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第4章 『水とともに生きる:後編』
第10話 マコト
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三人揃って、声のした方を向く。
そこには、先ほどの茶トラを抱いた、背の高い青年が立っていた。
「っと、驚かせてしまったようで。すみません。僕は——」
小さく頭を下げた青年が、名乗ろうかと言う刹那。
「マコト…!」
一歩、大きく前に出たジブリールさんが、その青年を押し倒さんばかりの力で抱擁した。
突然のことに驚く私だったけれど、ジブリールさんから抱擁を受けているその青年は、彼女のことを拒もうとはしない。
どういうことかと考えてからようやく、彼が話にあったマコトさんその人で、その彼もジブリールさんのことを分かった上で声を掛けて来たのだということが分かった。
遠慮なく両腕を回すジブリールさんの身体を、少し遠慮がちに受け止めるマコトさん。
けれど、不自然ではない。
向こうでも、こうして挨拶代わりに抱擁を交わしていたのだろう。
「久しぶりだね、リル。元気そうで何よりだ」
「会いたかった! マコト、ずっと会いたかった! でも、しばらくあのピットゥーラのこと忘れてた。だから、スクーズィ!」
「いいよ、そんなこと。こうして会いに来てくれたんだ。約束は守られたってことでしょ?」
「そうだけど……」
「もう。泣き虫なのは変わらないね」
そう言いながらジブリールさんの身体を離すと、マコトさんはポケットから取り出したハンカチを手渡した。
ジブリールさんは受け取ったそれで目元を拭いながら、溢れんばかりに笑っていた。
神妙な面持ちで悩んでいたことが嘘のように、心から笑えているようだった。
「これ、かいどく出来た! だから、ここ来ました!」
肩に掛けていた鞄から例の絵を取り出し、マコトさんへと見せながら笑う。
「この絵……そっか。いや、分かったんだね。ありがとう、会いにきてくれて」
と、マコトさんの目がこちらを向いた。
私たち二人をそれぞれ目で追っている。
「えっと、マコト。このふたりは――」
「クリスティさん、でしょ。『淡海』の。ここらじゃ有名だよ」
「あら、それは嬉しいですね。改めて、来栖汐里と申します。こちらは、うちでアルバイトをしてくださっている妹尾露さん」
クリスさんが丁寧に紹介してくれたのを受けて、私は軽く挨拶と会釈だけ。
マコトさんは優しく微笑み、同じようにして会釈を返してくれた。
「重ねて確認をする無礼を承知で窺います。あなたがこの絵を、ここへの道標を残したマコトさん、で間違いありませんね?」
「はい。そのマコトです。榎、慎です。非常に聡明だと名高いクリスティさんが一緒ということは、あの謎を解いたのは……」
「微力ながらご協力はさせていただきました。が、ここへ至ることが出来たのは、紛れもなくジブリールさんの気概があればこそ。私は、そのお手伝いをしたに過ぎません」
クリスさんの謙遜は、嫌味がないから良い。
心からそう思っていることが分かる。
「左様ですか。とりあえず、場所を移しましょう。知り合いの民宿がありますので、そちらを貸してもらえないか相談してきます」
「ありがとうございます。何分見知らぬ土地ですので、ここは島民の番場さんに甘えると致しましょう。では――」
行きましょうか、とでも続けかけた矢先、遠くの方からマコトさんのことを呼んでいるらしい声が聞こえて来た。
声のしたそちらには、おーい、おーいと手招く筋骨勇ましいおじ様の姿。
「すみません、仕事に呼ばれたみたいですので、あっちの用事を済ませてからになりそうです」
「構いません。こちらはいきなりお邪魔している身ですから。まいりましょうか、お二人とも」
先導して歩き始めたクリスさんの後を、私はもう一度だけ会釈をしてから追いかける。
少し遅れて、大きく手を振って別れを告げたジブリールさんもついて来た。
「よかった。マコト、ぜんぜんかわってないですね」
「当時の面影、あった?」
「そうですね。ちょっとフンイキ変わった、でもやっぱりマコトはマコトでした」
当時を懐かしむように、そして今を噛み締めるように、ジブリールさんは頬を染めて微笑んだ。
そこには、先ほどの茶トラを抱いた、背の高い青年が立っていた。
「っと、驚かせてしまったようで。すみません。僕は——」
小さく頭を下げた青年が、名乗ろうかと言う刹那。
「マコト…!」
一歩、大きく前に出たジブリールさんが、その青年を押し倒さんばかりの力で抱擁した。
突然のことに驚く私だったけれど、ジブリールさんから抱擁を受けているその青年は、彼女のことを拒もうとはしない。
どういうことかと考えてからようやく、彼が話にあったマコトさんその人で、その彼もジブリールさんのことを分かった上で声を掛けて来たのだということが分かった。
遠慮なく両腕を回すジブリールさんの身体を、少し遠慮がちに受け止めるマコトさん。
けれど、不自然ではない。
向こうでも、こうして挨拶代わりに抱擁を交わしていたのだろう。
「久しぶりだね、リル。元気そうで何よりだ」
「会いたかった! マコト、ずっと会いたかった! でも、しばらくあのピットゥーラのこと忘れてた。だから、スクーズィ!」
「いいよ、そんなこと。こうして会いに来てくれたんだ。約束は守られたってことでしょ?」
「そうだけど……」
「もう。泣き虫なのは変わらないね」
そう言いながらジブリールさんの身体を離すと、マコトさんはポケットから取り出したハンカチを手渡した。
ジブリールさんは受け取ったそれで目元を拭いながら、溢れんばかりに笑っていた。
神妙な面持ちで悩んでいたことが嘘のように、心から笑えているようだった。
「これ、かいどく出来た! だから、ここ来ました!」
肩に掛けていた鞄から例の絵を取り出し、マコトさんへと見せながら笑う。
「この絵……そっか。いや、分かったんだね。ありがとう、会いにきてくれて」
と、マコトさんの目がこちらを向いた。
私たち二人をそれぞれ目で追っている。
「えっと、マコト。このふたりは――」
「クリスティさん、でしょ。『淡海』の。ここらじゃ有名だよ」
「あら、それは嬉しいですね。改めて、来栖汐里と申します。こちらは、うちでアルバイトをしてくださっている妹尾露さん」
クリスさんが丁寧に紹介してくれたのを受けて、私は軽く挨拶と会釈だけ。
マコトさんは優しく微笑み、同じようにして会釈を返してくれた。
「重ねて確認をする無礼を承知で窺います。あなたがこの絵を、ここへの道標を残したマコトさん、で間違いありませんね?」
「はい。そのマコトです。榎、慎です。非常に聡明だと名高いクリスティさんが一緒ということは、あの謎を解いたのは……」
「微力ながらご協力はさせていただきました。が、ここへ至ることが出来たのは、紛れもなくジブリールさんの気概があればこそ。私は、そのお手伝いをしたに過ぎません」
クリスさんの謙遜は、嫌味がないから良い。
心からそう思っていることが分かる。
「左様ですか。とりあえず、場所を移しましょう。知り合いの民宿がありますので、そちらを貸してもらえないか相談してきます」
「ありがとうございます。何分見知らぬ土地ですので、ここは島民の番場さんに甘えると致しましょう。では――」
行きましょうか、とでも続けかけた矢先、遠くの方からマコトさんのことを呼んでいるらしい声が聞こえて来た。
声のしたそちらには、おーい、おーいと手招く筋骨勇ましいおじ様の姿。
「すみません、仕事に呼ばれたみたいですので、あっちの用事を済ませてからになりそうです」
「構いません。こちらはいきなりお邪魔している身ですから。まいりましょうか、お二人とも」
先導して歩き始めたクリスさんの後を、私はもう一度だけ会釈をしてから追いかける。
少し遅れて、大きく手を振って別れを告げたジブリールさんもついて来た。
「よかった。マコト、ぜんぜんかわってないですね」
「当時の面影、あった?」
「そうですね。ちょっとフンイキ変わった、でもやっぱりマコトはマコトでした」
当時を懐かしむように、そして今を噛み締めるように、ジブリールさんは頬を染めて微笑んだ。
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