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35話 和解

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「御祖父様が祝いだとくれたのに返してしまった」

 バーツ様の御両親の婚姻を祝してバーツ様の御祖父様は記念の品を作った。けど、当時御祖父様に反発していた御両親は突っ返してしまったと言う。

「そうでしたか」 
「すまない。どうしても父と折り合いがつかなかった」
「いいえ」

 自分も似たようなものだとバーツ様がぎこちなく笑った。

「覚えていてくれて嬉しいです」
「バーツ……」

 今まですまなかった。
 御両親から謝罪の言葉が紡がれる。
 許されるとは思っていない。それだけ向き合ってこなかった、とも。

「銀細工師として大成しているが、さらなる成功のために手伝わせてほしい。これは毎日つけよう」

 アクセサリーピンをつける。

「……銀細工を認めてもらえるだけで充分です」
「そうか」

 急には無理だろうけど、これから少しずつやり取りできればと御両親が遠慮がちに笑った。バーツ様は再びぎこちなく微笑んだ。はい、とはっきり返事をしたから大丈夫だろう。

「よかったね」
「ディーナ様」

 家族三人で話すバーツ様を見ているとディーナ様が声をかけてくれる。
 バーツ様も御両親も元々和解はしたかったように見えた。そこに祖父という共通人物が入り共有できたからここまでこれたのかもしれない。バーツ様の贈った銀細工に御両親が気づかなかったら、バーツ様は心を閉ざしていた可能性もある。かなりの賭けだった。

「ていうか、私いなくてもエーヴァのおかげで解決できてたね?」
「いいえ、そんなことありません」

 これはバーツ様が自分で動くと決めた結果だ。

「バーツも確かに頑張ったけど、エーヴァも動いてくれたから今がある。二人の成果だよ」
「二人、の……」
「そうそう」

 自信もって、とディーナ様が笑う。
 ああ、この人には敵わない。
 再びモヤモヤした何かが胸を覆う。

「ありがとうございます」

 バーツ様が違うと言っているのに。
 自分とディーナ様を比べてしまう。
 どうしたって敵わないのに。

「そういえば、まだソッケに残って銀とってく?」
「はい。辺境伯と独自の契約を締結して、長居はせずになるたけ早くにリッケリに戻る予定でバーツ様は考えています」
「いいよ。折角だからゆっくりしてきなって」
「ですがリッケリをこれ以上ディーナ様にお任せするのも」
「大丈夫。今日は婚姻の手続きに来たついでだし、もうすぐセモツとリッケリで会談だから」
「え? セモツ? 会談? 婚姻?」

 情報が多すぎて混乱したけど婚姻は祝い事だ。「おめでとうございます」とだけかろうじて言えた。まさか直近の戦争で戦ったせモツ国と会談なんて想像できない。けどディーナ様なら、ディーナ様だからやるのだろう。

「ありがとう。エーヴァんとこもうまくいくといいね」
「えっ、私ですか?!」

 突然の振りにどぎまぎしてしまった。

「あ、進展なし?」

 やぶへびだったねごめんと軽く言われ話を変えられる。さすがディーナ様だ。話をしてこんなに爽やかなのはディーナ様だから。

「たぶん私が臆病すぎるだけです」
「臆病?」
「はい。失うのが怖くて動けないんです」

 あるよね、とディーナ様は少し遠くを見た。
 ディーナ様が怖い? 動けないなんてあるのだろうか。
 私の視線で察したディーナ様が苦笑する。

「私も怖くてヴォルムに応えられなかったよ」
「ディーナ様が?」
「うん。気づくのに時間かかったんだよね。でもヴォルムが一緒に悲しんでくれるし、怖さも共有するからって言ってくれた」

 ずっと支えてもらってた。もちろん今も支えてもらってる。
 目を細めて笑うディーナ様の表情が全ての答えだった。
 頬を少し染めて、瞳を滲ませ、愛しい人のことを語る。

「すみません」
「あ!」
「ヴォルム」

 ディーナ様のお相手の元護衛騎士現夫がディーナ様の後ろで咳ばらいをした。
 恥ずかしいのか目を泳がせ、そわそわしている。

「わざと言った」
「……ディーナ」

 あなたって人はと頭を抱えた。けどディーナ様がとても楽しそう。お二人はこういう気兼ねない仲なのね。

「エーヴァもなにかあったら私を呼んで。行くから」
「ありがとうございます」

 それじゃバーツんとこも解決したし、やろっか! とまた違った笑顔を出した。

「何をですか?」
「銀細工宣伝」

 当たり前じゃん! と私の手を取るディーナ様に「ディーナ、いけませんよ」と窘めてくるディーナ様の夫。
 私の手をとったまま、いいじゃんとごねるディーナ様はしばらくお説教を受けた。

「……ふふ」
「エーヴァ?」
「ああ、すません」

 本当にお強い方だ。
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