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第3章 『水とともに生きる:前編』
第15話 佇む少女
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母の話を聞いてから、早一週間程が経とうとしているけれど――未だ、私はその少女や怪現象に遭遇することはないまま過ごしている。
クリスさんも、やっぱり話は常連さんから聞いているらしかったけれど、その常連さんを含め、未だ出会ったことはないという話だ。
それでも、常連さんからいくつか追加の話は聞いたというが、それも、何だかおかしな話。
平日に見かけるのは大体夕刻、土日に見かけるのは日中が多い、とのこと。
ますます以って不思議な話。やっぱりただの噂と言うか、集団幻覚のようなものの一種なんじゃないのかな。
そんなことを思いながら、私は今日も淡海へと向かう。バイトではないけれど。
今日の予定は、淡海にある倉庫の大掃除。
何でも、しばらく開けていないから整理しないと、ということらしく、大学も終わって暇だった私は自ら手伝う旨を申し出た。
最近、たまにではあるけれども、ランニングコースを逆から回って淡海へと行くことがある。
図書館側から日牟禮八幡宮、そしてお堀へと抜けて行くコースだ。
今日も風が気持ちいい。通行人さえいなければ、両手を大きく広げて歩いてしまいそうなくらい。
「ん……?」
八幡堀にかかる橋の上――丁度、母が言っていた場所に、一つの人影を見つけた。
慎重はスラリと高く大人びて見えるけれど、捉えた横顔は幼さを残している。十代半ばかそのくらいだと思う。
橋の縁から、お堀の方を熱心に見つめている。
(何してるのかな)
少女はお堀の方を見つめたままで動かない。
どこか愁いを帯びたようにも見える瞳で、ただお堀を眺めているだけだ。
今は舟も動いていない。こう言っては何だけれど、特別見つめるに足るようなものはない。
それでも少女が好奇心にも似たような感情であったなら話は別だけれど、どうもそういう風には見えない。悲しそう、それか寂しそうにも見える程だ。
それに――
(髪、綺麗なブロンド……彫も深いし、瞳も青色だ。それに、あの右手……)
小さな切り傷のような痕がある。榎さんの話にあった。
けれど、どうも幽霊や妖怪の類ではなさそうだ。
外国人、だよね、どう見ても。
ハーフにしては、分かり易く想像する日本以外の要素が濃すぎる。観光客だろうか。
ここいらでは珍しい風貌が故に、あのような噂が立ってしまったのだろうか。
「…………?」
思わず見惚れていたところ、少女と目が合ってしまった。
「あっ、えと……」
何か言わなければ。そんなことを考え始めた矢先、
「……Non sono un fantasma」
「えっ……?」
何か呟くと、聞き返すより早く、少女はさっさと走り去って行ってしまった。
言い知れない衝動に駆られた私は、慌てて後を追い角を曲がった。けれど。
そこに、あの少女の姿はなかった。
クリスさんも、やっぱり話は常連さんから聞いているらしかったけれど、その常連さんを含め、未だ出会ったことはないという話だ。
それでも、常連さんからいくつか追加の話は聞いたというが、それも、何だかおかしな話。
平日に見かけるのは大体夕刻、土日に見かけるのは日中が多い、とのこと。
ますます以って不思議な話。やっぱりただの噂と言うか、集団幻覚のようなものの一種なんじゃないのかな。
そんなことを思いながら、私は今日も淡海へと向かう。バイトではないけれど。
今日の予定は、淡海にある倉庫の大掃除。
何でも、しばらく開けていないから整理しないと、ということらしく、大学も終わって暇だった私は自ら手伝う旨を申し出た。
最近、たまにではあるけれども、ランニングコースを逆から回って淡海へと行くことがある。
図書館側から日牟禮八幡宮、そしてお堀へと抜けて行くコースだ。
今日も風が気持ちいい。通行人さえいなければ、両手を大きく広げて歩いてしまいそうなくらい。
「ん……?」
八幡堀にかかる橋の上――丁度、母が言っていた場所に、一つの人影を見つけた。
慎重はスラリと高く大人びて見えるけれど、捉えた横顔は幼さを残している。十代半ばかそのくらいだと思う。
橋の縁から、お堀の方を熱心に見つめている。
(何してるのかな)
少女はお堀の方を見つめたままで動かない。
どこか愁いを帯びたようにも見える瞳で、ただお堀を眺めているだけだ。
今は舟も動いていない。こう言っては何だけれど、特別見つめるに足るようなものはない。
それでも少女が好奇心にも似たような感情であったなら話は別だけれど、どうもそういう風には見えない。悲しそう、それか寂しそうにも見える程だ。
それに――
(髪、綺麗なブロンド……彫も深いし、瞳も青色だ。それに、あの右手……)
小さな切り傷のような痕がある。榎さんの話にあった。
けれど、どうも幽霊や妖怪の類ではなさそうだ。
外国人、だよね、どう見ても。
ハーフにしては、分かり易く想像する日本以外の要素が濃すぎる。観光客だろうか。
ここいらでは珍しい風貌が故に、あのような噂が立ってしまったのだろうか。
「…………?」
思わず見惚れていたところ、少女と目が合ってしまった。
「あっ、えと……」
何か言わなければ。そんなことを考え始めた矢先、
「……Non sono un fantasma」
「えっ……?」
何か呟くと、聞き返すより早く、少女はさっさと走り去って行ってしまった。
言い知れない衝動に駆られた私は、慌てて後を追い角を曲がった。けれど。
そこに、あの少女の姿はなかった。
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