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16話 銀細工作り

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「金糸を使った細工はあるけど銀糸と混じえて使うのは見ない」
「ありがとうございます!」
「糸を作る段階で銀箔と金箔を混ぜた?」
「その通りです! さすがバーツ様!」
「こっちは色彩箔?」
「はい!」
「ここの色合いは酸化?」
「そうです!」

 バーツ様すごすぎ。すぐに私の作品を理解してくれる。

「銀の酸化を使ってグラデーションにしたのか」
「私の意図してることを理解くださるなんて! 好きです!」
「では今日も基本的なデザインの作成からやろう」

 そっけないところもたまらない。

「はい! バーツ様、どの程度作品を作ってから銀糸作りに入るのでしょう?」

 私が銀糸を作ろうとすると、どうしても均一な細さを保てない。銀糸の話は既にしているけど、銀糸がより極細の細工を作るのに必要だと基本のデザインから分かった。だから糸は非常に重要だし、早い内にやりたい。

「ソッケ王国の新しい銀でやろうと思ってて」
「新しい?」
「加工しやすいそうだよ。新しい銀を手に入れる頃には基本は大方終わるだろうし」

 確かにここに来た当初その話をした。バーツ様へ弟子入りした喜びで失念していたけど、ソッケ王国にいた頃に素材が出たとは聞いていた。けど、ソッケ王国は復興最優先で採取場はそのままだったはず。
 銀や鉱石の発掘は後回しで、頓挫したままと聞いていたけど……まさかこの情報、どこかでいじられてる? アリスに確認した方がいいかもしれない。

「旦那様」

 部屋の扉が叩かれる。バーツ様が声をかけると執事のペーテルが顔を出した。表情から急務だと分かる。

「すまない」
「大丈夫です」

 内容は体調不良者が急激に増えたと。

「本土に連絡しないと……」
「しかしループト公爵令嬢は今キルカス王国にいらっしゃるのでは?」
「彼女でなくても代わりの使者が来るだろう」

 増え方が想定以上なのが分かった。本土から様子を見に使者が来るのはさておき、主島シーヴに今以上に体調不良者を集約できるだろうか。

「エーヴァ嬢、少し席を外しても?」
「どうぞ、構いません」

 バーツ様が去り、執事のペーテルが私に声をかけた。

「エーヴァ様宛にお手紙がきております」
「ありがとうございます」

 差出人を見てペーテルに「部屋で返事を書いてきます」と告げると「旦那様に申し伝えます」と返される。バーツ様が忙しくなったところに私への手紙を持ってくるなんてよくできた執事だ。私も手持ち無沙汰にならず、バーツ様はしっかり体調不良者の件に向き合える。

「よし」

 自室に戻り、早速仕事仲間のアリスからの手紙を開封する。
 中身は体調不良者の件だ。巷に出回っている香料であると特定、ソッケ王国内では回収に回っている。
 ドゥエツ王国も同様で、香料について一任されているのが元ループト公爵令嬢付き、さらにその前は王太子殿下付きのルーレという筆頭執事だった。王太子殿下付きの侍女侍従のオリゲ・フォルスクがルーレのサポートをしている。
 妙だ。

「ループト公爵令嬢付きだったのは、そもそも王太子殿下の婚約者だったから……王太子殿下付きに戻っただけの執事で体調不良者の対応……」

 ドゥエツ王国が側仕えに政務を任せているとは聞いたことがなかった。ソッケ王国のように政務担当者が大量に変わり仕事が回らないわけでもない。

「もう少し情報がほしい……」

 バーツ様に聞いたところで詳しい内容を知っているとは思えない。

「次の手紙は……シャーリー様!」

 アリスを経由してシャーリー様からの手紙が届いた。なんということだろう。シャーリー様からお手紙だなんて!

「ああ、どうしよう」

 緊張と嬉しさにどきどきする。読まないと。

「シャーリー様」

 内容はドゥエツ王国でよくしてもらっていることから始まり、無事王太子との婚約が認められたこと、私を気遣う言葉で締めくくられていた。

「……よかった」

 内容の中にループト公爵令嬢に助けられたと書いてあった。やはりループト公爵令嬢はすごい方なのだわ。外交だけでなく内政や王室問題、シャーリー様の保護や立場の確立と多くをサポートしてくれている。

「返事書かなきゃ」

 シャーリー様宛はアリスへの手紙と一緒にして届けてもらおう。特別なルートを確保しているようだからシャーリー様の元へ届くはずだ。

「よし」

 部屋を出てバーツ様の執務室の方へ向かうと、バーツ様と執事のペーテルと鉢合わせた。二人への手紙をペーテルへ渡し、そのままバーツ様と銀細工作業場へ向かう。

「銀細工の時間が減って申し訳ない」
「いいえ。領主のお仕事もできるなんてすごいです!」
「個人的には銀をいじれればそれでいいのに」
「謙虚ですのね!」

 私の言葉に軽く笑った。少し照れてる? スルー傾向なのは変わらないけど。

「リッケリはたくさん島があるから管理が難しい」

 領民に任せきりだとバーツ様は言う。自分の目の届かない範囲が多いのだから同然だ。

「島同士はそこまで遠くありませんよね?」
「ああ。どの島からも隣り合う島は肉眼で見えるし、端から端まで巡るにしても数時間。ただ、ここシーヴ以外は民が少ない。海流の流れから一方通行になる場所も多いから」

 一方通行になるのは流通においては痛手になる時もあるけど、海賊からの侵略に対してなら有利かもしれない。全方位からの攻撃を防げるからだ。
 王城で働いていた時に流通の関係から諸島リッケリの海流の流れは把握していた。各島の港もまだ覚えている。

「バーツ様、こちらに書庫はありますか?」
「そこまで大きくないけど」
「調べものがしたいので空き時間にお借りしてもいいですか?」
「構わない」

 場所は後日、ペーテルの案内でとなった。

「やっと銀細工に入れる」
「はい、がんばります!」
「無理なくやろう」

 バーツ様が目を細めて楽しそうに微笑んだように見えた。この数日見たこともない表情に胸が高鳴る。

「素敵な笑顔……好きです!」
「!」

 顔が緩んでいたと引き締め直すバーツ様の雰囲気が柔らかくなった気がした。
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