だ。
「うーん、じゃあ甘やかそう」
「え?」
「こっち」
肩に腕が周りくいっと引き寄せられた。上半身が殿下の胸に飛び込む形になってしまう。恥ずかしいの上塗りになるのに、なんてことをしてくるの。
「殿下!」
「本当慣れないねえ」
喉の奥を鳴らして笑う。
「今日も沢山仕事した僕にご褒美ちょうだい」
「私を甘やかすって言ったのに」
「逆にすればソミア許してくれるかなって」
足元見られてる。
「……し、仕方ないので殿下にご褒美差し上げます」
「やった」
素直になれない私に気を遣ってそう言っているのであれば、できる限りで応えるしかない。抱き締めるぐらいは、別にいける、はず。
「ソミア可愛いなあ」
「殿下……」
こうした私だけ特別を独占したいと思ってる。欲深くなった。
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