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7話 家出決行
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「外に出るとはどういうことですか!」
家に戻って急いで荷造りをしようとしたら御母様に外出がバレてしまった。
「旦那様が……貴方の父親が入城して方々に頭を下げ、従前の仕事に再任できるよう尽力している時に貴方ときたら!」
「再任するつもりはありません」
「公爵家の勤めです!」
「充分勤めました。御母様、これから私は銀細工を作りたいんです」
「子供の遊びはやめるよう以前も言いました!」
「遊びではありません。貴重な専門職です」
「違います! そんなこと許しません!」
烈火のごとく怒り「当面部屋から出しません!」と叫んだ後、御母様は見張りまでつけて私を閉じ込める。けどその間も荷造りは進め、どう家を出ていくか考えるところまで来た時だった。
「お姉様」
「シャーラ」
三つ下の妹シャーラが侍女を連れずお茶を持ってやってきた。
「どうしたの? お茶ならイングリッドに頼んでいれてもらうわよ?」
「いいえ。お姉様、私お話があって」
「いいわ。話して」
ソファに並んで座る。向かい合わないのは珍しいけど、私たち姉妹はよく並んで座ることが多くて今もお茶は並んで飲むことが多い。
「さっきお母様が侍女長と話していたのを聞いて……お父様が帰られたらお姉様をお部屋から出られないようにするって」
「先程御母様から聞いたわ」
「お姉様……よろしいのですか?」
私はもう家を出ると決めている。両親の言うことは聞けない。
「全然よくない」
「お姉様」
「シャーラ、私やりたいことがあるのよ。だからこの家を出ようと思ってる」
「知ってます。銀細工ですよね?」
「ええ。銀細工師を目指したいの」
一度両親と散々喧嘩した銀細工のことはシャーラもよく覚えていたらしい。あの時もシャーラが私と両親との間に入ってくれた。シャーラは家族で唯一私の銀細工を褒めてくれる。時間がある時は私の作る姿を見ている時もあった。
「私、お姉様の銀細工が好きなんです。銀の糸がお姉様の手にかかるとキラキラのきれいな花になって、それがすごく好きで……私、銀細工師を目指すお姉様を応援します!」
「シャーラ」
「だからお姉様がうまく外に出られるよう協力させてください!」
してもらえるのはありがたい。最悪強硬突破しようとは思っていた。穏便に運べるならその方がいい。
「けど、御父様が許すはずもない。お咎めがあるわ。婚約の変更もあるのだし……」
「お咎めは大丈夫ですし、婚約は断ります!」
あの男、前から嫌いだったんで! と笑った。
お姉様と婚約中はなにも言わないようにしてたけど、と加える。
「あいつ、お姉様のこと見下してたし態度悪いんで縁切れてよかったです!」
「そう」
両親との仲はどうにもならないけど、シャーラがいてくれてよかった。誰かが味方なのは心強い。
「お父様が帰ってきたら私が引き留めます。私付けの侍女とシェフにも伝えてあるので厨から出てください」
「分かったわ。ありがとう」
公爵家から出ることになればシャーラとも姉妹ではなくなる。それは少し淋しかった。
「お姉様、どんなことが起きてもどうなっても、私のお姉様はお姉様だけです」
「シャーラ……」
「お姉様が公爵姓を捨ててもです」
「シャーラお嬢様」
「!」
扉の外からシャーラ付きの侍女の声がかかる。
御父様が帰ってきたようだ。窓から覗くと御父様の馬車が戻ってきている。
「ではお姉様」
「ええ。本当にありがとう」
「無事に銀細工を作れるようになったらお手紙下さいね」
「勿論よ」
シャーラが階下へくだる。
一息ついた。
「……やるわよ」
「港までお供します」
「ありがとう、イングリッド」
* * *
何の話題を振ったのかは分からないけど、シャーラは無事両親を別室に連れていけたようだ。後は時間が稼げようともそうでなくても屋敷から出られれば問題ない。
両親は私が銀細工師筆頭のティルボーロン様の元へ弟子入りしようとしてることも知らないし、ティルボーロン様がドゥエツ王国リッケリ諸島にいることも知らない。そもそもティルボーロン様に辿り着けないだろう。
手紙は書いた。公爵家を出ることと、私の名前を公爵家から削除するようお願いしたことぐらいしか書いてないから、私がどうするかなんて両親は考えられない。
「エーヴァお嬢様」
「ありがとう」
シャーラ付き侍女案内の元、厨から外に出る。裏口には馬車が既に用意されていて、裏から出ていけるようになっていた。
「エーヴァお嬢様、落ち着いたらでいいです。またお顔を拝見させて下さい」
「ええ勿論」
シェフや侍女侍従が見送る中、笑顔で別れる。公爵令嬢としてではないかもしれないけど、どこかで会う機会はあるはずだ。
「……ふう」
「何事もなく外に出られましたね」
「よかったわ」
シャーラには感謝しないと。
「ハムン商会には、お嬢様が向かわれると伝わっています」
「ありがとう」
「お嬢様が合流次第、船を出してくれるそうです」
時間までこちらに合わせてくれるなんて。
周囲の優しさでここまでこれてるのは確かだけど、とことんついてる。ここまできたら諸島リッケリに行くしかない。
「エーヴァお嬢様」
何事もなく港に着いた。
「貴方はシャーラ付きにと手紙に書いてあるから」
「いいえ。お嬢様がお戻りになる時まで、お嬢様付きとしてお待ちしております」
もしくは、銀細工師として大成し貴族姓を得た時に側につけて欲しいと。
「……分かったわ。私の侍女はイングリッドだけ」
「はい」
「いってくる」
「お気をつけて」
家に戻って急いで荷造りをしようとしたら御母様に外出がバレてしまった。
「旦那様が……貴方の父親が入城して方々に頭を下げ、従前の仕事に再任できるよう尽力している時に貴方ときたら!」
「再任するつもりはありません」
「公爵家の勤めです!」
「充分勤めました。御母様、これから私は銀細工を作りたいんです」
「子供の遊びはやめるよう以前も言いました!」
「遊びではありません。貴重な専門職です」
「違います! そんなこと許しません!」
烈火のごとく怒り「当面部屋から出しません!」と叫んだ後、御母様は見張りまでつけて私を閉じ込める。けどその間も荷造りは進め、どう家を出ていくか考えるところまで来た時だった。
「お姉様」
「シャーラ」
三つ下の妹シャーラが侍女を連れずお茶を持ってやってきた。
「どうしたの? お茶ならイングリッドに頼んでいれてもらうわよ?」
「いいえ。お姉様、私お話があって」
「いいわ。話して」
ソファに並んで座る。向かい合わないのは珍しいけど、私たち姉妹はよく並んで座ることが多くて今もお茶は並んで飲むことが多い。
「さっきお母様が侍女長と話していたのを聞いて……お父様が帰られたらお姉様をお部屋から出られないようにするって」
「先程御母様から聞いたわ」
「お姉様……よろしいのですか?」
私はもう家を出ると決めている。両親の言うことは聞けない。
「全然よくない」
「お姉様」
「シャーラ、私やりたいことがあるのよ。だからこの家を出ようと思ってる」
「知ってます。銀細工ですよね?」
「ええ。銀細工師を目指したいの」
一度両親と散々喧嘩した銀細工のことはシャーラもよく覚えていたらしい。あの時もシャーラが私と両親との間に入ってくれた。シャーラは家族で唯一私の銀細工を褒めてくれる。時間がある時は私の作る姿を見ている時もあった。
「私、お姉様の銀細工が好きなんです。銀の糸がお姉様の手にかかるとキラキラのきれいな花になって、それがすごく好きで……私、銀細工師を目指すお姉様を応援します!」
「シャーラ」
「だからお姉様がうまく外に出られるよう協力させてください!」
してもらえるのはありがたい。最悪強硬突破しようとは思っていた。穏便に運べるならその方がいい。
「けど、御父様が許すはずもない。お咎めがあるわ。婚約の変更もあるのだし……」
「お咎めは大丈夫ですし、婚約は断ります!」
あの男、前から嫌いだったんで! と笑った。
お姉様と婚約中はなにも言わないようにしてたけど、と加える。
「あいつ、お姉様のこと見下してたし態度悪いんで縁切れてよかったです!」
「そう」
両親との仲はどうにもならないけど、シャーラがいてくれてよかった。誰かが味方なのは心強い。
「お父様が帰ってきたら私が引き留めます。私付けの侍女とシェフにも伝えてあるので厨から出てください」
「分かったわ。ありがとう」
公爵家から出ることになればシャーラとも姉妹ではなくなる。それは少し淋しかった。
「お姉様、どんなことが起きてもどうなっても、私のお姉様はお姉様だけです」
「シャーラ……」
「お姉様が公爵姓を捨ててもです」
「シャーラお嬢様」
「!」
扉の外からシャーラ付きの侍女の声がかかる。
御父様が帰ってきたようだ。窓から覗くと御父様の馬車が戻ってきている。
「ではお姉様」
「ええ。本当にありがとう」
「無事に銀細工を作れるようになったらお手紙下さいね」
「勿論よ」
シャーラが階下へくだる。
一息ついた。
「……やるわよ」
「港までお供します」
「ありがとう、イングリッド」
* * *
何の話題を振ったのかは分からないけど、シャーラは無事両親を別室に連れていけたようだ。後は時間が稼げようともそうでなくても屋敷から出られれば問題ない。
両親は私が銀細工師筆頭のティルボーロン様の元へ弟子入りしようとしてることも知らないし、ティルボーロン様がドゥエツ王国リッケリ諸島にいることも知らない。そもそもティルボーロン様に辿り着けないだろう。
手紙は書いた。公爵家を出ることと、私の名前を公爵家から削除するようお願いしたことぐらいしか書いてないから、私がどうするかなんて両親は考えられない。
「エーヴァお嬢様」
「ありがとう」
シャーラ付き侍女案内の元、厨から外に出る。裏口には馬車が既に用意されていて、裏から出ていけるようになっていた。
「エーヴァお嬢様、落ち着いたらでいいです。またお顔を拝見させて下さい」
「ええ勿論」
シェフや侍女侍従が見送る中、笑顔で別れる。公爵令嬢としてではないかもしれないけど、どこかで会う機会はあるはずだ。
「……ふう」
「何事もなく外に出られましたね」
「よかったわ」
シャーラには感謝しないと。
「ハムン商会には、お嬢様が向かわれると伝わっています」
「ありがとう」
「お嬢様が合流次第、船を出してくれるそうです」
時間までこちらに合わせてくれるなんて。
周囲の優しさでここまでこれてるのは確かだけど、とことんついてる。ここまできたら諸島リッケリに行くしかない。
「エーヴァお嬢様」
何事もなく港に着いた。
「貴方はシャーラ付きにと手紙に書いてあるから」
「いいえ。お嬢様がお戻りになる時まで、お嬢様付きとしてお待ちしております」
もしくは、銀細工師として大成し貴族姓を得た時に側につけて欲しいと。
「……分かったわ。私の侍女はイングリッドだけ」
「はい」
「いってくる」
「お気をつけて」
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