琵琶のほとりのクリスティ

石田ノドカ

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第4章 『水とともに生きる:後編』

第14話 気になることがあるんです

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 翌日。
 沖島より戻り、ジブリールさんとも別れた後、私は開店前の淡海にて課題のレポートを纏めていた。

 カチ、コチ。
 ゴリゴリ。

 古い時計とミルの音。
 時に、隣で眠るチェーロのふんわり毛皮を撫でながら。
 朝の温かな日差しに包まれるフロアは、それはそれは癒される空間だった。

「クリスさん。コマキさん、あの時何て言ったんでしょう? クリスさんなら分かってるんですよね?」

「分かりますが、これは私の口からは申し上げられません。あれは、二人だけの気持ちですから。私が聞き取れたのも、たまたまです。意味の分からないという雫さんには尚更、教えてあげることは出来ませんよ」

「えー、教えてくださいよ、クリスさんってばー。チェーロも何か言ってあげてー」

「んにゃ……」

 ポンポンと優しく叩くも、チェーロは身動ぎ一つせずに眠ったまま。
 相当にこの空間が気に入ったらしい。良いことではあるのだけれど。

「あらあら。ふふっ」

 何とか齧りついて乞うも、ふわりと笑って華麗に流されてしまう。
 そんなことを何度か続けても意見が変わらないクリスさんに、私はついぞ諦め、課題の続きに取り掛かった。
 そうして数十分、いや数分しか経っていないだろうか。
 私は、予てより気になっていたことについて尋ねた。

「そう言えばクリスさん。私、一つだけ気になってることがあるんです」

「と、言いますのは?」

 クリスさんはゴリゴリとミルを回しながら応える。

「ジブリールさんのお母さんがお店を出ていかれる時、左手で開けていったんですよ。スマホも左手で触ってて。今思えば、入ってくる時も左手だったような。それがどうしても気になって……でも、何で気になるのかは分からないんですよ。分かりません?」

 そんなことを尋ねた瞬間、クリスさんは大きく目を開いてこちらを見やった。

「えっ、何ですか……?」

「――いえ。珈琲を淹れますから、課題が終わり次第、答え合わせといきましょうか」
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