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第3章 『水とともに生きる:前編』
第1話 会って欲しい人
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五月も少しずつ進み、そろそろ夏へと切り替わろうという時期。
段々と暑くなってきた外気は、夏がすぐそこまで迫ってきていることを思わせる。
ランニングへと出かける時は少し肌寒いからとアウターを着て行くと、運動をしたことで体温が上がっただけでなく、時間が経って日差しも強くなるとより一層の暑さを感じ、アウターが無駄な荷物になってしまうこともしばしば。
四季のある日本において、一年の内で体温調節が難しい時期の一つだ。
そんな今日も、日課のランニングを終えてシャワーでさっと汗を流すと、私は朝ごはんも早々に家を飛び出した。
母は夜勤明けで、これから帰って来るという時間。施錠はしっかりと。
大学までは、電車とバスを利用して行っている。大体、一時間から一時間半くらいの移動時間。
まったりと揺られているその間、私はクリスさんからつけて貰った勉強のメモを見て振り返る
アルバイトに直接関係することだと、珈琲の種類、淹れ方、その他のメニュー、それらの値段等。覚えておいて損はないことばかり。
喫茶店外のことだと、近江八幡市内のおすすめスポットや、少し外れの地域辺りまでは網羅。あの後も何度か、外国人観光客の方が来店していた。
どちらも喫茶店勤務には大事なことで、特に地域との繋がりを大切にしている淡海には、なくてはならない知識なのである。
そんなこんなと大学に着いた私は、出る講義まで時間があった為、食堂の端で、今度は講義の復習。
別段、今のところは何か必要に迫られていることはないけれども、こういうのも日々の積み重ねだもんね。
三十分くらいかな、時間が経ったところで、馴染みの声が私の名前を呼んだ。
「おつかれー、雫。相変わらず早いなぁ」
振り返って私も挨拶を返す。
声の主は、誰あろう香帆さんだ。
「おはようございます、香帆さん。そう言う香帆さんも、早いんじゃないですか?」
昨夜、メッセージのやり取りをしていた時、香帆さんは『明日は雫と同じ時間からの講義やし、まったりダラダラしてから行くわ』と話していた。
今はまだまだその時間ではない。
「いやな、ちょっと雫に話があって」
「話? 何です?」
聞くと、香帆さんは少し言葉に詰まった。
どう切り出したものか、とそんな感じだ。
「香帆さん……?」
「うーん……やっぱ無茶やったこんなん、何であたしがこんな役回りなんよ」
頭を抱え、蹲ってしまった。
「か、香帆さん…!? どうしたんですか?」
「うぅ……ごめんやで、雫。どうしてもって聞かへんから、しゃーなしやねん」
「ですから、その内容を……え、私に何か悪いことでも?」
「ちゃうちゃう、そうやなくて! どう言うたらええんやろ……あたしオブラートに包むん苦手やから、面食らわんといてな」
「約束は出来ませんが、分かりました」
大丈夫、多分。
きっと、おそらく。
頷くと、香帆さんは未だ拭えない心地悪さと共に、何とか口を開いた。
「あのな……会って欲しいねん、あのアホ兄貴と」
「…………へ?」
段々と暑くなってきた外気は、夏がすぐそこまで迫ってきていることを思わせる。
ランニングへと出かける時は少し肌寒いからとアウターを着て行くと、運動をしたことで体温が上がっただけでなく、時間が経って日差しも強くなるとより一層の暑さを感じ、アウターが無駄な荷物になってしまうこともしばしば。
四季のある日本において、一年の内で体温調節が難しい時期の一つだ。
そんな今日も、日課のランニングを終えてシャワーでさっと汗を流すと、私は朝ごはんも早々に家を飛び出した。
母は夜勤明けで、これから帰って来るという時間。施錠はしっかりと。
大学までは、電車とバスを利用して行っている。大体、一時間から一時間半くらいの移動時間。
まったりと揺られているその間、私はクリスさんからつけて貰った勉強のメモを見て振り返る
アルバイトに直接関係することだと、珈琲の種類、淹れ方、その他のメニュー、それらの値段等。覚えておいて損はないことばかり。
喫茶店外のことだと、近江八幡市内のおすすめスポットや、少し外れの地域辺りまでは網羅。あの後も何度か、外国人観光客の方が来店していた。
どちらも喫茶店勤務には大事なことで、特に地域との繋がりを大切にしている淡海には、なくてはならない知識なのである。
そんなこんなと大学に着いた私は、出る講義まで時間があった為、食堂の端で、今度は講義の復習。
別段、今のところは何か必要に迫られていることはないけれども、こういうのも日々の積み重ねだもんね。
三十分くらいかな、時間が経ったところで、馴染みの声が私の名前を呼んだ。
「おつかれー、雫。相変わらず早いなぁ」
振り返って私も挨拶を返す。
声の主は、誰あろう香帆さんだ。
「おはようございます、香帆さん。そう言う香帆さんも、早いんじゃないですか?」
昨夜、メッセージのやり取りをしていた時、香帆さんは『明日は雫と同じ時間からの講義やし、まったりダラダラしてから行くわ』と話していた。
今はまだまだその時間ではない。
「いやな、ちょっと雫に話があって」
「話? 何です?」
聞くと、香帆さんは少し言葉に詰まった。
どう切り出したものか、とそんな感じだ。
「香帆さん……?」
「うーん……やっぱ無茶やったこんなん、何であたしがこんな役回りなんよ」
頭を抱え、蹲ってしまった。
「か、香帆さん…!? どうしたんですか?」
「うぅ……ごめんやで、雫。どうしてもって聞かへんから、しゃーなしやねん」
「ですから、その内容を……え、私に何か悪いことでも?」
「ちゃうちゃう、そうやなくて! どう言うたらええんやろ……あたしオブラートに包むん苦手やから、面食らわんといてな」
「約束は出来ませんが、分かりました」
大丈夫、多分。
きっと、おそらく。
頷くと、香帆さんは未だ拭えない心地悪さと共に、何とか口を開いた。
「あのな……会って欲しいねん、あのアホ兄貴と」
「…………へ?」
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