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2話

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図書室の常連になろうとしている。
もちろん、綿密にチェックして彼女が当番の日だけ入室して、雑誌を読みながら好機を図っている。
まぁつまり特段何もしてないっていうか。
わかったことは彼女の当番の曜日だけ。
幸い、ここ最近は少なからず予定入ってる仕事や部活と被る日じゃないから、通い続けることができてる。
でもこんなんでクリアできるわけがない。
鈴木くんへの思いを消す以前の問題だ。

(俺今回調子が悪いのかな…?)
休み時間、教室でぼんやり進捗の遅さについて考える。
そもそも鈴木くんのどこがいいんだかなぁ…。失礼なことを思いつつ鈴木くんを見る。
まぁ真面目だ。頭もそこそこいい。運動は並かな。地味で目立たないから女子の人気度も低い。
そんな鈴木くんを探すと、教室の扉の方にいた。
誰かと話してる…。
(って!)
彼女だ。
すごくきらきらして笑顔を鈴木くんに向けて。
プリントを渡していた。
そして2・3話してすぐ彼女は去って行った。
鈴木くんが席に戻る。
幸運なことに席順は出席番号順。つまり、鈴木くんは俺の前の席。
これはチャンスだ。
「鈴木くん」
「なんだい?」
「それ」
プリントを指さす。
察した鈴木くんはあぁと相槌を打って答えた。
「図書委員で今度蔵書点検があるんだ。その割り当てとスケジュールだよ」
「あ、じゃさっきの子も図書委員?」
「吉田さん?そうだよ。隣のクラスの図書委員だね」
苗字ゲットー。
「図書委員って意外と仕事多くて大変だね」
「そうかい?そうでもないよ」
今日は彼女の当番の日だ。
苗字ゲットを活かしてどうにかコマを進めよう。

* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *

放課後、俺は急いで図書室に向かった。今日は遅れて部活がある。
その間のわずかな時間だけど仕方ない。
図書室に入ると、彼女の姿はカウンターになく、司書の先生が座っていた。
あれ。
あたりを見回す。
放課後早い時間だからか人は本当数えるだけ。
そんな中、雑誌のコーナーで彼女を見つけた。
ゆっくり近づいていくと彼女はこちらに目を向けた。
真っ直ぐに。
「ども」
軽く会釈。彼女も合わせて会釈する。
そしていくつか抱えていた雑誌の中から1つだして、俺に向けた。
「新刊入りましたよ」
いつも読んでるスポーツ雑誌だった。
お?
もしかして、俺のこと覚えてくれた?
そんな顔をしていたのか彼女は言葉をつづけた。
「いつもその雑誌読まれてますよね」
伊達に常連してたわけじゃないってか。
これはチャンスだ。
「ありがとう!俺がこれ読んでるの覚えててくれたんだ?」
「はい。スポーツ、お好きなんですね」
あぁ、覚えててくれたのは有難いけど、本当に彼女は俺のこと知らないんだ。
そう思うと自尊心が傷つく。
知名度については自負してたんだけど。

「…俺のこと知らない?」
「え…」
そう言うと途端彼女は狼狽した。
「あ、えと、同じクラスじゃ、ないですよね…?」
そこなのかよ。
「隣のクラス」
「そうですか…どこかで会ったことありました?」
決定的だ。
本当に学校内で知らない人間いたなんて。
瀬良悠斗せらゆうと。モデルと俳優やってる」
「あ、そうなんですか」
部活のことも話すと、だからその雑誌、みたいなことを言われる。
え、そこなの?!
モデルとか俳優って聞いたらさ、え!?本当!?すごーい!とかならない?
そこからピンとこないわけ!?
「結構有名だと思ってたのに…」
「…はぁ…」
俺の発言に彼女は返答に困ったのか適当な相槌だった。
少し片眉動いたな。
ひきつったというべきか…。
「俺は吉田さんのこと知ってたのに」
「え…どうして」
「どうしてだと思う?」
含みを持たせて笑顔で言う。
大抵の女の子はこう言うとちょっと期待するらしい。少女漫画でありがちの展開なのかな?
そのへんはよくわからないけど、これだけ会話続いてるし、ここは攻め時だ。
すると。

「わかりません」
思っていた以上に冷たく返された。
がくっと肩の力が抜ける。
え?そこはどぎまぎして少し頬を赤くしてもいいんじゃないの?
呆れて彼女を見ると、オレから目線を外して、けだるそうにしていた。
あれ。
「というか…ちょっと気持ち悪い」
聞こえてるわ。
「え、何?」
「いいえ。では私はこれで」
「え、ちょっと」
あっさり去って行こうとするもんだから、思わず呼び止める。
不審がりながらも彼女は立ち止まり、こちらを向く。
案外律儀だ。
「…なんですか?」
「あ、えと……」
「用がなければ私はこれで」
冷たい。明らかに態度が最初と違う。
俺、女の子にこんな態度されたことないのに。
ちょっと本当イライラする。
「こっちが丁寧に自己紹介したのに、そんな態度とるわけ?」
あからさまにむっとされた。
こっちは名乗ってる手前、言い返せないらしい。
「…吉田優花よしだゆうかです」
つっけんどんにそう言って、彼女は今度は本当にカウンターの方へ去って行った。
今にみてろ。
こんなに自尊心傷つけられて、黙っているわけないだろ。
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