上 下
55 / 59

55話 結婚してください

しおりを挟む
「あっれ、終わってた?」
「ディーナ様!」
「シャーリーもいるよ」
「シャーリー様?!」

 再び謁見の間の扉が開いたと思ったら、ディーナ様とシャーリー様がいらした。

「ディーナ様、何故こちらへ?」
「カチコミって言うらしいよ。テュラが言ってた」
「ぶっ」

 パサウリス様が吹いた。魔法使い同士にしか分からない言葉らしい。

「ネカルタス王国からルール違反しようとしてる国があるから対応よろしくって言われちゃってね~! それがエーヴァも絡んでるって分かって来たってわけ」
「その話は終わりましたよ」

 バーツ様が呆れ気味に伝え、ディーナ様が「本当?!」と驚きつつも笑う。 

「二人なら大丈夫だって分かってた」

 でも、と続ける言葉は周囲の利権絡みの貴族たちにだった。

「折角ネカルタス王国が歩みよったのに横槍いれようなんて無粋だと思いません?」

 ネカルタスが望まない介入を続けるなら私の拳かネカルタスの魔法でぼこぼこにする、と断言されると水を打ったかのように静かになった。さすがディーナ様。

「エーヴァ」
「シャーリー様……」
「私もディーナ様もあなたのことを聞いて急いで来たの。でも何も必要なかったわね」
「そんなことありません」

 私にとってヒーローみたいなお二人が来てくれただけでこんなにも心強い。嬉しい気持ちで満たされる。

「ありがとうございます」
「結婚祝いで来た、みたいになったね。それはそれでよかったよ」
「ディーナ様もありがとうございます」

 いいって、と笑うディーナ様は次に王陛下に「話しようか?」と言って頷かせた。ソッケ王国はディーナ様に借りしかない。頷く以外の返事はないだろう。
 内容はネカルタス王国への密な関係作りを強硬しようとしたこと、ね。

「私の用事が終わったらになるんだけど、エーヴァこの後時間ある? バーツもだけど」
「大丈夫です。お待ちしてます」
「私からも話があります」

 バーツ様がそう言うとディーナ様の口元が弧を描き嬉しそうに瞳を輝かせた。

「バーツ、いい顔してる。すごく格好よくなった」
「え? 私が?」
「エーヴァのおかげだね。いいよ、リッケリのことでしょ。私が話したいのも同じだから」
「え?!」

 じゃあとでねと軽く手を振って陛下とシャーリー様と共に去っていった。
 まさかバーツ様がリッケリの領主をやめてフィーラ公爵家にとどまる話を知っているの? 先程いらしたばかりのはずなのに。察していたのならすごい力だ。さすがディーナ様。

「エーヴァ」
「アリス」
「暫く待つなら城の客室を使って」
「いいの?」
「ええ」

 案内されたのは私が政務で使っていた部屋だった。応接間兼用として使用していたのを執務関係を完全に別部屋にしたらしい。
 窓からの眺めも変わらないのに、ひどく懐かしく感じた。

「エーヴァ?」

 遠くを見つめる私の視線を追ってバーツ様が窓の外を見やる。
 隣に立つバーツ様が夕陽に照らされていた。瞳が反射して煌めいている。

「ここは私が仕事をしてた部屋だったんです」
「ここが……」

 周囲を見やり、再び窓の外へ視線を向ける。

「内装は変わりましたけど、ここからの景色は変わらないなと思って」
「……エーヴァにとって思い入れの深い場所なんだね」

 頷いて、もう一度窓の外を見た。
 今はバーツ様と二人きり。時間もある。
 話せる気がした。

「バーツ」

 窓の側、夕暮れの光を浴びる中でしっかり瞳をとらえる。

「好きです」

 まだ失う恐怖の不快感は残ってる。けど、抱えていける程小さくなった。バーツ様が私に向き合い待ってくれたからだ。

「僕もエーヴァが好きだよ」

 ずっと一緒に時間を歩みたい人だと甘く微笑む。

「私も一緒にいたいです」

 一緒に銀細工を作りたい。
 領地経営だって二人ならどこでもやれる自信があるし、銀をとりに東の大陸にだって行ける。 
 そう伝えるとバーツ様が笑った。

「はは、エーヴァとならなんでもできそう」
「それはこちらの台詞です」

 なら改めて。
 と、バーツ様が私の手をとった。

「僕と結婚してください」

 やっと応えられる。

「はい、喜んで」

 やっとバーツ様からの好きに応えられた瞬間だった。

「エーヴァ、いい?」
「……ふふ、聞かないでください」

 バーツ様の首に腕を回してぐいっと引き寄せる。耳元で「もう夫婦になるんですから好きな時にしていいんです」と囁いた。

「……うん」

 腕を緩め、お互いの距離近くで見つめあって笑い合う。そのまま静かに距離をなくし、唇が重なった。
 確かめ合うような口付けだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

婚約破棄を望む伯爵令嬢と逃がしたくない宰相閣下との攻防戦~最短で破棄したいので、悪役令嬢乗っ取ります~

甘寧
恋愛
この世界が前世で読んだ事のある小説『恋の花紡』だと気付いたリリー・エーヴェルト。 その瞬間から婚約破棄を望んでいるが、宰相を務める美麗秀麗な婚約者ルーファス・クライナートはそれを受け入れてくれない。 そんな折、気がついた。 「悪役令嬢になればいいじゃない?」 悪役令嬢になれば断罪は必然だが、幸運な事に原作では処刑されない事になってる。 貴族社会に思い残すことも無いし、断罪後は僻地でのんびり暮らすのもよかろう。 よしっ、悪役令嬢乗っ取ろう。 これで万事解決。 ……て思ってたのに、あれ?何で貴方が断罪されてるの? ※全12話で完結です。

母と妹が出来て婚約者が義理の家族になった伯爵令嬢は・・

結城芙由奈@12/27電子書籍配信
恋愛
全てを失った伯爵令嬢の再生と逆転劇の物語 母を早くに亡くした19歳の美しく、心優しい伯爵令嬢スカーレットには2歳年上の婚約者がいた。2人は間もなく結婚するはずだったが、ある日突然単身赴任中だった父から再婚の知らせが届いた。やがて屋敷にやって来たのは義理の母と2歳年下の義理の妹。肝心の父は旅の途中で不慮の死を遂げていた。そして始まるスカーレットの受難の日々。持っているものを全て奪われ、ついには婚約者と屋敷まで奪われ、住む場所を失ったスカーレットの行く末は・・・? ※ カクヨム、小説家になろうにも投稿しています

【1/21取り下げ予定】悲しみは続いても、また明日会えるから

gacchi
恋愛
愛人が身ごもったからと伯爵家を追い出されたお母様と私マリエル。お母様が幼馴染の辺境伯と再婚することになり、同じ年の弟ギルバードができた。それなりに仲良く暮らしていたけれど、倒れたお母様のために薬草を取りに行き、魔狼に襲われて死んでしまった。目を開けたら、なぜか五歳の侯爵令嬢リディアーヌになっていた。あの時、ギルバードは無事だったのだろうか。心配しながら連絡することもできず、時は流れ十五歳になったリディアーヌは学園に入学することに。そこには変わってしまったギルバードがいた。電子書籍化のため1/21取り下げ予定です。

闇黒の悪役令嬢は溺愛される

葵川真衣
恋愛
公爵令嬢リアは十歳のときに、転生していることを知る。 今は二度目の人生だ。 十六歳の舞踏会、皇太子ジークハルトから、婚約破棄を突き付けられる。 記憶を得たリアは前世同様、世界を旅する決意をする。 前世の仲間と、冒険の日々を送ろう! 婚約破棄された後、すぐ帝都を出られるように、リアは旅の支度をし、舞踏会に向かった。 だが、その夜、前世と異なる出来事が起きて──!? 悪役令嬢、溺愛物語。 ☆本編完結しました。ありがとうございました。番外編等、不定期更新です。

完結一話追加:囲われサブリナは、今日も幸せ

ジュレヌク
恋愛
 サブリナは、ちょっと人とは違う特技のある公爵令嬢。その特技のせいで、屋敷から一歩も出ず、限られた人とのみ接する読書漬け生活。  一方のクリストファーは、望まれずに産まれた第五王子。愛を知らずに育った彼は、傍若無人が服を着て歩くようなクズ。しかも、人間をサブリナかサブリナ以外かに分けるサイコパスだ。  そんな二人が出会い、愛を知り、婚約破棄ごっこを老執事と繰り返す婚約者に驚いたり、推理を働かせて事件を解決したり、ちょっと仲間も増やしたりしつつ、幸せな囲い囲われ生活に辿り着くまでのお話。 なろうには、短編として掲載していましたが、少し長いので三話に分けさせて頂きました。

【完結済】私、地味モブなので。~転生したらなぜか最推し攻略対象の婚約者になってしまいました~

降魔 鬼灯
恋愛
マーガレット・モルガンは、ただの地味なモブだ。前世の最推しであるシルビア様の婚約者を選ぶパーティーに参加してシルビア様に会った事で前世の記憶を思い出す。 前世、人生の全てを捧げた最推し様は尊いけれど、現実に存在する最推しは…。 ヒロインちゃん登場まで三年。早く私を救ってください。

悪役令嬢に転生して主人公のメイン攻略キャラである王太子殿下に婚約破棄されましたので、張り切って推しキャラ攻略いたしますわ

奏音 美都
恋愛
私、アンソワーヌは婚約者であったドリュー子爵の爵士であるフィオナンテ様がソフィア嬢に心奪われて婚約破棄され、傷心…… いいえ、これでようやく推しキャラのアルモンド様を攻略することができますわ!

幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。

秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚 13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。 歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。 そしてエリーゼは大人へと成長していく。 ※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。 小説家になろう様にも掲載しています。

処理中です...