千年巡礼

石田ノドカ

文字の大きさ
43 / 59
第3章 『雪解け』

16.教えろよ

しおりを挟む
 目覚めたユウは、起き抜けの脳を全力で回転させ、そこに紗雪の姿がないことをすぐに察した。
 問い詰める相手は無論、今ここで唯一起きている漢那。
 しかし当の漢那は何も言わず、ただユウに強く厳しい視線を向けるばかり。

「漢那、雪姉はどこに行ったんだ?」

「言えん」

「威吹山の方?」

「言えん」

「頼むよ。どこに行ったんだ?」

「――言えん」

「漢那……これで最後だよ。どこに行ったんだ?」

「言えん…!」

「漢那、どうして…! お前、雪姉のことが好きなんだって言ってただろ? それで何で、あの妖魔の元へ行くのを止めなかったんだよ…! 口癖みたいに『俺が護る』って言ってたのは、嘘だったのか…!?」

「……言えん」

「漢那…!」

 思わず胸倉を掴み、引き寄せる。
 それでも漢那は、厳しい表情を綻ばせることはない。

「…………雪女さんの意志は、お前さんが思う程軽いもんじゃない。確たる覚悟とお前さんへの思いを以ってここを発ったのだ。それがどれほど大きいものか、お前さんには分かると言うのか? 少なくとも、儂には想像も出来ん程に大きいものだったが」

「そんなことは――」

 ない、とは言えなかった。
 分からなかったからだ。

 狙われているのは自分。
 誘い出されたのは自分。

 それなのに、紗雪が単身出て行ってしまった理由が。
 思い当たる節が、無かった。

 …………いや。思い当たる節なら、あった。分かっていた筈だ。

 紗雪が誰にも見せない、自分にだけ向けてくれる、あの柔らかく温かな笑顔。
 彼女が身を投じる理由なんて、それだけで十分だったのだ。

 他でもない、自分自身がそうだったのだから。

 だからだ。
 こんなにも、苛々してしまうのは。

「……なぁ、教えてくれよ」

「言えん」

「教えろよ…!!」

 耳を劈く程の声量にも、漢那は一点「言えん」とだけ張る。
 しかしすぐに、その身を包む雰囲気が変わっていっていることにも気が付いた。
 あの時のように――いや、それ以上に。

「ユウ、お前……」

 嫌な雰囲気の正体は、言い知れぬ、触れたことのない『妖気』。

「教えろよ、漢那――雪姉はどこへ向かったんだよ」

 更には聞いたことのない声色と口調で聞こえたことも加えて、漢那はいよいよ以って口を噤むことが出来なくなった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

借金した女(SМ小説です)

浅野浩二
現代文学
ヤミ金融に借金した女のSМ小説です。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

航空自衛隊奮闘記

北条戦壱
SF
百年後の世界でロシアや中国が自衛隊に対して戦争を挑み,,, 第三次世界大戦勃発100年後の世界はどうなっているのだろうか ※本小説は仮想の話となっています

処理中です...