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第3章 『水とともに生きる:前編』

第10話 今更遅いです

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 そうして一気に全部飲み干すと、

「おおきに来栖さん、会社戻るわ」

 席を立ち、荷物を片し始めた。

「あら、もうですか?」

「ええ。美味い珈琲飲んだら力湧いて来たし、頭ん中の情報が新しい内に纏めとかんとな」

「左様ですか。また今度、甘物でも召し上がりに来てくださいね。道中、お気を付けて」

「おおきに。ほなまた。妹尾さんも頑張りや」

「はい! ありがとうございました、またのお越しをお待ち――」

 しております、と言葉が続くより早く、陸也さんはお店を後にした。
 苦笑いしつつ机上に目をやると、そこには千円札がそのまま置いてあった。

「あらら……クリスさん、これ」

「ええ。わざわざ追いかけるのも悪いですし、次回来られた時のノエル代、ということにしておきましょう」

「あはは……」

 クリスさんの進言通り、とりあえずは預っておくことに。
 空いたカップを下げ、私はお店を閉める為に清掃へと取りかかった。
 今日は臨時休業としていて、陸也さんの取材も終わった今、この後に予定はない。
 珠子さんも、珍しくこれから友人とお出かけらしい。

「清掃も、板について来ましたね」

 と、クリスさん。

「板にって、清掃に得手も不得手もあるものでしょうか?」

「勿論。経験と知識がものを言うものですよ、清掃は。効率的な方法や順番、身体の使い方、道具の使い方――もっとも、そういうことでしたら、雫さんは無意識の内に体得してしまっているようですけれど」

「えっ、何か逆に恥ずかしいそれ! 嘘です嘘、掃除はめっちゃ得手不得手!」

「今更遅いですよ、ふふっ」

 クリスさんはふわりと笑うと、ミルの手入れに戻った。
 言い知れない恥ずかしさが消えないけれど、私も残りの清掃を終わらせてしまおう。
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