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29話 恋愛相談2
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「なあ、お前ら付き合ってんの?」
「いいえ」
アチェンディーテ公爵がステラモリス公爵に恋をしてから恋愛についてぐいぐいきいてくるようになった気がする。
恋愛相談は日常だけど、まさか他人の恋愛事情まできいてくるとは思わなかった。多少の動揺はあったけど隠せる範囲だ。私よくやってる。
「でもシレもソミアも好き合ってんだろ」
「お応え致しかねます」
鋭い子だ。神童と呼ばれる頭脳明晰さが気付きに繋がっているのだろうか。
私と殿下はお互い好き合っている。けど恋人としてのお付き合いもないし、私が愛妾というわけでもない。婚約なんて以ての外だ。
「……ふん。お互い恋愛対象なだけいいじゃねえか」
「アチェンディーテ公爵閣下、そのようなことは」
「俺、意識されもしてねえのに。対象でもねえし」
「……あら」
可愛い。拗ねてる。
私と殿下のことを追及したかったのではなかったらしい。自分の悩み相談をしたかったようだ。しかも可愛い理由で。
なにか二人の間であったのかしら。ステラモリス公爵がアチェンディーテ公爵を子ども扱いしてるってところに落ち着くと思うけど。
「また可愛いとか思ってんだろ」
「……失礼致しました」
「別にかまわねえよ。クラスも同じだろうし」
ステラモリス公爵もアチェンディーテ公爵のことをよく可愛い可愛いと言っている。好かれてはいるけどアチェンディーテ公爵の望む好きではない。それにジレンマを抱えているというところだろう。
「公爵閣下。よろしいでしょうか」
「なんだよ」
「ステラモリス公爵から嫌われてはいませんね?」
「そりゃあ、まあ」
自負できるならやれるはず。第三者目線で言わせてもらえるのなら、並んで歩いてる姿は完全に二人の世界で見ていて微笑ましい。ステラモリス公爵が明るく笑う姿を見ていると、殿下の言葉を借りるなら脈ありだと思える。
「側にもいさせてくれる程の好意があるのなら、そこにつけこむのです」
「ん?」
長い時間を一緒に過ごせば情が移る。
そこをぐいっとせめればいい。なんなら長い時間過ごす中でもステラモリス公爵を甘やかせばいい。
時間は大事だし有効だ。長い時間共有することは悪くない選択だと思う。
公爵は私の発言に少しきょとんとした様子だった。もう少し性格の良い助言が必要だった? 相手は神童と言えど子供だから情操教育に良い案を出すべきだったとか?
「あー、シレとソミアがそうだったように?」
「……違います」
「なんだよ。十年近く一緒にいるんだろ?」
概ね八年、まだ十年には到達していない。この時間のおかげで殿下の前では鉄仮面も崩れてきた。けど私たちはお伽噺のようにめでたしめでたしとはいかない。皇子と侍女では分不相応だ。
「身分差は言い訳にならねえぞ」
私の考えていることを見透かしたかのような公爵の言葉が突き刺さった。
「うぐ……」
皇族と子爵家の娘。私は皇子妃教育はおろか社交界マナーも分からない。ダンスだってお茶会だって経験なしだ。ずっとここで働いていたから教養がない。
そんな相手が皇族の相手として務まるかと言われれば当然違う。今はまだ公的に発表できなくても殿下は皇位を継ぐだろうし、帝国で皇族は高位貴族と婚姻を結ぶのが慣例となっている。
「シレの立場を考えると時間ねえだろ。今の内に好き合ってますでも婚約内定してますでもなんでもいいから宣言しちまえ」
断じて婚約はしていない。
「しかし」
「誰かのものになってもいいのかよ」
「……」
殿下には正妃も側妃も愛妾もお断りをした。他の女性が殿下の隣に立っているのを我慢できるかと問われれば否だ。私の感情は我慢できるところをとっくに越えている。
出会ったばかりの頃に殿下に然るべき相手がいて当たり障りない距離で接していたら我慢できただろうか。今の私には考えられない。
そんな想いが顔に出てたらしく、公爵には呆れた顔をされた。
「なんだよ。誰かのものになるのが嫌なら最善を尽くせ」
「閣下」
妙にぐいぐいくる。優しくて御世話焼きの気はあったけど、私と殿下の関係まで見てくれるとは驚きだ。
「俺はクラスを諦めない」
「閣下」
「クラスの望むことは叶えるし甘やかすし、爵位も領地も取り戻したいっていうなら叶えてやる」
自信たっぷりに言う様は子供とは思えない。けれど彼なら叶えてしまうだろう。その実力がある方だ。
「実際シレに縁談きてんだろ」
「……はい」
皇族であればデビュタント前から内々で決まっていてもおかしくない。けど殿下には決まった相手がいなかった。私との約束があるからと思っていいのだろうか。誠実な男を見せると言った殿下の言葉が頭をよぎる。
「ソミア、いい加減我慢すんのも逃げんのもやめろ」
「っ……」
鋭い言葉に返答に詰まった。
「言ってやれ」
アチェンディーテ公爵が大人びた顔をして笑う。
「私のものに手を出すなってな」
アチェンディーテ公爵は悩むことはあっても迷いはしない。ステラモリス公爵が好きで他人に譲る気はないし、きちんとアピールしている。
殿下もそう。側付きの私を甘やかしている。けど私は殿下の想いに気づいていても応えられなかった。
殿下がお相手を決めなければならない時期になったということは、私と殿下の関係もそろそろ潮時なのかもしれない。
「いいえ」
アチェンディーテ公爵がステラモリス公爵に恋をしてから恋愛についてぐいぐいきいてくるようになった気がする。
恋愛相談は日常だけど、まさか他人の恋愛事情まできいてくるとは思わなかった。多少の動揺はあったけど隠せる範囲だ。私よくやってる。
「でもシレもソミアも好き合ってんだろ」
「お応え致しかねます」
鋭い子だ。神童と呼ばれる頭脳明晰さが気付きに繋がっているのだろうか。
私と殿下はお互い好き合っている。けど恋人としてのお付き合いもないし、私が愛妾というわけでもない。婚約なんて以ての外だ。
「……ふん。お互い恋愛対象なだけいいじゃねえか」
「アチェンディーテ公爵閣下、そのようなことは」
「俺、意識されもしてねえのに。対象でもねえし」
「……あら」
可愛い。拗ねてる。
私と殿下のことを追及したかったのではなかったらしい。自分の悩み相談をしたかったようだ。しかも可愛い理由で。
なにか二人の間であったのかしら。ステラモリス公爵がアチェンディーテ公爵を子ども扱いしてるってところに落ち着くと思うけど。
「また可愛いとか思ってんだろ」
「……失礼致しました」
「別にかまわねえよ。クラスも同じだろうし」
ステラモリス公爵もアチェンディーテ公爵のことをよく可愛い可愛いと言っている。好かれてはいるけどアチェンディーテ公爵の望む好きではない。それにジレンマを抱えているというところだろう。
「公爵閣下。よろしいでしょうか」
「なんだよ」
「ステラモリス公爵から嫌われてはいませんね?」
「そりゃあ、まあ」
自負できるならやれるはず。第三者目線で言わせてもらえるのなら、並んで歩いてる姿は完全に二人の世界で見ていて微笑ましい。ステラモリス公爵が明るく笑う姿を見ていると、殿下の言葉を借りるなら脈ありだと思える。
「側にもいさせてくれる程の好意があるのなら、そこにつけこむのです」
「ん?」
長い時間を一緒に過ごせば情が移る。
そこをぐいっとせめればいい。なんなら長い時間過ごす中でもステラモリス公爵を甘やかせばいい。
時間は大事だし有効だ。長い時間共有することは悪くない選択だと思う。
公爵は私の発言に少しきょとんとした様子だった。もう少し性格の良い助言が必要だった? 相手は神童と言えど子供だから情操教育に良い案を出すべきだったとか?
「あー、シレとソミアがそうだったように?」
「……違います」
「なんだよ。十年近く一緒にいるんだろ?」
概ね八年、まだ十年には到達していない。この時間のおかげで殿下の前では鉄仮面も崩れてきた。けど私たちはお伽噺のようにめでたしめでたしとはいかない。皇子と侍女では分不相応だ。
「身分差は言い訳にならねえぞ」
私の考えていることを見透かしたかのような公爵の言葉が突き刺さった。
「うぐ……」
皇族と子爵家の娘。私は皇子妃教育はおろか社交界マナーも分からない。ダンスだってお茶会だって経験なしだ。ずっとここで働いていたから教養がない。
そんな相手が皇族の相手として務まるかと言われれば当然違う。今はまだ公的に発表できなくても殿下は皇位を継ぐだろうし、帝国で皇族は高位貴族と婚姻を結ぶのが慣例となっている。
「シレの立場を考えると時間ねえだろ。今の内に好き合ってますでも婚約内定してますでもなんでもいいから宣言しちまえ」
断じて婚約はしていない。
「しかし」
「誰かのものになってもいいのかよ」
「……」
殿下には正妃も側妃も愛妾もお断りをした。他の女性が殿下の隣に立っているのを我慢できるかと問われれば否だ。私の感情は我慢できるところをとっくに越えている。
出会ったばかりの頃に殿下に然るべき相手がいて当たり障りない距離で接していたら我慢できただろうか。今の私には考えられない。
そんな想いが顔に出てたらしく、公爵には呆れた顔をされた。
「なんだよ。誰かのものになるのが嫌なら最善を尽くせ」
「閣下」
妙にぐいぐいくる。優しくて御世話焼きの気はあったけど、私と殿下の関係まで見てくれるとは驚きだ。
「俺はクラスを諦めない」
「閣下」
「クラスの望むことは叶えるし甘やかすし、爵位も領地も取り戻したいっていうなら叶えてやる」
自信たっぷりに言う様は子供とは思えない。けれど彼なら叶えてしまうだろう。その実力がある方だ。
「実際シレに縁談きてんだろ」
「……はい」
皇族であればデビュタント前から内々で決まっていてもおかしくない。けど殿下には決まった相手がいなかった。私との約束があるからと思っていいのだろうか。誠実な男を見せると言った殿下の言葉が頭をよぎる。
「ソミア、いい加減我慢すんのも逃げんのもやめろ」
「っ……」
鋭い言葉に返答に詰まった。
「言ってやれ」
アチェンディーテ公爵が大人びた顔をして笑う。
「私のものに手を出すなってな」
アチェンディーテ公爵は悩むことはあっても迷いはしない。ステラモリス公爵が好きで他人に譲る気はないし、きちんとアピールしている。
殿下もそう。側付きの私を甘やかしている。けど私は殿下の想いに気づいていても応えられなかった。
殿下がお相手を決めなければならない時期になったということは、私と殿下の関係もそろそろ潮時なのかもしれない。
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