婚約破棄された家出令嬢の私、大好きな人に弟子入り! 溺愛は全然必要ありません!

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18話 怪しい使者と接触

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「こんにちは」
「エーヴァ嬢! 今日は領主様と一緒じゃないんですね」
「あんた、海賊がエン島に出たってフィスキルさん言ってたでしょ」
「そいやそうだったな」

 話が早い。

「そうなんです。なのでバーツ様がお帰りになった時にお迎えするお茶をと思いまして」
「はー、なるほど!」

 茶葉を見繕ってもらう間に周囲を確認すると、丁度会計のカウンター付近に例の小瓶が置いてあったので探りをいれる。

「こちらは新商品ですか?」
「それは先程本土の使者様がいらして、流行の体調不良予防に紅茶にいれるといいって言ってましたわ。香料と同じだそうです」

 しかも領民に渡せるようすぐに大量入荷してくれるらしい。

「手際がよすぎる」
「え?」
「あ、いいえ。実は私、故郷に医療に詳しい者がいるんですが、香料の話は聞いたことがなくて。他国の情報も早い方で、昨日の手紙で対応策がないと聞いていたので不思議な感じがして」

 通常流通するまでには時間がかかる。国の承認があるからだ。けど、そのへんはピンとこないようだった。

「まあ確かに特効薬なんて話は聞かんすね」
「それにバーツ様はその話を御存知ないんです。本土の使者の方とはいえ、バーツ様が使者の方から話を聞いた上で了承しない限り使うのはよろしくないのでは?」
「確かに」
「使者様、話は後でするから問題ないとも言ってましたね。いくらエン島のことがあっても領主様通さないのはねえ……」

 使者に対して疑念が生まれた。そう、いくら本土王城から派遣されたと言っても、諸島リッケリの領主はバーツ様で決定権は王命でない限り当然バーツ様にある。確認を後にすることは本土の人間でもしない。領民は領主との結びつきが深く、領主の言うことを信じる民が多いからだ。その慣習をあえて破った。
 ほんの少しのちぐはぐ、違和感。これが二人の中で生まれたならもう大丈夫。

「本来ならループト公爵令嬢が説明をしにきそうな案件ですのに、違う方がいらしたのも気になります」
「そうなんだよなあ。どんなに忙しくてもディーナ様は自ら来るし」
「まあ! それならなおさら気になりますね。バーツ様に確認をとってみましょう」

 その上で周知させていただきます、と伝えれば二人は頷いた。挙げ句他の領民にも伝えてくれると言う。

「ありがとうございます」

 これで使者の怪しい動きは少し抑えることができたはずだ。さすがに私に権限はないから回収や差止めはできないけど、明らかに安全であると確約するまでの時間稼ぎにはなった。

「……やっぱり一度接触が必要ね」

 島の小さな港町、領民に聞き取りをすればすぐに使者の場所は知れた。
 船着き場付近で積み荷の確認をし、積まれた箱が運ばれていく。恐らくあれが香料だ。
 使者が一人になった隙に声をかけた。

「失礼いたします」

 念のため頭を下げて礼をとる。本当に貴族だった時、礼を欠いたとバーツ様が責められない為にだ。

「お顔を上げて下さい。どなたか存じませんが、私は頭を下げられる身分の者ではありません」
「本土からの使者様と聞いておりましたので」
「その通りですが、そこまでされる程ではありませんよ」
「お気遣い痛み入ります」

 顔を上げ対面してみると、執事と呼ぶにはやけに堂々としていた。ドゥエツ王国は政に関して割と決められた型の服を着る傾向があるけど、身なりはドゥエツ王国の使者がよく着るタイプの服だ。

「御用でしょうか」
「いいえ。本土からいらした使者様にお会いしたかっただけです」

 笑顔で伝えると視線が一瞬泳いだ。この挨拶だけで考えを張り巡らせるなんて何かあると言っているようなものね。

「私に?」
「ええ……実は私、知り合いがおりまして……」

 はっきり言ってみよう。この手は直接的な方が揺さぶられやすい。

「ルーレという名を持つ者は政務担当にいない、と聞いております」

 笑顔が崩れず、真っ直ぐこちらを見ている。

「私が聞いた話では、ルーレという名はただ一人、執事として王城にいると……」
「……」

 相手が口を開かないので私は言葉を続けた。

「ドゥエツ王国は慣習として執事や侍従には要職を与えません」
「……」

 敢えて直近慣習は覆ったかもしれないことは言わない。そう言われても私が否定するとこの使者は分かっている。慣習が覆り使者となったと言われれば、任命された時の正式な証書を出すよう私が言い返すからだ。予想される私の返事が苦しい故の無言。私はさらに続けた。

「加えて、このような緊急事態ではループト公爵令嬢が必ず来る。どんなに多忙でも情報さえ入ればお越しになるはず」

 なぜお前がここにいる?
 言い方は悪いけど私が言いたいのはそういうことだ。
 ループト公爵令嬢の件は鎌をかけた形だけど、この状況なら彼女は絶対他人任せにしない。
 考えられるのはループト公爵令嬢はキルカス王国で足止めをくらうような何かに巻き込まれているか、情報自体が彼女の耳に入ってないかのどちらかだ。

「随分とお詳しいんですね」

 陽に照らされた使者ルーレの笑顔が歪む。笑っていることにかわりないのにひどく醜悪だ。

「……貴方は誰ですか?」
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