50 / 76
第3章 『水とともに生きる:前編』
第7話 ガキちゃうし
しおりを挟む
「――顔を上げてください、陸也さん」
陸也さんは何も言わず、頭も上げないまま。
「……分かりました。そのままでも構いませんから、私の話を聞いてください」
大丈夫。
もう、大丈夫だ。
ゆっくりと深呼吸をして、私は陸也さんへと向き直った。
「あの後、お店へ行かれたそうですね」
「あ、あぁ、行った……」
「何を注文なさったんですか?」
「…………へ?」
「良いから答えてください。何を注文なさったのか」
「え…!? えっと……カレーライス、カツ定食、ナポリタン、デザートに白玉餡蜜と特性アイス――」
「美味しかったですか?」
「いや、妹尾さん――」
「美味しかったんですか?」
「あ、あぁ、勿論や…! あん時、怒鳴り散らかして食い切らんと帰ったこと後悔したぐらいや…!」
「そうですか」
「お、おぅ……」
そっか。
なら、良かった。
「……何やあんた、怒らんのか?」
「言いたいことは山ほどありました。けど、もう私が言うことではありませんから。それに、それだけの姿勢を見せられてとやかく言う程、私ガキちゃうし」
わざとらしく言ってみると、陸也さんは口を開けたまま固まってしまった。
ちょっと意地悪が過ぎたかな……ううん、私だってそれくらいのこと言われたんだもん。
少しくらい悪戯なこと言ったって、別にいいよね。
「何や、根に持っとるんやんか……」
「当然です。でも、もういいんです。あのお店の料理を、貴方はちゃんと『美味しい』と言ってくれました。もう、それだけで十分です」
「あんた……」
「それでも足りないのなら、そうですね――これから、何回でも、何十回でも通ってください。で、お店にどんどん貢献してください。そうしてくれたら、遠い未来で全部全部許してあげます。どうでしょう?」
「あんた……可愛らしい顔しとるくせに、結構したたかやな……」
「働かせて頂いているお店の為ですから」
それに、クリスさんの為だし。
陸也さんは何も言わず、頭も上げないまま。
「……分かりました。そのままでも構いませんから、私の話を聞いてください」
大丈夫。
もう、大丈夫だ。
ゆっくりと深呼吸をして、私は陸也さんへと向き直った。
「あの後、お店へ行かれたそうですね」
「あ、あぁ、行った……」
「何を注文なさったんですか?」
「…………へ?」
「良いから答えてください。何を注文なさったのか」
「え…!? えっと……カレーライス、カツ定食、ナポリタン、デザートに白玉餡蜜と特性アイス――」
「美味しかったですか?」
「いや、妹尾さん――」
「美味しかったんですか?」
「あ、あぁ、勿論や…! あん時、怒鳴り散らかして食い切らんと帰ったこと後悔したぐらいや…!」
「そうですか」
「お、おぅ……」
そっか。
なら、良かった。
「……何やあんた、怒らんのか?」
「言いたいことは山ほどありました。けど、もう私が言うことではありませんから。それに、それだけの姿勢を見せられてとやかく言う程、私ガキちゃうし」
わざとらしく言ってみると、陸也さんは口を開けたまま固まってしまった。
ちょっと意地悪が過ぎたかな……ううん、私だってそれくらいのこと言われたんだもん。
少しくらい悪戯なこと言ったって、別にいいよね。
「何や、根に持っとるんやんか……」
「当然です。でも、もういいんです。あのお店の料理を、貴方はちゃんと『美味しい』と言ってくれました。もう、それだけで十分です」
「あんた……」
「それでも足りないのなら、そうですね――これから、何回でも、何十回でも通ってください。で、お店にどんどん貢献してください。そうしてくれたら、遠い未来で全部全部許してあげます。どうでしょう?」
「あんた……可愛らしい顔しとるくせに、結構したたかやな……」
「働かせて頂いているお店の為ですから」
それに、クリスさんの為だし。
0
お気に入りに追加
14
あなたにおすすめの小説
薬師シェンリュと見習い少女メイリンの後宮事件簿
安珠あんこ
キャラ文芸
大国ルーの後宮の中にある診療所を営む宦官の薬師シェンリュと、見習い少女のメイリンは、後宮の内外で起こる様々な事件を、薬師の知識を使って解決していきます。
しかし、シェンリュには裏の顔があって──。
彼が極秘に進めている計画とは?
リモート刑事 笹本翔
雨垂 一滴
ミステリー
『リモート刑事 笹本翔』は、過去のトラウマと戦う一人の刑事が、リモート捜査で事件を解決していく、刑事ドラマです。
主人公の笹本翔は、かつて警察組織の中でトップクラスの捜査官でしたが、ある事件で仲間を失い、自身も重傷を負ったことで、外出恐怖症(アゴラフォビア)に陥り、現場に出ることができなくなってしまいます。
それでも、彼の卓越した分析力と冷静な判断力は衰えず、リモートで捜査指示を出しながら、次々と難事件を解決していきます。
物語の鍵を握るのは、翔の若き相棒・竹内優斗。熱血漢で行動力に満ちた優斗と、過去の傷を抱えながらも冷静に捜査を指揮する翔。二人の対照的なキャラクターが織りなすバディストーリーです。
翔は果たして過去のトラウマを克服し、再び現場に立つことができるのか?
翔と優斗が数々の難事件に挑戦します!
伏線回収の夏
影山姫子
ミステリー
ある年の夏。俺は15年ぶりにT県N市にある古い屋敷を訪れた。某大学の芸術学部でクラスメイトだった岡滝利奈の招きだった。かつての同級生の不審死。消えた犯人。屋敷のアトリエにナイフで刻まれた無数のXの傷。利奈はそのなぞを、ミステリー作家であるこの俺に推理してほしいというのだ。俺、利奈、桐山優也、十文字省吾、新山亜沙美、須藤真利亜の六人は、大学時代にこの屋敷で共に芸術の創作に打ち込んだ仲間だった。グループの中に犯人はいるのか? 脳裏によみがえる青春時代の熱気、裏切り、そして別れ。懐かしくも苦い思い出をたどりながら事件の真相に近づく俺に、衝撃のラストが待ち受けていた。
《あなたはすべての伏線を回収することができますか?》
紙山文具店の謎解きな日常
夏目もか
キャラ文芸
筆野綴《ふでのつづり》二十三歳は知覚野《ちかくの》商事・総務部社員だ。
入社三日目、社内で必要な文具の買い出しを頼まれて行った紙山文具店で、文具を異常なくらいに愛するイケメンだけど変り者の店主・紙山文仁《かみやまふみひと》二十九歳と出逢う。
紙山は五年前に紙山文具の店主であった祖父と店番をしていた母親を通り魔によって殺されており、未だに見つからない犯人を捜す為、前職であった探偵の真似事をしながら今も真犯人を探していた。
これは二人が出逢った事で起きる、文具にまつわるミステリーである。
みちのく銀山温泉
沖田弥子
キャラ文芸
高校生の花野優香は山形の銀山温泉へやってきた。親戚の営む温泉宿「花湯屋」でお手伝いをしながら地元の高校へ通うため。ところが駅に現れた圭史郎に花湯屋へ連れて行ってもらうと、子鬼たちを発見。花野家当主の直系である優香は、あやかし使いの末裔であると聞かされる。さらに若女将を任されて、神使の圭史郎と共に花湯屋であやかしのお客様を迎えることになった。高校生若女将があやかしたちと出会い、成長する物語。◆後半に優香が前の彼氏について語るエピソードがありますが、私の実体験を交えています。◆第2回キャラ文芸大賞にて、大賞を受賞いたしました。応援ありがとうございました!
2019年7月11日、書籍化されました。
カフェ・シュガーパインの事件簿
山いい奈
ミステリー
大阪長居の住宅街に佇むカフェ・シュガーパイン。
個性豊かな兄姉弟が営むこのカフェには穏やかな時間が流れる。
だが兄姉弟それぞれの持ち前の好奇心やちょっとした特殊能力が、巻き込まれる事件を解決に導くのだった。
一人じゃないぼく達
あおい夜
キャラ文芸
ぼくの父親は黒い羽根が生えている烏天狗だ。
ぼくの父親は寂しがりやでとっても優しくてとっても美人な可愛い人?妖怪?神様?だ。
大きな山とその周辺がぼくの父親の縄張りで神様として崇められている。
父親の近くには誰も居ない。
参拝に来る人は居るが、他のモノは誰も居ない。
父親には家族の様に親しい者達も居たがある事があって、みんなを拒絶している。
ある事があって寂しがりやな父親は一人になった。
ぼくは人だったけどある事のせいで人では無くなってしまった。
ある事のせいでぼくの肉体年齢は十歳で止まってしまった。
ぼくを見る人達の目は気味の悪い化け物を見ている様にぼくを見る。
ぼくは人に拒絶されて一人ボッチだった。
ぼくがいつも通り一人で居るとその日、少し遠くの方まで散歩していた父親がぼくを見つけた。
その日、寂しがりやな父親が一人ボッチのぼくを拐っていってくれた。
ぼくはもう一人じゃない。
寂しがりやな父親にもぼくが居る。
ぼくは一人ボッチのぼくを家族にしてくれて温もりをくれた父親に恩返しする為、父親の家族みたいな者達と父親の仲を戻してあげようと思うんだ。
アヤカシ達の力や解釈はオリジナルですのでご了承下さい。
やめてよ、お姉ちゃん!
日和崎よしな
キャラ文芸
―あらすじ―
姉・染紅華絵は才色兼備で誰からも憧憬の的の女子高生。
だが実は、弟にだけはとんでもない傍若無人を働く怪物的存在だった。
彼女がキレる頭脳を駆使して弟に非道の限りを尽くす!?
そんな日常を描いた物語。
―作品について―
全32話、約12万字。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる