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第4章 『水とともに生きる:後編』
第8話 沖島
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港で待っていると、時刻表通りの時間に船は出た。
船に揺られている間、ジブリールさんは意外にも元気そうにしていた。
これから向かう沖島はすぐ目の前に見えていて、それが視界に入るとまた静かになってしまわないかと思っていたけれど、ジブリールさんはその島の方を微笑んで眺めていた。
自棄を起こした訳でも、空元気という訳でもなさそうに見える。
寝ている間に頭が落ち着いたか、あるいは夢の中で何かあったか――なんて。それはさすがにファンタジーかな。
ともあれ、以前のように明るく元気な様子とともに、ジブリールさんは沖島へと降り立った。
湊でまず私たちを出迎えてくれたのは、
「ねこだ……ほんとにそこらへんにいるんだね」
私たちが降り立ったすぐの辺りで寝そべっていた猫、少し遠くの方でこちらを見やる猫、と。
数匹の猫が、見た事のない顔ぶれに興味があるのか、顔を向けていた。
その中の一匹、茶トラの猫だけは、じっとジブリールさんの方を見つめていた。
「う……どうしましたですか? わたしの顔、なにかおかしいですか?」
ジブリールさんがそう話しかけると、茶トラの猫は踵を返して島の奥の方へと歩き去って行ってしまった。
「なんでしょう……」
「さぁ。とりあえず、進んでみようか。マコトさんのことも気になるし」
「はい! シズク、クリス、おねがいします!」
「ええ。と言っても、私もここへ来るのは初めてなもので。少し散策いたしましょうか」
先導するクリスさんに続いて私たちも、知らない土地へと足を進めた。
船に揺られている間、ジブリールさんは意外にも元気そうにしていた。
これから向かう沖島はすぐ目の前に見えていて、それが視界に入るとまた静かになってしまわないかと思っていたけれど、ジブリールさんはその島の方を微笑んで眺めていた。
自棄を起こした訳でも、空元気という訳でもなさそうに見える。
寝ている間に頭が落ち着いたか、あるいは夢の中で何かあったか――なんて。それはさすがにファンタジーかな。
ともあれ、以前のように明るく元気な様子とともに、ジブリールさんは沖島へと降り立った。
湊でまず私たちを出迎えてくれたのは、
「ねこだ……ほんとにそこらへんにいるんだね」
私たちが降り立ったすぐの辺りで寝そべっていた猫、少し遠くの方でこちらを見やる猫、と。
数匹の猫が、見た事のない顔ぶれに興味があるのか、顔を向けていた。
その中の一匹、茶トラの猫だけは、じっとジブリールさんの方を見つめていた。
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「なんでしょう……」
「さぁ。とりあえず、進んでみようか。マコトさんのことも気になるし」
「はい! シズク、クリス、おねがいします!」
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