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52話 私を利用してください

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「私はただ単純に愛した人と婚姻したいだけですが、バーツ様との婚姻はソッケ・ドゥエツ両国間においても大変意義のあることだと考えいています。二国間だけではありません。キルカス王国からも銀細工師は今後排出されるでしょう。銀細工を通して三国間が親密な関係を築ける一助になれると確信しております」

 特に、私は政務を担当していたから、こと政に関して顔が知れている。公にすればするほどアピールすることができるわけだ。
 王陛下が「成程」と自身の髭をなぞりながら頷く。私はさらに続けた。

「先の戦争のきっかけとも言える当時のエネフィ公爵令嬢の追放と、根も葉もない長女が災いであるという噂、加えて体調不良を及ぼした魔法薬の広まりはソッケ王国のルーラという令嬢から始まったものでしたね」
「……ああ」

 ソッケ王国が始まりともとれる。こればかりは各国からの心象が良くない。

「その汚名を払拭するためには自国がネカルタス王国と密接になるよりも、三国の良好な関係作りからされていくのがよろしいかと存じます」

 王に意見するとはと非難する声が聞こえたが無視した。
 ここにいる全員が図星のはずよ。
 戦争に至る以前のことは止められるはずだったものなのだから。第二王子を唆しのたのはシャーリー様の義妹ルーラだろうけど、第二王子を止めるべきはこの王城にいた全ての人間たちだろう。

「ネカルタス王国は平等に六ヶ国に特使または婚姻相手を提示しました。それ以上の関係強化はネカルタス王国を独占したいと各国に映りかねません。となれば、まず最初にネカルタス王国以外の各国と友好関係を強化するつもりである意思表示をした方が良い。特に宣戦布告を行ってしまったドゥエツ・キルカス両国には殊更気を遣うべきかと存じます」
「……その通りだな」

 王陛下も思うことがあるのだろう。挙げ句「息子に同じこと言われた」と言った。どうやら第一王太子は第二王子と比べてはるかに見込みがあるようね。

「今回、ネカルタス王国特使アピメイラ公爵の相手として私をお呼びになったのは、シャーリー様の一件で関わりがある人間だったからだと考えておりますがお間違いないでしょうか」
「そうだ」
「それを基準に考えて人選したのであれば、やめるべきです」

 なんだと、と外野がざわついた。きっと私を相手にと推薦した貴族の一人だろう。

「あからさまにあの出来事の払拭を狙うと民の反感を買う可能性があります。全く関係ないところからお相手を選出すべきです。国民は私達が行うことの意図を私たちが思うよりも深く察し理解しています。ご機嫌取りと捉えられてもおかしくないことは避けた方が無難でしょう」
「……つまり、我々王族が君たち二人の婚姻を認めることで、ドゥエツ・ソッケ間は良好であると国民はすぐ分かるということかな?」
「ええ。陛下の仰る通りですわ」

 特に商売界隈は銀細工関係の流通貿易で利益を得るだろう。確実で喜んでくれる。
 またここに鉱石を加えることでさらに利が見込めるはずだ。
 庶民も手にしやすい価格帯のものの流通を考慮すれば、貴族から庶民まですべてを活気づけることが可能となる。

「成程」
「加えて申し上げますと、私がネカルタス王国の特使と婚姻することで、私が政に戻るという選択肢もあったかと思いますが、それは断じてありえません」
「というと?」
「私は当時のエネフィ公爵令嬢に私的に雇われる形で政務についていました。無理に私を再雇用したとしてエネフィ公爵令嬢派への点数稼ぎだと不興を買う可能性があります。これは政界内の改革が済んでいても起こりうる懸念です。まっさらで新しい印象の方が国民への反発も防げますし、かつての出来事を思い出してしまう人物は採用しない方が安全でしょう」

 第二王子もルーラもいない。第一王太子を先頭に改革を打って出ているなら、それを推し進め、人事は刷新した方がいいだろう。
 アリスはまだ政務についているけど表立つことはない仕事を請け負っているし、かつては私がシャーリー様の側で表立つことが多かった。アリスが政に関わることはいいとしても、私はやめといた方がいいことはきちんとアピールしておかないとね。

「王陛下、私を利用してください」
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