琵琶のほとりのクリスティ

石田ノドカ

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第3章 『水とともに生きる:前編』

第7話 ガキちゃうし

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「――顔を上げてください、陸也さん」

 陸也さんは何も言わず、頭も上げないまま。

「……分かりました。そのままでも構いませんから、私の話を聞いてください」

 大丈夫。
 もう、大丈夫だ。
 ゆっくりと深呼吸をして、私は陸也さんへと向き直った。

「あの後、お店へ行かれたそうですね」

「あ、あぁ、行った……」

「何を注文なさったんですか?」

「…………へ?」

「良いから答えてください。何を注文なさったのか」

「え…!? えっと……カレーライス、カツ定食、ナポリタン、デザートに白玉餡蜜と特性アイス――」

「美味しかったですか?」

「いや、妹尾さん――」

「美味しかったんですか?」

「あ、あぁ、勿論や…! あん時、怒鳴り散らかして食い切らんと帰ったこと後悔したぐらいや…!」

「そうですか」

「お、おぅ……」

 そっか。
 なら、良かった。

「……何やあんた、怒らんのか?」

「言いたいことは山ほどありました。けど、もう私が言うことではありませんから。それに、それだけの姿勢を見せられてとやかく言う程、私ガキちゃうし」

 わざとらしく言ってみると、陸也さんは口を開けたまま固まってしまった。
 ちょっと意地悪が過ぎたかな……ううん、私だってそれくらいのこと言われたんだもん。
 少しくらい悪戯なこと言ったって、別にいいよね。

「何や、根に持っとるんやんか……」

「当然です。でも、もういいんです。あのお店の料理を、貴方はちゃんと『美味しい』と言ってくれました。もう、それだけで十分です」

「あんた……」

「それでも足りないのなら、そうですね――これから、何回でも、何十回でも通ってください。で、お店にどんどん貢献してください。そうしてくれたら、遠い未来で全部全部許してあげます。どうでしょう?」

「あんた……可愛らしい顔しとるくせに、結構したたかやな……」

「働かせて頂いているお店の為ですから」

 それに、クリスさんの為だし。
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