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36話 港町デート
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上陸した南の国コロルベーマヌはとても活気のある港町から始まった。
「ソミア、美味しい?」
「はい、とても」
焼きたてあつあつの海鮮をその場でもらってその場で食べる。貝の中の身はぷりぷりに焼き上がって塩味がきいてて非常に美味だ。皇族が食べ歩きするのもというところだけど仕方ない。
「本当食べてる時も良い顔するよねえ」
「……そんなに見ないで下さい」
「可愛いんだから見ちゃうよ~」
南の国についてすぐの港町でデートとなった。決めたことをやり通す力は素晴らしいけど、その力の使い方は今ではないと思う。
だって今私と殿下は外遊とはかけ離れたことをしているもの。蛇足も甚だしい。
「ソミアは少し食べないとねえ」
「充分頂いてますが」
「だめだよ、もう少し肉つけて」
アチェンディーテ公爵が来てから下働きの食事環境はかなり改善された。殿下や第二皇子と協力し、今まで遅く進んでいた環境改善が一気に進んだ。けれど、そのせいもあってアチェンディーテ公爵は第一皇子に目をつけられ、ありもしない罪をきせられた。とっくにやり返してしまったあたり、公爵らしいしさすが神童と思える。
「はいこれ。このスープ、肉入ってるから」
「肉だけでどうにかなる問題ではありません」
「いいんだよ、気分気分」
「ええ……」
やたら私を食べさせる気だ。あまり食べるとこれからお会いする国王との会食で食べられなくなる。それは避けたい。あ、私がいない場のほうがいいということかしら。私だけ満腹で別室待機もありだ。その方が失敗することもなく外遊が成功するのでは?
「ソーミーアー」
「はい」
「余計なこと考えてたでしょ?」
「そんなことはありません」
外遊は余計なことではなく大事で優先事項一番のものだろうから常に考えていて問題ない。
なのに殿下は納得いかない様子だ。
「今は僕とデートしてるんだからね! デートに集中して!」
「はあ」
分かってないね、とぶーぶー言い始めた。スープの次に渡されたパンを齧りながら首を傾げる。食べることにだって集中してたつもりだけど殿下は不満のようだ。外遊の成功を考え、逢引も共にしている。ちょうどいいと思うのに。
「もー」
空になった私のスープカップを回収し、残りのパンを消化したら殿下の視線が少し下がった。じっと見つめた後、手が伸びてくる。人混みもあって逃げられなかった。
「欠片ついてる」
ふっと笑って指が私の口元に触れる。恥ずかしさに顔が熱くなった。
「も、申し訳」
「いいって~デートぽいからいいよ」
「ぽいって……」
「僕としてはもっとソミアとくっつきたい」
「くっ?!」
言葉で返せなかった。
動揺した私を見て満足そうに口元を綻ばせるとするりと私の手をとってくる。
「でん」
「名前で呼んで」
「っ」
「様とかもつけないでね」
確かに港町に国の長になる者がいると大事になりかねない。帝都で尾行をした時と同じだ。仕方ないと自分に言い聞かせた。
「…………シレ」
「うん」
満足そうだ。そんなに顔を緩ませてたら誰も国の皇子だと思わないんじゃと思えるぐらい。
実際誰も私達を気にしていないようだ。そうでないと大変なことになるけど。
「離して下さい」
「えーやだなあ」
「人が多いとはいえ、この程度ならはぐれません」
「んー、敬語もやめてくれたら考えるかな?」
「……」
じっと非難のまなざしを向けてもどこ吹く風だ。
「前はさ~尾行だなんだでバタバタしてデートぽくなかったから今いい感じだよね」
「目的が違っ、!」
「おっと」
背中がすれ違う人とぶつかったよろけたところを殿下に支えられた。殿下に抱きつくみたいになってしまう。さすがにこれはだめだわ。
「す、すみません!」
「えー離れちゃう?」
「当然です!」
「こういうのがもっと欲しいんだけど」
抱きついたままデートするような恋人はいない。なんて要望だろう。
相変わらず嬉しそうに顔を綻ばせたまま、とった私の手を持ち上げ目の前で指先に唇を寄せた。
公衆の面前でなんてことをしてくれるの。
「じゃ、手を繋ぐまでかな~」
「それは!」
「ソミアが転ばないようにね」
「……」
「譲らないよ?」
「ぐっ……」
ほら、と手を引かれる。
恋人同士がするようなことをしにきたんじゃないのに。
指先から顔、そして全身熱くなってしまった。御祖母様の教え通りなんてどこにもない。
「ソミア、美味しい?」
「はい、とても」
焼きたてあつあつの海鮮をその場でもらってその場で食べる。貝の中の身はぷりぷりに焼き上がって塩味がきいてて非常に美味だ。皇族が食べ歩きするのもというところだけど仕方ない。
「本当食べてる時も良い顔するよねえ」
「……そんなに見ないで下さい」
「可愛いんだから見ちゃうよ~」
南の国についてすぐの港町でデートとなった。決めたことをやり通す力は素晴らしいけど、その力の使い方は今ではないと思う。
だって今私と殿下は外遊とはかけ離れたことをしているもの。蛇足も甚だしい。
「ソミアは少し食べないとねえ」
「充分頂いてますが」
「だめだよ、もう少し肉つけて」
アチェンディーテ公爵が来てから下働きの食事環境はかなり改善された。殿下や第二皇子と協力し、今まで遅く進んでいた環境改善が一気に進んだ。けれど、そのせいもあってアチェンディーテ公爵は第一皇子に目をつけられ、ありもしない罪をきせられた。とっくにやり返してしまったあたり、公爵らしいしさすが神童と思える。
「はいこれ。このスープ、肉入ってるから」
「肉だけでどうにかなる問題ではありません」
「いいんだよ、気分気分」
「ええ……」
やたら私を食べさせる気だ。あまり食べるとこれからお会いする国王との会食で食べられなくなる。それは避けたい。あ、私がいない場のほうがいいということかしら。私だけ満腹で別室待機もありだ。その方が失敗することもなく外遊が成功するのでは?
「ソーミーアー」
「はい」
「余計なこと考えてたでしょ?」
「そんなことはありません」
外遊は余計なことではなく大事で優先事項一番のものだろうから常に考えていて問題ない。
なのに殿下は納得いかない様子だ。
「今は僕とデートしてるんだからね! デートに集中して!」
「はあ」
分かってないね、とぶーぶー言い始めた。スープの次に渡されたパンを齧りながら首を傾げる。食べることにだって集中してたつもりだけど殿下は不満のようだ。外遊の成功を考え、逢引も共にしている。ちょうどいいと思うのに。
「もー」
空になった私のスープカップを回収し、残りのパンを消化したら殿下の視線が少し下がった。じっと見つめた後、手が伸びてくる。人混みもあって逃げられなかった。
「欠片ついてる」
ふっと笑って指が私の口元に触れる。恥ずかしさに顔が熱くなった。
「も、申し訳」
「いいって~デートぽいからいいよ」
「ぽいって……」
「僕としてはもっとソミアとくっつきたい」
「くっ?!」
言葉で返せなかった。
動揺した私を見て満足そうに口元を綻ばせるとするりと私の手をとってくる。
「でん」
「名前で呼んで」
「っ」
「様とかもつけないでね」
確かに港町に国の長になる者がいると大事になりかねない。帝都で尾行をした時と同じだ。仕方ないと自分に言い聞かせた。
「…………シレ」
「うん」
満足そうだ。そんなに顔を緩ませてたら誰も国の皇子だと思わないんじゃと思えるぐらい。
実際誰も私達を気にしていないようだ。そうでないと大変なことになるけど。
「離して下さい」
「えーやだなあ」
「人が多いとはいえ、この程度ならはぐれません」
「んー、敬語もやめてくれたら考えるかな?」
「……」
じっと非難のまなざしを向けてもどこ吹く風だ。
「前はさ~尾行だなんだでバタバタしてデートぽくなかったから今いい感じだよね」
「目的が違っ、!」
「おっと」
背中がすれ違う人とぶつかったよろけたところを殿下に支えられた。殿下に抱きつくみたいになってしまう。さすがにこれはだめだわ。
「す、すみません!」
「えー離れちゃう?」
「当然です!」
「こういうのがもっと欲しいんだけど」
抱きついたままデートするような恋人はいない。なんて要望だろう。
相変わらず嬉しそうに顔を綻ばせたまま、とった私の手を持ち上げ目の前で指先に唇を寄せた。
公衆の面前でなんてことをしてくれるの。
「じゃ、手を繋ぐまでかな~」
「それは!」
「ソミアが転ばないようにね」
「……」
「譲らないよ?」
「ぐっ……」
ほら、と手を引かれる。
恋人同士がするようなことをしにきたんじゃないのに。
指先から顔、そして全身熱くなってしまった。御祖母様の教え通りなんてどこにもない。
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