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8話

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「……」
「……」
帰る事にはなったものの、何を話していいのやら、面白いぐらい無言だ。
部活のメンツは皆帰ってて、より静か。
校門まで来て、彼女が止まるから、どうしたんだろうって向き直ると、ここでいいとか言ってきた。
「なんで?」
「瀬良、逆でしょ」
ここまででいいって、見送ったことにもならないだろ。
「俺見送るって言ったよな」
「大丈夫だって言ってるでしょ。家、近いし」
確かに俺は電車通学だから、駅の方に行きたい。
この前見送った道は駅とは逆、彼女は家がこの近所ぽいから、ここでいいとか。
なんのためにここまで…って、俺なんでこんな必死なんだよ。
テストのことはお礼ちゃんと言ったし…そりゃこれを機にプレゼントとかデートとか、そういう方向に持っていってもいいんだけど、彼女に対しては逆効果ぽいし。
「そういうことだから」
「待て」
あー…咄嗟とはいえ、彼女の手首をがっつり掴んでしまった。
当然、彼女は怒ってますって顔して俺に向かう。
こっちは善意で送ってるのに…いや多少の下心はあるけど、それでも俺こんなに抑えてじっくりやってるのに。
いつまでたってもこんな調子かよ。
「離して」
「やってみればいいじゃん」
挑発すると彼女はさらに怒った。
手を放そうと動くけど、そこはもちろん力で敵うはずがない。
びくともしないし、正直、こんな力弱いのにどうして振りほどこうとしたのか疑問。
「ほら」
掴んでた手首をこちらに引き寄せれば、バランス崩してこちら側によろけてくる。
驚いて見上げてくる彼女の目に少し怖がってる感じが見えて、すぐに手首を放した。
違う、確かにムキになったけど、怖がらせるのが目的じゃないし。
それでもついつい憎まれ口を叩いてしまうのは仕方ない。
「こんなんで襲われて逃げれるわけ?」
「……」
「返り討ちにだってできねえだろ」
「……」
「黙って送られろ」
「……わかった」
渋々と言った形でOKをもらった。
本当素直じゃない。
まぁ俺も少しやりすぎたかなとは思ってる。
手首大丈夫かと見ても暗くてよくわからなかった。
跡つかない程度の力だったと思うけど。
にしても、やっぱり手首の細さは女子らしい細さだ。華奢で折れそう。
しかも運動部でもない彼女は基礎筋肉ないから、尚更頼りなく見えるし、実際引き寄せた時の軽さときたら…って俺ってば何そんなさっきのこと思い出してんだろ。
なんてことない顔して、俺は彼女を見送りにかかった。

「……」
「……」
だいぶゆっくり歩いた。
彼女の歩みが遅かったのもあるけど、どうせ短い時間、少しでも一緒に歩きたかった…なんて思ってるとしたら、俺本当どうかしてるな。
「あのね」
「おう」
「私…知ってたんだ」
「なにを」
「鈴木くんに相手がいること」
「…え?!」
じゃああの許嫁のことも知ってたってわけ?てっきり、あの時初めて知ったんだと思ってたのに。
「…あの」
気まずそうな彼女は、随分とボリュームをさげて伝えてきた。
相手がいるのは鈴木くんから直接聞いてて、それでもずっと好きだった。
彼女を大事してて綺麗な笑みをする優しい鈴木くんが好きだって。
好きって気持ちを持ってるだけでいいと思ってたけど、改めて相手を見たら、やっぱり耐えられなかった。
あの時の鈴木くんを見て、奪おうとも思えなかった。
「そっか…」
「あの時泣けたから、すっきりしたの。瀬良のおかげよ」
これで諦めることができる、て、困ったように笑う。
強い。
鈴木くん相手にしてる時のきらきらとは違う、しっかりした強い光を感じた。
元々強気だとは思っていたけど、そういうとこじゃない。
失恋して泣いてぐずぐず立ち直れないばかりの女の子たちを見てきたけど、その中でも彼女はちょっと違う。
特に誤魔化そうと強がってるわけじゃない。
本当に彼女は、言葉通りすっきりして、先に進んでいるんだ。
恋してきらきらしてる以外で羨ましいって初めてその時思った。

「瀬良、ここでいいわ」
「え、でも」
「私の家、そこのマンション」
目の前の大きなマンションが彼女の住まいらしい。
確かに家の前まで行くのもおかしいか。
「…家に着いたら連絡するわ」
「え?」
「それならきちんと見送ったことになるでしょ」
連絡くるならなんでもいいと思って、頷く。
彼女は笑って、じゃあねと片手を上げて去っていった。
そのままマンション見てても変に思われるかと思って、俺も帰ることにして駅の方に向かう。
途中、通知の知らせが来てみれば、LONEに軽くスタンプが送られてきた。
鈴木くんの写真だけ送り続けてた歴に、やっと彼女からの発信が来た。
それだけなんだけど、なんだか嬉しくて。
スタンプ返しして端末をしまっても、なんだか顔が緩んでる気がした。
俺、もしかしておかしいのか?
だってこれはただの趣味のはずなのに。
いつもと何かが違う。
じっくりとその変化がわかってきた気がしたけど、俺はすぐにその考えをなかったことにした。
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