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38話 宝石プレゼント
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「有意義だったね~」
「はい」
収容所視察では第一皇子を遠くから見るだけにとどまり、殿下は変わらない様子のまま国王との会食もこなした。
会食の際の入城では有力な貴族が次々と殿下に声をかけ挨拶に没頭することにもなり、なかなか忙しい時間だった。中には殿下に自身の娘を妃にと紹介する貴族もいたけど、殿下は笑顔で断り少し安心してしまう。
本当は安心してはいけない。殿下にはしかるべき相手が必要なのだから、こういうところで出会う有力貴族の御令嬢とのご縁を大切にした方がいいに決まっている。
「やっぱり大陸とは全然違ったね」
「はい」
マーロン侯爵が間に入ってくれたのもあり、煩わしい社交は多少軽減されたような気がする。国家連合設立の際に主要になってくれただけあり、気配りや気遣いが段違いだった。会食の時からお世話になり続けたまま別れたので後でお礼の手紙を書かないと。
「帰ってきたって感じ」
「そうですね」
船に乗り再び大陸に戻ってきた。
西側からぐるりと周り巡り、最後はイルミナルクスを目指す。アチェンディーテ公爵閣下がいるイルミナルクス王国を通り、グレース騎士学院とテンプスモーベリ貴族院が最後だ。
「こっち来てもデートするから覚悟しててね」
「殿下……」
「もちろんデート中は名前で呼んでね」
「……」
殿下に振り回される外遊というのはよく分かった。仕方ないので最後まで付き合おう。
先日の社交でよく分かった。殿下には然るべき相手が妃になるのが最善だ。私は今回の外遊に付き添い、勘違いできるぐらい隣にいてその後殿下の元を去ればいい。
私にとっての最後の良い思い出作りだ。
「ソミア、また違うこと考えてる?」
「いいえ、そんなことは」
「ふーん……まあいいや。今度はなに食べようか」
「あまり多いと会食に響きます」
「分かってるよ~」
食べさせたい殿下に対して私は各国代表との会食に備えあまり食べないでいたい。かといって、食べ歩きでなければ服飾品を買おうと言われても、これ以上買ってもらうのは気が引ける。
馬車を降りて街を歩く。
コロルベーマヌとは違い、帝国と似た文化を持ちつつも宝石の産地として栄えている国だ。
「ソミア」
「やはり宝石店が多いんですね」
「そうだね。ほら、こっち」
国の特性もあったのもあり、街で最初に行くのが宝飾店となってしまった。
室内は小綺麗で貴族が使う店のようだ。我々を見ても動揺しないあたり国の皇子が入ったとは思われてないらしい。自国の者ではないことは分かったらしく観光客としての対応をされた。殿下が説明を受けている間、近い所の宝石を覗いてみる。どれも帝国では見ないものばかりだった。
「……」
はたと目が止まった。その視線に気づいた殿下が話していた店員になにかを伝える。
私が気になった宝石についてきいたらしく、店員が慣れた様子で説明してくれた。この地域伝統の製法で加工されたものらしい。詳しい話をきくだけでなく、職人が加工している場や原石状態のものまで見せてもらった。国の皇子と知られていないはずなのに随分厚待遇ね。
「ソミア、つけてみて」
御言葉に甘えてみる。やはり独特だ。宝石の良さを引き出していて、帝国ではみないデザインは新鮮だった。
「今夜つけようか」
「しかし」
「いいじゃん」
と言ってあっさり買ってしまう。殿下のお金の使い方は気を付けてもらないといけない。あまりに使いすぎても批判の元、使わないのは貴族の見本とならないのでこれもまただめ。難しい塩梅だ。
「ドレスも合わせて買おうか」
「いえ、色合いなら合うものを持ってきています」
「えー? 折角だしさ」
「こちらだけで充分です」
「んー、まああんまりやりすぎてもかあ」
殿下が一人ぶつぶつ言っているけど、結局首元だけではなく耳飾りも一緒に買うのだからドレスまではさすがに気が引ける。
たとえ幼少期とはいえ、結構値が張るのを買ってもらったって分かっているんだから。殿下からしたら大したことないのかもしれないけど。
「ありがとうございます」
「うん、喜んでもらえた?」
「はい」
「本当?」
「はい。嬉しいです」
自分の目がとまったものだもの。当然気になるから目が留まったのだし、殿下からこうして贈られるだけで充分嬉しい。たぶんいつも通りの顔をしているから知られてないと思うけど。
「ふ~ん」
「……あのでん」
「名前」
「……シレ、どうかしました?」
「いや? できればソミアの丁寧な言葉遣いもないと嬉しいなあって」
誤魔化されてる気がしたけど追及するのはやめた。すると殿下はご飯食べようと私の手を取る。デートしているんだなあと一瞬緩みそうになる顔を引き締めた。あくまで心の中で堪能しよう。
「シレ、喉が渇きました」
「うん、まずはお茶だね」
「はい」
収容所視察では第一皇子を遠くから見るだけにとどまり、殿下は変わらない様子のまま国王との会食もこなした。
会食の際の入城では有力な貴族が次々と殿下に声をかけ挨拶に没頭することにもなり、なかなか忙しい時間だった。中には殿下に自身の娘を妃にと紹介する貴族もいたけど、殿下は笑顔で断り少し安心してしまう。
本当は安心してはいけない。殿下にはしかるべき相手が必要なのだから、こういうところで出会う有力貴族の御令嬢とのご縁を大切にした方がいいに決まっている。
「やっぱり大陸とは全然違ったね」
「はい」
マーロン侯爵が間に入ってくれたのもあり、煩わしい社交は多少軽減されたような気がする。国家連合設立の際に主要になってくれただけあり、気配りや気遣いが段違いだった。会食の時からお世話になり続けたまま別れたので後でお礼の手紙を書かないと。
「帰ってきたって感じ」
「そうですね」
船に乗り再び大陸に戻ってきた。
西側からぐるりと周り巡り、最後はイルミナルクスを目指す。アチェンディーテ公爵閣下がいるイルミナルクス王国を通り、グレース騎士学院とテンプスモーベリ貴族院が最後だ。
「こっち来てもデートするから覚悟しててね」
「殿下……」
「もちろんデート中は名前で呼んでね」
「……」
殿下に振り回される外遊というのはよく分かった。仕方ないので最後まで付き合おう。
先日の社交でよく分かった。殿下には然るべき相手が妃になるのが最善だ。私は今回の外遊に付き添い、勘違いできるぐらい隣にいてその後殿下の元を去ればいい。
私にとっての最後の良い思い出作りだ。
「ソミア、また違うこと考えてる?」
「いいえ、そんなことは」
「ふーん……まあいいや。今度はなに食べようか」
「あまり多いと会食に響きます」
「分かってるよ~」
食べさせたい殿下に対して私は各国代表との会食に備えあまり食べないでいたい。かといって、食べ歩きでなければ服飾品を買おうと言われても、これ以上買ってもらうのは気が引ける。
馬車を降りて街を歩く。
コロルベーマヌとは違い、帝国と似た文化を持ちつつも宝石の産地として栄えている国だ。
「ソミア」
「やはり宝石店が多いんですね」
「そうだね。ほら、こっち」
国の特性もあったのもあり、街で最初に行くのが宝飾店となってしまった。
室内は小綺麗で貴族が使う店のようだ。我々を見ても動揺しないあたり国の皇子が入ったとは思われてないらしい。自国の者ではないことは分かったらしく観光客としての対応をされた。殿下が説明を受けている間、近い所の宝石を覗いてみる。どれも帝国では見ないものばかりだった。
「……」
はたと目が止まった。その視線に気づいた殿下が話していた店員になにかを伝える。
私が気になった宝石についてきいたらしく、店員が慣れた様子で説明してくれた。この地域伝統の製法で加工されたものらしい。詳しい話をきくだけでなく、職人が加工している場や原石状態のものまで見せてもらった。国の皇子と知られていないはずなのに随分厚待遇ね。
「ソミア、つけてみて」
御言葉に甘えてみる。やはり独特だ。宝石の良さを引き出していて、帝国ではみないデザインは新鮮だった。
「今夜つけようか」
「しかし」
「いいじゃん」
と言ってあっさり買ってしまう。殿下のお金の使い方は気を付けてもらないといけない。あまりに使いすぎても批判の元、使わないのは貴族の見本とならないのでこれもまただめ。難しい塩梅だ。
「ドレスも合わせて買おうか」
「いえ、色合いなら合うものを持ってきています」
「えー? 折角だしさ」
「こちらだけで充分です」
「んー、まああんまりやりすぎてもかあ」
殿下が一人ぶつぶつ言っているけど、結局首元だけではなく耳飾りも一緒に買うのだからドレスまではさすがに気が引ける。
たとえ幼少期とはいえ、結構値が張るのを買ってもらったって分かっているんだから。殿下からしたら大したことないのかもしれないけど。
「ありがとうございます」
「うん、喜んでもらえた?」
「はい」
「本当?」
「はい。嬉しいです」
自分の目がとまったものだもの。当然気になるから目が留まったのだし、殿下からこうして贈られるだけで充分嬉しい。たぶんいつも通りの顔をしているから知られてないと思うけど。
「ふ~ん」
「……あのでん」
「名前」
「……シレ、どうかしました?」
「いや? できればソミアの丁寧な言葉遣いもないと嬉しいなあって」
誤魔化されてる気がしたけど追及するのはやめた。すると殿下はご飯食べようと私の手を取る。デートしているんだなあと一瞬緩みそうになる顔を引き締めた。あくまで心の中で堪能しよう。
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