琵琶のほとりのクリスティ

石田ノドカ

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第3章 『水とともに生きる:前編』

第5話 全然違うじゃないですか

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 背後からかけられる声に、身体が固まってしまった。
 未だ姿は見ていないけれど、名前は確かに例の人――それも、間違いなく私に話しかけて来てる。

「妹尾雫さん、ですよね」

 声質は同じ、けれども何だか丁寧過ぎるような言い方に、私はひょっとしたらあの人ではない誰かかな、と思いつつ振り返る。

「え、っと……私が妹尾雫で――す、って、えっ!?」

 思わず大きな声が出てしまった。
 慌てて口を閉じつつも、私はその姿から目が離せない。
 当然だよ……だってこの人、あの厳つい見た目の影が、欠片もなくなってしまってるんだから。
 髪は黒色、それも短く整えられていて、両耳のピアスは外されている。穴は塞ぐことが出来ないから、空いたままなのが本人なのだと理解させる。更には筋肉質なことに変わりはないけれども、纏っている黒のスーツが逆に見栄えする形となってしまっている。

「えと……えっ、貴方が北村陸也さんですか……?」

 私は、失礼にも指さす形で確認を取る。

「ええ、まぁ……色々あって、こないな形になっとるんや――じゃなく、なってるんです」

 丁寧な口調は、未だ少し慣れていない様子。
 チラリと見えて隠れた関西弁が、あの日の会話を思い出させた。

「それで、えっと……とりあえず中に入りましょう。俺も、あんま人前で頭下げる訳にはいかないんで。香帆が取ってくれてる部屋、行きましょうか」

「………ひゃい」

 裏返った声で返事をしたはいいけれど、何が何だか……私はただ、先導する陸也さんの後について行く他なかった。
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