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11話 バルコニーお披露目
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レースノワレ王国が帝国の武力侵攻を受け併合された。第二皇子が指揮をとった戦争だ。つまりユラレ伯爵令嬢から国と仕えるべき主、家族を奪ったことになる。
しかも傷心のユラレ伯爵令嬢と婚約までとりつけた。親善試合で皇弟殿下に許しを得たらしい。褒賞という形だろう。けどそれで彼女は納得したのだろうか。
「じゃあいってくるね。ここで待っててよ? どこか行っちゃ駄目だからね?」
「畏まりました」
バルコニーで第二皇子とユラレ伯爵令嬢の婚約発表とユラレ伯爵令嬢の騎士団副団長就任の御披露目が行われた。騎士服に身を包んだユラレ伯爵令嬢は凛として美しく、同性の私でもどきりとするぐらい格好良い。
「シレってば過保護だね」
そして今、なぜか私の隣にはアチェンディーテ公爵がいる。
「閣下は御披露目に参加しないのですか?」
「はは、誘われたけど断ったよ~。この国の皇族のことなんて関係ないし」
笑顔なのに結構辛辣にものを言う。
「そうそう、イルミナルクスに子供がいるんだけどさ」
勝手に話し始めた。その方が楽だから助かる。
「今すっごい熱出てるんだって~魔法使っても治んないの」
高らかに笑うけど、笑っている場合じゃないのでは? 子供の熱は危うい。ただでさえ原因不明で死ぬこともあるのに。
「なんか一度目覚めた時に面白いこと言ってね」
「面白いこと?」
「うん。国家連合の樹立について」
「国家連合」
「帝国含めてね」
国が横並びに繋がって利益を得て相互に発展するような形だったはず。商売でも横並びの形がある。
それを武力侵攻を行い続ける帝国を含めてやろうと? まだ小さな子供なのになぜそんなことが言えるのだろう?
「君は本当に聡明だねえ」
考えていることがばれた。この人は私が文字と数字を読めることを知っている。国家連合の単語が出た時点で知らないふりでもしていればよかった。
「君ならシレを任せられるなあ」
「え?」
「シレっていつもへらへらしてるでしょ?」
「ええと……」
肯定したら不敬だ。イエスと言いたい所だけど。
「君も本来の顔を隠す人間だから分かると思うけど、シレの笑顔は注意してね」
誤魔化してる時があるから。
辛い時程笑うし無理もする。そういう時に止めてあげたり注意できるのは私だけだと言う。
「そんなことは」
「シレも君の言葉なら耳に入ると思うんだあ」
愛は世界を救うからねとウインクされた。やることが胡散臭い。人好きする笑顔なのに、あまりにぐいぐいくるから少し身を引いた。
「アチェンディーテ公爵閣下が直接仰ればよろしいのでは?」
「まあ、そうだねえ」
と公爵がバルコニーに視線を送る。目の下にクマができていた。初めて会った時よりもやつれたような気もする。
「閣下、僭越ながら申し上げても?」
「畏まらなくていいってば。なあに?」
「直近の御身体の具合はいかがですか?」
嬉しそうに目が細められた。やっぱりいいねえと笑う。
けど返ってきたのは「大丈夫だよ」の一言だけだった。とてもそうは見えない。
「君にはこっそり伝えておくね」
「?」
「フィクタには気をつけて」
第一皇子の婚約者? ひそりと言われた言葉に、なぜと問おうとしたら私を呼ぶ声に遮られた。
「ソミア!」
「……殿下」
「お疲れ様、シレ」
「イグニス様、ソミアの監視ありがとうございます」
「どうってことないよ~」
「……え?」
笑い合う二人に対して私は驚きと呆れに言葉を失う。たかだか侍女一人に筆頭宰相の公爵を使うなんてありえない。
「私の監視?」
「まあ皇弟殿下に呼ばれてたのもあるけどね。あ、じゃ僕行くから~」
あっさり去っていくけど大問題なのでは? たとえ皇弟に呼ばれてこの後予定があったとしても立場上侍女の監視なんてするものではないはず。
「いくら殿下であってもアチェンディーテ公爵にお願いする内容ではないかと」
「ソミア一人だと誰かが声かけるかもしれないじゃん」
「殿下」
「イグニス様と話してればそう近寄れないしね」
最近やたら私を色んな場所に連れていくようになった。こうした待機を命じられることもあって、そういう時はきちんと待っていたのに。
アチェンディーテ公爵にお願いをするほど私は殿下から逃げ回っていない。それにこういった場では筆頭と呼べる侍女侍従しか並ばないから節操なく誘うような軽薄な下働きもいないと思う。
「じゃ、いこっか」
人前ではこれ以上は言えない。殿下に付き添ってバルコニーから去る時に先程の聞かされた第一皇子の婚約者を盗み見る。
護衛騎士を一人連れ室内に控えさせ、バルコニーでは歓声を浴びる女性、フィクタ・セーヌ・マジア侯爵令嬢。魔法を帝国民に見せてより周囲の声が大きくなる。見たところ魔法が使えるただ令嬢だった。
「?」
むしろ私が気になったのは室内で控えていた護衛騎士の方だった。あんな顔をしていただろうか。今度があれば、こっそり見て確認しておこう。
そんなことを考えながら殿下の後を追ってバルコニーを去った。
「そうそう、やっとできたからソミア連れていこうと思ってたんだ」
しかも傷心のユラレ伯爵令嬢と婚約までとりつけた。親善試合で皇弟殿下に許しを得たらしい。褒賞という形だろう。けどそれで彼女は納得したのだろうか。
「じゃあいってくるね。ここで待っててよ? どこか行っちゃ駄目だからね?」
「畏まりました」
バルコニーで第二皇子とユラレ伯爵令嬢の婚約発表とユラレ伯爵令嬢の騎士団副団長就任の御披露目が行われた。騎士服に身を包んだユラレ伯爵令嬢は凛として美しく、同性の私でもどきりとするぐらい格好良い。
「シレってば過保護だね」
そして今、なぜか私の隣にはアチェンディーテ公爵がいる。
「閣下は御披露目に参加しないのですか?」
「はは、誘われたけど断ったよ~。この国の皇族のことなんて関係ないし」
笑顔なのに結構辛辣にものを言う。
「そうそう、イルミナルクスに子供がいるんだけどさ」
勝手に話し始めた。その方が楽だから助かる。
「今すっごい熱出てるんだって~魔法使っても治んないの」
高らかに笑うけど、笑っている場合じゃないのでは? 子供の熱は危うい。ただでさえ原因不明で死ぬこともあるのに。
「なんか一度目覚めた時に面白いこと言ってね」
「面白いこと?」
「うん。国家連合の樹立について」
「国家連合」
「帝国含めてね」
国が横並びに繋がって利益を得て相互に発展するような形だったはず。商売でも横並びの形がある。
それを武力侵攻を行い続ける帝国を含めてやろうと? まだ小さな子供なのになぜそんなことが言えるのだろう?
「君は本当に聡明だねえ」
考えていることがばれた。この人は私が文字と数字を読めることを知っている。国家連合の単語が出た時点で知らないふりでもしていればよかった。
「君ならシレを任せられるなあ」
「え?」
「シレっていつもへらへらしてるでしょ?」
「ええと……」
肯定したら不敬だ。イエスと言いたい所だけど。
「君も本来の顔を隠す人間だから分かると思うけど、シレの笑顔は注意してね」
誤魔化してる時があるから。
辛い時程笑うし無理もする。そういう時に止めてあげたり注意できるのは私だけだと言う。
「そんなことは」
「シレも君の言葉なら耳に入ると思うんだあ」
愛は世界を救うからねとウインクされた。やることが胡散臭い。人好きする笑顔なのに、あまりにぐいぐいくるから少し身を引いた。
「アチェンディーテ公爵閣下が直接仰ればよろしいのでは?」
「まあ、そうだねえ」
と公爵がバルコニーに視線を送る。目の下にクマができていた。初めて会った時よりもやつれたような気もする。
「閣下、僭越ながら申し上げても?」
「畏まらなくていいってば。なあに?」
「直近の御身体の具合はいかがですか?」
嬉しそうに目が細められた。やっぱりいいねえと笑う。
けど返ってきたのは「大丈夫だよ」の一言だけだった。とてもそうは見えない。
「君にはこっそり伝えておくね」
「?」
「フィクタには気をつけて」
第一皇子の婚約者? ひそりと言われた言葉に、なぜと問おうとしたら私を呼ぶ声に遮られた。
「ソミア!」
「……殿下」
「お疲れ様、シレ」
「イグニス様、ソミアの監視ありがとうございます」
「どうってことないよ~」
「……え?」
笑い合う二人に対して私は驚きと呆れに言葉を失う。たかだか侍女一人に筆頭宰相の公爵を使うなんてありえない。
「私の監視?」
「まあ皇弟殿下に呼ばれてたのもあるけどね。あ、じゃ僕行くから~」
あっさり去っていくけど大問題なのでは? たとえ皇弟に呼ばれてこの後予定があったとしても立場上侍女の監視なんてするものではないはず。
「いくら殿下であってもアチェンディーテ公爵にお願いする内容ではないかと」
「ソミア一人だと誰かが声かけるかもしれないじゃん」
「殿下」
「イグニス様と話してればそう近寄れないしね」
最近やたら私を色んな場所に連れていくようになった。こうした待機を命じられることもあって、そういう時はきちんと待っていたのに。
アチェンディーテ公爵にお願いをするほど私は殿下から逃げ回っていない。それにこういった場では筆頭と呼べる侍女侍従しか並ばないから節操なく誘うような軽薄な下働きもいないと思う。
「じゃ、いこっか」
人前ではこれ以上は言えない。殿下に付き添ってバルコニーから去る時に先程の聞かされた第一皇子の婚約者を盗み見る。
護衛騎士を一人連れ室内に控えさせ、バルコニーでは歓声を浴びる女性、フィクタ・セーヌ・マジア侯爵令嬢。魔法を帝国民に見せてより周囲の声が大きくなる。見たところ魔法が使えるただ令嬢だった。
「?」
むしろ私が気になったのは室内で控えていた護衛騎士の方だった。あんな顔をしていただろうか。今度があれば、こっそり見て確認しておこう。
そんなことを考えながら殿下の後を追ってバルコニーを去った。
「そうそう、やっとできたからソミア連れていこうと思ってたんだ」
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