皇子に好かれ無表情ができなくなった侍女の私【元ツンデレ現変態ストーカーと亡き公国の魔女 外伝2】

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32話 侵入者

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「ふう」

 殿下が議会に出ている間の僅かな時間、室内仕事を終えた私は外に出て殿下の庭いじりを始める。
 いつもと同じ光景だった。
 庭師が新しく植える花の苗を取りに行っている間に事が起きてしまう。

「そこのお前」

 水を汲んで戻ろうとした時、見知らぬ男の声に止まる。
 ここは殿下の魔法が守る庭。
 境界に近い場所とはいえ殿下が許した者以外は入れないはずだ。無意識下に近寄れない人避けだと聞いてきた。仮に踏み込めたとしても激しい頭痛と吐き気を催す。
 そして私は殿下が心を許した人間を把握している。目の前の人間はその範疇にいない。

「第三皇子の側付きだな?」
「……」

 身なりからするに文官、貴族で間違いない。

「命令だ。第三皇子の部屋へ案内しろ」

 随分と高慢な態度だ。概ね貴族は下働きに対してこういう態度が多いのに新鮮に感じてしまう。これもずっと殿下の側にいたから故ね。

「発言の許可を頂けますか」
「ふん、生意気だな。特別に許す。話してみろ」

 さて、どう時間を稼ごうか。

「第三皇子殿下への面会の許可は得られてますか?」
「そんなもの必要ない。さっさと案内しろ」
「御言葉ですが、こちらは第三皇子殿下の許可なく入れない場所となっております。閣下は許可を得てこちらにいらしたのでしょうか」
「そんなもの関係ない。俺は伯爵位を持っているんだぞ? つべこべ言わず案内しろ」

 議会に出ていないということ大した立ち位置にいない者だろう。何故そんな執拗に案内を指示するのか。
 そもそもここは殿下の厳重な魔法によって入れないはずなのに伯爵は体調も悪くなさそうだった。なにか仕込んでいる可能性が高い。

「では確認をとりますので、暫しお時間を頂けますか? お待ち頂く間はあちらの」
「なんだと?」

 魔法の守りの外に用意してある部屋へ案内しようと手をあげたら目の前の男が私の手首を掴んだ。強い力で痛みがあったが顔に出さないようにする。

「チッ、大人しく部屋へ連れていけばいいものを」
「……お離し頂けますか」
「黙れ。ついてこい」

 ぐいっと引っ張られ、思わず踏みとどまった。まさかとは思っていたけど暴力を使ってでも殿下の部屋へ入る気?

「侍女ごときがいい気になりやがって。主人に似たんじゃないか?」

 さらに強い力で連れていこうとする。それは避けないといけない。

「それは第三皇子殿下に対する公的な侮辱罪にあたるかと存じますが」
「第三皇子の方が余程無礼だろうが。第一皇太子殿下の全てを奪ってその座につこうとする卑しい男だ。それこそ侮辱罪にあたる」

 相手が喋ってくれたおかげで目的が分かった。やはり殿下を狙っている第一皇太子派の仕業だ。

「お止めください。殿下への面会の予約を取り付けます」
「そんなもの必要ない」

 あいつの弱みを握れればいいだけだからなと言う。脅す要素でも見つけて第一皇太子の継承権剥奪を阻止しようとしてるのだろうか。
 そしたら尚更私はこの男に連れられるわけにはいかない。私が捕まり人質になったとして、殿下が私を切り捨てることができるか確証がないからだ。

「人を呼びます」
「はっ、議会の時間はここに人は来ないだろう」

 よく調べている。護衛も殿下についていくし、内容によっては執事のストリクテを連れていく。魔法があるから人が手薄でもそのままにしていた。殿下ほど魔法が使える人間はあまりいない。帝国の魔法使いの一団と比較しても殿下の力は強いと聞いた。
 何故この男はその魔法を突破したの。

「御言葉ですが」
「いい加減にしろ! 口答えしないでついてこい!」

 私を掴む手と逆の手が振り上げられる。殴られると思ったその時だった。

「あっ?!」
「っ!」

 ばちんという音と共に男の手が離れる。自由になったと思った次に視界に男はいなかった。地面に伏して呻いている。

「ぐっ……」
「よくここを突破したね」
「!」

 隣にゆっくり歩いてきた殿下が立つ。私の腰を抱いて男を見下ろした。

「殿下!」

 離れようにもがっちりつかまれてて離れられない。けど先程の男の暴力とは違い痛みはないものだった。

「な、んで」
「ん? 議会のこと? あの程度の内容ならすぐ終わるものさ」

 第一皇太子の失脚にあたる内容なのに? 継承権が絡んでいるのに?
 本当だろうか。あまりに早い気がした。殿下を見上げると微笑んでいるのに瞳は全く笑っていない。その瞳の色合いが相当な怒りを孕んでいるとを悟り口を噤んだ。

「さて」

 殿下が離れて男の衣服を漁る。そしてポケットから透き通った石を取り出した。なにかの原石だろうか。

「へえ……」
「殿下?」
「連れていって」

 いつの間にか控えていた護衛が男を縛り上げ連れていく。皇族への反逆は即時裁かれるだろう。恐らく彼はもう城にはいられない。

「ソミア、大丈夫?」

 いつもの殿下が戻ってきてほっとする。眉を下げた困り顔に安心する日がくるなんて思ってもみなかった。

「問題ありません」

 そして「申し訳ありません」と頭を下げた。

「なんでソミアが謝るのさ」
「侵入者を追い返せませんでした」
「そんなことどうでもいいよ!」
「ですが私が」
「もー! いいから!」

 来てと手首を掴まれる。先程の男と違い優しく捕らわれるけど、そのあたたかさに安心してしまった。
 いけない、ゆるんでしまう。
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