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第4章 『さがしもの』
3.それでよし
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「――かはっ! はぁ、はぁ、はぁ…!」
気が付くと、地面がすぐ目の前にあった。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
肩で息をしながら、額に滴る汗を拭う。
「ゆ、ユウ……?」
「誰だッ…!」
「うわわっ…!」
振り払った腕は、ミツキに当たるすんでのところで躱された。
「み、つき……」
「そ、そうだけど……」
ミツキだ。
確かに、そこにはミツキがいた。
あの、真っ黒い変な空間でもない。
大きな木の木陰。元居た景色だ。
「どしたの……? 急に足音が止まったって思って振り返ったら、今度はいきなり立ち眩みみたいに倒れて……」
「振り返ったら……?」
暗転していた時間は、それなりに長かったような気がする。
何かが起こっていて、何かをしようとしていたような――それだけしか、思い出せない。
「僕……どれくらい?」
「うん? えっと、私が振り返った途端に、倒れたかな。それで、急に目が覚めたみたいに荒い息をし始めて」
「そっか……」
ミツキからすれば、一瞬の出来事。
ならばあの空間は、こことは異なる世界か時空か。
はたまた、一瞬の内に見た夢だったのか。
「……ごめん、なんでもない。寝不足かな」
「ほんとに……? あんまり無理しちゃダメだよ。仮眠してく?」
「いや、いい。依頼が優先、先を急ごう」
「むぅ……ほんとにしんどかったら、絶対に言ってね?」
「勿論。心配はかけないようにするよ」
「ん。じゃあ、進もっか」
頷くと、ミツキはユウの隣に並んで、ユウが踏み出すのを待ってから歩き出した。
心配はかけないように、と言った傍から、既に心配はされてしまっているらしい。
しかし――
(あの声は、一体何て言ってたんだろう……)
何か言葉を発していたような気もするが、もう覚えていない。思い出せない。
意識が戻る直前、確かに何か言っていた。
(聞き覚えのない声だった……ような、気がする。駄目だ、やっぱり何も思い出せない)
暗転した世界にいた。
ただそれだけしか思い出せず、他は霞がかったように、確かなことは思い出せない。
(どうして、僕だけ……)
ミツキの様子から、彼女が同じ空間にいた、或いは同じ夢を見ていた、ということはなさそうだ。
自分に関しても、寝不足などということもない。
長旅になることが分かっていたから、昨夜は長めに寝溜めした。先の戦闘だって、疲れが祟るような戦い方はしていない。
(一体……)
何がどうなっているのか。
現状、それを考える為の材料は、あまりに少ない。
「考えても仕方ないなら、考えなくていいんじゃない?」
隣を歩くミツキが、前を向いて歩いたまま、そんなことを言う。
「カンナが言ってた。その時々で考えても仕方ないことは、その時考えても時間を無駄にするだけだって。その内分かるだろうって割り切って、その時その時で一番大事なことに注力するべきだ、ってさ」
「――それ、僕の前でも言ってたな」
「知ってるんだ。じゃあ、そういうこと。余計なことに意識を向けてると、いざって時に命取りにもなるでしょ。もちろん、その時は私が護ってあげるけどさ」
「……だね。不甲斐ない姿を、女の子に見せるわけにはいかないかな」
「そーそー。私とユウだけの小隊って言ったって、一応ユウがその隊長なんだから。よそ見しておバカなことしたら、私が隊長になっちゃうからね」
悪戯に笑いながら、ミツキが見上げて言う。
「うーん……まあ、それも良いかもね」
「ちょっと、そんなんじゃダメだってば…!」
「うそうそ、ごめん。分かってるよ、ちゃんとする。今はとりあえず、探し物が最優先だ」
「ん、それでよし!」
満足そうに頷き明るく笑って、ミツキはまた、前を向いて歩き始めた。
気が付くと、地面がすぐ目の前にあった。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
肩で息をしながら、額に滴る汗を拭う。
「ゆ、ユウ……?」
「誰だッ…!」
「うわわっ…!」
振り払った腕は、ミツキに当たるすんでのところで躱された。
「み、つき……」
「そ、そうだけど……」
ミツキだ。
確かに、そこにはミツキがいた。
あの、真っ黒い変な空間でもない。
大きな木の木陰。元居た景色だ。
「どしたの……? 急に足音が止まったって思って振り返ったら、今度はいきなり立ち眩みみたいに倒れて……」
「振り返ったら……?」
暗転していた時間は、それなりに長かったような気がする。
何かが起こっていて、何かをしようとしていたような――それだけしか、思い出せない。
「僕……どれくらい?」
「うん? えっと、私が振り返った途端に、倒れたかな。それで、急に目が覚めたみたいに荒い息をし始めて」
「そっか……」
ミツキからすれば、一瞬の出来事。
ならばあの空間は、こことは異なる世界か時空か。
はたまた、一瞬の内に見た夢だったのか。
「……ごめん、なんでもない。寝不足かな」
「ほんとに……? あんまり無理しちゃダメだよ。仮眠してく?」
「いや、いい。依頼が優先、先を急ごう」
「むぅ……ほんとにしんどかったら、絶対に言ってね?」
「勿論。心配はかけないようにするよ」
「ん。じゃあ、進もっか」
頷くと、ミツキはユウの隣に並んで、ユウが踏み出すのを待ってから歩き出した。
心配はかけないように、と言った傍から、既に心配はされてしまっているらしい。
しかし――
(あの声は、一体何て言ってたんだろう……)
何か言葉を発していたような気もするが、もう覚えていない。思い出せない。
意識が戻る直前、確かに何か言っていた。
(聞き覚えのない声だった……ような、気がする。駄目だ、やっぱり何も思い出せない)
暗転した世界にいた。
ただそれだけしか思い出せず、他は霞がかったように、確かなことは思い出せない。
(どうして、僕だけ……)
ミツキの様子から、彼女が同じ空間にいた、或いは同じ夢を見ていた、ということはなさそうだ。
自分に関しても、寝不足などということもない。
長旅になることが分かっていたから、昨夜は長めに寝溜めした。先の戦闘だって、疲れが祟るような戦い方はしていない。
(一体……)
何がどうなっているのか。
現状、それを考える為の材料は、あまりに少ない。
「考えても仕方ないなら、考えなくていいんじゃない?」
隣を歩くミツキが、前を向いて歩いたまま、そんなことを言う。
「カンナが言ってた。その時々で考えても仕方ないことは、その時考えても時間を無駄にするだけだって。その内分かるだろうって割り切って、その時その時で一番大事なことに注力するべきだ、ってさ」
「――それ、僕の前でも言ってたな」
「知ってるんだ。じゃあ、そういうこと。余計なことに意識を向けてると、いざって時に命取りにもなるでしょ。もちろん、その時は私が護ってあげるけどさ」
「……だね。不甲斐ない姿を、女の子に見せるわけにはいかないかな」
「そーそー。私とユウだけの小隊って言ったって、一応ユウがその隊長なんだから。よそ見しておバカなことしたら、私が隊長になっちゃうからね」
悪戯に笑いながら、ミツキが見上げて言う。
「うーん……まあ、それも良いかもね」
「ちょっと、そんなんじゃダメだってば…!」
「うそうそ、ごめん。分かってるよ、ちゃんとする。今はとりあえず、探し物が最優先だ」
「ん、それでよし!」
満足そうに頷き明るく笑って、ミツキはまた、前を向いて歩き始めた。
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