上 下
38 / 46

38話 宝石プレゼント

しおりを挟む
「有意義だったね~」
「はい」 

 収容所視察では第一皇子を遠くから見るだけにとどまり、殿下は変わらない様子のまま国王との会食もこなした。
 会食の際の入城では有力な貴族が次々と殿下に声をかけ挨拶に没頭することにもなり、なかなか忙しい時間だった。中には殿下に自身の娘を妃にと紹介する貴族もいたけど、殿下は笑顔で断り少し安心してしまう。
 本当は安心してはいけない。殿下にはしかるべき相手が必要なのだから、こういうところで出会う有力貴族の御令嬢とのご縁を大切にした方がいいに決まっている。

「やっぱり大陸とは全然違ったね」
「はい」

 マーロン侯爵が間に入ってくれたのもあり、煩わしい社交は多少軽減されたような気がする。国家連合設立の際に主要になってくれただけあり、気配りや気遣いが段違いだった。会食の時からお世話になり続けたまま別れたので後でお礼の手紙を書かないと。

「帰ってきたって感じ」
「そうですね」

 船に乗り再び大陸に戻ってきた。
 西側からぐるりと周り巡り、最後はイルミナルクスを目指す。アチェンディーテ公爵閣下がいるイルミナルクス王国を通り、グレース騎士学院とテンプスモーベリ貴族院が最後だ。

「こっち来てもデートするから覚悟しててね」
「殿下……」
「もちろんデート中は名前で呼んでね」
「……」

 殿下に振り回される外遊というのはよく分かった。仕方ないので最後まで付き合おう。
 先日の社交でよく分かった。殿下には然るべき相手が妃になるのが最善だ。私は今回の外遊に付き添い、勘違いできるぐらい隣にいてその後殿下の元を去ればいい。
 私にとっての最後の良い思い出作りだ。

「ソミア、また違うこと考えてる?」
「いいえ、そんなことは」
「ふーん……まあいいや。今度はなに食べようか」
「あまり多いと会食に響きます」
「分かってるよ~」

 食べさせたい殿下に対して私は各国代表との会食に備えあまり食べないでいたい。かといって、食べ歩きでなければ服飾品を買おうと言われても、これ以上買ってもらうのは気が引ける。
 馬車を降りて街を歩く。
 コロルベーマヌとは違い、帝国と似た文化を持ちつつも宝石の産地として栄えている国だ。

「ソミア」
「やはり宝石店が多いんですね」
「そうだね。ほら、こっち」

 国の特性もあったのもあり、街で最初に行くのが宝飾店となってしまった。
 室内は小綺麗で貴族が使う店のようだ。我々を見ても動揺しないあたり国の皇子が入ったとは思われてないらしい。自国の者ではないことは分かったらしく観光客としての対応をされた。殿下が説明を受けている間、近い所の宝石を覗いてみる。どれも帝国では見ないものばかりだった。

「……」

 はたと目が止まった。その視線に気づいた殿下が話していた店員になにかを伝える。
 私が気になった宝石についてきいたらしく、店員が慣れた様子で説明してくれた。この地域伝統の製法で加工されたものらしい。詳しい話をきくだけでなく、職人が加工している場や原石状態のものまで見せてもらった。国の皇子と知られていないはずなのに随分厚待遇ね。

「ソミア、つけてみて」

 御言葉に甘えてみる。やはり独特だ。宝石の良さを引き出していて、帝国ではみないデザインは新鮮だった。

「今夜つけようか」
「しかし」
「いいじゃん」

 と言ってあっさり買ってしまう。殿下のお金の使い方は気を付けてもらないといけない。あまりに使いすぎても批判の元、使わないのは貴族の見本とならないのでこれもまただめ。難しい塩梅だ。

「ドレスも合わせて買おうか」
「いえ、色合いなら合うものを持ってきています」
「えー? 折角だしさ」
「こちらだけで充分です」
「んー、まああんまりやりすぎてもかあ」

 殿下が一人ぶつぶつ言っているけど、結局首元だけではなく耳飾りも一緒に買うのだからドレスまではさすがに気が引ける。
 たとえ幼少期とはいえ、結構値が張るのを買ってもらったって分かっているんだから。殿下からしたら大したことないのかもしれないけど。

「ありがとうございます」
「うん、喜んでもらえた?」
「はい」
「本当?」
「はい。嬉しいです」

 自分の目がとまったものだもの。当然気になるから目が留まったのだし、殿下からこうして贈られるだけで充分嬉しい。たぶんいつも通りの顔をしているから知られてないと思うけど。

「ふ~ん」
「……あのでん」
「名前」
「……シレ、どうかしました?」
「いや? できればソミアの丁寧な言葉遣いもないと嬉しいなあって」

 誤魔化されてる気がしたけど追及するのはやめた。すると殿下はご飯食べようと私の手を取る。デートしているんだなあと一瞬緩みそうになる顔を引き締めた。あくまで心の中で堪能しよう。

「シレ、喉が渇きました」
「うん、まずはお茶だね」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。

秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚 13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。 歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。 そしてエリーゼは大人へと成長していく。 ※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。 小説家になろう様にも掲載しています。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

神様の手違いで、おまけの転生?!お詫びにチートと無口な騎士団長もらっちゃいました?!

カヨワイさつき
恋愛
最初は、日本人で受験の日に何かにぶつかり死亡。次は、何かの討伐中に、死亡。次に目覚めたら、見知らぬ聖女のそばに、ポツンとおまけの召喚?あまりにも、不細工な為にその場から追い出されてしまった。 前世の記憶はあるものの、どれをとっても短命、不幸な出来事ばかりだった。 全てはドジで少し変なナルシストの神様の手違いだっ。おまけの転生?お詫びにチートと無口で不器用な騎士団長もらっちゃいました。今度こそ、幸せになるかもしれません?!

88回の前世で婚約破棄され続けて男性不信になった令嬢〜今世は絶対に婚約しないと誓ったが、なぜか周囲から溺愛されてしまう

冬月光輝
恋愛
 ハウルメルク公爵家の令嬢、クリスティーナには88回分の人生の記憶がある。  前世の88回は全てが男に婚約破棄され、近しい人間に婚約者を掠め取られ、悲惨な最期を遂げていた。  彼女は88回の人生は全て自分磨きに費やしていた。美容から、勉学に運動、果てには剣術や魔術までを最高レベルにまで極めたりした。  それは全て無駄に終わり、クリスは悟った。  “男は必ず裏切る”それなら、いっそ絶対に婚約しないほうが幸せだと。  89回目の人生を婚約しないように努力した彼女は、前世の88回分の経験値が覚醒し、無駄にハイスペックになっていたおかげで、今更モテ期が到来して、周囲から溺愛されるのであった。しかし、男に懲りたクリスはただひたすら迷惑な顔をしていた。

【完結】元お飾り聖女はなぜか腹黒宰相様に溺愛されています!?

雨宮羽那
恋愛
 元社畜聖女×笑顔の腹黒宰相のラブストーリー。 ◇◇◇◇  名も無きお飾り聖女だった私は、過労で倒れたその日、思い出した。  自分が前世、疲れきった新卒社会人・花菱桔梗(はなびし ききょう)という日本人女性だったことに。    運良く婚約者の王子から婚約破棄を告げられたので、前世の教訓を活かし私は逃げることに決めました!  なのに、宰相閣下から求婚されて!? 何故か甘やかされているんですけど、何か裏があったりしますか!? ◇◇◇◇ お気に入り登録、エールありがとうございます♡ ※ざまぁはゆっくりじわじわと進行します。 ※「小説家になろう」「エブリスタ」様にも掲載しております(アルファポリス先行)。 ※この作品はフィクションです。特定の政治思想を肯定または否定するものではありません(_ _*))

婚約破棄された地味姫令嬢は獣人騎士団のブラッシング係に任命される

安眠にどね
恋愛
 社交界で『地味姫』と嘲笑されている主人公、オルテシア・ケルンベルマは、ある日婚約破棄をされたことによって前世の記憶を取り戻す。  婚約破棄をされた直後、王城内で一匹の虎に出会う。婚約破棄と前世の記憶と取り戻すという二つのショックで呆然としていたオルテシアは、虎の求めるままブラッシングをしていた。その虎は、実は獣人が獣の姿になった状態だったのだ。虎の獣人であるアルディ・ザルミールに気に入られて、オルテシアは獣人が多く所属する第二騎士団のブラッシング係として働くことになり――!? 【第16回恋愛小説大賞 奨励賞受賞。ありがとうございました!】  

異世界で王城生活~陛下の隣で~

恋愛
女子大生の友梨香はキャンピングカーで一人旅の途中にトラックと衝突して、谷底へ転落し死亡した。けれど、気が付けば異世界に車ごと飛ばされ王城に落ちていた。神様の計らいでキャンピングカーの内部は電気も食料も永久に賄えるられる事になった。  グランティア王国の人達は異世界人の友梨香を客人として迎え入れてくれて。なぜか保護者となった国陛下シリウスはやたらと構ってくる。一度死んだ命だもん、これからは楽しく生きさせて頂きます! ※キャンピングカー、魔石効果などなどご都合主義です。 ※のんびり更新。他サイトにも投稿しております。

【1/21取り下げ予定】悲しみは続いても、また明日会えるから

gacchi
恋愛
愛人が身ごもったからと伯爵家を追い出されたお母様と私マリエル。お母様が幼馴染の辺境伯と再婚することになり、同じ年の弟ギルバードができた。それなりに仲良く暮らしていたけれど、倒れたお母様のために薬草を取りに行き、魔狼に襲われて死んでしまった。目を開けたら、なぜか五歳の侯爵令嬢リディアーヌになっていた。あの時、ギルバードは無事だったのだろうか。心配しながら連絡することもできず、時は流れ十五歳になったリディアーヌは学園に入学することに。そこには変わってしまったギルバードがいた。電子書籍化のため1/21取り下げ予定です。

処理中です...