46 / 59
46話 銀細工師を認める
しおりを挟む
「銀細工師筆頭として、エーヴァ嬢を失うのは辛い。どんな形でも結構です。是非銀細工師としての活動をお許しいただきたい。私からもお願いいたします」
バーツ様が頭を下げる。
御父様が顔を上げるよう伝えてバーツ様はゆっくり顔を上げた。その時、私の方を見て目があって微笑まれる。どきりと心臓が跳ねた。
「伝統工芸は銀細工に問わず、保護するようにと三国間で決まっている」
「御父様?」
ディーナ様から聞いたらしい。
「文化を淘汰するのは我々ソッケ王国の歴史を淘汰するのと同じだ」
消えゆくものが後々大きく影響することもある。銀細工は特に銀の加工という点で文化に貢献できるはずだ。
「我々はずっと国に従事するのが最善で、家を守るために家業を継いでいくのが最終地点だと思っていた」
「御父様……」
「そこに当人の意志は関係ないと思っていたよ」
エーヴァは何度も銀細工のことを伝えてくれた。それに見向きもせず、聞く耳も持たず、ずっとフィーラ家にとっての慣習しか見てこないままだった。そう御父様は言う。
御父様は苦く笑い、続けて「すまない」と謝った。
「周囲に聞いてみれば銀細工を紹介され、その出来の良さに驚いたと言われたよ。全て二人を称賛するものだった」
銀細工ごときなんて言う人間はどこにもいなかった。
その時、御父様は自分の見識が狭いことを知り、己を恥じたらしい。
自分の中で納得していない部分もある。けど、自分で考え自分で動ける大人になったのであれば、選ぶのは私だと言う。
認めよう、と御父様が静かに告げた。
「銀細工師になることを認める。気が済むまでやってみなさい」
「御父様! ありがとうございます!」
銀細工を作ってもいい。
バーツ様の元で学び続けることができる。
なんて幸せだろう。私はまだ銀細工を作れる!
「お姉様!」
まだ話がありそうな御父様を遮って、妹のシャーラが部屋に飛び込んできた。
「シャーラ、ノックをして許しを得てから入りなさい」
話は終わってないんだぞと窘めるも、シャーラはどこ吹く風だ。
「お父様がお姉様のしたいことを認めれば終わりでしょう? ねえ、お姉様」
「確かに銀細工を認めてもらえればいいのだけど」
私も応援しますと喜ぶシャーラ。私がこの家を出ていく時に応援してくれた。
うまいことを家を出られたのはシャーラのおかげだ。
「お姉様、お願いがあるんです」
「ええ、どうかして?」
「一年だけでいいので、私に家業のことを教えてください」
だから、そのために一時的に銀細工師と家業を同時進行してもらえないか、ということだった。
御父様が苦々しく加える。
「それはこれから私が言おうと思っていたのだが……まあいい。私とメーペスは第一王太子殿下に随伴し、流通貿易の拠点を回る予定でな。家に全くいないわけではないが、教える時間があまりないのだよ。だからエーヴァから教えてやってほしい」
「私は構いませんが」
「嬉しいです! 私、やりたいと思ったこともあって、それもお姉様から話を聞きたくて」
「そうなの?」
「お姉様の御師匠様もよろしいでしょう?! お二人でこちらに来ればいいんです!」
「シャーラ、だめよ。バーツ様は元々諸島リッケリの領主だから長い間はこちらにいられないわ」
けど、お二人を引き離すなんてできない、とシャーラが強く主張した。
「それじゃあ、お姉様が銀細工を学べません!」
「そしたら通う形をとるのがいいかしら」
バーツ様は好きな方を選んでいいと微笑んでくれる。
「お姉様、私はお姉様から家業を学びたいんです。でもお姉様の夢の邪魔もしたくないんです。もちろん、お姉様の御師匠様の邪魔もしたくありません」
「そうなるといい落としどころが、ね……」
「エーヴァ、ループト公爵令嬢に頼んでみるかい?」
「え?」
「代理領主を続けてもらうってこと」
セモツ国との会談を何度も開催しようとする場合、諸島リッケリは非常に好都合らしい。トゥ島に会談用の大きな施設があるからだ。
それならしばらくディーナ様に諸島リッケリの代理領主をしていただく形でもいけそうな気がする。もっとも、普通に頼んでもディーナ様は笑顔で了承してくれると思うけど。
「なら、一度ディーナ様に頼んでみてもよろしいですか?」
「勿論。手紙を書くよ」
「わあ! 嬉しいです!」
「シャーラ、まだ本決まりではないのよ」
臨時で妹に家業を教えるのがうまくまとまりそうな時、再び応接間の扉が勢いよく開かれた。
「エーヴァ! 来ていると聞いたぞ!」
忘れかけていたし、正直もう二度と会うこともないと思っていたのに易々と現れる。
「え?」
「な……」
「……ヒャールタ・グング……」
バーツ様が頭を下げる。
御父様が顔を上げるよう伝えてバーツ様はゆっくり顔を上げた。その時、私の方を見て目があって微笑まれる。どきりと心臓が跳ねた。
「伝統工芸は銀細工に問わず、保護するようにと三国間で決まっている」
「御父様?」
ディーナ様から聞いたらしい。
「文化を淘汰するのは我々ソッケ王国の歴史を淘汰するのと同じだ」
消えゆくものが後々大きく影響することもある。銀細工は特に銀の加工という点で文化に貢献できるはずだ。
「我々はずっと国に従事するのが最善で、家を守るために家業を継いでいくのが最終地点だと思っていた」
「御父様……」
「そこに当人の意志は関係ないと思っていたよ」
エーヴァは何度も銀細工のことを伝えてくれた。それに見向きもせず、聞く耳も持たず、ずっとフィーラ家にとっての慣習しか見てこないままだった。そう御父様は言う。
御父様は苦く笑い、続けて「すまない」と謝った。
「周囲に聞いてみれば銀細工を紹介され、その出来の良さに驚いたと言われたよ。全て二人を称賛するものだった」
銀細工ごときなんて言う人間はどこにもいなかった。
その時、御父様は自分の見識が狭いことを知り、己を恥じたらしい。
自分の中で納得していない部分もある。けど、自分で考え自分で動ける大人になったのであれば、選ぶのは私だと言う。
認めよう、と御父様が静かに告げた。
「銀細工師になることを認める。気が済むまでやってみなさい」
「御父様! ありがとうございます!」
銀細工を作ってもいい。
バーツ様の元で学び続けることができる。
なんて幸せだろう。私はまだ銀細工を作れる!
「お姉様!」
まだ話がありそうな御父様を遮って、妹のシャーラが部屋に飛び込んできた。
「シャーラ、ノックをして許しを得てから入りなさい」
話は終わってないんだぞと窘めるも、シャーラはどこ吹く風だ。
「お父様がお姉様のしたいことを認めれば終わりでしょう? ねえ、お姉様」
「確かに銀細工を認めてもらえればいいのだけど」
私も応援しますと喜ぶシャーラ。私がこの家を出ていく時に応援してくれた。
うまいことを家を出られたのはシャーラのおかげだ。
「お姉様、お願いがあるんです」
「ええ、どうかして?」
「一年だけでいいので、私に家業のことを教えてください」
だから、そのために一時的に銀細工師と家業を同時進行してもらえないか、ということだった。
御父様が苦々しく加える。
「それはこれから私が言おうと思っていたのだが……まあいい。私とメーペスは第一王太子殿下に随伴し、流通貿易の拠点を回る予定でな。家に全くいないわけではないが、教える時間があまりないのだよ。だからエーヴァから教えてやってほしい」
「私は構いませんが」
「嬉しいです! 私、やりたいと思ったこともあって、それもお姉様から話を聞きたくて」
「そうなの?」
「お姉様の御師匠様もよろしいでしょう?! お二人でこちらに来ればいいんです!」
「シャーラ、だめよ。バーツ様は元々諸島リッケリの領主だから長い間はこちらにいられないわ」
けど、お二人を引き離すなんてできない、とシャーラが強く主張した。
「それじゃあ、お姉様が銀細工を学べません!」
「そしたら通う形をとるのがいいかしら」
バーツ様は好きな方を選んでいいと微笑んでくれる。
「お姉様、私はお姉様から家業を学びたいんです。でもお姉様の夢の邪魔もしたくないんです。もちろん、お姉様の御師匠様の邪魔もしたくありません」
「そうなるといい落としどころが、ね……」
「エーヴァ、ループト公爵令嬢に頼んでみるかい?」
「え?」
「代理領主を続けてもらうってこと」
セモツ国との会談を何度も開催しようとする場合、諸島リッケリは非常に好都合らしい。トゥ島に会談用の大きな施設があるからだ。
それならしばらくディーナ様に諸島リッケリの代理領主をしていただく形でもいけそうな気がする。もっとも、普通に頼んでもディーナ様は笑顔で了承してくれると思うけど。
「なら、一度ディーナ様に頼んでみてもよろしいですか?」
「勿論。手紙を書くよ」
「わあ! 嬉しいです!」
「シャーラ、まだ本決まりではないのよ」
臨時で妹に家業を教えるのがうまくまとまりそうな時、再び応接間の扉が勢いよく開かれた。
「エーヴァ! 来ていると聞いたぞ!」
忘れかけていたし、正直もう二度と会うこともないと思っていたのに易々と現れる。
「え?」
「な……」
「……ヒャールタ・グング……」
3
お気に入りに追加
59
あなたにおすすめの小説

「君を愛するつもりはない」と言ったら、泣いて喜ばれた
菱田もな
恋愛
完璧令嬢と名高い公爵家の一人娘シャーロットとの婚約が決まった第二皇子オズワルド。しかし、これは政略結婚で、婚約にもシャーロット自身にも全く興味がない。初めての顔合わせの場で「悪いが、君を愛するつもりはない」とはっきり告げたオズワルドに、シャーロットはなぜか歓喜の涙を浮かべて…?
※他サイトでも掲載中しております。
母と妹が出来て婚約者が義理の家族になった伯爵令嬢は・・
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
全てを失った伯爵令嬢の再生と逆転劇の物語
母を早くに亡くした19歳の美しく、心優しい伯爵令嬢スカーレットには2歳年上の婚約者がいた。2人は間もなく結婚するはずだったが、ある日突然単身赴任中だった父から再婚の知らせが届いた。やがて屋敷にやって来たのは義理の母と2歳年下の義理の妹。肝心の父は旅の途中で不慮の死を遂げていた。そして始まるスカーレットの受難の日々。持っているものを全て奪われ、ついには婚約者と屋敷まで奪われ、住む場所を失ったスカーレットの行く末は・・・?
※ カクヨム、小説家になろうにも投稿しています

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!
みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した!
転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!!
前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。
とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。
森で調合師して暮らすこと!
ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが…
無理そうです……
更に隣で笑う幼なじみが気になります…
完結済みです。
なろう様にも掲載しています。
副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。
エピローグで完結です。
番外編になります。
※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。
【完結】アラサー喪女が転生したら悪役令嬢だった件。断罪からはじまる悪役令嬢は、回避不能なヤンデレ様に溺愛を確約されても困ります!
美杉。祝、サレ妻コミカライズ化
恋愛
『ルド様……あなたが愛した人は私ですか? それともこの体のアーシエなのですか?』
そんな風に簡単に聞くことが出来たら、どれだけ良かっただろう。
目が覚めた瞬間、私は今置かれた現状に絶望した。
なにせ牢屋に繋がれた金髪縦ロールの令嬢になっていたのだから。
元々は社畜で喪女。挙句にオタクで、恋をすることもないままの死亡エンドだったようで、この世界に転生をしてきてしあったらしい。
ただまったく転生前のこの令嬢の記憶がなく、ただ状況から断罪シーンと私は推測した。
いきなり生き返って死亡エンドはないでしょう。さすがにこれは神様恨みますとばかりに、私はその場で断罪を行おうとする王太子ルドと対峙する。
なんとしても回避したい。そう思い行動をした私は、なぜか回避するどころか王太子であるルドとのヤンデレルートに突入してしまう。
このままヤンデレルートでの死亡エンドなんて絶対に嫌だ。なんとしても、ヤンデレルートを溺愛ルートへ移行させようと模索する。
悪役令嬢は誰なのか。私は誰なのか。
ルドの溺愛が加速するごとに、彼の愛する人が本当は誰なのかと、だんだん苦しくなっていく――

処刑から始まる私の新しい人生~乙女ゲームのアフターストーリー~
キョウキョウ
恋愛
前世の記憶を保持したまま新たな世界に生まれ変わった私は、とあるゲームのシナリオについて思い出していた。
そのゲームの内容と、今の自分が置かれている状況が驚くほどに一致している。そして私は思った。そのままゲームのシナリオと同じような人生を送れば、16年ほどで生涯を終えることになるかもしれない。
そう思った私は、シナリオ通りに進む人生を回避することを目的に必死で生きた。けれど、運命からは逃れられずに身に覚えのない罪を被せられて拘束されてしまう。下された判決は、死刑。
最後の手段として用意していた方法を使って、処刑される日に死を偽装した。それから、私は生まれ育った国に別れを告げて逃げた。新しい人生を送るために。
※カクヨムにも投稿しています。

妹がいなくなった
アズやっこ
恋愛
妹が突然家から居なくなった。
メイドが慌ててバタバタと騒いでいる。
お父様とお母様の泣き声が聞こえる。
「うるさくて寝ていられないわ」
妹は我が家の宝。
お父様とお母様は妹しか見えない。ドレスも宝石も妹にだけ買い与える。
妹を探しに出掛けたけど…。見つかるかしら?

義妹が大事だと優先するので私も義兄を優先する事にしました
さこの
恋愛
婚約者のラウロ様は義妹を優先する。
私との約束なんかなかったかのように…
それをやんわり注意すると、君は家族を大事にしないのか?冷たい女だな。と言われました。
そうですか…あなたの目にはそのように映るのですね…
分かりました。それでは私も義兄を優先する事にしますね!大事な家族なので!
転生モブは分岐点に立つ〜悪役令嬢かヒロインか、それが問題だ!〜
みおな
恋愛
転生したら、乙女ゲームのモブ令嬢でした。って、どれだけラノベの世界なの?
だけど、ありがたいことに悪役令嬢でもヒロインでもなく、完全なモブ!!
これは離れたところから、乙女ゲームの展開を楽しもうと思っていたのに、どうして私が巻き込まれるの?
私ってモブですよね?
さて、選択です。悪役令嬢ルート?ヒロインルート?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる